2021.03.19 ON AIR

ロックはいかにしてブルーズをカバーしたのか vol.3

ブルーズロック、ハードロックの先駆け「Cream」

the very best of cream (POLYDOR POCP-2328)

The Complete Recordings / Robert Johnson (SME SRCS 9457-8)

The Real Folk Blues/Howlin’ Wolf (MCA MVCM-22019)

ON AIR LIST
1.Crossroads/Cream
2.Cross Road Blues/Robert Johnson
3.Sitting On Top Of The World/Cream
4.Sitting On Top Of The World/Howlin’ Wolf
5.Strange Brew/Cream
6.Sunshine Of Your Love/Cream

ロックバンドがカバーしたブルーズを聴きながらブルーズのカバーについてあれこれの3回目
60年代のイギリスにはブルーズバンドがいくつもあり、ブルーズを志すミュージシャンも多かった。その中で最初に思い浮かぶバンドはジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズだ。
エリック・クラプトンが在籍した時に作った66年の”Blues Breakers With Eric Clapton”は今やブリティッシュ・ブルーズの記念碑的なアルバムとなっている。しかし、ブルースブレイカーズはロックバンドとしての活躍はなくブルーズバンドとしてあり続けようとした。クラプトンはブルーズブレイカーズの前に在籍していたヤードバーズからブルーズを志していたが、ヤードバーズ~ブレイカーズと経験したところで新たな地点に出るべく66年にドラムのジンジャー・ベイカーとクリームを結成。ベースはジャック・ブルース。
ちなみに66年のイギリスはアメリカからジミ・ヘンドリックスがやって来て、ビートルズは革新性を持ったアルバム「リボルバー」をリリースし、ローリング・ストーンズもブルーズやR&Bのカバーからオリジナルに踏み出してアルバム「アフター・マス」を発表。60年代半ばのイギリスの音楽シーンの流れは激しく新しいものを次々生み出していった時代だった。

クリームのブルーズのカバーでいちばん有名なのがクロスロードだと思います。このクロスロードの原曲のロバート・ジョンソンのオリジナルを知らない人でもクリームのバージョンを知っている人はたくさんいます。クリームの、そしてエリック・クラプトンの代表曲のひとつでしょう。しかし、僕はこのクリームのクロスロードがどうも好きになれない。なぜこの曲を取り上げることになったのかは知らないのですが、僕が感じるロバート・ジョンソンの原曲の良さはほとんどクリームのカバーに反映されていなくて、ただせわしないリズムのリフだけがやたら記憶に残ってしまう。
1.Crossroads/Cream 
オリジナルのタイトルはCross Road Bluesですが、クリームはCrossroadsと登録しています。1968年クリームの”Wheels Of Fire”に収録。
では、次にオリジナルを。
2.Cross Road Blues/Robert Johnson
弾き語りとエレキバンド・スタイルのちがい、時代のちがい、録音の違いなど色々違いはありますが、ロバート・ジョンソンの原曲の良さがどこかへ行ってしまい、新たなオリジナリティがあるのかというのも疑問でリズムのリフだけが印象に残る・・ぼくはそんな風に思っています。多分、クリームがカバーしたクロスロードを好きな人はクラプトンのギター・プレイが好きなだけで歌が好きという人はいるのだろうかと思う。ロバート・ジョンソンのオリジナルはクロスロード(十字路)で車に乗せてもらおうとするのだけど、みんな通り過ぎていき、夕暮れからどんどん暗くなって不安になり神様助けてくださいという切羽詰まった気持ちと寂寥感が混じった見事なブルーズ。でも、クリームのカバーにはどこにもそれが感じられない。ただ歌詞の素材としてこの曲をクリームは使っただけのように思えます。

次のSitting On Top Of The Worldは1930年代に黒人のグループ「ミシシッピ・シークス」が大ヒットさせて、ブルーズマン以外にもレイ・チャールズ、ナット・キング・コールまたロックのグレートフル・デッドなどカバーがたくさんあるのですが、クリームはこの曲を60年代当時イギリスで人気のあったハウリン・ウルフのカバーを聴いてカバーしたのだと思います。これもウルフとクリームと両方聴いてもらいます。歌詞の内容は「彼女に尽くしたけれど彼女は自分から去って行った。でも俺は心配なんかしていない。俺は世界のてっぺんに座っているからさ」と男のやせ我慢の言葉にも聞こえる最高のブルーズです。まずはクリーム・バージョン。
3.Sitting On Top Of The World/Cream
これもブルーズを知らない高校生の頃はこのクリームをかっいいと思って聴いていたのだけど、ウルフのバージョンを聞いたらクリームのバージョンはブルーズに聞こえなくなってしまった。
4.Sitting On Top Of The World/Howlin’ Wolf
確かににクリーム・バージョンのクラプトンのギター・ソロはカッコいいのだけど歌の表現の深さがまるで違っていて、クリームの方には彼女に去られた悲しさが感じられない。つまり演奏が主体で歌が主体になっていない。いつも言っているようにブルーズという音楽は歌、ヴォーカル・ミュージックですからブルーズを聞き込んでしまうとまず歌が気になってしまう。そして、クリームのカバーはイントロも大げさに聞こえてしまう。トラッドなブルーズをいかにロック的にアレンジして再生するかというところにクリームなどブルーズロックのバンドが挑んだ試みだったが、やはりブルーズとは別物として僕は聞いてしまう。

たぶん次の曲のようにブルーズの音楽的フォーマットを使って作ったクリームのオリジナルの方が僕はいいと思う。そして、これはやはりブルーズという音楽を知っているミュージシャンだから作れたオリジナルだと思う。僕はエリック・クラプトンの「いとしのレイラ」のアルバムなども好きなのですが、クラプトンのオリジナルが好きで彼のブルーズのカバーに関してはずっと好きになれない。だからクリーム時代もブルーズを土台にしたこういうオリジナルの方がいいと思う。
5.Strange Brew/Cream
6.Sunshine Of Your Love/Cream
もブルーズを土台にしているオリジナルでそういう曲の方が、”Crossroads”や”Sitting On Top Of The World”,”I’m So Glad”などブルーズのカバー曲よりも遥かにクリームというバンドらしさが出ていると思う。

クリームはライヴにおけるインプロビゼーション(即興演奏)も評判になったバンドでもありましたが、ぼくにとっては長いギターソロはじめ各パートのソロは退屈でした。ある種のジャズ・コンプレックスのようにも思えます。
クラプトンはクリーム以降もブルーズと関わっていくのですが、ブルーズをやったからこそ生まれた「レイラ」や「ヘルボトム・ブルース」「ティァーズ・イン・ヘヴン」「ワンダフル・トゥナイト」など彼のオリジナルの方が断然好きです。クラプトンには全曲ロバート・ジョンソンのブルーズのカバーというアルバムもあり持っていますが、一回聞いたきりです。
ロックを好きな方、特にブルースロックを好きな方にやはり一度ゆっくりブルーズの原曲を聞いてもらいたいと常々思っています。特に歌を聴いてもらいたいと思っています。ブルーズという音楽形式はアドリブ、即興演奏をやりやすい音楽なのでついついギター重視のプレイになってしまう、またそこだけを聴いてしまう人がよくいますが、くどいようですがブルーズはヴォーカル・ミュージックでインストルメンタル・ミュージックではありません。歌があってのブルースです。