2021.10.22 ON AIR

50年間封印されていた黒人音楽の歴史的な映像が映し出される必見の映画「サマー・オブ・ソウル」その1

ON AIR LIST
1.Why I Sing The Blues / B.B.King
2.Uptight (Everything’s Alright )/ Stevie Wonder
3.My Girl / The Temptations
4.I Heard It Through The Grapevine / Gladys Knight & The Pips

このドキュメント映画を観ることができて、大げさではなく心から「生きていてよかった」と思った。そして改めて自分が選んだ音楽、つまりこの番組の主体であるブルーズをはじめとするブラック・ミージック、黒人音楽に間違いはなかったと確信できた映画でした。
今回と次回と二回に分けて映画「サマー・オブ・ソウル」の話をしながら映画で歌われ、演奏された曲を聴きたいと思います。映画のいわゆるサウンドトラックのアルバムがリリースされていないので私が持っているそれぞれのミュージシャンの曲をON AIRします。
映画は1969年にニューヨークの黒人街ハーレムの公園で6日間に渡り行われた野外フェスティバル「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」のドキュメント映像を中心に、60年代終わりに黒人音楽は何を表現していたのか、そして黒人たちの生活や文化はどのように動いていたのかを描いたものです。中心になっているのは50年前の映像ですが、そこに描かれているのは今も変わらないアフリカン・アメリカンたちの貧しく厳しい生活や白人に抑圧されている人種問題、そしてそういう苦境から逃れようとするドラッグ悪用の問題だ。本当にアメリカの根本にある問題は何も変わっていないことがわかる映画でもあります。フェスティバルは無料で行われ会場は大人から子供までびっしりと満員です。真面目そうな人たちもいれば、音楽好きの若い人たち、ちょっと不良ぽい男たち・・いろんな人たちがいます。

この映画「サマー・オブ・ソウル」でブルーズマンで登場するのはブルーズの王様、B.B.キング。
1969年というのは彼にとって重要な年で映画の中でも歌われている”Why I Sing The Blues”が収録されたアルバム”Live And Well”がリリースされた年で、レコードのA面はいつもスリルあふれるライヴだがB面はスタジオ録音でブルーズにファンクのテイストを入れた新しい試みがなされていた。そしてその次のアルバム”Completely Well”で古いロイ・ホーキンスの”The Thrill Is Gone”を新しいファンクテイストで歌ったところこれがグラミーに輝いた。その3年後、来日したB.B.キングの大阪公演の前座を私はウエストロード・ブルーズバンドでやらせてもらった。つまりブルーズにファンクテイストを入れて新しい試みをしなければグラミーもなかっただろうし、その後の世界のB.B.キングもなかっただろうし、私が前座をやってB.B.と会うこともなかった。では映画の中でも歌われていた「なぜ、私はブルーズを歌うのか」
1.Why I Sing The Blues / B.B.King
ベースのジェリー・ジェモットはじめニューヨークの当時トップのスタジオ・ミュージシャンで録音されたB.B.の新しい時代のサウンドだった。

さて、映画「サマー・オブ・ソウル」にはブルーズ、ジャズ、ソウル、ラテン、ゴスペルといろんなミュージシャンが登場するのだが、多分一番若いのはスティーヴィ・ワンダーだろう。この1969年当時まだ19才。実は僕はスティーヴィと同じ年。70年代に入ると素晴らしいオリジナル曲で大ヒット連発するスティービーだが、この69年あたりはまだレイ・チャールズのフォロワー的な扱いをされジャズやスタンダード・ボビュラー曲を歌わされていた。
今日は映画の三年前、1966年リリースのR&Bチャート一位、ポップチャート3位のこの曲
「僕は貧しい家に生まれ、持っている服も時代遅れの一枚だしお金もない。でも彼女はあなたの気持ちが本物だからいいの大丈夫と言ってくれる」
2.Uptight (Everything’s Alright )/ Stevie Wonder

この映画の中心になっている「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」というコンサートは6日間行われたのですが、一日「モータウン・スペシャル」と言われたモータウンレコードのミュージシャンばかり出る日があります。今のスティービーもモータウンですが当時モータウンが黒人のソウル・レーベルとして飛ぶ鳥を落とす勢いだったことがわかります。モータウンのコーラスグループとして随一の人気を誇ったテンプテーションズ。そのテンプスから独立してソロ・シンガーになったばかりデヴィッド・ラフィンがコンサートに出てきます。やはりオーラがあるというか、ステージの立ち姿がすらっとしていてカッコいいです。歌ってる曲はテンプテーションズ時代の大ヒットのこれ。
3.My Girl / The Temptations
いつ聴いてもいい、素晴らしいい曲。映画ではデヴィッド・ラフィンの素晴らしい歌のフェイクが聞けます。

そして、モータウンからもうひと組、グラディス・ナイト&ザ・ピップス。
彼らは67年の大ヒット曲”I Heard It Through The Grapevine”(邦題:悲しい噂)を歌います。みんな溌剌としていてグラディスはミニ・スカートですごく可愛いです。映画に出てくるメイヴィス・ステイプルズも同じようにミニ・スカートでしたが、この映画は当時の黒人のファッションやヘア・スタイルなども見れて楽しいです。この悲しい噂という歌は「彼が昔付き合っていた彼女とヨリを戻すという悲しい噂を聴いた。でも私の方があなたのことを愛してる。でも、その悲しい噂を聞いてもう気が狂いそうになっている」という内容です。
4.I Heard It Through The Grapevine / Gladys Knight & The Pips
この曲は翌68年に同じモータウンレコードのマーヴィン・ゲイの録音でもヒットしましたが、ぼくはグラディス・ナイト&ザ・ピップスの方が好きです。

来週も映画「サマー・オブ・ソウル」に関連した曲を聞きながら、映画の話をしたいと思います。