BSMFレコードがリリースした60年代レイ・チャールズの名盤
Ray Charles/Ingredients In A Recipe For Soul

ON AIR LIST
1.Busted/Ray Charles
2.Born To Be Blue/Ray Charles
3.Ol’ Man River/Ray Charles
4.That Lucky Old Sun/Ray Charles
「ソウルのレシピの材料」(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)とタイトルされたレイ・チャールズ全盛時のアルバムが日本のBSMFレコードから先月リリースされました。
50年代にアトランティックレコードからメジャー・デビューしたレイ・チャールズが60年代に入りABCレコードに移籍してカントリー・アンド・ウエスタンのカバー・アルバムを出し”I Can’t Stop Loving You”や”You Are My Sunshine”などのビッグヒットを出した後の1963年にリリースしたアルバム。
このアルバムには彼の代表曲となる”Busted”や”That Lucky Old Sun”,”Ol’ Man River”などが収録されています。
持っていない方はできればこの機会にぜひゲットして欲しいアルバムです。
まず一曲 曲名がBustedで「潰れた」「破産した」という意味ですが、「毎日毎日請求書が送られて来て自分が作っている綿花の値段は下がって彼女に靴も買ってやれない。兄貴に借金を頼んだけど兄貴も金がないという。俺は一文無しで金はない。ポケットは空っぽなんだ」という生活苦を歌った曲。
1.Busted/Ray Charles
今の曲はカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュがレイのこのアルバム前年1962年に発表したものですが、レイはブルーズとゴスペルのテイストを乗せて全くオリジナルのように見事に録音しています。レイのこのカバーはチャートの4位まで上がりました。4位まで上がったということはこういう生活の困窮に共感する人たちが多かったということでしょう。
次の歌はジャズ・シンガーはじめ多くのカバーがあるスタンダードのような曲ですが、Blueという言葉の持つ二つの意味を使っている曲で一つは「青い」もう一つは「憂鬱」
「頭の上の空に黄色いお月様がある時にその月の光を眺めるべきだとみんなは言うけど、ぼくには金色の光は見えない。なぜなら僕はブルーに生まれているんだ」と悲しい歌詞で始まるのですが、途中で「ぼくは他の人より幸せなんだ。なぜって君を愛するスリルを知ったから。それだけで生まれて来た以上のものを手にいれた感じだ。でも、ぼくはブルーに生まれた。笑いたいけど何も面白いとは思わない。僕の世界は色あせたパステルカラーだよ」
2.Born To Be Blue/Ray Charles
いまの曲も重々しくストリングスが入っているのですが、ぼくは時々この時代のレイ・チャールズの曲に入っているこういうストリングスが邪魔に感じる時があります。レイの歌の良さを引き立たせるのに過剰なストリングスはいらない気がします。
次の歌は1920年代の半ばに作られた歌でミュージカルの”Show Boat”に使われて有名になった曲だそうです。
黒人の肉体労働者の目線で作られた曲でちょっと歌詞を説明します。この歌詞に出ているミシシッピ川はアメリカ南部を流れる大きな川、そしてもう一つでてくるヨルダン(ジョーダン)川はいつも紛争が止まらない中東のシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを流れるキリスト教にとっては聖なる川。
「白人が遊んでいる間、俺たち黒人はこのミシシッピ川で働いている。夜明けから日が暮れるまで働いている。このミシシッビ川から離れて、白人のボスからも離れてヨルダン川を見たい。あの川を渡りたい。流れ続けるあのヨルダン川を。生きるのに疲れ努力することにもうんざりだ。でも死んでしまうのは怖い。そしてオールドマン・リバーは流れ続ける」
3.Ol’ Man River/Ray Charles
次のThat Lucky Old Sunもすごくいい歌詞なので少し訳します。
「朝起きて仕事に出かけて給料のために悪魔のように働くんだ。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけだ。女房と喧嘩して子供のために苦労して白髪になるまで汗をかいて働き続ける。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけ。空の上の神様は俺の目に涙が溢れているのがわからないのでしょうか。希望の光がある雲に乗せて私を楽園に連れて行ってください。あの川に連れて行って私の悩みを全て洗い流してください。そして空の上の太陽のように何もすることがなくただ転がっているようにしてください」
4.That Lucky Old Sun/Ray Charles
この(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)というアルバムは黒人の貧しさや受けている差別、救いを求める宗教や苦しい生活などとても重い歌詞の歌が多いです。そして黒人で盲目でもあったレイが受けた苦難は私たちが想像もできないほどだったと思います。でも皮肉なことに白人のカントリー&ウエスタンを歌って大ヒットの連続となり有名になったところでレイはこういう黒人が受けてきた差別と貧困の歌を歌ったわけです。それを白人のレコード会社で白人のミュージシャンを使ってレコーディングしたのです。そしてこの後レイ・チャールズはとうとう自分のレーベルを作ります。それは初めて黒人が作ったレーベルでした。
歌をはじめ音楽はもちろん音楽業界でもレイはすごく先進的で革命的でした。ぼくはジニアス(天才)という言葉を安易に使うのは本当に嫌いです。僕の中でジニアスと呼べるのはレイ・チャールズただ一人です。




