2024.04.12 ON AIR

日本のブルース・ハーモニカのパイオニア妹尾隆一郎の名盤

Messing’ Around /Weeping Harp Senoh (ビクター/Flying Dog)

ON AIR LIST
1.Bobby Sox Blues/Weeping Harp Senoh
2.Unseen Eye /Weeping Harp Senoh
3.Let The Good Times Roll /Weeping Harp Senoh
4.Oh Baby/Weeping Harp Senoh
5.Carrie Lee/Weeping Harp Senoh

先週は最近メジャー・デビューしたまだ20代のバンドthe tigerのデビュー・アルバムを紹介しましたが、今夜は1976年約50年前にリリースされた日本のブルーズの名盤”Messing’ Around /Weeping Harp Senoh”を紹介します。Weeping Harp Senohこと妹尾隆一郎君が亡くなって7年がすぎました。
ここ数年、比較的安易に演奏できると思われていてブルースハーモニカを吹く人が増えている。確かに吹いて吸えば音はすぐに出るのでトランペットやサックスに比べると手が出やすい楽器ではあるが、実は奥深い楽器で特にブルーズを演奏するにはパワーも必要であるし、たくさんの奏法も覚えなければならない。そのブルーズ・ハーモニカのパイオニアがウィーピンク・ハープ・セノオこと故妹尾隆一郎であることに異論を挟む人はいないと思う。妹尾くんと私はブルーズという音楽に魅せられたのがほぼ同じ時代で、いわゆる日本のブルーズの黎明期を共に過ごした盟友だ。今日はそのウィーピンク・ハープ・セノオこと故妹尾隆一郎が残した素晴らしいアルバム、1976年リリースの”Messin’ Around”を聞いてみようと思います。まずアルバムの最初、一曲目Bobby Sox Blues
ボビー・ソックスとは女子学生が履く短い靴下のことで、若い女子に惚れてしまったんやけど彼女はアイドルや映画スターに夢中で他のことは何も考えてないという・・まあ若い娘に振り回されたブルーズ。オリジナルはT.ボーン・ウォーカー。

1.Bobby Sox Blues/Weeping Harp Senoh

素晴らしいギターソロを弾いているのは当時私が一緒にやっていたウエストロード・ブルーズ・バンドの塩次伸二。ベースがブレイク・ダウンの森田恭一。ドラムは当時日本にいたジャズ系のドラマーでジミー・ホッブス、ピアノは田村博さんというジャズ・ビアニストで今も活躍されてます。気づいた方もいると思いますが、ハーモニカのソロがありませんでした。実はハーモニカ・プレイヤーのアルバムなのに最初の三曲にハーモニカ・ソロはありません。ここにひとつ妹尾君のブルースに対する考え方、「ブルースはあくまでも歌である」という考え方が表れています。ブルーズはヴォーカル・ミュージックであり、ハーモニカを吹くための音楽ではないとうことです。妹尾くんは僕と一緒に演奏する時でも決して長いソロは吹きませんでした。あくまで歌のサポートという立場でした。つまりヴォーカル・ミュージックとしてのハーモニカのスタンスをしっかり理解している人でした。
次はハーモニカ・ソロが聴ける曲でオリジナルはサニー・ボーイ・ウィリアムスン。僕もいつかレコーディングしたいなぁと思い続けてる曲です。付き合っている女性に「自分の振る舞いには気をつけた方がええよ。お前のことを見えない目(Unseen Eye)がずっと見てるからな」というちょっと怖い歌です。妹尾君のハーモニカから始まりギター、ピアノそしてドラムがからむイントロのムードが素晴らしいです。

2.Unseen Eye /Weeping Harp Senoh

今のはベースがウエストロードの小堀正、ドラムが松本照夫。ギターはこのソロ・レコーディングの前にやっていたローラー・コースターのギタリスト川口充くん。
次の曲はジャンプ・ブルーズの王様、ルイ・ジョーダンの”Let The Good Times Roll”ですが、この曲を妹尾くんは終生よく歌ってました。「さぁ、みんな、一日の仕事が終わったらみんなで楽しもう」というファンキーな歌です。
ここでも彼はハーモニカで選曲しているわけではなくその歌。特に歌詞についてはよく研究していました。若い頃、まだブルーズの情報が少なく彼とよく歌詞や黒人文化について話し合いました。

3.Let The Good Times Roll /Weeping Harp Senoh

今の曲はギター近藤房之助、ベース森田恭一、ドラム小川俊英というブレイク・ダウンのリズム・メンバーでスライド・ギターは憂歌団の内田勘太郎。
次はブルーズ・ハーモニカ・プレイャーの王道の曲でリトル・ウォルターがオリジナルの”Oh Baby”
内容は「オレがどこかへ行ってしまったらお前はオレを失ったことの意味を知るだろう」と歌ってますが、彼女にフラれたくなくてこういうことを言うんですね。これはブレイク・ダウン全員(ギター服田洋一郎と近藤房之助、ベース森田恭一、ドラム小川俊英)がバックをしています。妹尾君のハーモニカの魅力がよく出ています。

4.Oh Baby/Weeping Harp Senoh

このアルバムは当時の日本のブルース・プレイヤーの精鋭を集めて録音した記念碑的なものですが、今聞いても色あせないいいアルバムだと思います。
最後はピアノの国分輝幸とテュオでやっている曲です。国分君はローラー・コースターのメンバーでのちにソー・バッド・レヴューに参加しました。彼の素晴らしいピアノも聞き物です。オリジナルはJ.B.レノア。

5.Carrie Lee/Weeping Harp Senoh

私と同時代にブルーズを始めた妹尾君は最初会った時からハーモニカはすごく上手かった。自分で考え出したハーモニカの譜面を作ったり、ブルーズの歌詞だけでなくブルーズから黒人音楽の歴史などにも精通していて本当に熱心な人でした。初期の頃はぼくのウエストロードの準レギュラー・メンバーとしてよく一緒にステージをやりました。ハーモニカのフレイズの良さだけでなくその音色が私は好きでした。このアルバムがリリースされてほぼ半世紀近く経とうとしていますが、今聞いても素晴らしい日本のブルーズを代表するアルバムだと思います。
そしてこういうブルーズのアルバムを作る、そしてブルースハーモニカの魅力溢れるアルバム作る若い人はいないのでしょうか。