2022.04.29 ON AIR

相次いで亡くなったブラック・ミュージックの三人の偉大なドラマー Vol.2

ジャズ、ブルーズ、カントリー、R&Bとジャンルを超えて多くの名曲に参加した名ドラマー、フィリップ・ポール

ON AIR LIST
1.Hideaway / Freddy King
2.The Twist/Hank Ballard&The Midnighters
3.Good Rocking Tonight /Wynonie Harris
4.Fever / Little Willie John
5.Tore Down / Freddy King

今年になって立て続けにブラック・ミュージックにとって大切な、そして偉大なドラマーが三人亡くなりました。サム・レイ、フィリップ・ポール、そしてハワード・グライムスと。今回からその三人の参加した音を聞きながら彼らが残した功績を話したいと思います。今日はフィリップ・ポール。
ブラック・ミュージックだけでなくアメリカの音楽界に重要な曲のドラマーとして活躍したフィリップ・ポールが1月30日に96才で亡くなりました。
彼自身の生まれはニューヨークですが、お父さんはカリブ海にあるヴァージン諸島のセント・クロイ島という島からニューヨークにやってきた人です。つまりカリブの音楽のルーツが彼の体の中にはあるということです。
彼が9歳の時にお父さんがドラムを買ってくれ13歳でお父さんのバンドに入ってます。そして10代からニューヨーク、ハーレムの有名クラブの「サヴォイボールルーム」でソニー・スティット、ディジー・ガレスビー、バディ・ジョンソンなどジャズ・ミュージシャンとライヴを行なってます。そういう名だたるミュージシャンとステージに立つくらいですからフィリップの実力もかなりなものだったと思います。
特に彼が1952年から65年の約14年間にシンシナティにあるキング・レコードのスタジオ・ミュージシャンとして活動していた時の音源はブルーズ、R&B、ジャズ、カントリーと広い範囲に渡っています。ブルーズを好きな人の中にはキング・レコード時代の若き日のフレディ・キングの曲が思い浮かぶと思います。中でもフレディのこのインスト曲はブルーズのスタンダード曲として今も愛聴され、多くのギタリストにカバーされています。しかし、当時のレコードには参加ミュージシャンのクレジットがなくてフレディ・キングのレコードを聴いている時は「このすごいドラムは誰なんだろう」とみんなで話してました。

1.Hideaway / Freddy King

シャッフル・ビートなのですが、このフィリップ・ボールの打ち出すシャッフルのリズムがステディですごく気持ちいいんですね。シャッフルの達人です。この曲はギタリストがカバーしコピーすることが多いのですが、ドラムをやっている人も是非このシャッフル・ビートをカバーしてみてください。ブルーズドラムのお手本になるような演奏です。この曲は1961年リリースの”Let’s Hide Away and Dance Away with Freddy King”というアルバムに収録されていますが、フレディ・キングのキングレコード時代のコンピレーションにも必ず入っているので是非聞いてください。

フィリップ・ポールがドラマーとして名前が上がるのが1958年に録音されたハンク・バラード&ミッドナイターズの”The Twist”(ツイスト)という曲です。ツイストというのは60年代初めに流行ったダンスのことですが、その最初の曲がハンク・バラードのその曲でした。しかし、その曲を大ヒットさせチャート1位になったのは2年後のチャビー・チェッカーのカバー・バージョンの方で、オリジナルのハンク・バラードの方はチャート6位でした。でもツイストのビートはたくさんの曲に使われ大流行しました。そのオリジナルのビートを作ったのがフィリップ・ポールで、これ一曲でもアメリカの音楽史に名前が残る演奏です。只者ではありません。

2.The Twist/Hank Ballard&The Midnighters

1948年にジャンプ・ブルーズのシンガー、ワイノニー・ハリスが大ヒットさせた次の曲もドラムはフィリップ・ポール。この曲はロックンロールの始まりの1曲と言われていますが、実は元々ロイ・ブラウンというシンガーが歌ったのですが、ワイノニー・ハリスのカバーはそのオリジナルより更にビートをきつくしたエネルギッシュな出来上がりになっていて、それでオリジナルよりも売れてしまいました。「耳に挟んだんだけど今晩みんなでご機嫌なロッキング・タイムがあるんだ。彼女を思いっきり抱き締めるんだ。そしてみんなでブルーズを蹴散らすんだよ」歌詞の内容も曲のメロディもパーティ・ソングにもってこいで当時の若者に受けたのはよくわかります。とくにこの躍動するリズムのビートは踊り出さずにはいられないビートです。

3.Good Rocking Tonight /Wynonie Harris

名曲”Good Rocking Tonight”

フィリップ・ポールがスタジオのドラマーとして契約していたキング・レコードにはたくさんのミュージシャンが所属していて50から60年代の黒人音楽のヒット曲もたくさんリリースしました。次の曲はR&Bシンガーのリトル・ウィリー・ジョンによって歌われ大ヒットしたものです。もちろんカバーもたくさんあり、一般的なポピュラー・ソングと思っている方も多いと思います。歌っているジョン・リトル・ジョンはジェイムズ・ブラウンの憧れの歌手でもあるのですが、歌がめちゃ上手いです。
「おまえがキスしたり抱きついてくると俺の熱が上がってしまうんだ。どんれだけ俺が愛しているかわからないだろう」という歴史に残った名曲です。
1959年のグラミー賞のレコード・オブ・ザ・イヤーとソング・オブ・ザ・イヤーに輝いています。

4.Fever / Little Willie John

この曲のように「ああ、この曲もドラムはフィリップ・ポールだったのか・・と」後から知ることが多いのですが、アルバムに参加ミュージシャンのクレジットが記載されるようになったのは60年代の中頃くらいからで、それまだは誰がドラムやベースを演奏しているのか名前がなかったのでわかりませんでした。

晩年は地元のシンシナティ・ホテルで週末だけドラムを叩いて楽しんでいたようです。

キングレコードでの仕事以外ではアルバート・キング、ジョン・リー・フッカー、それからシカゴ・ダウンホーム・ブルーズのスモーキー・スマザーズなどたくさんあるのですが、最後は今やブルーズの定番曲にもなっているフレディ・キングこの曲を。

5.I’m Tore Down/ Freddy King 

5/29 日比谷野音のTOKYO BLUES CARNIVALに是非お越しください。ひさしぶりのブルーズ野外コンサートです。