2024.11.01 ON AIR

ブルーズは歌だ!スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

ジェイムズ・ブラウンはじめ多くのシンガーに敬愛された稀代のシンガー、リトル・ウィリー・ジョン vol.2

ON AIR LIST
1.Let Them Talk/Little Willie John
2.Leave My Kitten Alone/Little Willie John
3.Leave My Kitten Alone/The Beatles
4.Sleep/Little Willie John/Little Willie John
5.I’m Stickin’ With You Baby/Little Willie John

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集は先週に引き続きリトル・ウィリー・ジョン。彼が活躍したのは50年代の中頃から60年代にかけてですから黒人音楽の主流はブルーズからR&Bへ、さらにソウル・ミュージックに移行していく時代です。曲調も色々なスタイルの曲が生まれリトル・ウィリー・ジョンにも様々な曲が提供されましたが、どれも難なく歌ってしまうところがすごいというか腹立ついうか・・(笑)。
今日の1曲目はリトル・ウィリー・ジョンを代表する曲で僕もいつか録音したい大好きな曲です。
歌詞の内容は「彼女とのことを悪く言いふらしてる奴らは言わせておけよと。どんなに君のことを愛しているか世界中の人に知ってもらいたいくらいだ。あいつらは俺たちの愛をぶち壊したいんだよ。でも、俺たちの愛はずっと続くんだよ・・・」と熱烈な愛の歌です。ウィリ・ジョンの強力な歌唱力にただただ感嘆するばかりです。

1.Let Them Talk/Little Willie John

この曲にはロバータ・フラックがテンポを落としてしっとりと歌い上げた素晴らしいカバー・バージョンもあります。

次の曲は1959年リリース。R&Bチャート13位。タイトルが”Leave My Kitten Alone”「オレのKitten(オレの子猫ちゃん)に手を出すなよ」という意味です。この曲のことを調べていたらビートルズがカバーしていることがわかりまして、そのアルバム僕持ってました。
この曲はビートルズが1964年にリリースした”Beatles For Sale”のためにレコーディングしたが長くお蔵入りになっていて94年に『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』に収録されました。”Beatles For Sale”はビートルズがたくさんカバーをやっているアルバムですが、しかしすごくメジャーな曲でもないこの曲をどうしてビートルズが知ったのか知りたいです。この曲を選んだビートルズの選曲のセンスの良さにも改めて感心します。どうもリード・ヴォーカルをとったジョン・レノンがこの曲を好きだったようです。ウィリー・ジョンのオリジナルの良さを壊さず、自分たちのテイストでカバーしてます。ジョン・レノンの素晴らしい歌唱が聞けます。ということでウィリー・ジョンとビートルズと両方聞いて見ましょうか。
最初にリトル・ウィリー・ジョン

2.Leave My Kitten Alone/Little Willie John

バックで「ミャ」っていうおもろい女性コーラスが入っているのはたぶん子猫の声を模したものだと思います。
次はそのミャは入ってないビートルズ・ヴァージョン。たぶんビートルズがデビューする前のハンブルグのクラブとかリバプールのキャバーン・クラブの下積み時代に何度もこの曲をやっていたんだと思います。

3.Leave My Kitten Alone/The Beatles

ビートルズもいいんですよね。リズムがすごくグルーヴしていて歌がしっかりしていてさすがビートルズです。

リトル・ウィリー・ジョンに戻ります。次の曲は1960年にR&Bチャート10位 Popチャート13位まで上がった曲です。
Sleepですからタイトルの意味は「眠る」
歌詞は「私たちは眠るのがめちゃ好き。一日の終わりにその日の喜びが消え去るとき、夢の中で日々の甘い思い出が繰り返される。眠っている間に眠ってる時に眠っている間に」

4.Sleep/Little Willie John

とてもPopなサウンド作りです。黒人音楽のヒット・チャートだけでなく白人のPopチャートにも13位まで上がった感じがわかります。ストリングスを入れたソフトなアレンジですがやはり白人層にも売れたいという制作側の気持ちがあったのでしょう。
歌が上手い人というのは逆に言うとなんでも歌えるのでいろんなプロデュースを受けやすく、ウィリー・ジョンもジャズやスタンダードにも手を出していますが、結局オリジナルのR&Bを歌った時にこそその本領を発揮しています。その辺はサム・クックなんかも同じでサムも先輩のナット・キング・コールを狙ったようなジャズ・アルバムを出しています。しかしキング・コールはもともとジャズ・フィールドのミュージシャンなので、ゴスペルからR&Bでスターになったサム・クックとは違います。サムももちろん歌が上手いのでクオリティはあるのですが、ジャズは「なんか違うなぁ」と言う感じがします。
やはりウィリー・ジョンもジャズ風味より次のようなJumpブルーズ風のR&Bの方が僕は好きです。

5.I’m Stickin’ With You Baby/Little Willie John

リトル・ウィリー・ジョンはもっとたくさんの人に知られてもいい優れたシンガーなのですが、同時代のサム・クックほど白人に受けずポピュラーにならなかったのですが、黒人ミュージシャンの中では偉大なシンガーとして認められています。そして海を渡ったイギリスのビートルズのように白人でも彼の歌の素晴らしさをわかっているミュージシャンもいたというのがなんとも嬉しいですね。
ウィリー・ジョンは喧嘩した相手をナイフで刺して殺してしまい、服役中の68年に刑務所で亡くなってしまいました。わずか30才でした。
スター・シンガーになるには歌唱力や曲の良さだけではなく、マネージメント側の売り出し方ビジネスのつながり、レコード会社のプロモーションの力、また本人のルックスや受ける印象などいろんな要素が必要です。しかし。歌だけで言えばウィリー・ジョンはとてつもない歌の才能と天性の資質があったシンガーでした。
今回の「スタンダップ・ブルーズ・シンガー」特集は不世出の名シンガー、リトル・ウィリー・ジョンでした。

 

2024.10.25 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第六回目

Little Willie John vol.1

ジェイムズ・ブラウンはじめ多くのシンガーに敬愛された稀代のシンガー、リトル・ウィリー・ジョン 

ON AIR LIST
1.All Around The World/Little Willie John
2.I Need You Love So Bad/Little Willie John
3.Talk To Me, Talk To Me/Little Willie John
4.Fever/Little Willie John
5.My Love-Is (Underdub Take 9)/Little Willie John

今回のスタンダップ・シンガーのシリーズでリトル・ウィリー・ジョンは特集しないのですかと言った人がいて「そや、このリトル・ウィリー・ジョンはやらなあかん」というくらいブルーズ、R&Bで大切なシンガーです。。
リトル・ウィリー・ジョンは50年代から60年代にかけて卓越した歌唱力を持ちヒットを連発したシンガーで私の中では同時代によりポピュラリティがあったサム・クックと同等の偉大なシンガーです。
彼の最初のヒット。1955年キング・レコードからのデビュー曲です。「オレがおまえを愛してないなんてことはモナリザが男だというくらいありえないことだ」要するにめちゃ愛してるという熱愛のブルーズ。R&Bチャート5位まで上がったヒット。

1.All Around The World/Little Willie John

ちょっとチリチリというノイズが聞こえるかも知れませんが、僕が持ってるアナログLPレコードからデジタルに変換してるのでノイズがありますが勘弁してください。
いや~めちゃ声出てますね。もう楽勝ですね。バックの演奏も素晴らしいです。これはキング・レコードのスタジオ・ミュージシャンたちです。
今の曲はブルーズのスタンダードとなって60年代にもリトル・ミルトンやルース・ブラウンにもカバー録音されています。
次の曲はこの前ジュニア・パーカーのアルバムからON AIRしましたが、オリジナルはこのリトル・ウィリー・ジョンです。
珠玉のブルーズバラード。

2.I Need You Love So Bad/Little Willie John

今のギターは多分ミッキー・ベイカーというキングレコードのスタジオ・ミュージシャンですが、この人がまたギター名人でバッキングもソロもめちゃ上手いし、センスもいいです。
次の曲は僕も昔録音して今もカバーして時々歌っていますが、これが初めて聴いたウィリー・ジョンの曲だったかも知れません。
「僕に話しかけてくれ、僕に話して、君が話してることを聞くのが大好きなんだ。君の甘く優しい話し方でね。前に聞いたことがある君が愛について話すところはいつもすごくい感じなんだ。僕が好きなそのところをもう一度話してくれよ」
最高です。

3.Talk To Me, Talk To Me/Little Willie John

同時代のスーパースター、サム・クックと実力的には同等の素晴らしいシンガーだと思います。もっともっと評価されていいシンガーです。
この曲を作った人を今回初めて知ったのですが、ジョー・セネカという黒人俳優で僕も観たことがある「クロスロード」という映画でウィリー・ブラウンンの役を演じていた役者。あの映画は確か音楽をライ・クーダーが担当していました。そのジョー・セネガさんがソングライターをやってた頃にこの曲を作ってたとは・・。僕もカバー録音させてもらったんですが、印税届きましたかね。

次は”Fever” リトル・ウィリー・ジョンの歌の中でいちばん有名な曲で、いまやブルーズでもR&Bでもジヤズでも取り上げられるスタンダードになっています。1956年R&Bチャートの1位。ペギー・リーのヴァージョンで知ってる方も多いと思いますが、ブルーズではバディ・ガイ、かのエルビス・プレスリーそしてマドンナもカバーしています。「どんなに貴女を愛しているか、どんなに貴女に恋い焦がれているか、貴女にキスされて抱きしめられると恋の熱(Fever)に浮かされてしまう」

4.Fever/Little Willie John

ようできた曲です。曲も歌詞も歌もアレンジもようできてます。
今のFeverはこのウィリー・ジョンがオリジナルシンガーです。ウィリー・ジョンは子供の頃、ジャズのデューク・エリントンの楽団で歌ったことがあったり、大人になってからもジャズ・オーケストラの専属歌手をやっていたこともある実力の持ち主ですが、やはり彼の本領はR&Bです。

ウィリー・ジョンが歌手として本当に素晴らしいということを証明するようなテイクを次の曲で聞いてください。ウッド・ベースとフィンガー・スナッピングだけで他の楽器は何もないけど、逆に彼の歌の上手さが浮き彫りになっている名唱だとぼくは思います。なんかあまりにも簡単に歌っているのでむずかしさを感じないのですが、これは相当難しいです。

5.My Love-Is (Underdub Take 9)/Little Willie John

リトル・ウィリー・ジョンは1937 年に生まれ68年に亡くなってますからわずか30年の人生だったんです。リトルと呼ばれてたのは背が低かったからなんですが、それでからかわれることも多くてしかも彼自身が短気な人で酒を飲んではよく喧嘩もしたそうです。それである日喧嘩相手をナイフで刺して殺してしまいムショ入りとなりました。結局その刑務所で肺炎で亡くなったそうなのですが、一説には肺炎ではなくて刑務官に暴行されたのでは・・とう説もあります。短気は損気といいますがなんか残念な人生です。あと歌手としてのプライドもあったと思います。亡くなった後にジェイムズ・ブラウンがトリビュート・アルバムも出してますし、アレサ・フランクリンも好きなシンガーでウィリー・ジョンの名前を出しています。来週もう一回リトル・ウィリー・ジョンの特集です。

2024.10.18 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第五回

Junior Parker vol.2

洗練とダウンホームの絶妙な味わいの名歌手ジュニア・パーカー

ON AIR LIST
1.Seven Days/Junior Parker
2.Stranger In My Home Town/Junior Parker
3.I Need You Love So Bad/Junior Parker
4.Look On Yonder Wall/Junior Parker
5.Way Back Home/Junior Parker

先週ON AIRしたジュニア・パーカーのデューク・レコード時代はモダン・ブルーズからアーバン・ブルーズと呼ばれ.
る時代に移行する頃でした。洗練された都会的なサウンドをバックにパーカーの歌が冴え渡っていました。
実はジュニア・パーカーは1932年に生まれ1971年に39才で亡くなっています。若いですね。脳腫瘍の手術中になくなってしまったらしいです。70年代の最初はちょうど私がブルーズにハマりかけた頃なので、もう少し生きていてくれたら彼のライヴを見ることが出来たかもしれません。聴きたかったですね、彼のパワフルだけど柔らかい歌声。
今日は先週の続きで彼のデューク・レコード時代のノリノリの曲で始めたいと思います。

1.Seven Days/Junior Parker

ジュニア・パーカーはもちろん歌すごいんですが、バックのデュークレコードのスタジオ・ミュージシャンたちがみんな上手くてすごいグルーヴです。
10年間くらい在籍したそのデューク・レコードを66年に辞めた後はいろんなレコード会社で録音を続けましたが、大きなヒットは得られませんでした。でも、与えられたサウンドの中で彼はいつもレベルの高い歌を歌い続けました。
71年に彼が亡くなった一年後1972年にアルバムがリリースされました。”I Tell Stories Sad and True, I Sing the Blues and Play Harmonica Too, It Is Very Funky”という長いアルバム・タイトルなのですが、滑らかな洗練された歌声の中にブルーズ本来のダウンホームさが残っていて、彼の吹くハーモニカも師と仰いだサニーボーイ・ウィリアムスン直系のこれもダウンホームなテイスト。パーカーのハーモニカはバックにホーン・セクションが入っていてもうまくミックスされているのでいつもなんでかな・・と思っていたのですが、彼のハーモニカ・プレイには無駄な音がなくて吹きまくらないからです。
ギターを弾かないシンガーのブルーズマンのアルバムはギターがないので興味がないというアホな方がいますが、このアルバムでギターを弾いているのは「モダン・ブルーズ・ギターの父」と呼ばれたかのT.ボーン・ウォーカーが絶賛したギター名人ウエイン・ベネットです。そのベネットのセンスのいいソロも聞ける次の曲。

2.Stranger In My Home Town/Junior Parker

ベースとドラムの作っているグルーヴが本当に気持ちよくてかっこいい。そして吹きまくるばかりがハーモニカではない。ジュニア・パーカーのハーモニカがい味出しています。

1971年ジュニア・パーカーが亡くなったその年にリリースされた“You Don’t Have To Be Black To Love The Blues”(ブルーズを愛するのに黒人である必要はない)と題されたアルバムがあります。東洋系の男の子が大きなスイカを食べようとしているジャケ写真が記憶に残るので僕らの間では「あのスイカのアルバム」と呼んでました。
このアルバムが実にいいアルバム。71年というとブルーズの時代は過ぎブラック・ミュージックの流れはニュー・ソウルと呼ばれた時代で、ダニー・ハサウェイ、ロバータ・フラックなどがデビューしマービン・ゲイやスティービー・ワンダーたちのメッセージのあるソウルが主流になっていく頃です。そんな中、ジュニア・パーカーが当時の売れっ子のスタジオ・ミュージシャンたちと残した1970年録音のブルーズ。それがこのアルバム“You Don’t Have To Be Black To Love The Blues”
ブルーズの歴史に残るブルーズ・バラードの名曲名唱。本当にステディな締まったリズムなんですが窮屈やないんですよ。何ひとつ無駄のない演奏、余計なことをしない演奏の中をジュニア・パーカーの柔らかい歌声が淡々と君のことがすごく必要なんだ。愛してるんだと歌いかけてきます。ギターのオブリガードの入り具合も絶妙。

3.I Need You Love So Bad/Junior Parker

このアルバムは当時のNYのスタジオ・ミュージシャンたちが参加してますが、クレジットがないので正確ではないかもですが、演奏を聴いてて間違いないのがドラムがバーナード・パーディ、ベースがチャック・レイニー、ギターはコーネル・デュプリー、ビリー・バトラー、エリック・ゲイルなど。だから70年初頭の最新の黒人サウンドなのです。パーカーが歌ってるのはトラッドなブルーズです。ブルーズ本来のダウンホームさもありながらめちゃ最新のアーバンなサウンドという面白いテイストになってます。
次の曲は61年のエルモア・ジェイムズはじめフレディ・キング、ジュニア・ウエルズなどたくさんのカバーがあります。

4.Look On Yonder Wall/Junior Parker

スタンダップ・シンガーの特集なのに最後はインスト曲です。というのもこの曲すごく好きだからです。作曲したのはクルセイダースのベーシスト、ウィルトン・フェルダー。タイトルはWay Back Homeですから「家に帰る途中」イントロを聴いていると夕暮れの中、家に帰っていく風景が浮かぶのですが、次第にドラムのバーナード・パーティのグルーヴが強くなって大騒ぎになり急ぎ足で家に帰ってるような感じになってますが笑えます。早く帰ってビールでも飲みたいんでしょうか・・。他のフルーズ・ハーモニカ・プレヤーにはないジュニア・パーカーの個性ある独特なハーモニカのテイストを味わってください。

5.Way Back Home/Junior Parker

このアルバム“You Don’t Have To Be Black To Love The Blues”を見つけたら絶対買い!です。子供がスイカ食べてるジャケットです。
来週は先ほど聴いてもらった珠玉のブルーズバラードI Need You Love So Badのオリジナルシンガーであり、多くの黒人シンガーに敬愛されたリトル・ウィリー・ジョンの登場です。まためちゃクチャ歌上手いシンガーです。

 

2024.10.11 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第四回

Junior Parker vol.1

名ブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーの栄光のデュークレコード時代

ON AIR LIST
1.Next Time You See Me/Little Junior Parker
2.That’s All Right/Little Junior Parker
3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker
4.Driving Wheel/Little Junior Parker
5.Sometimes/Little Junior Parker

昔、来日した名ギタリストのデヴィッド・T.ウォーカーがステージでジュニア・パーカーの”Next Time You See Me”を歌っていたのでステージが終わった楽屋で「あの曲はジュニア・パーカーですよね」と言ったニコッと笑って「君はジュニア・パーカー知ってるんか。彼は最高のブルーズ・シンガーや」と言ってました。
今日のスタンダップ・シンガーはその最高のブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーです。

ジュニアという言葉は年下だったり、息子という意味だったり、あるいは経験の浅い者に対してジュニアと呼ぶこともあリます。ジュニア・パーカーは本名ハーマン・パーカー。ジュニアと付いたのはサニーボーイ・ウィリアムスンが大好きでいつもサニーボーイにつきまとっていて息子みたいに見えたのでジュニアと呼ばれるようになったそうだ。
今回のスタンダップ・ブルーズ・シンガーのシリーズは楽器を演奏しないで歌だけで勝負するブルーズマンのことだが、ジュニア・パーカーはそのサニーボーイ・ウィリアムスンを師と仰いだハーモニカを吹く。でも、全曲でハーモニカを吹くわけではなくイメージとしてはやはり歌で勝負したヴォーカリスト、スタンダップ・ブルーズ・シンガー。
1950年代からメンフィスを中心に南部一帯でツアー・ライヴを続け、50年代半ばに契約したデューク・レコードからヒットを連発する。しっかりしたオーケストラ・アレンジをバックに歌うのは同じレーベルのスタンダップ・ブルーズ・シンガー、ボビー・ブランドと同じだった。
男っぽく少し武骨さも感じさせるブランドに比べてジュニア・パーカーの歌は滑らかでメロウだった。
まずは1957年のヒット
「次に君と会う時はも物事は同じやないよ。俺は昔のままではないで。もし君を傷つけたとしたらそれは君自身のせいや。ことわざにもあるように光り輝くものがすべて金ではないし、聖書にも書いてある通り自分で蒔いた種は自分で刈り取らんとあかんのや。君はずっと俺に嘘をついて騙してきたけど、別の女王が君がいた王座にいま座っている」別れるのはええけど次会う時はもう一緒やないんや。新しい女ができてるかもしれん・・・みたいな振られたときの捨て台詞か。

1.Next Time You See Me/Little Junior Parker

1932年の生まれだから同じ時代にメンフィスで活躍したボビー・ブランドの2つ下、B.B.キングの7才下、ジョニー・エースの3才下。またいちばん若いのですが、面白いのは彼らが作り上げた当時のモダンブルーズ以前のダウンホーム・ブルーズの感覚を彼がずっと持っていたことです。いわゆる南部のイナたいブルーズ感覚です。
例えばシカゴ・ダウンホーム・ブルーズのアイコンのひとりジミー・ロジャースのこんな曲を歌っています。1957年の録音です。ハーモニカはジュニア・パーカー本人、ギターはパット・ヘア、ドラムはのちにB.B.キングのバンドマスターになるソニー・フリーマン。

2.That’s All Right/Little Junior Parker

イントロのハーモニカが始まりそれにギターが絡んでいくところなんかはもうブルーズっという感じです。ゆったりとダウンホームでありながらどこかシカゴ・ブルーズとは違うモダンな感覚があります。とにかく歌がうまい。
次の曲はデュークレコードでスターになっていく最初の曲でジョン・リー・フッカーのワン・コード・ブギをベースにしたダウンホームな曲調と思いきやジュニア・パーカーのモダンな歌声が聞く者を圧倒する名曲です。このダウンホームとモダンという二つのテイストがミックスされているところが彼のミソです。

3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker

めちゃ声出てますね。
今の曲は10年以上経ってからシカゴのマジック・サムがアルバム”West Side Soul”に”I Feel So Good (I Wanna Boogie)”として録音。そのバージョンも素晴らしい。マジック・サムもジュニア・パーカーの唱法を研究した跡が感じられますが、とにかくパーカーは歌が上手い。声のストレートな出方、豊かな声量、独特なビブラート、リズムの良さ、そして何より気持ちが感じられます。
その素晴らしさがデュークレコードでどんどん開花していき名曲、名唱をたくさん残しました。

次の曲のタイトルのDriving Wheelは直訳すると車の駆動輪ということですが、歌の内容は惚れた彼女が夜遊びする女性なんですが惚れてるから彼女のために車の駆動輪みたいに必死で動いて働いている男の歌です。
I give her ev’rything she needs, I am her drivin’ wheelなんかやるせないです。早くから車社会だったアメリカならではのブルーズです。

4.Driving Wheel/Little Junior Parker

とにかく50年代に一斉を風靡したジュニア・パーカーはブルーズから次の時代のソウルも感じさせる歌の才能を持ちながらもダウンホームな感覚をずっと持っていた本当に個性あるシンガーでした。
ブルーズは歌が上手くなければダメという音楽ではないのですが、でもこういう洗練されたソウルフルな歌声がマジック・サムなどに引き継がれて次の時代のブルーズを作っていくパワーになっていたと思います。

5.Sometimes/Little Junior Parker

こういうスタンダップ・シンガーのアルバムはギターないからなぁとなんてアホなこと思ってる人いるかも知れませんが、いまの曲みたいに思っきりうまいギターが入ってます。ギタリストのアルバムではなくヴォーカリストのブルーズのアルバムなんですが、ギターは絶対入ってます。しかもそのレコード会社のスタジオ・ミュージシャンですからみんなめちゃ上手いんですよ。だからスタンダップ・シンガーのバックのギターをカバーした方がいいんではないかと思いますが・・・ギタリスト諸氏。
来週もジュニア・パーカー

 

2024.10.04 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第三回

Johnnie Taylor vol.2

ブルーズ&ソウル・シンガーとして黒人同胞に向かって歌い続けたジョニー・テイラー

ON AIR LIST
1.This Is Your Night/Johnnie Taylor
2.Lady, My Whole World Is You/Johnnie Taylor
3.Still Called The Blues/Johnnie Taylor
4.Crazy Over You/Johnnie Taylor

ジョニー・テイラーは1976年に当時のディスコ・ブームに乗って”Disco Lady”というメガヒットを出したのですが、基本はブルーズンソウル・シンガーですからディスコのブームが終わっても揺るがないものを持っていました。1984年には南部の「マラコ・レコード」と契約してブルーズンソウル・シンガーとしての本来の姿を再び見せてくれました。そのマラコ移籍第一弾のアルバム”This Is Your Night”からタイトル曲。不倫ソングから立ち位置を変えて黒人中年女性の心に寄り添う曲を歌い始めます。

1.This Is Your Night/Johnnie Taylor

「今夜スポットライトを浴びるのは君だよ。子供達はベビーシッターに任せておしゃれをして出かけよう。今夜は君のための夜だよ」と優しく語りかけるようなジョニー・テイラーの歌声に家庭を守り子育てをする黒人女性たちはうっとりしたことでしょう。オシャレな曲なんですが、どこかダウンホームな親しみやすさがある絶妙なさじ加減の曲は南部の名ソングライター、ジョージ・ジャクソンが書きました。
先週聴いた60年代の”Who’s Making’ Love”や”Jody’s Got Your Girl And Gone”あるいは”Part Time Love”のような不倫ソングからこういう中年女性の心に沁みる曲をジョニー・テイラーは歌い始めました。
ライヴには黒人中年女性がノリノリで時にうっとりした眼差しでステージのジョニー・テイラーを見つめ、そこ彼は次の曲のように「レイディ、私の世界の全ては君なんだよ」というとろけるようなラブ・バラードを歌います。ライヴ映像を見てるともちろんMy Whole World Is YouのYouで客席の女性を指差します。最高です。

2.Lady, My Whole World Is You/Johnnie Taylor

こう言うバラードを歌いながらもやはり、自分でブルーズン・ソウル・シンガーのブルーズは意識してたのかライヴではスタックス時代のブルーズの曲も結構歌っていました。
次の曲は”This Is Your Night”に収録された新しく作られたブルーズの曲でこれもライヴでよく歌っていました。タイトルは「ブルーズはまだあるんやで」
「お金があってもなんか問題はある。それを医者に行って解決しようとする。とにかくブルーズと呼ばれるものはまだあるんや。小さな子供には新しい靴、嫁はんには新しい服がいるやろ。とうちゃんはできる限り頑張っている。ほんでもな、ブルーズはまだあんねん。何をしても何を言うても気持ちが落ち込むこともある。悩みがもうすぐ終わると思たらまた始まって最初からやり直しや。土曜日はパーティで楽しくやって、日曜は教会へ行く。ほんで月曜はまたつまらん仕事や。どう考えてもまだブルーズはあるねん」最後の土曜は遊んで日曜は教会へ行って月曜は仕事や・・の歌詞は有名な「ストーミー・マンデー・ブルーズ」のに由来してる歌詞です。

3.Still Called The Blues/Johnnie Taylor

今回特集しているジョニー・テイラー、そして来週紹介するジュニア・バーカーと言った人たちはブルーズも歌うし、ソウルも歌う、時にジャズ・スタンダードも歌います。彼らはシンガーとして並外れた才能があるのでどんな曲でも歌えるわけです。例えばシカゴ・ブルーズの二大巨頭、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフがジャズ・スタンダードもやソウルを歌ってもいいアルバムにはならないだろうとみなさん思うでしょう。B.B.キングも結構いろんなタイプの曲を歌いましたが、やはりいちばん本領を発揮したのはモダン・ブルーズでした。それは原点や出発点がどこなのかということもあり、どの時代にどこで生きたのかということもありますが、やはり歌の表現の巧みさは不可欠です。
次はCrazy Over You「会った時からずっとずっとお前のこと思ってる。他の男と愛し合ってるんやないかとヤキモチも焼く。一晩中お前と話していたい。お前にずっと夢中やねん。ちょっと他の女とあったけど許してほしい。もう2度とあんなことはせえへんから。どうしょうもないねん、この気持ち。ずっとお前に夢中や」途中のちょっと浮気したことを謝ってるとこなんか面白いです。愛してると言いながらなんかやらかしてしまう・・そういう歌多いです。

4.Crazy Over You/Johnnie Taylor

こういうミディアム・テンポのゆったりグルーヴする曲もオールド・スクールのソウルならではで、ぼくは好きです。

ジョニー・テイラーのキャリアを振り返ってみると少年の頃に「ハイウェイQC’s」というゴスペルグループにいてその後サム・クックが抜けた後のソウル・スターラーズというゴスペルの名門グループに入ってます。そしてそのサム・クックが売れて自ら立ち上げた「サー・レコード」とうレーペルでデビューしサムが亡くなった後スタックス・レコードに移籍して60年代後半にヒットを出して花開いたわけです。ルーツは確固としたゴスペルとブルーズ、そこからR&Bそしてソウル、ファンクという黒人音楽の流れを体験しそれに合わせて自分の音楽を作って行ったのです。そんな中で84年にマラコ・レコード契約して自分と同じ世代の黒人中高年層向きにブルーズとソウルを終生歌い続けられたことは本人にとって幸せなことだったのでは・・・と思います。で
これ、聴かなあかんやろ・・ジョニー・テイラーでした。