2021.06.25 ON AIR

ブルースピアノの名手、オーティス・スパンの名盤復活

Otis Span Is The Blues/ Otis Spann (CANDID/SOLID CDSOL-47019)

ON AIR LIST
1.The Hard Way / Otis Spann
2.Otis In The Dark/ Otis Spann
3.I Got Rambling On My Mind#2 / Robert Jr.Lockwood
4.Worried Life Blues/Otis Spann

シカゴ・ブルーズのピアニストと言えば必ず名前が上がるオーティス・スパン。シカゴ・ブルーズのボス、マディ・ウォーターズの右腕としてマディを支えて、多くの名曲にその演奏を残してきたピアニスト。そのオーティス・スパンが1960年に発表した名盤”Otis Spann Is The Blues”が現在日本盤で復活リリースされているので今日のON AIRを聴いて気に入った方は是非ゲットしてください。
この”Otis Spann Is The Blues”はスパンとギター名人のロバートJr.ロックウッドのデュオで録音されたアルバムで、ピアノ名人とギター名人の見事なコラボ・ブルーズを聞くことができます。
まずはアルバムの1曲目
幼い頃から白人にコントロールされている社会の中でまともに教育を受けられず、文字の読み書きや算数などができなかった多くのアフリカン・アメリカンの辛く、悔しい気持ちを代弁するブルーズです。厳しい道を自分を奮い立たせて歩んできたと始まるブルーズ。
1.The Hard Way / Otis Spann
ロックウッドのギターのバッキング・サポートも実に見事。ピアノと被らないようにコードワークと単弦のオブリガード、そしてどちらのソロとも言えない絡み合うギターとピアノ。デュオ・ブルーズの名演です。

次はスパンのピアノ・ソロです。ピアノは基本的に打楽器だと僕は思っているのですが、スパンのピアノの素晴らしいグルーヴ感が味わえる曲です。左手のどっしりしたリズム・キープと様々なフレイズを叩き出す右手のコンビネーションが素晴らしいです。
2.Otis In The Dark/ Otis Spann
ピアノの鍵盤を叩くタッチの強さがわかります。そしてピアノから溢れる音の大きさが半端ではありません。ブルーズ・ピアノの基本が詰まった演奏です。

オーティス・スパンはミシシッピのジャクソンで1930年に生まれてます。
お母さんがブルーズギターを弾いてお父さんがブルーズピアニストという、もうブルーズマンになるしかないような環境で育ちました。ミシシッピのジャクソンという街は大きくていろんなブルーズマンが生まれ、訪れた街でもあります。彼は17歳までジャクソンでいろんなミュージシャンと演奏していたのですが、お母さんが亡くなり先にシカゴにいたお父さんを頼ってシカゴに来ました。すでにブルーズピアニストとしては出来上がっていたのでしょう。来て間もなくしてマディ・ウォーターズのバンドのオーディションを受けて合格。そこからずっとマディのバンドで演奏しマディのバンドにはなくてはならないバンマス的な存在になりました。他のブルーズマンとの仕事もしていましたが、1953年から1969年まで16年間マディのバンドに在籍しました。マディも相当信頼していたのがわかります。
ソロ・アルバムは1960年リリースのこの”Otis Spann Is The Blues”が初めて。一応スパン名義のソロ・アルバムですが、内容は半分をロックウッドが歌っているので実質的には双頭アルバムと言っても良いと思います。
一曲、ロックウッドの歌も聞いてみましょう。義理のお父さんのロバート・ジョンソンが原曲ですが、多少歌詞を変えて歌っています。
3.I Got Rambling On My Mind#2 / Robert Jr.Lockwood

次の曲はスパンが大きな影響を受けた1940年代から50年代に活躍したブルーズ・ピアニスト、ビッグ・メイシオが残した名曲。チャック・ベリー、レイ・チャールズ、メンフィス・スリム、ジュニア・ウエルズなどたくさんカバーされています。
「神様、あいつと別れてめちゃ傷ついたけどいつの日かそんなにくよくよすることもなくなるんや。おまえが行ってしまってから毎晩落ち込んで悲しんだけどそれもいつの日かなくなるんや。おまえが居らへんようになってずっと昼も夜も悩んだけどいつの日にか心配しなくてええようになる」
この毎回最後に繰り返す「But Someday Baby I Ain’t Gonna Worry My Life Anymore」という一節はいつの日か死んでしまうから心配しなくていいという意味が含まれていると思います。
人種の差別を受け、貧しいままずっと生きて、愛する人がいることだけが救いだったのに、愛する人にも去られて絶望する日々にいつの日かこの悩みも死んでしまえばなくなり神様の元に行けるという悲しいこの歌が大ヒットしたのはある意味とても辛いことです。
4.Worried Life Blues/Otis Spann

番組HPにアルバム・ジャケットなどもアップしてますので参考にしてください。
原盤のキャンディッドというレコード会社はジャズ系のレーベルです。ニューポート・ジャズ・フェスティバルにマディ・バンドの一員として出演したスパンの歌とピアノに感銘を受けたジャズ評論家のナット・ヘントフがこのアルバムのプロデュースをしました。
「オーティス・スパンはブルーズだ」というアルバム・タイトルに偽りが全くない、純度100パーセントのブルーズ・アルバムで日本盤が再発されたこの機会に是非ゲットしてください。
再発盤にはボーナス・トラックが6曲収録されています。そして、このアルバムの続編と言ってよいスパンの”Walkin’ The Blues”も同時発売です。それにはセントルイス・ジミーがゲスト・ヴォーカルで参加しています。そちらのアルバムもいいので是非。
この発売元は日本のウルトラ・ヴァイヴ/ソリッド レコード。発売は3/10なので早めにどうぞ。ソリッド・レコードからは他にもメンフィス・スリム、ライトニン・ホプキンスのキャンディッド時代のアルバムがリリースされています。

 

2021.06.18 ON AIR

キャリアの長い日本のブルーズ系バンドのニューアルバム
「8823The Blues Band/Live & More」と「飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ/Mountains Five」

★8823The Blues Band/Live & More (I.N.U-2001)

★飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ/Mountains Five (R.M.O Records PROO142102)

ON AIR LIST
1.Let Me Love You Baby / 8823The Blues Band
2.Love Me / 8823The Blues Band
3.On The Road Again/飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ
4.Prison Wall Blues/飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ

少し前のON AIRで僕の好きな日本のバンドを聴きましたが、今回はやはりキャリアの長い二つの日本のバンドのニュー・アルバムを聞きます。

まずは「8823The Blues Band」少し前まで「8823」でしたがThe Blues Bandをつけたそうです。メンバーは田中晴之(ギター)山田晴三(ベース)堀尾哲二(ドラムス)酒井ちふみ(ボーカル)

元々は亡くなったギターの塩次伸二がやっていた「4029」というバンドがあったのですが、塩次伸二が亡くなりましてその後同じメンバーで8823として活動を続けて13年になります。

ギターの(田中晴之)晴ちゃんは70年代初期に「ファッツボトル・ブルーズバンド」を京都でやっていましてその頃からですから、僕とは半世紀近い付き合いになります。ギターの師匠でもある亡き塩次伸二の「ダウンホーマーズ」とか現在シカゴで活躍しているピアノの有吉須美人のバンド「アリヨズ・シャッフル」にも参加していました。現在はギターの先生やセッションにも参加しギターの森‎俊樹くんとのデュオもやっています。彼の人間性そのままのごまかしのない、正統派のモダン・ブルーズギターを弾く人ですが興奮した時のギターがおもろいです。

ドラムの堀尾くんもキャリア長いのですが、昔のことはあまり知らなくて4029をやりだしてから仲良くさせてもらっています。彼もドラムの先生やプロデュースをやってまして、今回のアルバムを録音した「クロイヌ」スタジオのオーナーでエンジニアでもあります。

ベースの山田晴三くんも長い付き合いですが、70年代初期に彼は「合資会社」というロックバンドを京都でやってましてその頃からの知り合いです。一緒にライヴをやるようになったのはやはり4029に僕がゲストに呼んでもらってからです。

ヴォーカルの酒井ちふみちゃんも4029で知ったのですが、彼女はドラムの堀尾くんともう一つ「フリッジ」というバンドもやってます。ヴォイス・トレーナーもやっていてデュオやトリオでも活躍されています。まずはいつもライヴで酒井ちふみが登場する曲です。

1.Let Me Love You Baby / 8823The Blues Band

聴いてもらっているのは去年リリースされた”Live & More “というアルバムで堀尾くんのスタジオにお客さんを入れたスタジオ・ライヴと普通のスタジオ録音の曲が収録されています。今のようなスタンダードなブルーズからファンク・テイストなものやニューオリンズ・テイストなど結構幅広いレパートリーがあるのですが、僕は次のような曲がちふみちゃんの歌の良さが出ていていいなぁと思ってます。

2.Love Me (A.Domino/ 8823The Blues Band

今はコロナ禍でやってないですが、8823は京都でのライヴだけでなく全国ツアーもやってるので名前を見かけたら是非聴きに行ってください。

次は飯山ガキデカ・ジャグストンパーズです。彼らは飯山という長野市から更に北に向かった新潟県に近い北信州と呼ばれる町を中心に活動しています。なぜか北陸新幹線止まります。21年もやっているバンドなのに5/14にリリースされた今回のアルバムが2枚目です。僕は早くアルバムを出せと急かしていたのですが、やっとでました。

メンバーは市ノ瀬広明 banjo, ukulele, guitar, kazoo, vocals、常田貴之 guitar、杉原健一 mandolin, clarinet、中原洋二 washtab bass、小林徹 washboardの5人で見事なおっさんバンドです。

今回のアルバム・タイトルが”Mountains Five”(山の5人)リーダーの市ノ瀬くんが映画のオーシャンズ11からアルバムタイトルを決めたと言ってましたが、よくわかりません。ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットみたいなイケメンはいません。よく呑みよく食べるおっさんバンドです。僕は彼らも関わっている飯山のフェスティバル「さわごさ」にぼくのバンドのブルーズ・ザ・ブッチャーを呼んでもらった頃からの知り合いですが、一緒に演奏もしてるんですが食べて飲んでいる思い出ばかりです。。

初めて彼らの演奏を聴いた時、飯山という雪深い山に囲まれた場所から生まれた音楽ならではのゆったりした男っぽい感じが好きになりました。ジャグ・ミュージックというのがすごく彼らに合っています。

まずは1920年代後半から30年代の半ばにかけてすごい人気を博した「メンフィス・ジャグ・バンド」の名曲のカバーです。同じ曲名のキャンドヒートというバンドで有名になった曲がありますが、違う曲です。

3.On The Road Again/飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ

このアルバムにはカバーがほとんどですがオリジナルや日本語訳のカバーも収録されています。1920から30年代のジャグ・ミュージックの音をベースにして少しジャズ・テイストだったりブルーズ・テイストだったりいろんな曲が入ってますが、統一感があるのはさすがベテラン・バンドです。

彼らは年に2.3回しか東京に来ないのですが、どこかで名前を見かけた時はぜひその楽しいライヴを聴いてみてください。

次の曲は先ほどのメンフィス・ジャグ・バンドと双璧で有名なキャノンズ・ジャグ・ストンパーズのカバーです。

4.Prison Wall Blues/飯山ガキデカ・ジャグストンパーズ

彼らは他の仕事をちゃんとやりながらのバンド活動なのでなかなか思うようにならないこともあると思いますが、好きなバンドなので末長くやり続けて欲しいです。

全国にはガキデカ・ストンパーズのように仕事を持ちながら時折集まって練習して演奏し、アルバムを作って地元のイベントなどに参加しているバンドやミュージシャンがたくさんいます。故郷を大切にしながら頑張ってください。そしてアルバム出してください。

今日は京都の8823The Blues Bandと長野県飯山の飯山ガキデカ・ジャグストンパーズのアルバムを聞きました。

★飯山ガキデカ・ジャグストンパーズのアルバム購入はこちらをご覧ください→https://gstomp.theshop.jp/items/43114480 (R.M.O Records)

★8823The Blues Bandのアルバム購入はこちら→http://8823blueskyoto.blogspot.com/search/label/CD情報

 

2021.06.11 ON AIR

マリア・マルダーのニューアルバム”Let’s Get Happy Together”がいい!

Let’s Get Happy Together/Maria Muldaur with Tuba Skinny (Stony Plaln)

ON AIR LIST
1.Let’s Get Happy Together/Maria Muldaur with Tuba Skinny
2.He Ain’t Got Rhythm /Maria Muldaur with Tuba Skinny
3.Big City Blues/Maria Muldaur with Tuba Skinny
4.Delta Bound/Maria Muldaur with Tuba Skinny
5.Some Sweet Day/Maria Muldaur with Tuba Skinny

マリア・マルダーという名前を聞いて懐かしく思い出される方もいると思います。1973年の初ソロ・アルバム「マリア・マルダー」とその翌年の「ドーナツ・ショップのウエイトレス/Waitress In a Dounut Shop」でマリア・マルダーは人気になり、「真夜中のオアシス/Midnight at the Oasis」という曲もヒットしました。
マリア・マルダーは55年のキャリアがあり、今まで42枚のアルバムを出して6回グラミーにノミネートされているアメリカを代表するシンガーです。
キャリアの始まりは60年代中頃に「Jim Kweskin & The Jug Band」にヴォーカルとフイドルで参加したのがプロとしての始まりです。67年にバンドが解散してそのバンドにいたギターのジェフ・マルダーと結婚して「ジェフ&マリア・マルダー」として活動を始めました。そのあと離婚するんですがその時の名前を今も芸名として使っているわけです。今回のアルバムはぼくも全く知らなかった「チューバ・スキニー」というバンドとのコラボ・アルバムですが、このバンドはアメリカの古いトラッド・ジャズを演奏しているバンドでルーツ・ミュージック好きのマリアから是非とコラボを依頼したそうです。
まず、アルバム・タイトル曲”Let’s Get Happy Together”
1.Let’s Get Happy Together/Maria Muldaur with Tuba Skinny
曲名通り「私たちは失ったものもあるけど楽しくやりましようよ」という歌で原曲は、ルイ・アームストロングの奥さんリル・ハーディン・アームストロングが1938年に録音した曲です。
リル・ハーディン・アームストロングはピアニストで歌も歌い作曲もしてバンド・リーダーでもあったという才能のあった女性です。

このアルバム”Let’s Get Happy Together”、トラッドジャズあまり知らないのでなじみのある曲がほとんどないのですが、次の曲はビリー・ホリディが歌っているので知ってます。
「彼がどんなに頭のいい男でも業績のある男でも成功して世間からの評判がいい男でもリズムがなかったらつまらん男よ。家で1人で本を読んでるようなさみしい男よ」多分楽しくない男という意味だと思います。ファンキーじゃないというか・・。
2.He Ain’t Got Rhythm /Maria Muldaur with Tuba Skinny
最初のクラリネットの音がなんともいいですね。
僕はマリアがデビューした頃よく聴いていたのですが、70年代終わり頃からずっとご無沙汰していて90年代にぼくがニューオリンズへ行き始めた頃に「ルイジアナ・ラブ・コール」というニューオリンズで録音したいいアルバムを彼女がリリースした頃からまた彼女を聴きはじめました。それからはリリースされるアルバムもほとんど聴いているのですが、マリアはずっとこういうトラッド・ジャズとか、ジャグ・ミュージックとかルーツ・ミュージックが好きで変わらないところがいいです。

今回アルバムで気に入ったのが1929年にアネット・ハンショウという女性シンガーが歌った次の歌。
「今日は感謝祭の夜なのでみんなどこかへ行ってしまう。私の気持ちなんて誰にもわからない。みんな通り過ぎていく。なぜなの・・」大都会(Big City)に1人で住む女性の寂しい気持ちを歌った曲です。
3.Big City Blues/Maria Muldaur with Tuba Skinny
初めて聴いたのですが、懐かしい、切ない感じがするいい曲ですね。

このアルバムでマリア・マルダーとコラボしたチューバ・スキニーについて。
ニューオリンズのバンドです。トラッド・ジャズという1920年代30年代の古いジャズを演奏するバンドでストリートでも演奏してます。ストリートの方が多いのかな?完全なプロではなく多分他の仕事をしているメンバーがほとんどだと思います。
使われている楽器がコルネット、クラリネット、サックス、トロンボーン、チューバ、バンジョー、ギター、フィドル、アコーディオン、ハーモニカ、ウォッシュボードなどでバンド結成されて10年ほど経っています。ライヴ映像を見るとコルネットの女性が演奏の合図を出しているのでこのシェイ・コーンという方がバンマスだと思います。
このアルバムをリリースした記念のライヴ映像がYou Tubeに上がっているので是非見てください。
こちら→https://www.youtube.com/watch?v=Bm0yUQf5Gms&t=7s
あとチューバ・スキニーだけの映像もYou Tube に上がっています。面白いのはストリートで演奏している時にメンバーの1人が遅れてきて途中から楽器をセッティングしてすぐ演奏に加わる・・そんな様子も見れます。
次の曲はオリジナルは1932年に有名なジャズの巨匠デューク・エリントンが彼のオーケストラで女性ヴォーカルのアイビー・アンダーソンを迎えて録音した曲です。
4.Delta Bound/Maria Muldaur with Tuba Skinny

こういうトラッド・ジャズという音楽を僕も詳しくはないのですが、ファンキーで音の肌触りが優しい感じで肩の力が抜けていいです。
このアルバムを最近よく聴いていて、チューバ・スキニーの映像もYou Tubeで時々見ているのですが、なんかメンバーがたくさんいる時もあればメンバーが代わっている時もあって、街のストリートで演奏している様子なんかのんびりしていてすごくいいです。必死にプロでやっていくという感じもなくセミ・プロというか・・でも出しているサウンドは素晴らしいです。
それからマリア・マルダーは好きな音楽がずっと変わらず歌っているのがいいですね。年を重ねて少し声が低くなりましたが、それもまた味になっていていいです。
では最後にもう一曲
5.Some Sweet Day/Maria Muldaur with Tuba Skinny

今回のアルバムは日本のBSMFレコードからリリースされています。
マリア・マルダーが偶然チューバ・スキニーのアルバムを聴いて感動してマリアからコラボを申し出たそうです。若い人たちがこういうトラッド・ジャズをしっかりやっていることがマリアは嬉しかったんでしょうね。マリアも77歳になりますが、まだまだ歌えるしアルバムも出してまた日本にも来て欲しいです。
アルバム情報は番組HPをどうぞ。Let’s Get Happy Together/Maria Muldaur with Tuba Skinnyでした。

2021.06.04 ON AIR

私が愛する異彩を放つソウル・シンガー、O.V.ライトの魅力

Eight Men And Four Women / O.V.Wright
(The Complete Recorded Works By The Boss Of Southern Soul For Backbeat And ABC Labels / P-Vine PCD7303-07)

ON AIR LIST
1.That’s How Strong My Love Is / O.V.Wright
2.Why Don’t You Believe Me / O.V.Wright
3.Eight Men And Four Women / O.V.Wright
4.You’re Gonna Make Me Cry / O.V.Wright
5.If It’s Only For Tonight / O.V.Wright

数多いるソウル・シンガーの中でも私が格別に好きなO.V.ライト。どうしても彼のことを残しておきたくて先日ぼくが連載を書いている「ブルース&ソウル」という音楽雑誌に彼のことを書きました。書きつくせなかったんですけどね。そして、文章で書くのも大切なんですが、やっぱり彼の歌を聴いてもらいたい。
1939年テネシーに生まれている。ソウル・ミュージックが花開いた60年代のオーティス・レディングやウィルソン・ピケット、ソロモン・バークなどと同年代。そして多くのソウル・シンガーと同じでその歌の出発は教会のゴスペル。「サンセット・トラベラーズ」ほかゴスペル・グループで歌っていたO.V.は10代からゴスペル界では才能のある歌手として高く評価されていた。
ゴスペルからソウルに転身して歌った最初の曲はメンフィスのマイナーレーベル「ゴールド・ワックス」から1964年にリリースされた”That’s How Strong My Love Is” 。
恐らく彼は尊敬していたサム・クックがゴスペルから転身して成功したような夢を見ていたと思う。しかし、翌年「スタックス・レコード」がオーティス・レディングにこの歌を歌わせてO.V.を遥かに上回る大ヒットとした。私はオーティスのバージョンよりも明らかにO.V.のバージョンの方がいいと思っている。驚いたのは今の”That’s How Strong My Love Is”のデモテープは最初スタックスレコードに持って行ったのだが、スタックスは「ゴスペルが強過ぎる」つまりO.V.の歌のゴスペル・テイストが強過ぎると言って録音しなかった。スタックスのような黒人音楽を出している、しかもゴスペルのれーべるも持っているレコード会社が「ゴスペルが強過ぎる」なんて言うんですね。ゴスペルは黒人音楽のルーツだから黒人シンガーのゴスペルテイストが強いなんていうのは当たり前で、今聞いても格別ゴスペルテイストが強いとは思えないんですがね。
オーティスはすでに”These Arms Of Mine”のヒットもだしていたし、スタックスはゴールドワックスよりもプロモーションの力が強かったこともあり、O.V.のオリジナルはあまりラジオなどでも流されなかった。
「もし、私が空に登る太陽なら愛する君とどこにでも行くだろう。もし、私が太陽が沈んだ後の月ならまだ君の周りにいることを知ってもらうよ。私のこんなにも強い愛、私のこんなにも強い愛」

1.That’s How Strong My Love Is / O.V.Wright
ゴスペルという大きな樹の周りをブルーズが靄のように取り囲んでいるように思える曲です。これはすごく売れなかったけどソウルの名曲、名唱だ。
この時代の黒人音楽の最大のスターはサム・クックで、O.V.もサムに憧れて成功を夢見ていた。そしてサンセット・トラベラーズのマネージャーだったルーズヴェルト・ジャミソンと一緒にソウル界へ入ることを決めたわけですが、そのサンセット・トラベラーズがレコード契約していたのがテキサスのデューク・レコード傘下のピーコック・レコードだった。それでその社長であるドン・ロビーがうちと契約しているのにゴールド・ワックスと契約するのは違反だと言い始め、O.V.はゴールドワックスへ移籍することができなかった。それで仕方なくドン・ロビーのバック・ビートというレーベルから録音しはじめる。
私が最初に聞いたO.V.はそのバック・ビート時代のシングルを集めた1968年リリースのアルバム”(If It Is) Only For Tonight”に収録されている次の曲だった。
2.Why Don’t You Believe Me / O.V.Wright
この曲がレコード店で流れていてなんかすごくいいなぁと思って見たら、前から名前だけは知っていたO.V.でその場でアルバムを買った。
「こんなに愛しているのにどうして信じてくれないのか」
このアルバム”(If It Is) Only For Tonight”の一曲目に入っているのが”Eight Men And Four Women”という曲なのですが、マイナーの寂しげなコーラスから始まるこの歌が最初はあまりいいとは思えなかった。
そもそもタイトルのEight Men And Four Womenが何を意味してるのかわからなかった。しばらくしてアメリカの裁判の陪審制度の陪審員が全部で12人というのを思い出しただからこれは男8人女4人が陪審で、不倫の愛を裁くという歌ですが、まあ実際の裁判ではなく陪審員はいわゆる世間のことだと思います。日本でも有名人なんかが不倫をするとテレビやマスコミそして世間が徹底的に叩く風潮がいいまありますが。
この歌の中の男はこれは不倫の愛だけどお互いに愛し合ってる本当の愛なんだと訴えてる歌です。切羽詰まっている二人の気持ちをO.V.はリアリティを持って歌っています。こういう重いソウルを歌えるのがO.V.ライトです。
3.Eight Men And Four Women / O.V.Wright

O.V.は「自分の歌っている歌はすべてゴスペルから来ている」とインタビューで語っているように歌を歌う精神的な拠り所はやはりゴスペルで、そのあたりはアレサ・フランクリンなどに似たところがあるように思います。
最初に話したオーティス・レディングはロックンロールのリトル・リチャードの影響が大きいのですが、O.V.が影響を受けた歌手はゴスペル・シンガーが多く、唯一サム・クックを好きな歌手に挙げてますが、そのサムも終生ゴスペルから離れることはなかった歌手です。そして次の曲のようにゴスペルにブルーズがうまくミックスされたときにO.V.の本領が発揮されます。
「お前はオレを泣かせる。オレの心を引きちぎる。頼むからオレを泣かせないでくれ。心を壊さないでくれ。愛は幸せを運んでくる。そして愛は悲しみを運んでくる。愛は今日ここにいるけど明日にはいなくなる。」
4.You’re Gonna Make Me Cry / O.V.Wright
このアルバム”(If It Is) Only For Tonight”に収録されているO.V.の60年代半ばの歌にはやはりサム・クックの影響を感じます。
ただO.V.の歌声はサムほどスイートではない。ゴスペルの厳しさみたいなものが声の中にあり毅然とした感じがします。
次の歌も甘いバラードですが、ビター・スイートなどこかに苦さがあり甘すぎない歌です。サム・クックの影響が歌い方の随所にあります。
「オレは君の腕の中にいて今はだれもいない。君も知ってるようにオレには他に女がいるが、でも君といることが正しいと思える。
待ちわびた君のキス、強く君を抱きしめる。ダーリン、愛してると言ってくれ、例え今宵だけでも」
5.If It’s Only For Tonight / O.V.Wright
こういう歌を聴いていると胸がいっぱいになります。優しくて悲しくて・・・何でしょうね、自分の今までのいろんな風景、光景が浮かんで来たりする曲です。
予備:Don’t Want To Sit Down
次回もO.V.ライト特集するのですが、素晴らしい歌手なのにもっともっと知られていい歌手なのに・・といつも思っているんですよ。
しばらく間を置いてまたO.V.ライトをON AIRしたいと思います。月に一回くらいかな・・。

2021.05.28 ON AIR

僕の思う日本語のブルースとポップ・ミュージック

Gumbo Roll 3 / JOE-GO (BSMF 1060)

Scheduled By Budget / MITSUYOSHI AZUMA AND THE SWINGING BOPPERS (Sony Music AICL-3699)

ばってんブルース / コージー大内 (MARUYOSHI-03)

Mooney Meets Kotez / Mooney And Kotez (Airplane AP1089)

ON AIR LIST
1.ロールパン/JOE-GO
2.ご機嫌目盛/吾妻光良とザ・スウィンギング・バッパーズ
3.おんぼろトレイン/コージー大内
4.冬の道/ムーニー&コテツ

70年代に日本語でブルーズを演奏する憂歌団が登場してから、黒人ブルースを日本語で自分流に変えて歌ったり、黒人ブルーズの曲のフォーマットだけ使って全く新しい日本語の歌詞を載せて歌う人が増えました。

去年開催された「なにわブルース・フェスティバル」では全曲英語でブルーズを歌ったのは僕のブルーズ・ザ・ブッチャーだけでした。ブルース・フェスとは銘打ってますが全くブルースと関係ない歌を歌うミュージシャンもいましたが・・・。とにかく英語でブルーズをカバーする人がすごく減って、日本語のブルースへの流れが強いのですが、アフリカン・アメリカンの民族音楽として生まれているブルーズという音楽をただ日本語でやるという安易さも最近感じます。

今日聞いてもらう日本のミュージシャンの曲はブルーズに影響を受けたものですが、それぞれが日本語でやる前にまた今でも黒人ブルーズや黒人音楽へのアプローチをしっかりやって来た人たちです。日本語のブルーズとひとまとめな言い方を僕は好きではなく、それぞれの日本語のオリジナル曲という感じで受け止めています。

最初にON AIRするのは東京の下町を中心に活動しているJOE-GO。1993年結成ですからもう28年ですか。僕が知ったのは2018年にリリースされたGUMBO ROLLというミニ・アルバムが出た頃でしたかね。

ギターと歌がガイくん(日本人ですけどね)、キーボードと歌のチャッピーくん(日本人ですけどね)、ベースと歌はミドケンくん、ハーモニカと歌がエイジくん、そしてドラムがケイゴくん

ちなみに英語表記になっているバンド名前のJOE-GOは、別に外国人がメンバーにいる訳でもなく、お酒を好きな人のことを「上戸」というところから取ってます。笑い上戸、泣き上戸というのと同じ上戸です。彼らもお酒大好きですからね。平均年齢どのくらいなんでしょう。もう28年も経っていて演奏はすごくしっかりしています。

では、2020年5月にリリースされたJOE-GOのGUMBO ROLLシリーズの三枚目から「ロールパン」

1.ロールパン/JOE-GO

僕はずっとバンドをやって来たんですが、最初は「ウエストロード・ブルースバンド」「ブルー・ヘヴン」「トリック・バッグ」そして今の「ブルーズ・ザ・ブッチャー」。途中でセッション・バンドもやったことありますし、ソロで活動することもありますが、基本的にぼくは自分のバンドが必要なんですよ。結局、なぜバンドをやるのかというとぼくのように不器用な歌手は一緒に演奏するメンバーがよく変わると上手く歌えないんですね。それと自分たちのバンド・サウンドを作りたいという気持ちもあります。そのためには同じメンバーである程度長くやらないとバンド・サウンドは作れない。もっと言えばメンバーが一人代わっただけでバンドのサウンドは変わってしまうんです。だれでもいいというわけではないんです。

次のバンドも長いです。吾妻光良とザ・スウィンギング・バッパーズ。結成は1979年でリーダーの吾妻くんが在籍していた早稲田大学の音楽サークルから始まっています。もう結成40年ですか・・。

吾妻くんはバッパーズの前に僕とブルー・ヘヴンというバンドをやっていまして、その頃彼に教えられた音楽的なことも多かったです。バッパーズはいわゆるオーケストラですからメンバーが多いです。12人もいます。でもメンバーがほとんど変わっていないところがすごいです。一番最初のアルバムは僕がプロデュースしたというか録音の世話係をしたんですが、それから40年バッパーズのメンバーもおっさんから初老になってしまいました。

では2019年5月にリリースされたアルバム”Scheduled By Budget”から

2.ご機嫌目盛/吾妻光良とザ・スウィンギング・バッパーズ

バッパーズはジャンプ・ブルーズ、ジャズ、ジャイヴ・ミュージックをルーツにそれらを日本語で演奏するというコンセプトなのですが、それも変わっていないところが素晴らしいです。

次のコージー大内くんも変わらない人です。

あまりお会いしたことはないのですが、いつも気になっている人です。コージーくんは2008年に「角打(かくち)ブルース」でレコードデビューしたのですが、ライトニン・ホプキンスのギター・スタイルにコージーくんの生まれ故郷大分県の日田市の日田弁という方言で歌うというのを始めました。これが「弁ブルース」(方言のなになに弁の弁)とよばれて評判になり、全国各地から方言でブルーズを歌う人が出て来ました。元祖弁ブルースのコージーくんがいいなと思うのは、その日田弁というのがブルーズのリズム合うんですね。特にコージーくんが習得したライトニンのリズムとムードにぴったりしてい。

2012年の『ばってんブルース」から

3.おんぼろトレイン/コージー大内

「おんぼろトレイン、乗せちっちくりー」と方言で歌われてますが、乗せてってくれということですがリズムに合うんですよね。面白いです。2016年にも「一番街」というアルバムを出してツアーもかなりやっているようです。

 

次のムーニーさんは1951年生まれだから僕より一つ下で、1972年に「アンクル・ムーニー」というジャグバンドをはじめたのが最初のようです。そのあと「チェイン・ザ・スリー・ギャング」「SHY&MOONEY」「Mad Words」「Mooney&his Lucky Rythm」などのバンドをやって来ていわゆるジャグ・ミュージックの日本の元祖です。全国のJugbandを集め行うイベント 「横浜Jugband Festival」プロデュースもされてます。僕もジャグではないのに出させてもらったことがあります。あと若いバンドのプロデュースやCMソングを提供されたりいろんなところで活躍されています。

今日聞くのは去年、ハーモニカのKOTEZくんとデュオでリリースされたアルバム「Mooney Meets Kotez」からオールド・ジャズ・テイストの曲で「冬の道」

4.冬の道/ムーニー&コテツ

今日聞いた人たちは英語のカバーとオリジナルと両方やってます。音楽はどんな表現をしても自由なのですが、僕らがやっているブルーズとかR&Bとかジャグ、ジャイヴという音楽は長い歴史の中で作られたもので、それを土台に何か新しいものを作ろうとする前にまずその土台になる音楽をマスターしなければ、土台の弱い所に家を建てるようなものです。

ムーニーさんも吾妻くんもみんな最初はしっかりまずカバーをやってます。それは聞くとわかります。音楽に厚みがあります。今はオリジナル、オリジナルと言いますが、それは果たして本当にオリジナリティのあるオリジナルなのだろうかと自問するべきだと思います。逆にカバーをしていてもそこにオリジナリティを出すことはできます。昨今、すぐ日本語のブルーズということを言いますが、そもそも日本語のブルーズってあるのでしょうか。じゃそこには演歌の新宿ブルースや伊勢佐木町ブルースは入るのか、それはなぜ別なのか同じ音楽なのに・・・。だから僕はまとめて日本語の歌という括りでいちいち日本語のブルーズとか日本語のフォークとか日本語のロックとか言わなくてもいいのではないかと思います。つまり大きな意味での日本のポップスだと思っています。日本語のブルーズというとブルーズを好きな人しか聞かない、買わない可能性があります。より多くの人に聞いてもらうには日本語の・・・という分類ではなく、大きな分類に入れた方が聞いてもらえるのではないでしょうか。この話はまたしたいと思っています。