2022.05.06 ON AIR

相次いで亡くなったブラック・ミュージックの三人の偉大なドラマー Vol.3

ソウル・ミュージックに忘れられないグルーヴを残したドラマー、ハワード・グライムス

ON AIR LIST
1.Let’s Stay Together / Al Green
2.Take Me To The River / Al Green
3.I Can’t Stand The Rain / Ann Peebles
4.God Bless Our Love / Al Green

今年になって立て続けにブラック・ミュージックにとって大切な、そして偉大なドラマーが三人亡くなりました。サム・レイ、フィリップ・ポール、そしてハワード・グライムスと。今回からその三人の参加した音を聞きながら彼らが残した功績を話したいと思います。今日は3回目でハワード・グライムス。

ブラック・ミュージックに大きな貢献を残したサム・レイそしてフィリップ・ポールが亡くなり時代の推移を感じてたが、ここにきてまた一人偉大なドラマー、ハヲード・グライムスの訃報が届いた。2月12日、80才でした。
ハワード・グライムスと言っても知らない方も多いと思うので簡単に説明すると、10代後半から故郷メンフィスのレコード会社「スタックス」のレコーディング・メンバーとして参加していました。そのスタックス・レコードにはオーティス・レディングやサム・アンド・デイヴの名曲の録音をした偉大なドラマー、アル・ジャクソンがいました。そのアル・ジャクソンがオーティスやサム・アンド・デイヴの仕事で忙しくなり有名プロデューサー、ウィリー・ミッチェルのバンドを辞めることになりその後釜に指名されたのがハワード・グライムスでした。そして、ウィリー・ミッチェルが立ち上げた「ハイ・レコード」のレコーディンクメンバーに参加することになりました。
彼の名前ハワード・グライムスを知らなくても彼が参加したアル・グリーンのこの名曲を聴いたことがある方はたくさんいるのではないでしょうか。

1.Let’s Stay Together / Al Green

アル・グリーンが「いい時もよくない時も幸せな時も悲しい時も一緒にいようよ」と歌ったこの珠玉のラブソングは歌詞、メロディ、リズム、アレンジ、歌、そして録音が全てパーフェクトです。ドラムはほぼずっと同じパターンを叩いているだけですが、そのステディなビートがアルの歌と同じようにイントロが後半に向かって熱を帯びていくのがわかります。ドラムは目立ったことを何もしていないのですが素晴らしいビートをだし続けています。私も歌手の端くれですが、このドラムは歌いやすいというか気持ちが入るドラムです。

次の曲もハワード・グライムスのドラムの素晴らしさを感じられる曲です。彼のドラムの始まりから素晴らしいのですが、全編を通して今日はずっとドラムを聴いてみてください。アクセントを入れるだけでほぼフィル(おかず)はありません。ステディであり推進力のあるビートとその音が本当に気持ちいいです。

2.Take Me To The River / Al Green

1曲目に聴いてもらった”Let’s Stay Together”は1971年にチャート1位に輝いた曲で、今のTake Me To The Riverは歌っているアル・グリーン本人が作り74年にアルバム”Explores Your Mind”に収録されていますがシングル・カットはなく、同じハイ・レコードのシル・ジョンソンがシングルで75年にリリースしてR&Bチャート7位まで上がりました。そのシルのカバー・バージョンもドラムはハワード・グライムスです。もう一つ歌い継がれているソウルの名曲”I Can’t Stand The Rain”にもグライムスは参加しています。歌ったのはメンフィスのソウル・クイーンと呼ばれたアン・ピーブルズ。アンの歌に寄り添うハワード・グライムスの情感溢れるドラムを聞いてください。1973年の録音です

3.I Can’t Stand The Rain / Ann Peebles

「窓を打つ雨の音が彼との甘い思い出を連れてくるようで耐えられない」という今はいない別れた彼への想いを歌った曲です。ゆったりとした重厚なグライムスのミディアムテンポの8ビートがとてもアンの歌にハマっています。
この曲も73年にR&Bチャートの6位まで上がりました。このようにハワード・グライムスはドラマーとしてアン・ピーブルズ、アル・グリーン、O.V.ライト、オーティス・クレイ、シル・ジョンソンなどハイレコード全盛期の多くのミュージシャンの録音に参加しました。そしてヒットに貢献しました。

音楽好きのお母さんの影響で6才からドラムを叩いてきたグライムスは有名なジャズ・ドラマー、ジーン・クルーパなどに影響を受けながら10代でルーファス・トーマスの”Cause I Love You”の録音に参加したのがプロとしての初録音。
そのプロの最初に先輩たちから教えられた”Start on time. Quit on time. Don’t be busy. Don’t overplay “つまり「テンポのタイムを正しく、慌ただしく叩かないでないでおおげさなプレイもしない」という教えられたことを彼は忠実にやってきたのだと思います。余計なことを何もしないことはある意味すごく難しいです。ギターも何もしないでずっと同じリズムだけを正確に切ることの方がソロを弾くことより難しいです。それはある意味、音楽以外の職業でも派手なことではなくずっと同じことを地道にやることの方が難しいと言えるのではないでしょうか。
ハワード・グライムスの話を聞き書きした”Timekeeper My Life In Rythm”という本があるのですが、そのタイトルのタイムキーパー通り次の曲ではリズムのキープに徹していて後半部で三連のフィルが入るだけというストレートさです。

4.God Bless Our Love / Al Green

80年代の初めにハイレコードが売られて録音の仕事がなくなった彼は離婚もありなんとホームレス状態で体を壊し死にそうにもなっていたそうです。でも、神様の「光に向かって歩け」という啓示を受けて彼は復活して「ボ・キーズ」というバンドに参加していました。ここ数年はやはり体調がよくなかったのかその「ボ・キーズ」にも参加していなかったようです。
本当に残念です。O.V.ライトと一緒にハイ・リズム・セクションで来日したときに聞けた彼のドラムはずっとぼくの心に残っています。
Rest In Peace Mr.Howard Grimes
God Bless You