2023.06.02 ON AIR

ブルーズ温故知新
「悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)」と自称したブルーズマン、ピィーティー・ウィートストロー

The Devil’s Son-In-Law / Peetie Wheatstraw(P-Vine Records)

ON AIR LIST
1.Don’t Feel Welcome Blues/Peetie Wheatstraw
2.The Last Dime/Peetie Wheatstraw
3.When I Get My Bonus (Things Will Be Coming My Way)/Peetie Wheatstraw
4.Peetie Wheatstraw Stomp/Peetie Wheatstraw
5.Bring Me Flowers While I’m Living/Peetie Wheatstraw

ウィリアム・バンチという本名なのになぜ芸名がピィーティー・ウィートストローとなったのかはわかりませんが、ピィーティーはピートだと思いますがウィートストローって「麦わら」ですから。「麦わらのピート」ですか・・・。しかも自称「悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)」と名乗っていたそうです。でも、ジャケットの写真を見るとにっこり笑っていて悪魔っぽい感じはしないのですが・・目立つのは鼻がめちゃでかいことぐらいです。そしてジャケット写真ではギターを持っているのですが、演奏してたのはほとんどピアノです。これもなんでかな?です。このへんで僕はこいつちょっとふざけた、おもろい奴やなぁ・・・と思っていたのですが、アルバムを聴き始めたら途中で「これ全曲テンポがほぼミディアムで曲のキーがほぼ全曲一緒やないか・・」と気づきました。まあブルーズではそんな驚くことでもないのですが、でも同じようなテンポ、同じようなキーで1930年から10年間くらいの間に160曲もレコーディングしてます。つまり人気者だったわけです。ピアノはすごくうまい訳ではないのですが左手で刻まれるビートはステディでいいリズムです。このリズムがいいということは当時ピアノやギターだけの演奏ですから踊るためにはリズムがよくないとね。

1.Don’t Feel Welcome Blues/Peetie Wheatstraw

「俺って歓迎されてないよね。でも行くところもないんだけど・・。彼女のドアから追い出されて・・でも街中が俺のことウェルカムじゃないムードだな」

ピィーティー・ウィートストローはブルーズの録音が残されている初期のチャーリー・パットンやサン・ハウスとほぼ同年代。彼らと同じように人気者だったのですが、人気があった理由のひとつは彼が作ったブルーズの歌詞にあったのではないかと・・。年下のロバート・ジョンソンはこのピーティーが作った歌詞からいろんな発想をもらっています。つまり「悪魔に魂を売り渡した男」と呼ばれたロバート・ジョンソンの先輩はこの「悪魔の養子」のピィーティー・ウィートストローとなるわけです。しかしピィーティーの歌詞はロバートのように深刻ではなくどこか笑いがあるものです。次の歌は曲名が”The Last Dime”つまり最後の10セント。なんとなくこの女はあかんよな・・と別れを感じて出て行った方がええよな・と思っている時に女に呼ばれて最後の10セントも取られるという笑える歌ですが、アメリカのドラマや映画観てると女性は別れ際に取れるだけ取って行きますからね・・。怖いですね。

2.The Last Dime/Peetie Wheatstraw

悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)と自称してますが、別に暗くもないし重くもないです。歌は豪快で良く通る太い声ですが、歌い方は大味ではないです。つまり雑ではないです。そしてこの曲でもピアノのリズムがしっかりしていてます。
イントロのピアノのフレイズもどの曲もほぼ同じで笑えます。というかブルーズ・ギターやってる人、僕もそうですがギター・ソロ弾いてる時に「なんか同じフレイズばっか弾いてるな」と落ち込む人いると思いますが、大丈夫!ピィーティー・ウィートストローのイントロは同じフレイズで始まる曲いっぱあります。ソロの内容もテクニックあるなぁということはありません。だから大丈夫。ただ「リズムは良くないとダメです」よ。次もさっきの曲とイントロ一緒です。

3.When I Get My Bonus (Things Will Be Coming My Way)/Peetie Wheatstraw

ちょっと曲の感じが変わりましたが、有名な”Sitting’ On The Top Of The World”と同じ音楽形式です。

全曲ほぼテンポが同じと言いましたが、早い曲もないわけではないんですよ。次の曲は自分の名前をつけたダンス・ナンバーでリズムがストンプです。

4.Peetie Wheatstraw Stomp/Peetie Wheatstraw

ちょっとラグタイム調の楽しい感じのリズムでこれも悪魔の養子からほど遠い感じがしますが・・。

このアルバムの最後に入っている曲がライナーノーツで小出斉くんも書いているようにピィーティー自らの死を予感させるような歌詞です。
曲名が”Bring Me Flowers While I’m Living”ですが、「死んでから花を持ってこないで生きてるうちに花を持ってきてくれ。ベッドサイドにアイスポックスを持ってきて痛む頭を冷やしてくれ」そして最後に「天国に行けないのなら地獄で花なんかいらないから」と歌ってます。いいですね!

5.Bring Me Flowers While I’m Living/Peetie Wheatstraw

余談ですが1973年に「Petey Wheatstraw Devil’s Son In Law」というそのままの名前を使った映画が公開されています。ドタバタ・コメディ黒人映画らしいです。ちょっと見たい気がします。もちろん今日のピーティーから発想を得た映画だと思います。
このアルバムは日本のP-Vineレコードから2011年にリリースされ小出斉くんがコンピレーションしたものです。とてもいいアルバムで聞けば聞くほど味のあるアルバムで、最初は似たような曲ばかりだなと思っていたのですが、歌詞を聴きながら(歌詞カード入ってます)聞いているとひとりの男の生涯が見えてくるような聞くべきアルバムです。