2021.11.05 ON AIR

私が選んだブルース名唱15曲 その1

【BSR Playlist Archives】第3回 永井ホトケ隆
(https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/)

ON AIR LIST
1.Moanin’ At The Midnight / Howlin’ Wolf ( 1951 CHESS )
2.Rollin’ Stone / Muddy Waters (!950 CHESS )
3.Cross My Heart / Sonny Boy Williamson ( 1957 Chess/Checker )
4.Mojo Hand / Lightin’ Hopkins (1961 FIRE )

私がエッセイを連載している「ブルース&ソウルレコーズ」という日本で唯一のブルーズとソウル、ゴスペルの音楽雑誌のWEB版(https://bsrmag.com)というのがあります。
だれでも見れます。実はそのWEBに私が選んだ「ブルース名唱15撰」というのが発表されています(https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/)
歌を中心としたブルーズの素晴らしい曲を15曲選んだものです。そのサイトに行くとSpotifyで登録すれば曲が聴けるようになっているのでぜひ一度訪ねてみてください。
それで今日はその選んだ15曲の一部を紹介したいと思います。
まずそのサイトに私はこんな文を載せました。
「ブルース名唱15撰」       
昔、某音楽学校からブルース・ヴォーカル教室をやってくれないかという依頼を受けたことがある。すぐさま丁重にお断りした。ブルースの歌は教えるようなものではないし、教えられない。歌声が何オクターブ出るとか音域が広いとか発声がどうのとか歌唱テクニックが云々という音楽的な規範がブルースには全くない。だから今回挙げた15曲も私が個人的にこれぞブルースと感じる歌であり、一般的な「名唱」と言えるかどうかはわからない。
15人の偉大なブルースマンは声質も違えば歌い方も様々だ。泥臭い歌から洗練された歌、ゴスペルの影響が感じられる歌もあればダウンホームな歌もあり、語るように歌うものもあり地声に魅力がある歌もある。そのひとつひとつの曲にそれぞれのブルースマンの人間性や人生観を感じることもあり、歌った時の心象風景が浮かんだり、その時の社会状況を知ることもある。そしてもちろんダンス・ミュージックでもあるブルースのグルーヴに心と体を揺らす楽しさもある。長い歳月歌われ続け、聞き続けられて来たブルースをこれからもずっと楽しんでください」

ハウリン・ウルフを初めて聞いた時はいわゆる日本でいう「ダミ声」のような歌声が印象に残り、いいとか悪いよりもとにかくインパクトがすごい声だなぁと感じた。その大きな潰した声はハウリン・ウルフが憧れてギターや歌を教えてもらったチャーリー・パットンがそういう歌い方でその後パットンを聞いてなるほどと思った。きっちり言えば「歌唱法の伝承」ということでしようか。バンドのサウンドも同じチェスのマディ・ウォーターズと比べるとラフで土着的な感じで、それはウルフがシカゴにくる前にいたウエスト・メンフィスのブルーズがそういう荒々しいブルーズなんですね。選んだ”Moanin’ At The Midnight”は「真夜中に唸る」ということですが、実際モーン(唸り)から歌が始まります。南部の匂いがプンプンするアーシーなワン・コード・ブルーズです。「誰かが俺のドアをノックする。心配だ。俺は行くところもない」
1.Moanin’ At The Midnight / Howlin’ Wolf ( 1951 CHESS )
この歌を聞いた時、アメリカの広い荒野に乾いた風が吹いていて砂埃が舞って、月が煌々と照っている所に狼や鳥の鳴き声が聞こえてくる・・そんな寂しい風景を思い浮かべました。

ブルーズの名門レコード会社のひとつシカゴのチェスレコードは映画「キャデラック・レコード」のモデルにもなった有名な会社です。ブルーズだけでなくR&B,ソウル、ゴスペルと幅広く黒人音楽を提供したレーベルですが、ブルーズ部門の大看板が今聞いてもらったハウリン・ウルフと次のマディ・ウォーターズです。マディはベーシストでありプロデューサーでもありソングライターでもあったウィリー・ディクソンが作った曲とディレクションによって多くのヒット曲を出しました。私が選んだのはそれ以前のマディの録音初期、1950年の曲”Rollin’ Stone”この曲がマディのチェスからのデビュー曲。ご存知の方も多いと思いますがロックバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」のバンド名はこの曲からつけられました。
歌詞はWell, I wish I was a catfish,swimmin in a deep blue seaと始まる歌詞で「もし、俺がナマズだったら深く青い海を泳いで」I would have all you good lookin women,fishin, fishin after me「きれいな女たちをどんどん釣り上げるやろな」と、女性にモテる自慢で始まり、3番の歌詞でWell, my mother told my father, just before I was born,I got a boy child’s comin,he’s gonna be, he’s gonna be a rollin stone「俺が生まれてくる前にお袋が親父に男の子が生まれるだろうけどこの子は転がる石になりそう(つまり落ち着かない不良になりそう)と言ったのさ」
2.Rollin’ Stone / Muddy Waters (!950 CHESS )
実はこのRollin’ Stoneには20年代にジム・ジャクソンというブルーズマンが歌った”Kansas City Blues”という元歌があり、そこから歌詞が取られていてそしてこのRollin’ Stoneはのちにウィリー・ディクソンが作ってマディに歌わせた”Hoochie Coochie Man”の元にもなっています。マディの声がまだ若いですがふくよかで色気があります。この時マディは35才。マディの弾き語りで彼の故郷ミシシッピのブルーズの匂いがします。歌声もいいのですがギターのリズムがしっかりしているのもマディの素晴らしいところで、デビュー前にハウスパーティなどで引っ張りダコだったというのもこのリズムの良さがあったからだと思います。
ウルフ、マディ、と来て次も同じチェスレコードのサニーボーイ・ウィリアムスン。
私はブルーズを聴き始めた20才くらいの頃、最初によく聞いたのがこういう50年代のシカゴ・ブルーズだったのです。まあ、その前に聴いていたブルーズ・ロックとの関連が深いということもあったのですが、なんか次のサニーボーイなどを聞くとロックが子供の音楽に思えました。何か奥深い、何か得体の知れないものが、人間の本質みたいなものがブルーズ隠されているのではないか・・・と感じたわけです。特にこのサニーボーイの”Cross My Heart”は歌うというより、語るようにというか訴えかけるようなヴォーカルで「これはなんなんや」「この切羽詰まったような歌は・・」とすごく惹かれました。私はブルーズの歌を選んで欲しいと言われると必ずこの曲を出します。
3.Cross My Heart / Sonny Boy Williamson ( 1957 Chess/Checker )
この曲のサニーボーイの歌を支えているのがギターのロバートJr.ロックウッドとルーサー・タッカー、そしてウィリーディクソ(B),フレッド・ビロウ(Dr)と50年代シカゴ・ブルーズの鉄壁のメンバーです。

今のサニーボーイと同じで私にとってはブルーズという音楽の本質と時代を超えた格好良さを教えてくれたライトニン・ホプキンス。「ルイジアナに行ってモジョ・ハンドを手に入れるんだ」と始まるこのMojo Handはいかにもギャブラーをやっていたライトニンらしい、アウトローな彼の人柄がやはり歌に出てるんですね。ああこの人堅気やないなとわかる。
4.Mojo Hand / Lightin’ Hopkins (1961 FIRE )

今日聞いた4人ともすごく個性的な声と歌い方でそれぞれに魅力があリます。やはり歌にはその人の人柄、性格とか出てくるんですね。今日の4人の中ではマディ・ウォーターズがいちばんかっちりしてて彼の真面目さと別な言い方すると細かい、スクウェアなところがあるように思います。
ウルフは自分の売りをよく知ってる感じで、決して器用ではないのでその声のインパクトとパワーで押しながら時折繊細さも聞かせる人です。
サニーボーイは何も気にしていないゴーイング・マイ・ウェイなスタイルで、でも歌っている内容とその声が物事の本質を俺は知ってるという不気味な深さがあります。
ライトニンの歌はストレートでさっき言ったようにどこかアウトローな感じがあり惹かれるものがあります。
是非「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEBを訪ねてください。アドレスはこちらです→https://bsrmag.com 最初の見出しのページの下の方にぼくの写真が出ているのでそこをクリックしてください。