2024.01.05 ON AIR

「ブギ・ウギ」vol.4

日本のブギの女王、笠置シズ子

ON AIR LIST
1.東京ブギウギ/笠置シヅ子
2.買物ブギー/笠置シヅ子
3.ジャングル・ブギー/笠置シヅ子
4.たよりにしてまっせ/笠置シヅ子
5.Beat Me Daddy, Eight To The Bar/The Andrews Sisters

明けましておめでとうございます。
去年から連続特集しているブギウギの4回目。
NHKの朝ドラ、皆さんご覧になっていますか。ドラマのタイトルが「ブギウギ」そして主人公のモデルが戦後「日本のブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子さんという音楽に関するドラマでもあり、僕は初回からずっと観ています。黒人のブルーズから生まれたスイングやブギはじめアメリカの音楽がどんな風に日本に入って影響を受けたのかということには興味がありますが、基本フィクションですからそこの音楽的な深堀りはドラマにはあまりありません。ドラマで描かれているのが第二次世界大戦の前後で、中心になるのが笠置さんが国民的スターとして売れた1940年代から50年代。第二次世界大戦が終わったのが1945年。先週ON AIRしたルイ・ジョーダンの”Choo-Choo Ch’ Boogie”が大ヒットしたのがその翌年46年。戦争に勝ったこともありR&Bチャート1位を18週間続けてキープしたブギでアメリカは踊りはしゃいでいたのでしょう。そして翌年1947年に日本でブギと名のつくこの曲が大ヒットしました。

1.東京ブギウギ/笠置シヅ子

戦争に勝ったアメリカもブギで揺れましたが、負けた日本もブギのこの曲でみんなが元気になったわけです。しかし、同じブギという言葉を使っていても音楽的には違ったテイストだとブルーズから生まれたブギウギを知っている方は感じるでしょう。
東京ブギウギの作詞は鈴木勝さんという方で作曲が服部良一さん。服部良一さんは日本のポップス史上とても重要な方です。元々ジャズ畑ですがクラシックの勉強もされていて幅広く作曲、アレンジができるだけでなくシャンソンなど当時の外国の音楽に精通されていました。服部さんはファンキーでパワフルな歌手、笠置シズ子さんに感動して笠置さんにたくさんの曲を書かれましたが、ブギと曲名がついていても黒人音楽のブギをそのまま持ってきたのではなくもちろん日本語ですし、日本風にうまくアレンジされた曲調になっています。それはその前に服部さんが作られ大ヒットとなった淡谷のり子さんの「別れのブルース」も黒人音楽のブルーズのダイレクトな取り込みではなくブルースの持つ憂鬱な、グルーミーなサウンドやテイストを取り入れているだけでビートやメロディは日本風です。つまりアメリカの音楽の日本風取り込みに成功した曲です。
特に笠置さんに提供した一連のブギの曲はそれまで日本になかったファンキーなテイストにあふれています。それまでの日本の大衆音楽はセンチメンタルで哀愁や悲しみを表現したものが大半でしたが、服部さんはパワーと笑い、そしてダンサブルであることに力を入れました。
しかし、ブルーズについてもブギ・ウギに関しても黒人音楽とはやはり一線を引いて聴くべきものだと感じます。
次の買い物ブギなんかはルイ・ショーダンの歌詞がノベルティなのをなんとか日本語でノベルティにできないかと工夫されたのではないかと思います。特に大阪弁を使ったところが素晴らしい発想で大阪弁のファンキーなテイストがこの曲の大切なポイントになっています。1950年リリース。当時45万枚の大ヒット。作曲服部良一、作詞は服部さんの作詞家としてのペンネーム村雨まさをになっています。

2.買物ブギー/笠置シヅ子

笠置さんは四国生まれの大阪育ち、作詞作曲の服部さんも大阪生まれというところでこういう歌詞と歌が生まれたわけですが、作曲も含めて本当に見事なポップ・ソングだと思います。
次の曲は日本映画の名監督黒澤明さんの映画「酔いどれ天使」の中で出演した笠置さんによって歌われました。驚くのは作詞したのが監督の黒澤さんということです。この映画はを私も何度か見ていますが、戦後の日本のどさくさの闇市の中で生き抜こうとする日本人の姿を描いています。1948年リリース。

3.ジャングル・ブギー/笠置シヅ子

リズムは4ビートシャッフル的で歌詞の合いの手なんかは日本的でホーンアレンジの不穏な感じといいすごいムードの曲です。そして笠置さんのリズムのいいパワフルな歌も素晴らしです。
次は1956年、戦争終わって約10年すぎると笠置さんのブギのブームも終わりに向かいます。そしてラテンのリズムを使ったファンキーな曲を服部さんは作ってます。
この関西弁をラテンのリズムに載せるという作曲方法が素晴らしくて、実によく考えられているのに驚きます。僕も小学校へ上がる頃で家にまだテレビはなかったですが、ラジオから流れてくるこの面白い(当時は変な曲やと思ってました)をよく聞いてました。

4.たよりにしてまっせ/笠置シヅ子

バンド上手いです。笠置さんの語るようなグルーヴ感のある歌が見事です。
今回、ブギの特集ということでいろいろ聞いて来ましたが、服部さんの作られたブギとタイトルにつく曲はストレートに黒人音楽のブギを全面的に入れたのではなく、ブギの持つリズムの高揚感とかダンサブルなところをそしてファンキーなテイストを取り入れてます。日本語なのでメロディは日本的です。多分黒人のブギではなく、黒人のブギを取り入れた白人のブギ、例えばアンドリュー・シスターズあたりから吸収したもので、黒人のR&B的なテイストは少ないように思います。
そのアンドリュー・シスターズ。1940年リリース。

5.Beat Me Daddy, Eight To The Bar/The Andrews Sisters

服部さんはジャズ・ミュージシャンでしたから黒人のモロのブギウギではなくてこういう白人ジャズの中のブギやスイングをよく参考にされたのではと思います。やはり日本に適応するブギという事で工夫されたのだと思います。笠置しづ子という傑出した歌手を見つけ自分が思い描くアメリカ音楽の導入をされてそれを日本風にアレンジされヒットを連発した作曲家服部良一さんの残した功績は偉大です。約10年で笠置さんの時代は終わっていくのですが、笠置さんのモノマネ登場したまだ少女だった美空ひばりさんがその後の時代の女王となりました。
黒人ブギのリズムは40年代の終わりから特にルイ・ジョーダンの大きな影響でR&BとR&Rの流れに取り込まれていきます。それは今も続いていてブギはジョン・バティーストの音楽の中にも生きているし、いろんなロックの曲の中にも生きています。ブルーズを演奏する者にとっては必ず身につけなければいけないビートの一つが黒人音楽のブギです。
次回は50年代以降の黒人音楽の中のブギ・ウギの変遷の話をしましよう。