2022.07.22 ON AIR

心温まる永遠のソングスター、ミシシッピ・ジョン・ハート

The Best Of Mississippi John Hurt/ Mississippi John Hurt (Vanguard)
Mississippi John Hurt (Okeh / P-Vine)

ON AIR LIST
1.Coffee Blues / Mississippi John Hurt
2.Candy Man Blues / Mississippi John Hurt
3.I Shall Not Be Moved/ Mississippi John Hurt
4.Avalon Blues/ Mississippi John Hurt
5.You Are My Sunshine/Mississippi John Hurt

少し前にライ・クーダーとタージ・マハールのフォーク・ブルーズ系の新譜を紹介しましたが、フォーク・ブルーズ・ブームと言えば・・・と思い、今日はその代表的なシンガー、ミシシッピ・ジョン・ハートを聞きます。
私は10代だった60年代、ビートルズやストーンズが好きでフォークはそんなに好きというわけではなかったのですが、PPM(ピーター、ポール&マリー)やジョーン・バエズなど少しは聞いていました。フォーク・ブルーズのことも黒人ブルーズを知ってから聴き始めたわけです。だからミシシッピ・ジョン・ハートも70年代に入ってから聴き始めました。
ミシシッピー・ジョン・ハートは日本ではブルーズのファンよりフォーク・ファンに人気があり、日本のフォーク・シンガーの中には自分なりの日本語に訳して彼の曲を歌う人もいた。その中でよく知られているのが高田渡さんが日本語にして歌った「コーヒー・ブルーズ」
ジョン・ハートが1963年に発表した曲。
高田渡さんはオリジナルとは全く違う自分の詞で「三条へ行かなくちゃ。三条堺町のイノダっていうコーヒー屋にね。あの娘に会いに・・」と歌いましたが、ミシシッピ・ジョン・ハートのオリジナルは「マックスウェル・ハウスという珈琲が好きでね。最後の一滴まで旨いんだ」という語りから彼女が淹れてくれた珈琲は美味しかったけど彼女はもう行ってしまったと続きます。

1.Coffee Blues / Mississippi John Hurt

旨い珈琲の味わいのように深く優しい気持ちにさせてくれるジョン・ハートの歌に癒される人も多いと思います。

ジョン・ハートは1928年に「オーケーレコード」に20曲を録音したのですがあまり売れなくて彼はまた畑仕事に戻り農夫として生きていました。それが50年代の終わりにフォーク・ブルーズ・ブームが起きて、民族音楽の研究家たちによって1963年にミシシッピで再発見されました。30年代に活躍し、その後消息を行方がわからなくなり、60年代に再発見されたブルーズマンの中には、サン・ハウスのようにすでにギターも持っていなくて演奏から遠ざかっていた者も多かったのですが、ジョン・ハートは仕事の合間にギターを弾き歌っていたらしく演奏の腕前は落ちていなかったそうです。一曲目に聞いてもらったCoffee Bluesは再発見後の60年代の録音ですが、全く遜色はない演奏です。
では、1928年の初録音から一曲。
曲名は”Candy Man Blues” 「女性の皆さん、集まってください。とってもスウィートなキャンディ・マンが街にやってきたよ」と始まる歌ですが、キャンディ・マンとは女性を夢中にさせる、セックスアピールもあるイケメンの男のことです。でも、ジョン・ハートが歌うといやらしくなく、つい笑ってしまう感じになります。

2.Candy Man Blues / Mississippi John Hurt

ジョン・ハートの曲はロバート・ジョンソンのようなブルーズとは違うテイストですが、これもブルーズ。でも彼はブルーズマンと呼ばれるタイプではなく、「ソング・スター」と呼ばれるタイプのミュージシャンでブルーズだけでなく、スビリチュアルズやゴスペル、黒人のフォークソングなど幅広く歌うシンガーです。つまり、1920、30年代のミシシッピーで黒人たちが愛聴していた音楽はブルーズだけではなくもっと幅広かったということです。
次は黒人のスビリチュアル・ソングであり公民権運動の際にプロテスト・ソングとしても歌われた曲。公民権運動の時はIではなくWe が主語でWe Shall Not Be Movedと歌われていた。要するに「私たちは権力に何をされても揺るがない、私たちの意思は変わらない」と歌っていたのです。

3.I Shall Not Be Moved/ Mississippi John Hurt

この歌は今もメイヴィス・ステイプルズなどによって歌われ続けています。

ジョン・ハートがミシシッピに引っ込んで行方知れずになっていた時、見つけた民族音楽研究家は次の歌を頼りに探しに行ったと言います。「アヴァロン・ブルーズ」というのですが、アヴァロンというのは彼の故郷です。それでひょっとしたらアヴァロンに帰っているのでは・・・と探しに行ったらいたんですね。

4.Avalon Blues/ Mississippi John Hurt

ジョン・ハートは黒人も白人も乗り越えて、音楽のジャンルも乗り越えてたくさんの人たちにアメリカの民族音楽、伝承音楽の素晴らしさを伝えた人です。
次の歌もアメリカのポピュラーなフォークソングでラジオを聴いている皆さんの中で知ってる人もいるでしょう。

5.You Are My Sunshine/Mississippi John Hurt

ミシシッピ・ジョン・ハートが最も活動したのは1963年に見つけられ1966年に74歳で亡くなるまでの晩年のたった3年半。彼は何枚かアルバムを残しいろんなコンサートやイベントにも出演してたくさんの人たちに暖かく迎えられて幸せな晩年だったのではないでしょうか。今聞いても、いや今だからこそ彼の温かい歌声と軽やかなフィンガー・ピッキングのギターは一層私たちの心に入ってくる気がする。2001年にはタージ・マハール、ルシンダ・ウィリアムス、ジョン・ハイアットなどによって”Avalon Blues A Tribute To The Music Of Mississippi John Hurt”というトリビュート・アルバムがリリースされたように、今だにジョン・ハートは多くの人々に愛されています。この夏、偉大なソングスター、ミシシッピ・ジョン・ハート、アルバムを一枚買ってみてはどうでしょうか。