2021.03.12 ON AIR

ロックはいかにしてブルーズをカバーしたのか vol.2

Beatles For Sale/The Beatles (EMI 0946 3 82414 2 3)

The Fabulous Little Richard/Little Richard (Specialty/P-Vine PCD-1903)

THEM/THEM (London P25L 25024)

Best Blues Masters vol.1 Jimmy Reed(P-Vine PVCP-8112)

ON AIR LIST
1.Kansas City/The Beatles
2.Kansas City/Little Richard
3.Kansas City/Wilbert Harris
4.Bright Lights, Big City / Them
5.Bright Lights Big City/ Jimmy Reed

前回に続いてロック・ミュージシャンがブルーズをどんな風にカバーして、それをどんな風に自分の音楽に取り入れていったのかをオリジナルとカバーを聞き比べながら話してみたいと思います。
よく「ブルーズはロックの親父」「ロックはブルーズの子供」と言われるほどで、ブルーズ、R&B、ソウルなど黒人音楽なくしてロック・ミュージックは生まれなかった。60年代半ばくらいから始まったビートルズ、ストーンズをはじめとするイギリスの著しいロックの動きは「ブリティッシュ・インヴェイジョン/British Invasion」と呼ばれ、アメリカを席巻し世界中に広まった。ビートルズはブルーズよりもR&BとR&Rにおいて黒人音楽の影響を強く受けたバンドでブルーズのストレートなカバーはたぶんこの一曲だと思う。
この曲”Kansas City”はジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの二人の作詞作曲家チームによって作られ、1952年にリトル・ウィリー・リトルフィールドが歌ったがあまりヒットせず、7年後1959年にウィルバート・ハリスが歌って7週連続一位という大ヒット曲になったのだが、実はその4年前に55年にリトル・リチャードが録音している。ビートルズはそのリトル・リチャード・バージョンを聞いて売れる前からレパートリーに入れてカバーしていたという。非常に歴史のある曲でブルーズというよりR&Bテイストが強い曲だが、私のブルーズ・ザ・ブッチャーとドラムのジェイムズ・ギャドソンがコラボ・アルバムを作った時、ギャドソンがウィルバート・ハリスのバージョンで録音している。
ボール・マッカートニーはリトル・リチャードのファンで”Long Tall Sally”などリチャードのカバーを得意にしていた。まずは1964年のアルバム”Beatles For Sale”に収録されたビートルズのカバー・バージョンから。
1.Kansas City/The Beatles
もうポールの歌もリンゴ・スターを中心にしたバンドのシャッフルのグルーヴも最高です。次のリトル・リチャードの原曲を聴いてもらえればビートルズの演奏の実力がかなり高かったことがわかると思います。ビートルズよりほぼ10年前1955年に録音されたリトル・リチャード・バージョン。これはアルバム「ファビュラス・リトル・リチャード」に収録されています。
2.Kansas City/Little Richard
続けて一番ヒットした1959年のウィルバート・ハリスのバージョンも聴いてみます
3.Kansas City/Wilbert Harris
これが一番最初に録音したリトル・ウィリー・リトルフィールドのバージョンに近いものです。このバージョンもいいのですが、リトル・リチャードのバージョンは歌詞も曲もビートも原曲とちがっていて歌詞の発想だけをもらったような感じでほとんどオリジナルと言っても良い。ビートルズのポールはもちろんこの大ヒットしたウィルバート・ハリスのカバーも知っていただろうけど、曲がロックしているリトル・リチャードのバージョンの方をかっこいいと思ってカバーしたのでしょう。そのあたりの選曲のセンスもビートルズは素晴らしいです。
ちなみにビートルズはR&BやR&Rの曲をカバーする時にほとんどアレンジというのをしないバンドです。そしてそのカバーの力がすごくあり自分たちが演奏しやすいようにアレンジしなくても出来るテクニックと歌唱力を彼らは持っていました。だから時には原曲よりもビートルズのバージョンの方がいいと感じる曲もあります。しかし、そこまでの実力を持っていたのはビートルズだけで他のイギリスのバンドは自分たち流でやるしかない方が多かったのです。例えば次のアイルランドの代表的ロック・シンガー、ヴァン・モリソンが60年代に結成していたバンド「ゼム」はこんな風にシカゴ・ブルーズのジミー・リードの曲をカバーしました。
4.Bright Lights, Big City / Them
原曲を知らない人にとっては別にどうってこともない演奏かもしれません。しかし、今から原曲のジミー・リードを聞いてもらうとちょっと考えさせられると思います。都会に憧れて行ってしまった彼女のことを歌った哀愁がある素晴らしいダウンホームなブルーズです。
ジミー・リードの1961年のオリジナルはR&Bチャート3位まで上がり13週もチャートインしていた彼の代表曲です。
5.Bright Lights Big City/ Jimmy Reed

こういうダウンホームな感じのブルーズのカバーが難しいいちばんの要はリズムです。ゆったりしてますがダラダラした感じではなく、ステディなビートでしっかりリズムが打たれています。これがなかなか難しい。このオリジナルを聴いてしまうとさっきのゼムのカバーは本当にこの曲をカバーしたのかと思うくらいです。正直子供のお遊びに聞こえます、あそこまで違う曲にするのなら自分たちのオリジナルをやった方がいいように思えます。つまりジミー・リードの原曲の良さがなくなってしまっている。曲をカバーする時にはその曲が好きでその曲の素晴らしいところを表現したいからカバーするわけです。しかし、今のゼムのカバーにはそれがないように私は感じます。そして、バンドの演奏力がなくてただがむしゃらにやっているだけにも聞こえます。
つまりカバーをする時に自分たちの力に見合った曲をカバーするというのがまず第一です。もちろんその時の実力よりも少し背伸びをする姿勢は大切ですが、背伸びをしすぎると曲が壊れてしまう。難しいところです。
ちょっと偉そうなことを言いましたが、また次回もブルーズのカバーの話をします。