2022.07.29 ON AIR

ミシシッピ・デルタ・ブルーズの偉人、ブッカ・ホワイトの波乱万丈の人生

Parchment Farm/Bukka White (SONY SRCS 7392)
Live Cafe Au Go Go 1965/Bukka White & Skip James(Rock Beat ROC CD 3251)

ON AIR LIST
1.Shak’em On Down / Bukka White
2.Good Gin Blues / Bukka White
3.Fixin’ To Die Blues/Bukka White
4.Bukka’s Jitterbug Swing/Bukka White
5.Parchman Farm Blues/Bukka White

ここのところ当番組ではココモ・アーノルド、ミシシッピ・ジョン・ハートと弾き語りのブルーズマンをON AIRしていますが、ブルーズの原点である戦前の弾き語りブルーズが最近マイ・ブームです。それで今日はチャーリー・パットン、サン・ハウスと並ぶミシシッピ・デルタブルーズの偉人、ブッカ・ホワイト。
ブッカ・ホワイト、写真を見ると顔は怖いです。もし会ったらこちらからは話しかけられないと思います。なんせボクサーだったこともある人だし、恨みを持っていた奴に待ち伏せされたけど逆にピストルをぶっ放してそいつの膝を撃ち抜いてしばらく刑務所にいたこともある人です。でもこういう強面の人の方が優しかったりするんですがね。
前回、前々回のココモ・アーノルド、ミシシッピ・ジョン・ハートと同じで30年代あたりに活躍したブッカ・ホワイトも時代の流れとともにギターを弾いて歌う生活ができなくなり、音楽シーンから姿を消してしまった人です。しかし50年代の終わりから白人を中心に起こったフォーク・ブルーズのブームで、ココモやジョン・ハートと同じように「あの人は今?」とその所在を探されて「再発見」されることになったブッカ・ホワイト。

まずは1937年に「ヴォカリオン・レコード」に録音したブッカ・ホワイトといえばこれという曲。のちに同じミシシッピの後輩、フレッド・マクダウェル、ビッグ・ビル・ブルーンジーなどにも歌い継がれた名曲
「今夜は夜明けまで盛り上がろうぜ」という パーティ・ソングでブッカの一番売れた曲でもあります。

1.Shak’em On Down / Bukka White

もう1人ギターがいますが名前が記載されていません。リズムは力強くステディに刻まれていて、こういう曲で南部の黒人たちが踊っている光景を思い描くことができる。1930年にビクター・レコードに初録音したブッカは金属製のリゾネーター・ギターでスライド奏法を駆使して豪快なブルーズを歌い人気になりました。
この映像見てください。最高です→https://www.youtube.com/watch?v=1yMEVc_074o
彼は体も大きくて大酒飲みだったようです。次の歌は”Good Morning,Friend,I Want Me A Drink Of Gin”「おはよう、ジンを飲みたいよ」と始まる朝酒のブルーズ。「ジンを飲むことは罪だったわかっているけどジンは旨いからね・・」と、酒をやめられない感じが歌に出ています。

2.Good Gin Blues / Bukka White

若い頃、同じミシシッピの先輩ブルーズマン、チャーリー・パットンを見て大きな影響を受けたブッカは貨物列車に乗ってパットンのように演奏をしながら放浪を続けました。その間、金を稼ぐためにプロ野球の黒人リーグのピッチャーをやったこともあれば、プロ・ボクサーとしてリングに上がったこともあります。前にココモ・アーノルドが禁酒法の時代に密造酒を作って売っていてブルーズを歌うのは二の次だった話をしましたが、音楽をやってお金を稼ぐことが難しい時には何か他にお金になることをやらなければいけない。それがプロ・ボクサーだったのでしょう。
次の歌はボブ・ディランがデビュー・アルバムでカバーしていることでも有名です。「いずれは死ぬ運命だが、泣いている子供を置いていくのは嫌だな」と歌っている。ブッカは友達の死に遭遇したときにこのブルーズを作ったと言われています。

3.Fixin’ To Die Blues/Bukka White

ブッカ・ホワイトやロバート・ジョンソン、チャーリー・パットンといった放浪のブルーズマンたちは街から街、村から村を転々と渡り歩いて歌い過ごしたわけですが、すごく自由だけど孤独でしかもトラブルや危険に晒されているわけで、そういう中で培われていく精神というのはどんなものなんだろうと思います。その日、その夜楽しければそれでいいやと思いつつも、今の歌のように自分がいつかどこかで野垂れ死ぬことがやはり頭を過ぎるのでしょうか。

次はブッカの素晴らしいリズムのグルーヴが味わえる一曲。「ブッカズ・ジタバグ・スイング」というタイトルですが、Jitterbugとはいわゆるダンスのジルバのことです。「そこのお姉ちゃんたち、ジルバ・スイングで一緒に踊ろうよ」というダンスナンバーですが、なぜか”You Women Workin’ On My Nerves”お前ら女どもは俺をいらだたせると歌ってますが、なかなか思い通りに自分のものにならない女性たちにイライラしてるようです。

4.Bukka’s Jitterbug Swing/Bukka White

次の曲もブッカの代表的な一曲で、正当防衛やったらしいんですがピストルを撃って刑務所に入ったブッカはその刑務所、パーチマン刑務所のことを歌っています。「刑務所に入れられてしまった。最悪の生活やないんやけど嫁さんに会いたいなぁ」と一番で歌ってるんですが、二番で「グッバイ、ワイフ」と歌っているから別れたんですね。たぶん嫁さんは逃げたんですね。そして負け惜しみみたいに「いつの日にか俺の寂しい歌がお前に聞こえるやろ」と歌ってます。

5.Parchman Farm Blues/Bukka White

若い頃は放浪をしてボクサーをやったりいろんな仕事をして、刑務所に入ったこともありまさに波乱万丈の一生ですが、1963年に再発見された時は工場労働者として働いていたそうです。カムバックしてからはコーヒー・ショップやフォークコンサートに出たり主に白人の若者の前で演奏しました。ギターを叩くように弾く演奏スタイルも変わることなく人気を呼び、アーフリーレコードからアルバムも出していい晩年を迎えたのではないでしょうか。
1977年にメンフィスで67歳で亡くなりました。。

実はいとこであるB.B.キングがまだ駆け出しの頃、ブッカを訪ねていきスライド・ギターを教えてもらったがB.B.はスライド奏法をものにできず、スライドの代わりにギターの弦をビブラートさせることでスライドの感じを出そうとしたことは有名な話。B.B.の美しいビブラート奏法はブッカ・ホワイトなくして生まれなかったという話。