2023.04.14 ON AIR

追悼:スペンサー・ウィギンス vol.3

Feed The Flame : The Fame And XL Recordings/SPENCER WIGGINS

ON AIR LIST
1.Love Attack/Spencer Wiggins
2.Cry To Me/Spencer Wiggins
3.Holding On To A Dying Love/Spencer Wiggins
4.We Gotta Make Up Baby/Spencer Wiggins
5.Sweet Sixteen/Spencer Wiggins

先々週からON AIRしていますこの春に急逝した偉大なソウル・シンガー、スペンサー・ウィギンスの特集3回目。
スペンサー・ウィギンスとジェムズ・カー、そしてパーシー・ミレンという3人のソウル・シンガーを同じゴールド・ワックス・レコードの三羽烏などと呼ぶ人もいます。僕が好きになったのは最も歌の切れ味が鋭いスペンサー・ウィギンスでしたが、最初に広く知られたのは”Dark End Of The Street”がヒットしたジェイムズ・カーでした。
今日の最初はそのジェイムズ・カーがバラードとして歌った曲をウィギンスがアップテンポのナンバーにアレンジしたテイクを聞いてください。1969年のフェイム・レコードの録音です。

1.Love Attack/Spencer Wiggins

ジェイムズ・カーがバラードとして歌った曲が重厚なサウンドのダンス・ナンバーとして生まれ変わってました。ウィギンスの歌のノリが素晴らしく、曲の最後に向かって全員のテンションが上がりウィギンスのシャウトにつながっていくところなどサザンソウルの醍醐味ですね。

フェイム・レコードでも二枚のシングルをだしただけで終わったウィギンスはヒット曲が出ないことに落胆して73年に故郷メンフィスを離れてフロリダに移り住みます。フロリダに行ったからと言ってヒットが生まれるわけでもなく、レコーディングの話もないわけですが、自分の環境を変えたかったのだと思います。おそらくクラブで毎晩歌うだけの生活だったのだと思います。そして一時は歌うことを断念するところまで彼は追い込まれました。

「彼女と別れて一人ぼっちになって誰からも電話もない。泣きたくないかい。泣きたい気持ちだろう。俺のところに来て泣けよ」という辛い曲ですが、ウィギンスは心からソウルフルに歌っています。

2.Cry To Me/Spencer Wiggins

今の曲のオリジナルは1962年にソロモン・バークが歌いアトランティック・レコードからリリースされたチャートにも出ましたが、ウィギンスのバージョンはヒットしませんでした。
ウィギンスが成功できなかった理由の一つは所属したゴールトドワックスとかフェイムと行ったレコード会社が小さなマイナーの会社でラジオや雑誌などにプロモーションする費用がなかったこともあったと思います。例えば今の曲のオリジナルのソロモン・バークが所属したアトランティック・レコードも最初はインディーズの小さなレコード会社でしたが、ルース・ブラウンやレイ・チャールズの大ヒットのおかげで60年代にはアレサ・フランクリンやオーティス・レディングをリリースするソウルの大看板レーベルになっていてプロモーション費用もかなりあったと思います。
それに加えウィギンスにはマネージャーがいませんでした。アメリカのショービジネスの世界では有能なマネージャーは不可欠の存在です。それゆえにスペンサー・ウィギンスの素晴らしさを売り込む人がいなかったという状況だったようです。
次の曲に日本のソウル・ファンは懐かしく思うかもしれません。そう78年に来日してから何度も日本で歌ってくれたオーティス・クレイがレパートリーにしていた曲です。72年にハイ・レコードからリリースされたクレイの素晴らしいアルバム”Trying to Live My Life Without You”に収録されている曲です。思えばそのオーティス・クレイもシカゴのマイナーレーベルでシングルを出し続けていたのですが、よく知られるようになったのはやはり大きなハイ・レコードに移籍してからでした。

3.Holding On To A Dying Love/Spencer Wiggins

彼はマイアミに移り住んでからゴスペルの世界に戻ります。そして、ゴスペル・アルバム”Key To The Kingdom”をリリースします。
多くのソウル・シンガーがそうであるようにゴスペルは彼らの実家のようなものだと思います。そしてマイアミの教会でクワイアのコーチをしたり教会関係の仕事をしていたようです。
彼はマイアミに行く前にフェイムとXLというレーベルに録音を残していました。それは「フィード・ザ・フレイム : ザ・フェイム・アンド・XLレコーディングス」というアルバムに全曲収録されています。全曲素晴らしいです。日本のP-Vineレコードからもリリースされていたので探してみてください。
そのアルバムから1曲

4.We Gotta Make Up Baby/Spencer Wiggins

2017年スペンサー・ウィギンスは弟のソウル・シンガー、パーシー・ウィギンスと来日公演を行いました。僕も観に行きました。スペンサーは75歳だったと思います。ステージではほとんど動かずステージに上がるのにも人の手を借りてました。この番組で三回に渡って聞いてもらった往年のような声は出ませんでしたが、それでも集まったソウル・ファンの声援に応えてひたむきに歌っていました。そして所々に若き日の歌の輝きを聞かせてくれました。でも、やはり70年代の後半オーティス・クレイやO.V.ライトが来日した頃に来ていたらなぁ・・・という思いは消えませんでした。そして、こんな素晴らしい歌手がアルバムもなくあまり知られずにいたことに改めてショービジネスの世界の過酷さを思いました。
最後にスペンサー・ウィギンスがメンフィスのクラブで歌い始めた10代の終わり頃、彼が好きだったのはB.B.キングやボビー・ブランドのブルーズとレイ・チャールズのR&Bでした。そのB.B.キングのヒット曲が録音されているので聞いてみたいと思います。

5.Sweet Sixteen/Spencer Wiggins

ブルーズを歌っても素晴らしいです。2/13に亡くなった偉大なサザン・ソウル・シンガー、スペンサー・ウィギンスの追悼を三週にわたってON AIRしました。
この番組のHPにジャケ写などだしてますのでぜひアルバムを探して聞いてみてください。