2021.10.29 ON AIR

50年間封印されていた黒人音楽の歴史的な映像が映し出される必見の映画「サマー・オブ・ソウル」その2

ON AIR LIST
1.The Backlash Blues / Nina Simone
2.We Shall Overcome / The Staple Singers
3.How I Got Over / Mahalia Jackson
4.Everyday People / Sly & The Family Stone
5.Why?(The King Of Love Is Dead) / Nina Simone

前回に引き続きこの夏話題になった映画「サマー・オブ・ソウル」とその音楽の話です。
出演ミュージシャンはみんな素晴らしかったのですが、格別インパクトを残したひとりがニーナ・シモンでした。
まず今日は映画の中でも歌われていた「バックラッシュ・ブルーズ」を聞いてみましょう。これはニーナ・シモンがよくステージで歌っていた曲でとは「逆戻りとか反動」と言う意味があります「ミスター・バックラッシュ、あなたは税金を上げて賃金はそのままで、私の息子をベトナム(戦争)に送った。あなたは私に二流の家を与え、二流の教育とか受けさせず、黒人はみんな二流だと思っているんでしょう、ミスター・バックラッシュ(ミスター反動者)」つまり白人の大統領や白人の為政者に対して抗議した歌です。映画の中でもかなり過激なメッセージを観客にアジテーションしていたニーナですが、その変わらない姿勢はしっかりした音楽に支えられているからこそ素晴らしいのだと思います。

1.The Backlash Blues / Nina Simone
聞いてもらったのはニーナの”’Nuff Said!”というライヴ・アルバムに収録されているのですが、実はこのアルバムはキング牧師が暗殺された3日後に録音されたもので、キング牧師に捧げられた”Why”という曲も収録されています。ニーナのアルバムの中でも格別素晴らしい一枚です。
1965年にマルコムXが暗殺され、このコンサートの前年68年4月にキング牧師が暗殺され黒人政治指導者が相次いでなくなりました。貧困や人種差別に対する黒人たちの怒りで暴動も各地で起きました。そして、黒人たちは自らの存在を誇りに自信を持つように自分たちをブラックと呼び”Black Is Beautiful”(黒人は美しいのだ)という言葉も生まれました。

ニーナ・シモンのように白人への反発をはっきり主張はしませんでしたが、ゴスペルのステイプル・シンガーズもキング牧師を支持して60年代初めから公民権運動、反戦運動に参加したリベラルなグループでした。次の曲はそういう運動の際によく歌われたポピュラーな曲で知っている方も多いと思います。
ステイプル・シンガーズのライヴアルバム”Freedom Highway”から「私たちはいつの日か勝利する」
2.We Shall Overcome / The Staple Singers
ステイプル・シンガーズは70年代に入ると”I’ll Take You There”、”Respect Yourself”などメッセージのあるソウルのヒット曲でスターになります。
映画ではこのステイプル・シンガーズのリード・ヴォーカル、メイヴィス・ステイプルズと大先輩のゴスペルシンガー、マヘリア・ジャクソンのデュエットがハイライトの一つになっています。ネタバレになるのであまり言いませんが、そのシーンは黒人音楽史上、非常に貴重な歴史的な時間です。メイヴィスは「マヘリアと一つのマイクで歌えたことは自分の人生の中で最高の時間だった」と言ってます。
マヘリア・ジャクソンはゴスペルの有名な本「ゴスペル・サウンド」で「女王マヘリア」と書かれている最も有名なゴスペルシンガーの1人です。1911年ニューオリンズ生まれの彼女は世界中にゴスペル・ミュージックの素晴らしさを伝えた最初のシンガーで、日本でも60年代にレコードが発売されゴスペルで一番知られているシンガーはマヘリアでした。メイヴィス・ステイプルズが1939年生まれですからメイヴィスにとってはゴスペルの母のような、祖母のような存在でデュエットでメイヴィスが先に歌い出すシーンではさすがに緊張している様子が見えました。

ではその女王マヘリア・ジャクソンでよく知られた歌です
「どうやって私は乗り越えたのか。神様に守られて神様の力で私は乗り越え、生きてきた。私たちの為に命を差し出し、私たちをいつも導いてくれる神様に感謝します」
3.How I Got Over / Mahalia Jackson 
映画の中心になっているコンサート「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」にはブルーズ、ジャズ、ソウル、ゴスペル、ラテンと様々なアフリカン・アメリカンのミュージシャンが登場しますが、出演した中で当時若い黒人たちに最も人気があったのが「スライ&ファミリー・ストーン」でした。実際彼らがステージに現れると聴衆が前の方へ押し寄せます。
そこでスライはそれまでなかった新しいファンク・ミュージックを披露します。しかし彼らのステージを見ていると、彼らのグルーヴの源はやはりゴスペルの、教会のグルーヴだということがわかります。
4.Everyday People / Sly & The Family Stone

とにかく素晴らしい映画です。DVDもリリースされるかも知れませんが、できれば映画館で観てください。今日は最後にニーナ・シモンをもう一曲聞きます。アルバム”’Nuff Said!”に収録されている曲で、歌う前に「このコンサートは全てマーチン・ルーサー・キングに捧げます」とニーナが話してるように亡くなったキング牧師に捧げた美しい曲です。
「かってこの地球に愛と平和を仲間に話し続ける男がいた。彼はこの地球に平穏な日がくることを夢見つづけた。そして世界中にそのメッセージを広めた。なぜ愛の王様は死んでしまったのか」
5.Why?(The King Of Love Is Dead) / Nina Simone

「サマー・オブ・ソウル」は音楽映画なんですが、その後ろに60年代終わりのアメリカの世相、キング牧師の暗殺そして暴動、ベトナム戦争と徴兵されていく若い人たち、そしてアフリカン・アメリカンへの人種差別、そして彼らの貧困・・・そうした問題が浮き出てきます。そして、私たちも自分に差別の気持ちはないのか、平和と平等の気持ちはあるのか自分自身に問いかけないといけないと思います。いろんなことを考えさせてくれる映画でした。