2021.09.03 ON AIR

ブルーズ・スタンダード曲集 vol.34
ミシシッピ・デルタ・ブルーズの偉人/ブッカ・ホワイトとトミー・ジョンソン

Perchman Farm / Bukka White(SONY SRCS 7392)

Big Road Blues/Tommy Johnson (P-Vine PCD-15032)

ON AIR LIST
1.Shake ‘Em On Down/Bukka White
2.Perchman Farm Blues/Bukka White
3.Big Road Blues/Tommy Johnson
4.Canned Heat Blues/Tommy Johnson

以前、このブルーズ・スタンダード特集のミシシッピ・デルタ・ブルーズ編でチャーリー・パットンやサン・ハウスの曲を取り上げ、今年に入ってからロバート・ジョンソンの曲を二回に渡ってON AIRしましたが今日は同じミシシッピ・デルタ・ブルーズの偉人、ブッカ・ホワイトの名曲です。
ブッカ・ホワイト(1906-1977)は同じミシシッピのブルーズマン、サン・ハウスたちと同年代の偉大なブルーズマンですが彼がブルーズに残した名曲の音楽的功績も大きいものがあります。
彼はB.B.キングのいとこでB.B.がブルーズマンになるべく故郷ミシシッピを出た時、最初に面倒をみてくれたのが19歳年上のブッカ・ホワイトだった。すでにブッカはスライドギターを巧みに操る名の知られたブルーズマンだった。B.B.はブッカが弾くスライドギターに憧れて教えてもらったけれどとうとう弾くことができずスライド・ギターを断念したと語っている。B.B.のギター奏法の特徴であるギターの弦に強くビブラートをかけて音を震わせる方法は、スライド・バーでビブラートをかけるのをスライドバーではなくて指でやったものだったのです。

1937年録音のブッカ・ホワイトとというブルーズマンを代表する、そしてミシシッピ・ブルーズの名曲をまず聞いてください。
「おまえは本当にいい女だよ」と始まるこの歌は男女の営みのことで、ブルーズでShakeと出てくると大体セックスの歌です。「オレは叫ぶよ」というくらいいい女何でしょう。「メシも作ってくれてベッドへ連れてってくれる」と歌ってます。最後の方にGeorgia women got the best jellyroll(ジョージアの女性は最高のジェリーロールを持ってるよ) なんて歌詞が出てくるのでジョージアの女性となんかいいことになったんでしょう。
1.Shake ‘Em On Down/Bukka White
この歌は北ミシシッピーあたりではトラッドな曲になり、フレッド・マクダウエル、R.L.バーンサイド、ドクター・ロス、比較的新しいところではノース・ミシシッピ・オールスターズなどたくさんのブルーズマンが歌っています。

今日聞いてもらっているブッカ・ホワイトの名盤”PERCHMAN FARM”を聞いてもらえば彼のブルーズマンとしての概観がわかります。ブッカの顔のアップのジャケ写ですが、ここまでアップにせんでもええんとちゃうか・・と言いたくなる超アップですが。
そのタイトル曲です
「パーチマン・ファーム」とはパーチマン刑務所のことです。Farmって普通僕らは「農場」と思いますが、刑務所に入れられた罪人たちが農園で働かされるのでそう呼ぶのかも知れません。ミシシッピにあるこのパーチマン・ファームは他のブルーズの歌詞にも名前が出てくるのですが、当時の黒人たちの間ではひどい扱いをされると有名な刑務所でした。今でも白人警官による黒人への対処が劣悪でニュースになり問題になりますが、ブッカ・ホワイトが若かった戦前はもう本当に残忍な扱いをする刑務所として有名だったようです。ブッカもこの刑務所に二年間入ってました。恨まれていた相手を逆にピストルで撃って重症を負わせた罪でした。でも、ブッカはブルーズマンとして名前が知られていたせいかあまりひどい扱いは受けず、刑務所で演奏をして所長たちに気に入られていたそうです。「芸は身を助く」ですか。
「夜が明けて朝になると仕事をやらされる。刑務所暮らしはめちゃ悪くはないけど、女房に会いたいし家に帰りたい」と歌ってます。
2.Perchman Farm Blues/Bukka White

同じミシシッピ州のブルーズでもその地域によってそれぞれ特色があります。州都のジャクソンはミシシッピ最大の街で当然多くのブルーズマンが行き交ったところです。そのジャクソンを代表するブルーズマンがトミー・ジョンソン。1928年に録音された次の二曲には広大なミシシッピの大地や吹き抜ける風や人気ない寂しさも感じさせる素晴らしい曲です。
最初は「ビッグロード・ブルーズ」
「この広い道を一人っきりで行かなければいけないなんて、お前が一緒に行ってくれないなら他の女を探すしかないなぁ」と南部を放浪して生きたブルーズマンらし曲です。
3.Big Road Blues/Tommy Johnson
僕もミシシッピーの南を車で回ったことがありますが、街から外れて陽が暮れると本当に暗闇で風の音と草木が揺れる音そして動物が吠える声しか聞こえなくて怖かったです。昼間に移動するにしても僕は車でしたが、昔のブルーズマンはヒッチハイクだったり、列車に飛び乗ったり、歩いたわけですから一人だとかなり心細買ったと思います。そういう南部の風景とか土地の匂いとか気候などがブルーズマンの内面にも影響して、作る曲にもその感情が現れたと思います。間違いなくブルーズの名曲「Big Road Blues」

以前、60年代ウエスコーストの白人ブルーズバンド「キャンドヒート」の特集をやったときに彼らのバンド名がトミー・ジョンソンの曲からつけられた話をしましたが、その曲を聴いて見ましょう。
4.Canned Heat Blues/Tommy Johnson
キャンドヒートとは工業用のアルコールのことでトミー・ジョンソンは酒が好きでアルコール依存症にもなっていたのでお金がないと工業用のアルコールも飲んだらしいです。
「キャンドヒート、俺を殺さないでくれ」とキャンドヒートが体に悪いことを歌いながら「朝起きるとキャンドヒートのことが心にいっぱい」と歌ってます。僕の友達で朝起きるとまずビールを飲む男がいましたが、工業用アルコールではもうどうしょうもないです。

今日はアメリカ南部、ミシシッピ・ブルーズの偉大な2人、ブッカ・ホワイトとトミー・ジョンソンが残した名曲ブルーズを聞きました。
遠い昔、アメリカ南部の風景の中をギターを持って歩き、ヒッチハイクし貨物列車に飛び乗り、タフにラフに生きたブルーズマンたちの名曲でした。