2023.04.21 ON AIR

日本のブルーズにとって貴重な本「ニッポン人のブルース受容史」が出版された

「ニッポン人のブルース受容史」(日暮泰文(編集, 著)高地明(編集, 著) P-Vine発刊/日販アイ・ビー・エス発売 ¥4,200)

RCAブルースの古典(BMGビクターレコード)

ON AIR LIST
1.Big Road Blues/Tommy Johnson
2.Walk Right In/Cannon’s Jug Stompers
3.Take A Little Walk With Me/Robert Lockwood, Jr.
4.Key To The Highway/Jazz Gillum
5.Vicksburg Blues Part 3/Little Brother Montgomery

この度、音楽評論家でもありブルース・インターアクションズ、P-Vineレコードの創立者でもある日暮泰文さんと同じブルース・インターアクションズの創立に関わりライターでもある高地明さんが「ニッポンのブルース受容史」と題された本を出版されました。
日暮さんは日本におけるブルーズの拡がりにとても大きな役割をされた方で、現在僕が連載を書かせてもらっている「ブルーズ&ソウルレコーズ」の前身である「ザ・ブルース」という雑誌を70年代初期に創刊されたり、日本のレコード会社にブルーズのリリースを働きかけられたり、黒人ブルーズマンの来日の招聘などもされた方です。その日暮さんが立ち上げた「ブルース・インターアクションズ」そして「P-Vine Records」を共にやってこられたのが高地さんです。
そのお二人が黒人ブルーズがいかにして日本という国に受け入れられて行ったのか、その流れを60年代初めまで遡って70年代までを本にまとめたのが今回の「ニッポンのブルース受容史」
今日は日本のブルースの初期に非常に大きな役割をしたアルバム「RCAブルースの古典」を聴きながらこの本の話をしたいと思います。その「RCAブルースの古典」の編集にも日暮さんは関わっておられました。リリースは1971年。レコードでは三枚組でした。
その一曲目に収録されていたのがトミー・ジョンソンの”Big Road Blues”という曲で、まだブルーズロックから抜けきらずにいた僕にとってこういう弾き語りの古い戦前のブルーズはなかなか馴染めるものではなかった。

1.Big Road Blues/Tommy Johnson

このアルバムに入っているこのトミー・ジョンソンやブラインド・ウィリー・マクテルやスリーピー・ジョン・エステスなど弾き語りブルーズに馴染めるようになるのに2,3年かかったと思います。まあ、それまでオールマン・ブラザーズやジミ・ヘンドリックス、マウテンなどブルーズロックを聞いていた耳にはサウンドの肌触りが全く違うのでなかなか入り込めなかったのですね。この「RCAブルースの古典」は3枚組ですからそれなりに値段も高かったけれど買ったのは、やはりブルーズという音楽を知りたいという気持ちが強かったんですね。でも、馴染める曲は少なくて次のキャノンズ・ジャグ・ストンパーズの曲くらいが60年代フォークの流れでルーフ・トップ・シンガーズという白人のフォークグループが歌っていてヒットしていたので知っていて、でも「これもブルーズなのか?」と思ってました。

2.Walk Right In/Cannon’s Jug Stompers

こういうジャグというジャンルがブルーズの一つとしてあるんだということもこのアルバムで知りました。
日暮さんがこの「ニッポンのブルース受容史」の巻末で日本にブルーズが受け入れられたと感じたのは1974年のロバート・ジュニア・ロックウッドが初来日コンサートだったと書かれているが、僕も大阪厚生年金会館のコンサートに行ったときに会場を取り巻く多くの人たちに驚きました。僕がブルーズを歌い始めたのは1972年くらいでその頃は「なんで黒人のブルーズなんか歌うの」って言われたこともありました。それが74年のロバート・ジュニア・ロックウッドが初来日コンサート当たりからブルーズに興味のある人たちが一挙に増えた実感があった。そのロックウッドがこのアルバム「RCAブルースの古典」にも入っていることを思い出してコンサートに行く前日に聞いた覚えがあります。

3.Take A Little Walk With Me/Robert Lockwood, Jr.

74年のロックウッドの来日が素晴らしかったことでブルーズのブームは本格的になった。日暮さんや評論家の中村とうようさん、鈴木啓志さんなどが各レコード会社に働きかけ次々とブルーズのアルバムがリリースされました。
今のロックウッドと一緒に来日してコンサートのオープニングを飾って強烈な印象をのが盲目のブルーズマン、スリーピー・ジョン・エステスも「RCAブルースの古典」に収録されています。
「RCAブルースの古典」と同じ1971年にリリースされたロックの名盤が「いとしのレイラ(Layla and Other Assorted Love Songs)」の中に同じ”Key To The Highway”が収録されていました。「いとしのレイラ」は言わずと知れたエリック・クラプトンのバンド「デレク・アンド・ドミノス」のアルバムですが、クラブトンが誰のバージョンを聞いてカバーしたのかわかりませんが、黒人ブルーズマンのサニーボーイ1世、リトル・ウォルターなども録音しています。ぼくは今から聞いてもらうジャズ・ジラムのバージョンが一番好きです。
「俺はハイウェイに行く鍵を持った。これから出かけてもう2度とここに帰らないかも知れない。出かける前にもう一度キスしておくれ。でも、いつの日にかハイウェイで俺はのたれ死ぬんだろうな」

4.Key To The Highway/Jazz Gillum

1940年の録音でジラムのハーモニカの音色とビッグ・ビル・ブルーンジーの弾くギターの音色がすごくマッチして哀愁のあるブルーズの名曲になっています。

70年代のはじめにブルーズ喫茶やバーができたり、ロック喫茶でもブルーズを流すところがあったり、そこに黒人ブルーズマンの来日コンサートがあったりしてヒタヒタとブルーズは日本広まって行きました。だから一つの力じゃないんですね。いろんなことが重なってブルーズのブームが起こりました。70年代半ばです。
僕はレコードを買うお金もそんなになくて、でもブルーズのことは知りたくて・・それでよく買っていたのがコンピレーション・アルバム・当時はオムニバス・アルバムと呼んでましたが、いろんなブルーズマンのいろんな曲を聴けるのでそこからこれいいなと思うブルーズマンのソロ・アルバムを次に買ってました。ピアノのブルーズがいいなと思ったのもこの「RCAブルースの古典」に入っていたからでした。リロイ・カーとかビッグ・メイシオとかブルーズ史上に残るブルーズ・ピアニストたちが活躍していた時代があり、ピアノならではのブルーズの名曲もたくさん作られました。今日聴いてもらうリトル・ブラザー・モンゴメリーのこの曲もアメリカ南部の景色が広がるような歌とピアノで初めて聴いた時に心に残るものでした。

5.Vicksburg Blues Part 3/Little Brother Montgomery

70年代はYouTubeどころかDVDもなくビデオも普及していなくてブルーズマンたちがどんな風に演奏しているのかを知る方法がなかった。だからB.B.キングとかロックウッドに続いてバディ・ガイやオーティス・ラッシュなどブルーズマンの来日コンサートはブルーズを演奏する日本人の私にとって本当に勉強になった。

今回出版された「ニッポン人のブルース受容史」という本は日本においてどんな風にブルースが入って広まったのかを70年代初中期を中心に書かれています。アメリカやイギリスでは日本よりほぼ10年くらい早く黒人ブルーズが広まっていたのですが、日本では欧米よりブルーズの精神的な、内面的な部分が受け入れられ、日本人の精神にハマったのではないかとぼくは思います。もちろんブルーズは私たちが持つ日本人独特の心に寄り添える音楽ではないかと思っています。なので若い人たちにも機会があればじっくりブルースを聴いてもらいたいと思います。
「ニッポン人のブルース受容史」はなかなか読み応えのある本でロックやジャズを聴く方たちにもお勧めの一冊です。
そして今日聞いた「RCAブルースの古典」もお勧めのアルバムです。