2021.03.05 ON AIR

ロックはいかにブルーズをカバーしたのか vol.1

the rolling stones single collection the london years / The Rolling Stones(aback POCD1938/40

One More Mile(Chess Collectibles,vol.1) / Muddy Waters (MCA UICY-3421/2)

the best of Muddy Waters/Muddy Waters (Chess/MCA MVCM-22001)

The Animals Original Hits / The Animals (EMI BA-860072)

Burnin’/John Lee Hooker (VEE JAY/P-Vine PCD-4306)

ON AIR LIST
1.I Want To Be Loved/The Rolling Stones
2.I Want To Be Loved/Muddy Waters
3.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters
4.I Just Want To Make Love To You/The Rolling Stones
5.Boom Boom/The Animals
6.Boom Boom/John Lee Hooker

前回、白人ブルーズバンドのキャンド・ヒートを聞いた時に”Rollin’ And Tumblin’”On The Road Again”といった戦前のカントリー・ブルーズを彼らのバンド・サウンドに乗せてうまくカバーした曲を聞きました。
それで今日は白人のブルーズバンド、ブルーズロック・バンドなどがどんな風にオリジナルの黒人ブルーズをカバーしたのか聴き比べしてブルーズをカバーするということを考えてみようと思います。

個人的にはブルーズのカバーを最初に聞いたのはローリング・ストーンズのシングル。当時中学二年生くらいで黒人ブルーズなど一度も聴いたことがなく、またストーンズのアルバムの曲がカバーであるかどうかもどうでもよくてただストーンズがかっこいいと思って聞いていただけでした。
このシングルのA面はロックンロールのキング、チャック・ベリーの”Come On”そしてB面がエレクトリック・シカゴブルーズのボス、マディ・ウォーターズの”I Want To Be Loved”
普通シングルのヒットしたA面をよく聞くものだが、なぜか自分はB面の方がカッコいいと感じてB面ばかり聞いていた。
1963年リリース
1.I Want To Be Loved/The Rolling Stones
短い1分51秒の曲ですが、昔はみんな曲が短かった。シングルでこれ長い曲だなと思ったのはビートルズの”Hey Jude”
それでは今の曲のマディ・ウォーターズのオリジナルを聴いてみましょう。
作ったのは数々のシカゴ・ブルーズのヒットを作曲し、レコーディングの現場の実質的なディレクターでもあったウィリー・ディクソン
2.I Want To Be Loved/Muddy Waters
ストーンズのカバーの8年前1955年録音。この原曲はストーンズよりテンポも遅く、マディの歌も含めて全体的に重厚な感じがする。ストーンズはまだ若くて恐らくこのテンポでやるのは難しかったのでは・・よりダンス・ミュージック的な捉え方でテンポを早くして演奏する方が自分たちらしくしっくり来たのではないだろうか。
次の曲をストーンズはテンポを速くしただけでなく曲のリズムそのものを変えてしまい、当時イギリスで人気のあったボ・ディドリーのビートに近いリズムで演奏している。この曲はのちにマディのオリジナルを聴いた時に同じ曲だと僕は最初思えなかった。まずマディのオリジナルから聴いてみよう。1954年これもウィリー・ディクソンの作曲
3.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters
1954年録音のこの曲をストーンズは10年後64年にこんな感じにアレンジしてしまいました。シングル”Tell Me “のB面に収録。
4.I Just Want To Make Love To You/The Rolling Stones
やっぱり同じ曲とは思えない。私の想像ではさっきのI Want To Be LovedもこのI Just Want To Make Love To Youもストーンズはたぶん最初は原曲通りやろうとしたと思う。しかし、特に今のI Just Want To Make Love To Youのマディのテンポはキープするのが難しく、しかも途中のリトル・ウォルターのハーモニカ・プレイは歴史に残るほど圧倒的でしかもそれがアルバムのムードに大きく貢献していること、マディとミックの歌声の違い、ウィリー・ディクソンのウッドベースの存在感などを考え合わせるとこの曲をやりたいが大幅にアレンジしないと無理ということになったのではと推測される。
60年代のイギリスは黒人ブルーズとR&Bの嵐の中にいて黒人音楽の影響を受けなかったミュージシャンの方が少なかった。
次のこの曲もリアルタイムで私はブルーズということも知らずに聴いていたが大好きな曲だった。
1964年アニマルズ
5.Boom Boom/The Animals

今の原曲はジョン・リー・フッカーの1962年にR&Bチャート16位まで登ったヒット
テンポとリズムのノリの感じはアニマルズはそのまま演奏しているが、”Shake It Baby”のコーラス部分は原曲にはない。これはたぶんジョン・リーの原曲のギター・ソロらしき3コーラスの部分がはっきりしないまましかもコード・チェンジがグダグダで合っていない。この部分をどうするかというのでアニマルズはコーラスを付け加えて整合性を持たせてより曲らしくしょうとしたのではないだろうか。
つまりブルーズにはこのジョン・リーの演奏のようにきちっとした整合性がない曲も多く、そのあたりがすっきりしなくて気持ち悪いので整合性をつけてしまいがちなのですが、あまり整合性を求めるとブルーズの面白み、良さがなくなってしまう場合もあります。
6.Boom Boom/John Lee Hooker

ブルーズのカバーを私も長年やってきたわけですが、まずはオリジナルをそのままやろうとします。なぜならその曲の曲調、歌詞、メロディ、サウンド、リズムが全て好きになったからその曲を歌いたいわけです。ところが一生懸命カバーしても、コピーしても決してオリジナルと同じにはなりません。なぜならオリジナルを演奏したり歌った人間と私は同じ人間ではないからです。どうしてもカバーした自分の癖とか好きなテイストがどこかに出てしまいます。だから私はあえてそこに自分のオリジナリティのようなものを意図的に付け加えようとはあまり思いません。しかもそのカバーしている曲を何年か経ってオリジナルと聴き比べて見るとかなり違ったものになっていることも多々あります。その時点でカバーしたものが自分のものになったということなのではないでしょうか。だからカバーには時間がかかります。