2020.03.06 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード集vol.12/モダン・ブルーズ-1
モダン・ブルーズの双璧 B.B.KingとBobby Bland

Live At The Regal/B.B.King(MCA MCAD-11646)

Live At The Regal/B.B.King(MCA MCAD-11646)

Greatest Hits Volume One-The Duke Recordings/Bobby Bland (MCA MCAD-11783)

Greatest Hits Volume One-The Duke Recordings/Bobby Bland (MCA MCAD-11783)

Two Steps From The Blues/Bobby Bland (MCA 088-112-516-2)

Two Steps From The Blues/Bobby Bland (MCA 088-112-516-2)

ON AIR LIST
1.You Upset Me/B.B.King
2.Sweet Little Angel/B.B.King
3.I Don’t Want No Woman/Bobby “Blue” Bland
4.I Pity The Fool/Bobby “Blue” Bland
5.Two Steps From The Blues/Bobby “Blue” Bland

50年代に入ると盛り上がってきたのがB.B.キングやボビー・ブランド、ジュニア・パーカーたちメンフィス・ブルーズマンたちによるモダン・ブルーズでした。シカゴの若い世代のバディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、マジック・サムといったブルーズマンたちもマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフのシカゴ・ブルーズよりも音楽的にはB.B.キングやボビー・ブランドのモダン・ブルーズの影響を強く受けました。現在演奏されているほとんどのブルーズの大きな骨格はこの時代のモダン・ブルーズで作られました。
バックにホーンセクションを入れたオーケストラ・サウンドはゴージャスで、着飾った黒人たちが夜な夜なナイトクラブに出かけました。
モダン・ブルーズは作曲作詞に歌い方に演奏にゴスペルやジャズのテイストが入りこみ、新しさと同時にしゃれた音楽として都会の黒人たちに受けたのだと思います。一方、シカゴ・ブルーズのマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフたちの南部のアーシーなテイストをもつブルーズは次第に流行からは残されていきました。

50年代の最初からヒットを連発したB.B.キングはモダン・ブルーズの中心ブルーズマンで精力的にツアーも行い、全盛期には1年に300日ツアーライヴをやるというものすごさでした。メンフィスからやがて全米で知られる有名ブルーズマンへとまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで50年代を駆け抜けながら、自らの演奏スタイルと自分のショーのスタイルを完成させていきます。その完成されたB.B.キングの音を閉じ込めたのがこれから聴いてもらうライヴ・アルバム”Live At The Regal”
女性ファンたちの嬌声が飛ぶ中、ムンムンとした会場の熱気が感じられます。それに応えるB.Bとバンドの完成度の高い演奏はブルーズの頂点に立ったプライドさえ感じさせます。このアルバムがリリースされた64年あたりは次第にヒット曲が少なくなっていくB.B.ですが、ライヴパフォーマンスとしてはトップに立ちます。演奏曲目はほとんど50年代の自分のヒット曲で、最初に聴いてもらう曲も1954年のヒットですがまだ充分に聴衆に通用するパワーを持っていました。1964年B.B.キングのライヴです
1.You Upset Me/B.B.King

次の曲はB.B.が終生歌いつづけた曲です。「オレには可愛い天使がいてね。彼女が羽根を広げる姿がもう大好きなんよ。オレが5セントくれよというと20ドルもくれる。もし、彼女が別れるって言ったらオレは死んでしまうよ」
バディ・ガイなどカバーするも多い、間違いなくブルーズ・スタンダードの一曲でしょう。
2.Sweet Little Angel/B.B.King
バンドとB.B.が一体化した見事なライヴ・パフォーマンスです。このアルバム”Live At The Regal”はブルーズの名盤でもあり、是非一枚まるごと聴いてもらいたいです。1964年のシカゴのリーガル劇場でのライヴです。B.B.のバンドのメンバーもドラムのソニー・フリーマンを中心に強力な結束力でグルーヴしています。B.B.の歌とギターも完全に出来上り、エンターテイメントとしてのショーのスタイルも完成しています。
B.B.には他にもスタンダードな名曲があるのですが、B.B.だけで30分すぐ終わってしまうのでまたの機会に紹介します。

B.B.キングは50年代にメンフィスで頭角を表したブルーズマンですが、当時のメンフィスには優れたブルーズマンがたくさんいました。その中でも次のボビー・ブランドはB.B.と共にその後ずっとモダンブルーズの大きな看板を背負った人でした。ボビー・ブランドはボビー・ブルー・ブランドと呼ばれることもあります。
ただB.B.と違うところは、B.B.は70年代初めから白人のマーケットも意識しながらの活動に移っていきましたが、ボビー・ブランドは黒人マーケットでの絶大な支持をバックに黒人サークルで歌いつづけました。日本にも78年に初来日して黒人クラブでやるライヴをそのまま体験させてくれましたが、B.B.がギターを弾くブルーズマンに対してブランドは歌だけのブルーズマンということでブルーズにおける歌の重要性ということがわかるステージでもありました。
60年代中頃から主にイギリスのロック・ミュージシャンたちで始まったブルーズロックの流行がありました。インプロビゼーション(即興演奏)と称して演奏される長いギターソロが白人の間でウケ始め、そうすることで白人聴衆に人気が出るというやり方が黒人に定着していきます。そして、黒人以外の聴衆を相手にブルーズを演奏する時にはギターをたくさん弾かなければウケないといういびつなブルーズ蔓延していまに至っています。
フレディ・キングやアルバート・キングが白人の聴衆にウケたのもそのギターの力が大きかったのは間違いないです。だから黒人ブルーズギタリストたちは白人聴衆を前に演奏するようになってからギターソロが長くなりました。それは元々ヴォーカル・ミュージックであるブルーズということを考えるとやはり歪んだブルーズのスタイルです。
そういう流れの中でボビー・ブランドは別格のブルーズシンガーであることにブルーズを聴き進むとわかってきます。
では、ギターを弾かないスタンダップ・シンガーであるボビー・ブランドが遺した極上のブルーズを聴いてください。
「オレの生き方につべこべ言うような女はいらない、嫁はんもいらんよ」1957年リリース
3.I Don’t Want No Woman/Bobby “Blue” Bland
素晴らしいギターはテキサスの名ギタリスト、クラレンス・ハラマン。いまの曲はシカゴ・ブルーズのマジック・サムのバージョンで好きな方もいると思いますが、サムはこのボビー・ブランドをカバーしたものです。

次の曲はタイトルを訳すと「バカを哀れむ」ですが、バカは自分のことです。たぶん悪い女性に熱を上げて、結果だまされていて周りの人たちに「あいつアホやなぁ」と笑われているのもわかっている。ほんまにアホな自分を哀れむわという内容です。
4.I Pity The Fool/Bobby “Blue” Bland
これも1961年にチャート1位になりました。ギターはずっとブランドの右腕として活躍したウエイン・ベネット、ドラムはこのあとジェイムズ・ブラウンのメンバーになるジョン・ジャボ・スタークス 
ブランドのこういう後世に残っているブルーズスタンダードはデューク・ピーコック・レコードという会社からリリースされていましたが、そこには優れたアレンジャーや腕の立つレコーディング・ミュージシャンが揃って楽器を弾かない、歌だけのボビー・ブランドをしっかりサポートしました。
僕はいまの”I Pity The Fool”を自分のバンド”blues.the-butcher-590213″のアルバム”3 O’clock Blues”でカバーしたのですが、ボビー・ブランドの曲を録音できたことは本当に自分の生涯の誇りです。
次の曲はブランドの声の良さが堪能できるブルーズ・バラードの名作です。
5.Two Steps From The Blues/Bobby “Blue” Bland

50年代、ビールストリートというメンフィスの夜の街で「ビールストリーターズ」と呼ばれたブルーズ歌手たちがいました。B.B.キング、ボビー・ブルー・ブランド、ジュニア・パーカー、ジョニー・エース、ロスコー・ゴードンといった歌手たちでした。若い彼らは互いにしのぎを削り頂点を目指して切磋琢磨していました。それぞれに個性があり才能がありヒット曲もありました。その時代にたくさんのブルーズ・スタンダードの名曲が録音されました。また今日の続き、まだまだあるモダンブルーズのスタンダード曲集をやります!
今日はまずB.B.KingのYou Upset Me、Sweet Little Angelとボビー・ブルー・ブランドのI Don’t Want No Woman.とI Pity The FoolそしてTwo Steps From The Bluesをお送りしました。