2023.07.07 ON AIR

アーフーリー・レコード vol.2

Fred McDowell / You Gotta Move
The Best Big Maceo / The King Of Chicago Blues Piano

ON AIR LIST
1.Write Me A Few Lines/Mississippi Fred McDowell
2.You Gotta Move/Mississippi Fred McDowell
3.Worried Life Blues/Big Maceo
4.Chicago Breakdown/Big Maceo
5.San Francisco Bay Blues/Jesse Fuller

アーフーリー・レコード(Arhoolie Records)の創始者であるクリス・ストラックウィッツ(Chris Strachwitz)が5月5日、鬱血性心不全の合併症により91歳で逝去されました。
アーフーリー・レコードは素晴らしいブルーズのアルバムをリリースしてきた会社で、ブルーズ・ファンならギターのシェイプの中にArhoolieと書かれたロゴを知っていると思います。
ドイツのベルリンで生まれ育ったクリスさんの一家は第二次世界大戦で全てを失い、それでおばあさんがアメリカ人だったこともあり1947年にアメリカのネヴァダに移住します。クリスさんは南カリフォルニアの学校に入れられ、この頃からラジオから流れてくるヒルビリー、ニューオリンズジャズ、R&B、メキシコの音楽などアメリカの音楽に夢中になります。1951年に大学に入りここからテキサスのブルーズマン、ライトニン・ホプキンスに夢中になります。いわゆるダウンホーム・ブルーズと呼ばれる田舎の素朴な感じのブルーズを彼は好きになります。このダウンホームというのがクリスさんがのちに作ったレコード会社「アーフーリー」の大きなテーマとなります。
今日最初に聞いてもらううフレッド・マクダウェルも恐らくクリスさんが録音した自慢のダウンホーム・ブルーズマンだったと思います。「フレッド・マクダウェルは最後の偉大なミシシッピー・デルタ・ブルーズマンだ」とクリスさん自らライナーノーツに書いています。1964年にミシシッピで録音された曲です。
内容は彼女に別れを告げられてめちゃ落ち込んで「家に着いたら俺に短い手紙を書いてくれ」と言ってますが・・。

1.Write Me A Few Lines/Mississippi Fred McDowell

わざわざミシシッピと名前につつけているのはやはりミシシッピ出身ということも売りの一つだったのでしょう。私だったら「三重の永井ホトケ隆」でしょうか。
そしてこの番組では何度も聞いているのですが、フレッド・マクダウェルと言えばローリング・ストーンズがカバーした”You Gotta Move”のオリジナル・ブルーズマン。やっぱり聞きたい方も多いと思うので・・。

2.You Gotta Move/Mississippi Fred McDowell

クリス・ストラックウィッツさんは自分のレーベル「アーフーリー」でこういう弾き語りの録音を自分で機材を持っていろんな街、田舎に出向いて行いました。
ジャケットのライナーノーツも自分で書いて、ジャケット写真も自分で撮っています。何から何まで自分でやらないとインディーズでお金がありませからね。だからとてもパワフルな人だった思います。でもアメリカの民族音楽の一つであるブルーズの素晴らしさを見つけたのはクリスさんのようにヨーロッパから来た移民の人が多いんですね。

クリスさんのアーフーリー・レコードは新しい録音もしていましたが、過去の素晴らしいブルーズの音源の再発にも力を入れていました。
今から聞いてもらう偉大なピアニスト・シンガーのビッグ・メイシオのこのアルバム”The King Of Chicago Blues Piano”は僕も本当によく聞きました。アルバムタイトル通りシカゴ・ブルーズピアノのキングであり、創始者であり、のちのオーティス・スパン、ジョニー・ジョーンズはじめシカゴのピアニストはみんなビッグ・メイシオなくしては考えられません。
1941年、彼の最大のヒットであるこの曲を。彼女と別れることになり、悩み続け、泣き明かした夜もあるが自分はずっと彼女を愛している。でももういいよ。全て言った。じゃな。「いつの日にか俺ももう悩むこともないだろう」とう最後の”But someday, baby, I ain’t gonna worry my life anymore “というのは、いつの日にか死んでしまって悩むこともないだろうと言っているように思います。
こういうブルーズがすごくヒットした当時の世の中を考えるとただ単に恋愛の歌というだけではなく、やはり黒人にとっては希望を持てない辛い世相がその後ろにあったように思います。

3.Worried Life Blues/Big Maceo

ビッグ・メイシオのピアノ・プレイの素晴らしさが満喫できるピアノ・インストの曲です。左手のリズムの力強さとそのグルーヴ感のすばらしさ、そして右手の豊かなフレイズの数々を聞いてください。

4.Chicago Breakdown/Big Maceo

もういつ聞いても、何度聞いてもため息が出る素晴らしさ。ピアノが揺れてます。
クリスさんがアーフーリー・レコードを立ち上げた1960年頃はフォークとフォーク・ブルーズのブームがあり、多くの白人の若者たちが黒人のブルーズ、特に弾き語りのアコースティックなサウンドのブルーズに興味を持ち、フォーク・ブルーズ・フェスティバルのようなイベントが数多く催されました。それで白人の若者に黒人のレコードが売れることがわかりマディ・ウォーターズなどもガンガンにエレキでやっていたのに「フォーク・ブルーズ・シンガー」なんていうアルバムを作ってます。
ダウンホーム・ブルーズ好きのクリスさんがハマったであろう次のジェシ・フラー。彼もこのフォーク・ブルーズ・ブームに乗った一人です。
12弦ギターをかき鳴らしながらハーモニカやカズーを吹きながらフットデラというリズムを打つ独自の楽器も使ういわゆる一人でいろんな楽器をやって歌うワンマンバンド。

5.San Francisco Bay Blues/Jesse Fuller

クリス・ストラックウィッツのご冥福をお祈りします。素晴らしい音楽をありがとうございました。