2024.05.10 ON AIR

The Birth Of Boogie Boogie/ブギ・ウギの誕生(P-Vine PCD-25379)

ON AIR LIST
1.Pine Top’s Boogie Woogie(Take1)/Pine Top Smith
2.Yancey Limited/Jimmy Yancey
3.The Dirty Dozen/Speckled Red
4.I Don’t Know /Cripple Clarence Lofton
5.Boogie Woogie Prayer/The Boogie Woogie Trio

ある日、P-Vine レコードから今日ON AIRする「ブギ・ウギの誕生」のアルバムが送られて来た。それでP-Vine レコードのディレクターのAさんにお礼のメールをしたところ、去年NHKの朝ドラの「ブギ・ウギ」が評判になっている頃にAさんに「ブギ・ウギ・ピアノ」のコンピレーション・アルバムを出したらどうですか?と提案したのはこの私だったことがわかった。そう言えば飲んでる席でAさんにそんなことを言ったのをすっかり忘れていた。ブギウギが話題になっていたので日本盤で解説や歌詞が付いたアルバムをリリースしたらブギ・ウギをより知ってもらえると思ったからだ。そしてこのアルバムの選曲と解説をしているのが今年1月28日に亡くなったミュージシャンであり音楽ライターでもあった小出斉君だ。このアルバムが彼のライターとしての最後の仕事となった。
では、小出君の解説に沿ってこのアルバムを今日は聞きます。去年から今年にかけてこの番組でもブギ・ウギ・ピアノの特集を数回に分けてやって来たので今日は以前と曲が被らないように選曲したいのですが、ブギウギが広く知られるきっかけとなったこの曲はもう1度聞いてください。

1.Pine Top’s Boogie Woogie(Take1)/Pine Top Smith

1928年に録音されたパイントップ・スミスのこの曲がブギウギと名前がつけられた最初の曲で、これがヒットしたことで最初のブギウギ・ブームが始まりました。小出君の解説にも書かれていますが、歌詞に「ぼくの言う通りに踊って欲しいんだ。ストップと言ったら止まって踊るときにはブギウギと声をかけるから」と言う歌詞でもわかるようにブギウギは新しいダンス・ミュージックだったんです。
ブギウギの流行によってピアニストたちの演奏の技にも磨きがかかり、いろんなタイプのブギウギの曲が生まれていくのですが、次はピアノ演奏のスピード感が素晴らしく崩れないリズムのグルーヴ、特に左手で見事にキープされたリズムには息を呑みます。
1939年録音のジミー・ヤンシーのピアノ・インスト曲

2.Yancey Limited/Jimmy Yancey

次のスペックルド・レッドは「バレルハウス・ピアニスト」と呼ばれ、20年代から30年代にいろんな街を放浪しながらバレルハウスと呼ばれる酒場で夜な夜なピアノを弾いて生活した人です。大きな街であれば酒場にピアノがあり放浪のブルース・ピアニストとして金を稼ぐことができたという当時の酒場でのピアノの普及率に驚きます。改めて言いますがエレキ・ギターが普及する前、ブルーズはピアノの時代だったのです。日本だといまだにライヴハウスにピアノがないところが多いです。
曲名のダーティ・ダズンというのは子供が相手の子供のお母さんを茶化して言う遊びで、ぼくが子供の頃に「オマエの母さんデベソ」とか言い合ってたのと同じです。

3.The Dirty Dozen/Speckled Red

今のは1929年の録音でしたが、次のクリップル・クラレンス・ロフトンの曲はその約10年後の1939年頃の録音です。
ブギ・ウギ・ピアノのブームは意外と長く続きブルーズのスタンダードな音楽形式の一つとなり、そこからジャンプ・ブルーズやギターによるブギ、そしてロックンロールへと繋がっていきました。
ではクリップル・クラレンス・ロフトンのヒット曲。

4.I Don’t Know /Cripple Clarence Lofton

ちなみにクリップル・クラレンス・ロフトンのクリップルというのは手足が不自由なことでクラレンス・ロフトンも生まれながらにして片足が不自由だったそうです。

ブギ・ウギ・ピアノの魅力を広く白人たちにも知らしめたのが1938年にNYのカーネギーホールで催された「フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スイング」というコンサートで、この番組でも以前そのライヴアルバムをONAIRしました。そこに登場した名ピアニストの3人が、ピート・ジョンソン、アルバート・アモンズ、ミード・ルクス・ルイス。その3人がピアノ3台で繰り広げたブギウギの素晴らしさがブギウギをよりボビュラーなものにしました。では「ブギウギ・トリオ」と名付けられた3人による演奏です。

5.Boogie Woogie Prayer/The Boogie Woogie Trio

今日聞いた「ブギ・ウギの誕生」は4/10にP-Vineレコードからリリースされています。選曲も解説も充実しているので是非ゲットしてください。
解説の最後に2023年12月29日という日付があり小出君は亡くなるちょうど1ヶ月前にこの原稿を書き上げている。かってブルーヘヴンというバンドで共に活動した小出君の最後の仕事にこのアルバムのリリースを提案した私が少し関われてよかったと思う。小出君のご冥福を祈ります。永井ホトケ隆でした。