新しいレーベル”ボス・カード”からの最初のリリースはむせ返るような濃厚ブルーズ10インチ
Spider In My Stew/Buster Benton (Boss Card BS10-02)
![](https://blues-power.jp/hp2/wp-content/uploads/20240621_img01.jpg)
ON AIR LIST
1.Spider In My Stew/Buster Benton
2.The Foot Ball/Buster Benton
3.This Is Th Reason/Buster Benton
4.Dangerous Woman/Buster Benton
5.Good To The Last Drop/Buster Benton
5月29日にボス・カードという新しいレーベルからアナログ10インチ6曲入りでリリースされたのが、今日紹介するシカゴのブルーズマン、バスター・ベントンのアルバム『Spider In My Stew』
このアナログ10インチレコードですが持ってみると重いんですよ。重いレコードは音がいいと言いますがその通りの分厚い音です。
まずバスター・ベントンを紹介すると1932年にアーカンソー州生まれ、1996年に亡くなっています。享年64才です。59年頃にアーカンソーからシカゴに出てきて。60年代にシカゴでバンドを結成してローカルのマイナー・レーベルでレコーデングをし始めましたが、これと言ったヒットもないまま70年になってしまいます。その売れなかった時代はしばらく自動車の整備工として働いていたこともあるそうです。それが1971年に「ウィリー・ディクソン・ブルーズ・オールスターズ」に参加し、そのバンドをバックにウィリー・ディクソンのプロデュースで録音したのが今から聞いてもらう1973年録音の『Spider In My Stew』
「シチューの中に蜘蛛が入ってる。俺はなんて不幸なんだ。俺はお前のことを信じているのにベイビーなにが起こったんだ。誰が俺のシチューに蜘蛛を入れたのか。ベイビーなんかおかしいな。飲み物を飲むのも怖いし、何か一口食べるのも怖い。女たちが怖くて夜も眠れやしない」
1.Spider In My Stew/Buster Benton
いやすごいブルーズです。もう熱々でシチューが煮えたぎってる感じです。でも、そこに蜘蛛が入ってる。誰が入れたんやろと疑心暗鬼になり最初は嫁さんかなと思ったんですが、最後の歌詞のGot me scared of all my women, I can’t even sleep at night(女たちが怖くて夜も眠れやしない)というくだりで他にも女おるんやんかということがわかります。
この曲がリリースされた73年頃はあまりブルーズ・シーン全体がパッとしない時期でしたが、この曲はリアルな、パワフルなブルーズとしてすごく評判になりました。
バックがハーモニカにキャリー・ベル、ギターはマイティ・ジョー・ヤング、ピアノにラファエット・リーク、ドラムにビリー・ダヴェンポートと当時のシカゴの精鋭たちです。
次はファンク・テイストの語りの入ったダンスナンバーです。
2.The Foot Ball/Buster Benton
今回このアナログ10インチのアルバムを紹介している理由のひとつはめちゃ音がいいからです。じつは昔リリースされた同じ曲のLP盤を持ってるのですが比べものにならないほど今回の10インチは音が分厚いです。ただ10インチなので全部で6曲です。でもブルーズという音楽が持つ猥雑さとかの生活の匂いやストリートの匂いが音から漂ってくる感じがします。まあ、今日聞いてもらってるのはON AIRするために私がアナログからデジタルに落としているのでそのあたりの音のリアルさは是非アルバムをゲットして感じてもらいたいです。次はバスター・ベントンの歌手としての良さが出ている曲です。こういうソウル・バラードも歌える歌手です。
3.This Is Th Reason/Buster Benton
次は再びヘヴィ・ブルーズです。ベントンの歌を中心としてバンド全体のサウンドとグルーヴがこれぞブルーズという感じで迫ってきます。ぜひ大きな音で聞いてください。歌のバックでオブリガードのギターを弾いているのはマイティ・ジョー・ヤング。そう、マジック・サムの録音にも参加しているギターの名手です。やはりすごく存在感あります。バスター・ベントンまだ41才当時、シカゴ・ブルーズの中堅ブルーズマンとしてまだまだ上を狙っていたんでしょう。
4.Dangerous Woman/Buster Benton
キャリー・ベルのハーモニカがいいいですね。
糖尿病を患っていたベントンは1993年に病氣のため右足を切断するという不幸に見舞われましたが、実はその10年前にもう片方の足の一部を失ってました。満身創痍な状態でしたが、死ぬまでブルーズの演奏はやめませんでした。
決してビッグネームのブルーズマンではなかったけれど、今聞いてもブルーズにとって大切なリアル感が彼の歌にはあります。
5.Good To The Last Drop/Buster Benton
実は今回このボス・カードというレーベルを立ち上げ、私が今ブルーズ・ザ・ブッチャーでアルバムをリリースしているP-Vine レコードの創始者である日暮泰文さんが5/30に亡くなられました。私は70年代最初からお付き合いがあり、そんなに頻繁にお会いしていたわけではないですが、日本にブルーズという音楽を紹介しブルーズという音楽が持つ意味を雑誌や書籍で表現されてきた大切な人でした。本当に残念です。日暮さんのご冥福をお祈りいたします。
来週はこのボス・レーベルの第二弾スライド・ギターの名人、アール・フッカーをON AIRします。