2022.08.12 ON AIR

ブルーズの中に出てくる動物ネタのブルーズはなかなか面白い/ブルーズ・パワー版「ブルース生き物図鑑」その2

JAKE HEAD BOOGIE / Lightnin Hopkins(RPM/ACE)
Hellhound On My Trail/Robert Johnson (Vocalion/Sony)
Long Distance Call/Muddy Waters (Chess)
Mean Red Spider/Robert Jr. Lockwood (Delmark/P-Vine)

ON AIR LIST
1.Lonesome Dog Blues / Lightnin Hopkins
2.Hellhound On My Trail/Robert Johnson
3.Milk Cow Blues/Kokomo Arnold
4.Long Distance Call/Muddy Waters
5.Mean Red Spider/Robert Jr. Lockwood

あと5日後8/17にこの番組の15周年を記念し、そしてスポンサーの青南商事さんの創立50周年を記念したぼくの初の弾き語りアルバム”Kick Off The Blues”がP-Vine レコードからリリースされます。
10インチレコードですが、中にダウンロード番号が入っているのでアナログ、デジタル両方で聴けるアルバムです。HPご覧ください。よろしくお願いします。
さて、前回の続きでブルーズの歌詞の中に動物が出てくる曲の特集。題してブルーズ・パワー版「ブルース生き物図鑑」その2。
先週はジェイムズ・ブラウンのインスト”The Chicken”というファンク・インストの曲で終わりましたが、今日の最初はテキサスの偉大なブルーズマン、ライトニン・ホプキンスの”Lonesome Dog Blues”(寂しい犬のブルーズ)からスタート。
犬の寂しげな鳴き声をギターでうまく表現しているサウンドから始まり「彼女が出て行った日に裏庭で飼っている犬が鳴いていた」と歌が始まります。彼女がいなくなった寂しさを犬に託して歌っているブルーズ。ライトニンの歌とギターが孤独感を見事に表現している名演、名曲です。
ライトニンの数多い曲の中で自分はこの曲が格別に好きです。

1.Lonesome Dog Blues / Lightnin Hopkins

Dogは犬のことですが、Houndは猟犬。だから次のロバート・ジョンソンの曲”Hellhoundの”は「地獄の猟犬」ということになります。On My Trailは自分の道、つまり自分の行く道に地獄の猟犬がいるという怖いブルーズ。そもそも地獄の猟犬という発想が不気味ですが、この曲をロバート・ジョンソンの最高傑作に挙げる人も多いですね。最初にI got to keep movin’(動かなければ、動かなければならない)と始まり、Blues fallin’ down like hail(ブルーズが霰(あられ)のように降ってくる)そして、「毎日悩むことばかりだ。俺の行く道に地獄の猟犬がいるんだ」と続く。普通の人間にとって地獄というのは漠然としたものですが、彼が歌う地獄はかなりリアルで彼は殺伐とした地獄の風景を心に描いていたのでしょうか。
ロバート・ジョンソンはいつも何かに追われてるように街から街へ渡り歩き放浪を続けたブルーズマンと言われていますが、彼を追いかけていたのは地獄だったのか・・それは彼が犯した罪だったのか、後悔だったのか、生きることの刹那だったのか。最後の方でスウィートな女が欲しいと歌っていますが、その女もその夜限りの女で幸せな家庭を持つなんていう気持ちはもうなかったような感じがします。すごく詩的で情景が浮かんでくるブルーズの名作。

2.Hellhound On My Trail/Robert Johnson

ロバート・ジョンソンに大きな影響を与えたブルーズマン、ココモ・アーノルド。この前も特集しましたが、曲作りから歌い方もジョンソンにはココモの影響を聴くことができますがもう一つグルーヴするリズムの素晴らしさもココモから影響かも知れません。
次の曲でココモがテーマにしたのは牛、乳牛、Milk Cow。Milk Cow Blues(乳牛のブルーズ)はココモが1934年に録音した曲で「もし俺のミルクカウ(乳牛)を見かけたら家に連れてきてくれ。あいつがいなくなってからミルクもバターもないんだ」という内容。彼女が他の男のところに行ってしまって帰ってきてくれという歌です。

3.Milk Cow Blues/Kokomo Arnold

現在はどうなのかわからないですが、ブルーズマンが南部を放浪していた20、30年代に黒人の生活に馴染みのある動物といえば家畜として飼われていたMule(ラバ),Mare(雌馬),Pony(子馬)。いわゆる普通の馬(Horse)は高価な家畜だったのか黒人ブルーズにはあまり登場しません。
私もカバーして歌っているマディ・ウォーターズの”Long Distance Call”では、遠くに離れている彼女にたまには電話してくれよという求愛の歌で始まるのに、最後の最後で電話の交換手が”Another Mule Is Kickin’ In Your Stall”(直訳すると、あなたの小屋で他のラバが暴れてますよ)つまり他の男があなたの女とナニしてますよと女が浮気していることを言って終わるという衝撃のラストです。

4.Long Distance Call/Muddy Waters

蜘蛛は日本でもあまりいい印象がない虫ですが、アメリカでも同じみたいですね。曲名はMean Red Spider。
Meanにはタチの悪いとか下品なとか卑劣なとか悪い意味が多いのですが、この曲の題名Mean Red Spiderもひどい女のことです。「彼女はタチの悪い蜘蛛だよ。町中に蜘蛛の巣を張っている」と始まるのだが要するに街中で男を引っ掛けている性悪女のこと。歌はロバート・Jr ロックウッド、バックはジ・エイシズ。悪かろうはずがない一級品のシカゴブルーズの演奏。

5.Mean Red Spider/Robert Jr. Lockwood

今思えば幼い頃、農家だった母方の実家に遊びに行くと庭にニワトリが放し飼いになっていて、納屋には大きな牛がいて近所には馬もいた。犬は野良犬も含めてその辺を歩いていたし、黒人の生活状況と似たところがたくさんあったように思います。

ブルーズ動物特集おもろいので来週もう一回ブルーズ・パワー版「ブルース生き物図鑑」をやります。