2021.09.10 ON AIR

この夏、私のヘビー・ローテーションだったロス・ロボスの新譜”Native Son”vol.1

Los Lobos / Native Son (NEW WEST NW 6516)

ON AIR LIST
1.Native Son / Los Lobos
2.Farmer John / Los Lobos
3.Sail On, Sailor / Los Lobos
4.Never No More / Los Lobos
5.The World Is A Ghetto / Los Lobos

1973年に結成されたロス・ロボスのキャリアは48年、もうすぐ半世紀になる。彼らがレコードデビューしたのは78年。ポピュラーな存在になったのは1987年に映画「ラ・バンバ」の同名曲をサウンド・トラックで歌い大ヒットしてからだ。ぼくはそれより少し前84年のメジャー・デビュー作”How Will the Wolf Survive?”を聞いた時からすごく好みのバンドでハマってしまった。
ロス・ロボスは「チカーノ」と呼ばれるメキシコ系アメリカ人たちのバンドで、高校の同級生バンドから始まっていて最初はフォーク・ギターでメキシコのフォークソングなどを歌っていたみたいです。そして次第にそのメキシコの音楽のテイストとロックやブルース、R&B,フォークなどアメリカンミュージックを融合させた独特なサウンドとビートを持ったバンドになっていった。今までアルバムは20枚以上リリースされ、そのほとんどが高いクオリティを持ったアルバムで今はもう押しも押されもしないアメリカの王道ロックバンドとして名を馳せている。
今回は一曲だけ彼らのオリジナルであとはイーストLAで育った彼らが少年時代、青春時代から愛聴してきたLA出身のミュージシャン達の曲のカバー・アルバム。タイトルは”Native Son”
全曲素晴らしい。
ぼくも古いブルーズやR&Bのカバーを歌っているが、1930年代の歌でも50年代の曲でも自分が歌いたいと思った曲を「古い」と思ったことはありません。古い歌を歌っているという意識ではなく、自分にとっては出会ったばかりの「新しい曲」なのです。そして昔の曲だから新しい感じでアレンジして歌おうとも思いません。それはそのままで自分にとっては新しく衝撃的でアレンジなどする必要がないのです。今回のこのアルバムを聴いてロス・ロボスが全曲ほとんどアレンジしてないなのを聴いて「やっぱり」と思いました。
一曲目はまず今回の唯一のオリジナル曲
恐らく自分たちが育った街の風景を歌った曲だと思います
「山から海に流れていくコンクリートの川があり、空に届かんばかりのタワーが私の周りにある
家からストリートにラジオからの音楽が流れている。それは「もう一度あなたの腕に連れて行って,あなたに会えなくて寂しい」と歌っている
どこで横たわって寝ようが、どんなに遠くに行こうが、あなたに連れ戻される日を私は夢見る。私は故郷の子供なのですよ」
1.Native Son / Los Lobos

次の曲はロッキン・ブルーズのデュオ「ドン&デューイ」でぼくは知っているのですが、まさか大好きなこの曲をロス・ロボスで聞くことができるとは思いませんでした。
ハーモニーのあるR&Bでちょっとポップ風味も有り楽しい曲です。Famer Johnは「農夫のジョン」ですけどこれはジョンさんにあなたの娘さんに惚れてしまいましたという歌です。
2.Farmer John / Los Lobos
ほとんどオリジナルそのままですが、それでもロス・ロボスのサウンドとビートになっていて彼らのオリジナリティが出ています。
余談ですが、以前ロックバンドのJ.ガイルズとハーモニカのマジック・ディックがサニー・ボーイ・ウィリアムスンなどのブルーズのカバー・アルバムをリリースして来日した時にインタビューしました。その”Blues Time”というアルバムもほとんど原曲のまま、何もアレンジしないで録音されていたので「ほとんどオリジナルのままですが、アレンジしょうとは思わなかったのですか?」と質問したところ「完全に出来上がっている素晴らしい曲をどうやってアレンジするんだい。アレンジの仕様なんかない素晴らしい曲なんだ」と言ってました。J.ガイルズ言うように完成されている曲ですから下手にアレンジすると台無しになることの方が多いと思います。多分ロス・ロボスもそういう考えだと思います。

次の曲もオリジナルとほとんど変わってないです。
ロス・ロボスにしては意外な選曲だと思いましたが、ビーチボーイズのカバーです。ビーチ・ボーイズとロス・ロボスがぼくの中では結びつかなくて・・でも「ビーチボーイズなしで南カリフォルニアの音楽のカバーなんて有りえるか?」とライナーに書いてます。
「すごく困難なことばかりで大変な思いをしながら船の航海を続けなければいけないが、Salor(水夫よ)、航海を続けて前に進んで行くんだ」という歌。
3.Sail On, Sailor / Los Lobos
リズムもシャッフルでビーチボーイズの曲の中ではブルーズっぽい曲です。やはり60年代イギリスのビートルズに対抗できた唯一のアメリカのロックバンドはビーチボーイズでその素晴らしいコーラスとサウンドでカリフォルニア、ロスアンゼルスに憧れを持った日本人も多かった時代です。やはり若かったロス・ロボスのメンバーもラジオやジュークボックスから流れてくるビーチ・ボーイズに魅了されたと思います。

次の曲はブルーズの偉大なソングライターでありシンガーでもあるパーシー・メイフィールドの曲です。ルイジアナに生まれてテキサスで活動していたメイフィールドは42年にロスに移り住んで、1950年の大ヒット”Please Send Me Someone To Love”以降彼の曲はレイ・チャールズなど多くのシンガーに歌われるようになりました。ロスで生まれ育ったロス・ロボスのメンバーにとっては地元の大ブルース・スターだったのでしょう。
「お前は一度俺を傷つけたけれど。もう2度とお前にチャンスはないんだよ」と、他の男に行ってしまい裏切られた彼女にもう2度とお前とはごめんだと言うブルーズ。
4.Never No More / Los Lobos

次の曲のオリジナルバンド”WAR”は自分にとって70年代初中期夢中になったバンドの一つ。来日公演もアメリカでもライヴを観た大好きなバンドでした。黒人白人など人種が混じったバンドで人種差別撤廃や戦争反対などの社会的メッセージを含んだ歌詞で評判を呼びました。音楽的にもアフリカやレゲエやファンクの要素がミックスされた独特なサウンドとビートで、ロス・ロボスが影響を受けただろうというのはよくわかります。
”WAR”が1972年リリースして翌年チャート一位になったアルバム「世界はゲットーだ/The World Is A Ghetto」のタイトル曲を今回カバーしています。
「世界は荒れ果てた街だけれどパラダイスはどこかにあるはず、だから諦めないで・・」
5.The World Is A Ghetto / Los Lobos

この「Native Son」はとても気持ちのいいアルバムです。それはメンバーが心から好きな曲をストレートに演奏し全く無理がないからです。カバー・アルバムとしては大成功の一枚だと思います。来週はチカーノであるロス・ロボスの原点になった曲も踏まえてこのニューアルバムの続きをお送りします。