2021.12.17 ON AIR

ブルーズの歌詞を読み解く名著「黒い蛇はどこへ」
(中河伸俊著/トゥー・ヴァージンズ刊)

ON AIR LIST
1.Come On In My Kitchen / Robert Johnson
2.Bad Luck Blues (Out Of Bad Luck)/ Magic Sam
3.Bright Lights Big City / Jimmy Reed
4.Decoration Day/Sonny Boy Williamson II

僕も連載を書いている「ブルース&ソウル・レコーズ誌」でブルーズの訳詞をしてそのブルーズが生まれた背景や内容をより深く読み取る「Food For Real Life」という連載を書かれている中河伸俊さんが、それを更にアップデイトしてまとめられた「黒い蛇はどこへ」を上梓されました。
今日はその素晴らしい本を紹介しながらそこで取り上げられているブルーズを何曲か聞いてみようと思います。
僕もこの番組で自分のわかる範囲で歌詞の説明をしてきましたが、僕は英語がそんなに堪能でもないし語学として英語をとりわけ勉強したわけでもなく、アメリカや黒人の文化について学んだわけでもないので説明できないこともあります。しかし、中河さんは大学で社会学の教授をされ同時にブルーズやブラックミュージックの翻訳、解説を幅広くされていて、アフリカン・アメリカンの文化や音楽に精通されています。いつも中河さんの書かれた文章を楽しみにしています。
この番組で何度も話してますが、言語だけでなく文化や生活習慣が全く違うアフリカン・アメリカンが歌うブルーズの歌詞を完全に理解することは難しいものです。しかし、「ああ、やっぱり同じように感じるんや」と思う歌詞もたくさんあり、英語ならではの美しい表現や面白い表現にも出会います。
中河さんの今回の著書「黒い蛇はどこへ」はブルーズだけでなく黒人音楽を聞く上でとても役立つ本だと思います。
ではこの本の一番最初に取り上げられている曲はロバート・ジョンソンの名曲”Come On In My Kitchen”「うちの台所へお入り」です。この曲を映画のワン・シーンのようだとぼくはずっと思ってました。雨が降りそうな空の下、台所の入り口に立っている男とその男に視線を送る女。そこで男は「雨が降りそうだからオレの台所に入りなよ」と誘っている・・そんな光景が浮かんでました。ところが二番の歌詞で男は親友の女を奪ってしまったのに、またその親友に女を奪い返されたという歌詞が急に出てくる。そして後半は迫ってくる寒い冬を女一人で過ごすのは辛いだろうから俺と暮らそうと女を誘う歌詞が出てくる。そしてまた「雨が降りそうだからオレの台所に入りなよ」が出てくる。私は整合性のないこの歌詞が一体何を意味しているのかと考え込んだことがある。でも、結果はロバート・ジョンソンの気持ちははっきりわからない。でも、全体を見てみると女に逃げられた男が独り身だろう女を誘っている。雨が降りそうだというのは辛い冬がこれからやってくるという意味もあり、だから俺の台所、つまり家に入って一緒に暮らそうと誘っていると解釈しました。ブルーズの歌詞にはこういう整合性のない、バラバラなものがたくさんあります。一番で「お前のことを愛している」と歌っておきながら最後の歌詞で「お前なんかもう愛してない。俺は出ていくよ」という歌がかなりあります。

その整合性のないところを著者の中河さんは「こういうばらばらさ、いいかえれば断片化がもたらす多様性がかえって聞き手を感情移入させ、より多くの聞き手が自分の個人的な経験とシンクロさせられる」と書かれてます。
1.Come On In My Kitchen / Robert Johnson
ジョンソンの歌とギターとそして録音から聞こえてくるその時の空気感がすごく寂寥感に溢れていて、南部の田舎に生きる男女の寂しさと辛さが伝わってきます。
次の歌もブルーズの中のブルーズという感じの歌詞です。
マジック・サムの”Bad Luck Blues” タイトル通り「悪運のブルーズ」ですが、その悪運で落ち込んでいたけど俺はまた這い上がるんだという歌です。そして俺から全てを奪って他の男に走ったお前も俺が這い上がったらまた戻ってくるだろうという歌詞です。
私り男友達でこの歌を好きな人多いです。成功したり金持ちになったりすることだけを女性は男性に求めている訳ではないでしょうが、男はどこかで成功してお金も掴んでホレた女性に不自由なくしてあげたい、それが男なんだよなとどこかで思っているんですね。だから這い上がってもう一度頑張るんだという自分を押し上げてくれるようなこのブルーズが好きなんだと思います。
最初の”I Been Down So Long But I’m On My Way Up Again”という最初のマジック・サムの歌がもうグッときます。
2.Bad Luck Blues / Magic Sam
マジック・サムはこの曲をデルマークレコードとクラッシュ・レコード(クラッシュではOut Of Bad Luckという曲名にしている)と二回録音しています。今のはクラッシュ録音ですが僕はこっちの方が好きです。
中河さんのこの「黒い蛇はどこへ」は一つ一つの曲の歌詞のことだけではなく、その歌が生まれた背景や歌われた時代のことそして英語の深い意味についても書かれていて本当に楽しくしかも勉強になるという一冊です。

次は私も歌っている大好きなジミー・リードの曲ですが、僕はシカゴに初めて行った時タクシーの窓から見るネオンサインや街の明かりにこの歌を思い出しました。Bright Lights Big City・・「灯りまぶしい大都会」となかがわさんは訳しています。この歌の主人公の女性は大都会の輝く灯りに憧れのぼせて、男が気をつけなよと言う言葉も聞かないで浮かれた暮らしをしている。そのうち痛い目に合うぞと注意しても彼女は聞かないんだ・・と。たくさんいたんでしょうね、南部の田舎から出てきて浮かれている女性が・・。そして男に騙されたり。
この歌のことで中河さんは歌っているジミー・リードの奥さんママ・リードのことに触れています。もともとお酒が好きだったジミーはてんかんという病になってから発作が起こるのが怖くてますますお酒を飲むようになりアルコール依存症になってしまったのですが、そのジミーをずっと支えて連れ添った奥さんのママ・リードはBright Lights Big Cityの歌の女性とは真逆にジミーに尽くした人だったと書かれています。
自分の作った歌詞も忘れてしまうようになったのですが、それをサポートするようにママ・リードのコーラスも入ってます。
3.Bright Lights Big City / Jimmy Reed
それぞれ、ブルーズマンの人生がそれぞれの歌に反映されているのは当然なのですが、そういう話を知っているとまた歌に愛着が生まれます。

次は自分が格別好きなサニーボーイ・ウィリアムスン。サニーボーイ・ウィリアムスンという名前のブルーズマンが二人いることを知っている方もいるかと思いますが、区別するためにサニーボーイIとサニーボーイIIと分けられていてIの方は戦前に大人気で”Good Morning School Girl”などヒットを出した本名ジョン・リー・カーティス・ウィリアムスン、IIはIが亡くなってから録音を始め50年代からシカゴのチェスレコードでヒットを出したアレック”ライス”ミラー 。そのアレック”ライス”ミラーの曲が取り上げられているのですが、実はこの曲はオリジナルがサニーボーイIの曲で私は昔この曲のタイトル”Decoration Day”というのがわからなくて辞書で調べた記憶があります。それでもなんとなくメモリアル・ディのような死んだ方を追悼する日くらいにしか思ってなかったのですが、今回中河さんの本に”Decoration Day”は日本のお盆のようなものだと書かれていてなるほどと思いました。この歌は亡くなった妻のことを歌っていて、妻が「私が亡くなったらデコレーションデイにはお墓に花を持ってきてね」という歌なのです。最後に彼女のことも忘れないし、デコレーションデイも忘れないと歌っています。
4.Decoration Day/Sonny Boy Williamson II
バディ・ガイのギターがちょっとウザい感じもしますが、サニーボーイの歌とハーモニカは思いが詰まっていて素晴らしいです。
デコレーション・デイはお墓をきれいに掃除して花を添えて・・とほとんど日本のお盆と同じですが、翌日にその墓の近くでピクニックをしたりするそうです。まあ、生きているオレたちは元気でやってるよということなのかもしれません。
今日は中河伸俊さんが書かれた「黒い蛇はどこへ」というブルーズの歌詞から曲が生まれた背景や歌の内容を読み解くという素晴らしい本を紹介しました。
とても内容の濃い本で曲を聴きながら何度も読み返すとまた新たな発見もあると思います。ぜひ、手にとってではなく買ってじっくり読んでみてください。番組HPに写真も出しておきます。

 

2021.12.10 ON AIR

亡きキャロル・フランに捧ぐ

Soul Sensation/Carol Fran And Clarence Hollimon(P-Vine PCD22253)

See There /Carol Fran And Clarence Hollimon (Black Top CD BT1100)

ON AIR LIST
1.Push-Pull / Carol Fran And Clarence Hollimon
2. I Had A Talk With My Man/Carol Fran And Clarence Hollimon
3.Daddy, Daddy, Daddy/Carol Fran And Clarence Hollimon
4.I Don’t Want To Do Wrong/Carol Fran And Clarence Hollimon

キャロル・フランは以前に一度ON AIRしたことがある。ルイジアナ、ラファイエット出身のキャリアの長い女性ブルーズシンガーで大きなヒットはなかったのですが、とても魅力のある歌声でファンキーでウイットに富んでいて気さくで南部で人気のあるシンガーでした。そのキャロルが9月1日に87才で亡くなりました。残念です。ビッグネイムではなかった彼女ですが、ルイジアナのスワンプ・ブルーズやニューオリンズR&B、ケイジャンなどの匂いのある貴重なシンガーでした。
1933年10月23日生まれ、誕生日が僕と1日違いです。レコード・デビューは1957年でその”Emmitt Lee”という曲はローカルでヒットしたようです。そこからキャロルはずっとシングルをいろんなレーベルからリリースし、ニューオリンズのバーボン・ストリートを拠点にライヴ活動を続けてギター・スリム、リー・ドーシー、ジョー・テックスなどのツアーにも参加しシンガーとしてタフに生きてきました。
しかし、なかなか売れずにメキシコ、マイアミ、テキサスといろんなところに移住して歌い続けました。
彼女に転機が訪れたのは1982年にキャロル・フランは昔一緒にやっていたギタリストのクラレンス・ホリマンと25年ぶりにテキサスで再会したことでした。二人は25年前にニューオリンズで初めて会い、お互いに好意を持っていたようです。再会しそして2人は結婚してそこからデュオで活動を始めます。
漫才だと夫婦漫才ですが夫婦ブルーズがここから始まります。それがとてもいい感じで、92年にブラック・トップレコードから”Soul Sensation”というアルバムをリリース。自分たちのオリジナルにサム・クックやニューオリンズのアール・キングの曲、ゴスペル曲なども収録したこのアルバムが評判になりました。
まず一曲、ザディコ・ミュージックのテイストのファンキーなスワンプ・ブルーズです。途中のクラレンス・ホリマンのファンキーなギターソロも聞きどころです。
1.Push-Pull / Carol Fran And Clarence Hollimon

キャロルのお母さんはピアニストだったので彼女も小さい頃からピアノを弾いてました。それで地元のコンテストで優勝して、15歳くらいから地元のクラブやルイジアナあたりでピアニスト兼ボーカリストとして雇われるようになりました。ある日、ニューオリンズのバーボン・ストリートのキャバレーで歌っているときにエクセロ・レコード(スリム・ハーポなどが在籍)の社長のJ.D.ミラーの目に止まり、レコーディング・デビューすることになりました。それが”Emmit Lee”というニューオリンズ・バラード風の彼女のオリジナル曲でした。この曲はかなり売れました。でも、それ以降もリリースはありましたがヒットは出なかった。しかし、ルイジアナ・ブルーズの大物ギター・スリムのツアーに参加したり、ニューオリンズのクラブで歌ったり、60年代にはジョー・テックスのレヴューでツアーもしましたが録音のヒットは出ませんでした。70年代にマイアミのクラブで歌ったりしていましたが、レコーディングは途絶えてしまいました。
80年代にテキサスのヒューストンに移った時に先ほど言った25年前にニューオリンズで知り合ったギターのクラレンス・ホラマンと再会しました。ここから2人は恋に落ち、83年に結婚して2人で活動するようになります。
次の歌は1964年に女性シンガーのミッティ・コリアがヒットさせたソウル・バラードなのですが、こんなことがキャロルとクラレンスの間であったのかなと想像させます。
歌詞「昨日の夜、彼と話した。彼は全て大丈夫だよと私を安心させてくれた。夜が明けるにつれて悩みが消えていくようで君はショーのスターなんだよと言ってくれた。ぼくは君のものだし他のだれかを好きにはならない。君を寂しくはさせない、結婚してほしいと言ってくれた。私は泣いた。私の目からこぼれる涙に彼はキスしてくれた」
最後のHe kissed the tears From my weeping eyes(こぼれる涙に彼はキスしたのよ)がたまりません。2人のアルバム”Soul Sensation”から
2. I Had A Talk With My Man/Carol Fran And Clarence Hollimon

ホリマンはボビー・ブランド、チャールズ・ブラウンはじめ多くのブルーズ、R&Bシンガーのバックに起用されるギター名人でしたが、やはりキャロルとデュオを組んでから一段とその名前が知れ渡り、二人にとってデュオ組んだことは大正解でした。
90年代に入ると彼らは活発に活動してヨーロッパにも行き、98年には日本のパーク・タワー・ブルースフェスに2人で来日しました。2人のライヴはいつもファンキーで楽しいステージでした。
92年には今聞いてもらったアルバム”Soul Sensation”をリリース。次の曲は94年に同じブラック・トップからリリースされたアルバム”See There”からニューオリンズ・テイストのこの曲。
3.Daddy, Daddy, Daddy/Carol Fran And Clarence Hollimon

2000年にもアルバム”It’s About Time”をリリースしたのですが、リリース後にクラレンス・ハラマンが急死してしまいました。ブルーズの男女デュオもいないし、すごくいい感じで活動してきた2人なので本当に残念で、何よりキャロルの気持ちを思うと切ないです。そして、翌年にはキャロルのお母さんが亡くなり、キャロルは故郷のルイジアナ、ラファイエットに戻りました。その後ソロ・アルバムを出してクラブで歌い続け2015年ドキュメンタリー映画”I Am The Blues”にもキャロルは出演して歌っていました。
次の曲はグラディス・ナイト&ビッブスやエスター・フィリッブスも歌っていますが、キャロルの歌もいいです。
4.I Don’t Want To Do Wrong/Carol Fran And Clarence Hollimon
キャロル・フランはこれという大きなヒット曲もなかったし、録音した曲が発表されないでお蔵入りも多く、不遇な面もありすごく有名なシンガーではない人でした。でも、とても味のある、ファンキーでもありダウンホームなところもありました。いわゆる黒人サーキットの人気クラブシンガーでした。彼女のような女性シンガーが本当に少なくなってしまって寂しいかぎりです。9月1日に故郷ルイジアナ・ラファイエットで87才で亡なくなったキャロル・フランをお送りしました。キャロルのめい福を祈ります。

2021.12.03 ON AIR

音楽に思い込みは良くないという話/フィフス・ディメンションから半世紀マリリン・マックーとビリー・デイヴィスjr.

The Very Best Of The 5th Dimension / 5th Dimension(Sony Music Japan SICP-3710)

blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.(BMG EE1 538675442)

ON AIR LIST
1.Aquarius / Let the Sunshine In / The 5th Dimension
2.Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
3.Blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.
4.(Just Like) Starting Over [feat. James Gadson] / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.

今日は少しブルーズから離れた話なのですが、或ミュージシャンに対して今まで自分が思っていた印象が時が経ち改めて聴くと違っていたということはないですか。私はこの番組で少し前に取り上げた映画「サマー・オブ・ソウル」の中に登場する「フィフス・ディメンション」というグループについて長い間というか、50年間くらい間違った認識をしていたことに気づきました。
50年前、つまり私が20才頃に「フィフス・ディメンション」は登場しました。男女何人かのコーラス・グループで今から聴いてもらう”Aquarius / Let the Sunshine In”という曲が60年代終わりに大ヒットし、その曲は「ヘア」というミュージカルで使われた曲だったという記憶でした。そして大きな記憶違いをしていたのは白人のコーラス・グループだと思っていたことです。それが「サマー・オブ・ソウル」を観ていたら「あれ?黒人のグループやん」と記憶間違いに気づきました。
「フィフス・ディメンション」は男性三人、女性二人のコーラスグループでその母体は63年くらいからロスのクラブ歌手グループとして始まっています。何度かメンバー・チェンジがあり60年代半ばにビリー・デイビスJr.、マリリン・マックー、ラモンテ・マクレモア、ロン・タウンソン、フローレンス・ラルーというメンバーに落ち着きました。
皆さんもどこかで一度は聞いたことがあるだろうこの曲からスタートです。
1969年ビルボードチャート一位になった大ヒット曲
1.Aquarius~Let the Sunshine In / The 5th Dimension
この曲はAquarius とLet the Sunshine Inと二つの曲を繋げたものです。元々ミュージカル「ヘア」を観て感動したフィフス・ディメンションのメンバーが劇中で使われていた曲を歌いたいと申し出たのが録音のきっかけです。バックの素晴らしい録音に参加したのはドラマーのハル・ブレインはじめ当時LAのトップのレコーディング・ミュージシャン「レッキング・クルー」のメンバーたちです。
後半の”Let the Sunshine In”の歌を聴くと歌がすごくパワフルでソウルフルでやっぱり黒人グループだなと今は思うのですが、70年頃私にはわからなかった。なぜなら彼らの音楽に白人的なテイストがあるからで、実際プロデューサーは彼らを白人のコーラス・グループの「ママス&パパス」の黒人版にしょうとしてたらしく、実際「ママス&パパス」の曲もカバーさせてます。また、67年に彼らがヒットさせた”Up,Up And Away”も当時ラジオからよく流れてきてましたが、白人的な軽いサウンドやコーラスに聞こえてました。私がこの5th Dimensionを白人グループだと思い込んだのも仕方なかったと言い訳させてください(笑)。
次の曲もヒットした曲でオリジナルは女性シンガー&ソングライターのローラ・ニーロ。この曲は白人のポップチャートでは一位になってますが、黒人のR&Bチャートでは23位とあまり黒人にはウケず白人に受けています。調べて見ると彼らは黒人グループなのに白人チャートでは何度も一位を取っているのに、黒人R&Bチャートで一位になった曲はないんですね。面白いグループです。
2.Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
メンバーのマリリンとビリーが「ウェディングベル・ブルース」をリリースした69年に結婚するのですが、75年にふたりがグループを脱退してデュオとして活動を始めます。5th Dimensionはその後もグループとして続くのですが全盛期はここで終わりとなります。マリリンとビリーは「星空のふたり/You Don’t Have to Be a Star」などヒットを出してソウル・デュオとして活躍し、ミュージカル出演やテレビの司会者などアメリカのエンターテイメントの世界ですごく有名な存在となり今も活躍しています。
そしてそのふたりが今年アルバムをリリースしました
アルバム・タイトルが”Blackbird”(正式にはBlackbird Lennon McCartony Icon) がいまヘヴィ・ローテーションで我が家に流れています。このアルバムはタイトル曲もそうですが、ビートルズのジョンとポールの曲を取り上げたアルバムです。”Got To Get Yoy Into My Life”から始まり”The Fool On The Hill”,”Yesterday”,”Help”などが収録されています。アルバム・タイトル曲”Blackbird”はビートルズの68年のホワイトアルバムに収録された曲です。私はこの曲をずっと夜更けに鳴いている黒い鳥のことをただ歌っていると思っていたのですが、この歌を60年代にアメリカ南部で辛く、苦しい目に遭いながらも公民権運動で戦っていた黒人女性たちに向かってポールは曲を書いたと最近知りました。そしてその曲をマリリンとビリーがここ数年アメリカで巻き起こっている人種間の分断、そしてBLM運動を提起する目的でこの歌を取り上げたということです。すごく意味のある選曲です。
「黒い鳥が真夜中にさえずっている。傷ついた翼で空へ飛ぼうとしている。これまでの人生、君がただ待っていたのは飛び立つこの瞬間だったんだね」
3.Blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.
マリリン・マックーはきれいな方で調べたら若い頃はモデルさんをされていたようです。「サマー・オプ・ソウル」の映画の中でも観客の若い男の子があんな可愛い人を見たことがないと語っていました。でもきれいなだけでなく歌も上手いです。マリリンとビリーは現在80歳くらいですが、本当に仲のいい夫婦でその仲の良さが音楽にも出ていると思います。
実はこのアルバムには一つ嬉しいことがあって、ジョン・レノンの”Starting Over”がカバーされているのですが、そのドラムがジェイムズ・ギャドソンなのです。僕のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」とコラボしてライヴ・アルバムを一緒に録音してくれたギャドソンが参加しています。では最後にその曲を。
4.(Just Like) Starting Over [feat. James Gadson] / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.

フィフス・ディメンションから半世紀、Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.の新しいアルバム「ブラックバード」は人種問題や格差の広がりに静かな抗議をしています。80才のアフリカン・アメリカン夫婦の美しい抗議でもあります。いいアルバムです。そして映画「サマー・オブ・ソウル」はぜひ観てください。

2021.11.26 ON AIR

私が選んだブルース名唱15曲 その3
【BSR Playlist Archives】第3回 永井ホトケ隆(https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/)

ON AIR LIST
1.Turn On Your Love Light / Bobby Blue Bland
2.Night Life / B.B.King
3.Driving Wheel / Junior Parker
4.Tramp / Lowell Fulson

私がエッセイを連載している「ブルース&ソウル・レコーズ」誌をご存知の方もいると思いますが、その「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEB版(https://bsrmag.com)というサイトがありまして、そこから「これぞブルーズの歌」というのを選んで欲しいと依頼されました。それでとても15曲では終わらないのですが15曲を選びました。それで前々回から選んだ曲をこの番組で聞いてもらっているのですが、今日が最後で3回目です。今日はモダン・ブルーズを4曲聞いてもらいますが、このシリーズはブルーズの歌を中心に選んでいます。まずはボビー・ブルー・ブランド
ブランドはB.B.キングと双璧のモダン・ブルーズのトップ・シンガーですが、モダン・ブルーズの大きな特徴の一つにゴスペルの影響というのがあります。曲作りもアレンジもそして歌もゴスペル・テイストの導入がはっきりわかる時代のブルーズで、それは現在も続くブルーズの大きな要素になっています。ボビー・ブランドはとてもふくよかな地声を持っていて包み込むような唱法と彼独自の「痰吐き唱法」とも呼ばれるシャウトを混じえてブルーズの微妙な歌の表現に長けています。ミディアムからスローの曲も素晴らしいのですが、私はこのアップテンポのはっきりとゴスペルテイストを感じさせる曲を今回ブルーズ名唱15曲に選びました。
バックの素晴らしい演奏に乗って最高のブルーズ・シンギングを聴かせるボビー・ブルー・ブランドの1961年の録音です。
1.Turn On Your Love Light / Bobby Blue Bland
踊らざるを得ないようなグルーヴするブルーズでこれを生で聴いたらぶっ倒れそうです。

次は今のブランドと双璧のB.B.キングです。B.B.キングがブルーズに残した功績はあまりに大きすぎて、B.B.以降のブルーズマン、ロバート・クレイ、バディ・ガイなどもほとんどがどこかでB.B.の影響を受けています。B.B.に素晴らしい歌が多すぎて選ぶのに本当に困ったのですが、やはりライヴで本領を発揮した歌を今回は選びました。
カントリー&ウエスタンのウィリー・ネルソンのオリジナルですが、見事に自分の歌、自分のブルーズにしてます。
「夜の生活は良くないってわかってるけどそれがオレの生活なんだ」とリアルなブルーズを聴かせてくれます。1967年のライヴ・アルバム”Blues Is King”からNight Life
2.Night Life / B.B.King

ブルーズにはボビー・ブランドのように楽器を弾かないで歌だけの人もいます。次のジュニア・パーカーもそうです。厳密にいうとジュニア・パーカーはハーモニカを吹くのですが、ハーモニカ・プレイヤーとしてよりもそのシンガーとしての資質がまず素晴らしい人です。少し高めの艶とハリのある美しい声で広い音域を自在に使って多彩な表現をします。
今まで私が出会った黒人のミュージシャンに「私はブルーズを歌っている」というと何人もに「オマエ、ジュニア・パーカー」を知ってるかと訊かれました。ブルーズシンガーと言えばジュニア・パーカーだと言った人もいます。日本ではギターとか楽器をしないで歌だけのブルーズマンはなかなか人気が出ないのですが、何度も言います「ブルーズはギター・ミュージックではなくヴォーカル・ミュージック」です。
I am her drivin’ wheel(オレは彼女の駆動輪だ)という歌詞にあるように彼女のために働いて金をつぎ込んでいる男の話。
1962年デュークレコードからリリース
3.Driving Wheel / Junior Parker

最後はモダン・ブルーズの先駆けで土着的なブルーズの良さも持ち合わせたブルーズマン、ロウエル・フルソン。昔、ロウエル・フルソンのアルバムを一緒に聴いていた友達が「この人って上手いの?」と私に訊いたことがありました。
そり言葉はまさにロウエル・フルソンの個性を表していると思います。今日今まで聞いた三人はブルーズを知らなくても何となく歌が上手い人というのがわかるシンガーです。ところがフルソンは歌もギターもゴツゴツしていて、ジュニア・パーカーのように流暢な歌ではないし、ボビー・ブランドのように包み込むような歌でもなく、またB.B.のように素人耳にもわかるソウルフルな感じでもないわけです。独特のフレイジングというか節回しがありますが歌い上げるようなことはなく、どこか戦前のカントリーブルーズの素朴さとか土臭さを感じさせる歌です。しかし、その歌に昆布のような深い味わいがありブルーズは歌が上手いとか下手とかいうテクニックの問題ではないのだとフルソンを聴くと思います。
1967年の作品ですでにソウルの時代に入っていた当時の黒人音楽に対応したファンキーな曲ですが、やはりイナたい味わいがたまらなくいいです。
4.Tramp / Lowell Fulson

三回に渡ってお送りしたブルーズ名唱。15曲全て紹介できませんでしたが、「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEB版(https://bsrmag.com)にアクセスしていただければ、スポティファイで無料で全て聴くことができます。ぜひ訪ねてください。この番組のHPもご覧ください。

2021.11.19 ON AIR

私が選んだブルース名唱15曲 その2
【BSR Playlist Archives】第3回 永井ホトケ隆
(https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/)

ON AIR LIST
1.The Sky Is Crying / Elmore James
2.Crawling Kingsnake / John Lee Hooker
3.Down In Mississippi / J.B.Lenoir
4.Mean Old World / T.Bone Walker

先週は自分の弾き語りをお送りしましたが、今回はその前の回にやっていた「私が選んだブルース名唱15曲」のその2です。
私が連載エッセイ「フールズ・パラダイス」を寄稿している雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEB版(https://bsrmag.com)がありまして、そこから「ブルーズの歌で好きな曲、聞いてもらいたい曲」を選んで欲しいという依頼で15曲選んだのですが、とてもとても15曲では収まりません。結局ブルーズの歌で自分がインパクトを受けたものをなんとか15曲選らび、前回の放送ではハウリン・ウルフの”Moanin’ At The Midnight“、マディ・ウォーターズの”Rollin’ Stone”、サニーボーイ・ウィリアムスンIIの”Cross My Heart” そしてライトニン・ホプキンスの”Mojo Hand” の4曲を聴いてもらいました。前回も話しましたが、ブルーズの歌というのは歌声が何オクターブ出るとか歌唱のテクニックがあるとかで判断されるものではなく、歌わざるを得ないそのブルーズマンの切迫した気持ちとか受け止められないような溢れる想いとか、それに伴って表れるリアリティとかインパクトが大切だと思います。
二回目の「ブルース名唱」の一曲目はまさに心に突き刺さるような、そして心から消えないブルーズの歌です。
「空が泣いている。涙が通りを流れ落ちていく。涙とともに彼女をずっと待っている。彼女はどこへ行ってしまったのだろう。ある朝、彼女が通りを歩いていくのを見かけた。見ているだけでとてもいい気持ちになって俺のくたびれた心が踊り跳ねたんだよ。嫌な気分だ、彼女がもう俺を愛してないなんて。空が泣いている。涙が俺のドアまで転がり落ちてくる」
いろんなミュージシャンがカバーしていますが、このオリジナルのエルモア・ジェイムズを超える歌はありません。
1.The Sky Is Crying / Elmore James
エルモア・ジェイムズ自身が弾くシャープでディープなスライドギターと彼の緊張感のある歌のもたらすブルーズの感覚が素晴らしいです。よくこの曲のカバーで途中に何コーラスもギター・ソロを入れるミュージシャンがいますが、このオリジナルには途中のギターソロはありません。歌とギターのオブリガードだけで最後まで押し切っています。ブルーズは歌が主体ということです。

次は初めて聴いた時ブルーズの深い洞窟の中に引っ張り込まれそうな、なんか得体の知れない歌だと思いました。特に途中でリズムを刻むジョン・リーの足音と彼のディープな歌声だけになるところはブルーズの美学とも言えるダークな美しさがあります。とにかくジョン・リーの歌声はまさにブルーズ・ヴォイス。
ジョン・リーは生涯で何度かこの曲を録音しているが1949年が初録音。元々は自分のお姉さんの恋人だったトニー・ホリンズというブルーズマンから教えてもらった曲を自分流に変えたもの。
「俺はくねくね這い回る王様ヘビだ。俺の巣窟(den)は俺が支配してるのさ。お前の周りを俺の仲間がウロウロするようなことはさせないよ。彼女とできるのは俺だけなんだ。俺はくたばるまでは言い回るぜ」
2.Crawling Kingsnake / John Lee Hooker

次は今のジョン・リーのダークな歌声とは対照的な高い声で私は最初女性が歌っているのか・・・と思いました。J.B.ルノアー
多くの黒人ブルーズマンはミシシッピ、アラバマ、アーカンソーと言った南部に生まれたわけですが、その生活は幼い頃から農場で働かされろくに教育も受けられなく貧しくてとても厳しいものでした。そこから抜け出て少しでもいい生活をしたいと思うのは当然でそれで彼らはメンフィスやセントルイス、そしてシカゴやデトロイトなどの都会を目指して故郷を出たわけです。その故郷についてはそれぞれいろんな想いがあり、マディ・ウォーターズは綿花畑で働かされた日々を思い出したくないとほとんどミシシッピによりつかなかった。逆にB.B.キングは成功してから度々故郷を訪ねて故郷の教会などにいろんな贈り物をしたり、自分の父親にも農場もプレゼントしています。
次の「ダウン・イン・ミシシッピ」を歌ったJ.B.ルノアは「故郷では子供の頃から鋤や鍬を持たされて畑で働かされて綿花を摘む仕事もさせられた」と歌い始めて、「自分の奥さんの故郷でもあるミシシッピに悪意があるわけではないけどミシシッピから抜け出せて俺はラッキーだったよ」と歌っています。つまりやはり故郷の生活は辛くてそこからに抜け出せてシカゴでなんとか生活している自分は幸運だと。でも、サビの”Down In Mississipi”と歌うルノアの歌声を聞いているとそこに懐かしさや戻って見たい気持ちや少しは楽しいこともあったような気持ちが私は感じられます。
3.Down In Mississippi / J.B.Lenoir
ブルーズ史上重要ないい曲であり、いい歌です。

今日の最後はT.ボーン・ウォーカー
1945年にリリースされたブルーズ史上に残るモダン・ブルーズの名曲”Mean Old World “
「ひとりで生きていくにはつらい世の中だ。惚れた女は他の男が好きなんだ。泣きたいのを我慢するために酒を飲むんだ」と人生をひとりで生きていく辛さや大変さを歌った内容ですが、最後には「いつの日か俺も土の中6フィートに眠っていることだろう」と人生を達観したような言葉が出てきます。それをT.ボーンはさりげなく淡々と歌っています。その乾いた歌い方が返って都会でひとり生きていく孤独感を滲ませている気もします。この歌がロスを中心としたウエストコーストの都会で生きる黒人たちの共感を得てヒットとなりブルーズのスタンダードとなりました。52年にはシカゴのハーモニカ・プレイヤー、リトル・ウォルターがカバー・ヒットさせています。曲もいいし、アレンジもサウンドもグルーヴもそして歌も素晴らしい名曲、名唱です。
4.Mean Old World / T.Bone Walker
ギターもが、歌もいいT.ボーン

四曲聞いてもらいましたが、どれも個性的でブルーズの歌に規範があまりないことがわかってもらえたでしょうか。でも、これらの曲は本当にブルーズと呼ぶのにふさわしい歌です。
最初に言いました「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEBに私が選んだ15曲が出ています。スポティファイというサイトで全曲無料で聞くことができるようになっているので是非「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEBを訪ねてください。アドレスはこちらです→https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/ 
来週も私が選んだブルース名唱15曲から聞いて見るのでお楽しみに。