2021.10.01 ON AIR

The Rough Guide To “The Best Of Country Blues You’ve Never Heard” vol.2 (Rice WNR-24051)

ON AIR LIST
1.Skin Man Blues / Hi Henry Brown
2.When You’re Down and Out / Tommie Bradley
3.Mississippi Water / Kid Prince Moore
4.You Ought to Move Out of Town / Jed Davenport & His Beale Street Jug Band
5.No Good Woman Blues / Jesse ‘Babyface’ Thomas

1920年代、30年代の写真も残っていない人たちのブルーズやジャグ、ゴスペルを聞いている時、アフリカン・アメリカンの彼らはどんな暮らしをしてどんな人生を送ったのだろうと思うことがある。
たった1曲や数曲だけの録音を残しただけの人もいるし、生年月日がはっきりしない人もかなりいる。録音されなかった人たちもたくさんいたのだろう。他の仕事をしながら仕事が終わったあとや、週末の楽しみに楽器を弾いて歌っていた人も多い。一つの所に留まらずずっと放浪しながら音楽を続けた人もいる。彼らの最期はどんなんだったのだろう。アフリカン・アメリカンに生まれたことがすでに苦労の始まりと言ってもいい時代に生きた彼らはどう想って一生を終えたのだろう。
歌いそして演奏している時だけはその苦しく、悲しい心が少しは和らいだだろうと思いたい。

このアルバムは自分が知らないブルーズマンが多く収録されている。
まずは一曲目、“ハイ”・ヘンリー・ブラウンとも呼ばれたヘンリー・ブラウン・・と言ってもほとんど情報がないのだが、生まれはブルーズの発祥のひとつであるミシシッピー・デルタのボリヴァーというところ。残された録音は1932年ニューヨークでの6曲のみでヴォカリオン・レコードからリリースされた。この録音でも一緒に演奏しているチャーリー・ジョーダンというギタリストとコンビを組んで活動していたようだ。タイトなリズムをバックに歌われる重く、少しラフな歌声が魅力的だ。セントルイスを中心に活動していて亡くなったのもセントルイス。享年48歳という彼の人生はどんなものだっただろう。
曲名が「スキンマン・ブルーズ」直訳すると「皮男のブルーズ」歌詞の内容が「スキンマンが大声出しながら俺のドアの前を通り過ぎる。彼はどこへ行っても”スキン!皮!」と叫んでる」
でも、このタイトルの「スキンマン」の意味が調べてもわからなくて、P-Vine レコードのブロデューサーの安藤さんが調べて教えてくれた。豚、ポークの皮を行商で売りに来る男のことだそうだ。豚の皮とか内臓は白人は食べないで捨ててしまうので、黒人がそれをうまく料理して食べていたことを知ってたが、皮だけ売りに来るおっさんがいるとは・・。昔の日本でも「トーフ、トーフ」って豆腐を自転車で売りにきてが、それに似たようなことか。この歌の最後にオチがあって「スキンマンたちはあんたの奥さんに皮を売って、奥さんを連れててしまう」という歌詞があるので、間男でもあるわけです。やっぱりそこかという感じだ。
1.Skin Man Blues / Hi Henry Brown
安藤さん情報でアメリカには「フライド・ポーク・スキン」という袋入りフライドポテトみたいな皮を油で揚げたスナックというのがあったので、ニューオリンズの盟友、山岸潤史にたべたことあるかとメールしたら「食べた事あるけどオレの口には合わん」と返信がきた。
次の曲は有名な”Nobody Knows You When You’re Down And Out”
クラシック・ブルーズの女帝、ベッシー・スミスで有名だがこのアルバムで歌っているのはギターのトミー・ブラッドレイ。この人も初めて聴く。一緒に演奏しているヴァイオリンのジェイムズ・コール。この人も知らない。この2人はデュオで活動して名の知れたミュージシャンだったようでいろんなミュージシャンとも共演、録音を残している。ジェイムズ・コールは「ジェイムズ・コール・ウォッシュボード・フォー」というグループもやっていてトミー・ブラッドレイもそのメンバーの1人だったようだ。
「お金があるときにはみんな寄ってくるが、落ちぶれた時にはみんな知らんぷりする」
この教訓はいつの時代も同じ。私はみんなが寄ってくるほどお金を持ったことがないので実感はないですが・・。
ベッシー・スミスは曲名が”Nobody Knows You When You’re Down And Out”ですが、ここでは”When You’re Down And Out”になっています
2.When You’re Down and Out / Tommie Bradley

次に聞いてもらう「ミシシッピ・ウォーター」はブラインド・ブレイクの”Georgia Bound”とかロバート・ジョンソンの”From Four Untill Late”と似たメロディ、コード進行の歌ですが、ブラインド・ブレイクは当時すごく売れていたので、このタイプの曲は恐らくたくさん作られていたはずだ。
ギター弾いて歌ってるのはキッド・プリンス・ムーア。暖かく、柔らかいいい声をしていてほのぼのする。
「ミシシッピの水はチェリーのワインのようだ。あの娘に会いにミシシッピに帰ろう」と歌っている。1936年録音
3.Mississippi Water / Kid Prince Moore
キッド・プリンス・ムーアは20曲近く録音が残っているようですが、ゴスペルも歌っている。20年代30年代はブルーズもゴスペルもジャズもカントリーもなんでも歌っていた人が多くいる。

次はジャグ・バンドです。ジェド・ダベンポート&ヒズ・ビール・ストリート・ジャグバンド。
ビール・ストリートとついてますからメンフィスのグループですが、以前この番組でON AIRした「ジャグ・バンドのすべて」というP-Vineレコードのコンピ・アルバムに収録されていた。メンフィスには有名なメンフィス・ジャグバンドがありジャグ・ミュージックに関わっていたミュージシャンがたくさんいて、グループもあればデュオやトリオとジャグがいかに人気があったかがわかります。これは1930年の録音。
4.You Ought to Move Out of Town / Jed Davenport & His Beale Street Jug Band
ジャグは楽しい。
次のジェシ・トーマス、別名ジェシ・ベイビーフェイス・トーマスはこのアルバムの中ではかなり有名なブルーズマン。
ルイジアナ出身だが活動していたのはテキサス。1911年に生まれて95年に亡くなってますから享年84歳。聞いてもらうのは1929年の彼の初録音の中の一曲。彼は当時18歳だ。
「自分が女性に優しく尽くして、気を使ったりして何が好きかなんて訊いたりするけど彼女たちは気にもしていない。女性を愛して、彼女たちの言う通りしてあげるけど他の男ところへ行ってしまう」と歌詞。要するに女性に尽くすのにどうして心変わりするのか・・と言う内容ですが、最後に「今はもういい男を見つけれなくてお前にはだれもいない」
5.No Good Woman Blues / Jesse ‘Babyface’ Thomas

イギリスの「ワールド・ミュージック・ネットワーク」という会社がリリースしたこのアルバムは全26曲収録されていて、その選曲のセンスもいい。日本盤は解説が入っていて発売はライスレコード、そしてオフィス・サンビーニャからリリースされています。タイトルはThe Rough Guide To “The Best Country Blues You’ve Never Heard”(vol.2) CDの帯には「知らぜらるカントリー・ブルース」というサブタイトルが付いている。まさに知らぜらる曲の数々だった。