2025.10.03 ON AIR

BSMFレコードがリリースした60年代レイ・チャールズの名盤

Ray Charles/Ingredients In A Recipe For Soul

ON AIR LIST
1.Busted/Ray Charles
2.Born To Be Blue/Ray Charles
3.Ol’ Man River/Ray Charles
4.That Lucky Old Sun/Ray Charles

「ソウルのレシピの材料」(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)とタイトルされたレイ・チャールズ全盛時のアルバムが日本のBSMFレコードから先月リリースされました。
50年代にアトランティックレコードからメジャー・デビューしたレイ・チャールズが60年代に入りABCレコードに移籍してカントリー・アンド・ウエスタンのカバー・アルバムを出し”I Can’t Stop Loving You”や”You Are My Sunshine”などのビッグヒットを出した後の1963年にリリースしたアルバム。
このアルバムには彼の代表曲となる”Busted”や”That Lucky Old Sun”,”Ol’ Man River”などが収録されています。
持っていない方はできればこの機会にぜひゲットして欲しいアルバムです。
まず一曲 曲名がBustedで「潰れた」「破産した」という意味ですが、「毎日毎日請求書が送られて来て自分が作っている綿花の値段は下がって彼女に靴も買ってやれない。兄貴に借金を頼んだけど兄貴も金がないという。俺は一文無しで金はない。ポケットは空っぽなんだ」という生活苦を歌った曲。

1.Busted/Ray Charles

今の曲はカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュがレイのこのアルバム前年1962年に発表したものですが、レイはブルーズとゴスペルのテイストを乗せて全くオリジナルのように見事に録音しています。レイのこのカバーはチャートの4位まで上がりました。4位まで上がったということはこういう生活の困窮に共感する人たちが多かったということでしょう。
次の歌はジャズ・シンガーはじめ多くのカバーがあるスタンダードのような曲ですが、Blueという言葉の持つ二つの意味を使っている曲で一つは「青い」もう一つは「憂鬱」
「頭の上の空に黄色いお月様がある時にその月の光を眺めるべきだとみんなは言うけど、ぼくには金色の光は見えない。なぜなら僕はブルーに生まれているんだ」と悲しい歌詞で始まるのですが、途中で「ぼくは他の人より幸せなんだ。なぜって君を愛するスリルを知ったから。それだけで生まれて来た以上のものを手にいれた感じだ。でも、ぼくはブルーに生まれた。笑いたいけど何も面白いとは思わない。僕の世界は色あせたパステルカラーだよ」

2.Born To Be Blue/Ray Charles

いまの曲も重々しくストリングスが入っているのですが、ぼくは時々この時代のレイ・チャールズの曲に入っているこういうストリングスが邪魔に感じる時があります。レイの歌の良さを引き立たせるのに過剰なストリングスはいらない気がします。
次の歌は1920年代の半ばに作られた歌でミュージカルの”Show Boat”に使われて有名になった曲だそうです。
黒人の肉体労働者の目線で作られた曲でちょっと歌詞を説明します。この歌詞に出ているミシシッピ川はアメリカ南部を流れる大きな川、そしてもう一つでてくるヨルダン(ジョーダン)川はいつも紛争が止まらない中東のシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを流れるキリスト教にとっては聖なる川。
「白人が遊んでいる間、俺たち黒人はこのミシシッピ川で働いている。夜明けから日が暮れるまで働いている。このミシシッビ川から離れて、白人のボスからも離れてヨルダン川を見たい。あの川を渡りたい。流れ続けるあのヨルダン川を。生きるのに疲れ努力することにもうんざりだ。でも死んでしまうのは怖い。そしてオールドマン・リバーは流れ続ける」

3.Ol’ Man River/Ray Charles

次のThat Lucky Old Sunもすごくいい歌詞なので少し訳します。
「朝起きて仕事に出かけて給料のために悪魔のように働くんだ。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけだ。女房と喧嘩して子供のために苦労して白髪になるまで汗をかいて働き続ける。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけ。空の上の神様は俺の目に涙が溢れているのがわからないのでしょうか。希望の光がある雲に乗せて私を楽園に連れて行ってください。あの川に連れて行って私の悩みを全て洗い流してください。そして空の上の太陽のように何もすることがなくただ転がっているようにしてください」

4.That Lucky Old Sun/Ray Charles

この(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)というアルバムは黒人の貧しさや受けている差別、救いを求める宗教や苦しい生活などとても重い歌詞の歌が多いです。そして黒人で盲目でもあったレイが受けた苦難は私たちが想像もできないほどだったと思います。でも皮肉なことに白人のカントリー&ウエスタンを歌って大ヒットの連続となり有名になったところでレイはこういう黒人が受けてきた差別と貧困の歌を歌ったわけです。それを白人のレコード会社で白人のミュージシャンを使ってレコーディングしたのです。そしてこの後レイ・チャールズはとうとう自分のレーベルを作ります。それは初めて黒人が作ったレーベルでした。
歌をはじめ音楽はもちろん音楽業界でもレイはすごく先進的で革命的でした。ぼくはジニアス(天才)という言葉を安易に使うのは本当に嫌いです。僕の中でジニアスと呼べるのはレイ・チャールズただ一人です。

2025.09.26 ON AIR

中古盤放浪記vol.13

半分ジャケ買いしたベン・E・キングの”Spanish Harlem”は意外なラテン・アルバムだった

Spanish Harlem/Ben.E.King

ON AIR LIST
1.Spanish Harlem/Ben.E.King
2.Quizás, Quizás, Quizás/Ben.E.King
3.Sway(Quién será)/Ben.E.King
4.Perfidia/Ben.E.King
5.Come Closer To Me/Ben.E.King

ソウル・シンガーのベン・E・キングといえばみなさん知っている、もうポピュラー・ソングとなっている”Stand By Me”のオリジナルシンガーですが、そのベン・E・キングの気になるアルバムが前からありました。”Spanish Harlem”というアルバムなのですが、”Spanish Harlem”というのはベン・E・キングがドリフターズというコーラス・グループからソロに転向して最初に放ったヒット曲です。シングルでは”First Taste of Love”という曲のB面として1960年にリリースされました。ところがA面より評判が良くてリズム&ブルースのチャートで最高15位、ポップ・チャートで最高10位まで上がりました。10年後71年にはソウルの女王、アレサ・フランクリンがこの曲をカバーしてソウルチャートで3週間1位、ポップチャートでも2週にわたって2位と大ヒットとなりソウルの名曲として定着しました。
さて、その名曲のオリジナルが収録されているベン・Eのアルバム”Spanish Harlem”ですが、これがアルバム・ジャケットの写真が素晴らしく良くて(番組HPで是非ご覧ください)以前から中古レコード店で見かけるのですが、少しレアなアルバムなので値段が高い。しかも1960年という65年前のレコードなのでレコードの盤もジャケットも状態がいいのが少なくてなかなか手を出さなかったのですが、先日とうとう納得する中古盤に出会いました。
まずはそのタイトル曲の歌詞ですがハーレムというのはNYのマンハッタンの北の方にある街です。そこには黒人だけでなく南米系の人たちも多く住んでいます。その「スパニッシュ・ハーレムに一本の真っ赤なバラがある、街の通りのコンクリートから突き抜けて咲いている。それは太陽が落ちて夜にならないと表に出てこない」
いつもハーレムの通りを歩いている、多分夜の仕事をしているスパニッシュ系の美しい女性に恋をした歌だと思います。

1.Spanish Harlem/Ben.E.King

有名なソング・ライターチームのジェリー・リーバー&マイク・ストーラーのプロデュースで曲を作ったのはジェリー・リーバート。道路から赤いバラの花が一本だけ出ているいいジャケット写真です。

このアルバムは今のスパニッシュ・ハーレムがラテン調でヒットしたことからラテンの名曲をベン・Eに歌わせるという企画だったと思います。あとはラテンの名曲がどっさり入ってます。
日本でもぼくが子供の頃、50年代終わりから60年代ラテンのブームがあり、アイ・ジョージさんとか坂本スミ子さんとかラテン・シンガーがいて江利チエミさん、ザ・ピーナッツもラテンの曲を歌ってた記憶があります。次に聴いてもらうのはラテンの中でも有名曲で英語のタイトルはPerhaps, Perhaps,Perhapsでつまり「たぶん、たぶん、たぶん」という意味ですが、男が求愛の言葉で女性に迫っても彼女の答えはいつも「たぶん、たぶん、たぶん」としか言ってくれないという内容です。

2.Quizás, Quizás, Quizás(Perhaps, Perhaps,Perhaps)/Ben.E.King

実は自分の親父がラテンのレコードを持ってまして子供の頃に家で流れてました。別に親父はラテン・ミュージックが好きというわけではなかったと思いますが、巷で流行っていたから買ったんでしょうね。ナット・キング・コールのラテン・アルバムもありました。
そういえば今日のベン・E・キングがナット・キング・コールに歌が似てるんですよ。キング・コールがもっと力入れて歌った感じ。次の曲はメキシコの作詞作曲家によって書かれた曲ですが、英語の歌詞にしたことで広くヒットしました。そういえばメキシコからトリオ・ロス・パンチョスというグループが来日してテレビでこの歌を歌ってた記憶があります。

3.Sway(Quién será)/Ben.E.King

やっぱり歌うまいですね。元々こういうラテンを歌っていたシンガーみたいですよね。
次はスペイン語で「ぺルフィディア」でこれもラテンの有名曲ですが、ぼくが10代の頃ベンチャーズがこの曲を「パーフィディア」というインストルメンタル曲で演奏していました。男が女性にフラれた曲で曲名「ぺルフィディア」は「不誠実」とか「裏切り」とかいう意味だそうです。あとグレン・ミラー楽団とかビリー・ボーン楽団とかオーケストラがこの曲をカバーしていたなぁ・・なんか懐かしくなってきました。聞き覚えのある人もいると思います。

4.Perfidia/Ben.E.King

最後はやはりナット・キング・コールが1958年に歌ってヒットしたバージョンでぼくは知っているのですが、これもラテンの有名曲です。
ベン・Eの歌の表現も素晴らしいですがナット・キング・コールかと思うほどよく似ている瞬間があります。

5.Come Closer To Me/Ben.E.King

結局、ベン・E・キングくらいのうまい歌手だとR&Bとかソウルだけでなくなんでも高いクオリティで歌えるんですよ。
今日はアルバム・ジャケットに興味があって買ってみたらソウルではなくラテン曲のアルバムだったという楽しい裏切りでした。ジャケット写真が本当にいいので番組HPでご覧ください。

 

2025.09.19 ON AIR

LP中古盤放浪記その12

若い頃金がなくて手放したレコードとの再会

American Folk Blues Festival’65~’66 (Phillips/日本ビクター SFL-7386)

ON AIR LIST
1.Slow Down/J.B.Lenoir
2.First Time I Met The Blues/Buddy Guy
3.Checkin’ On My Baby/Junior Wells
4.All Your Love/Otis Rush
5.I Keep On Drinkin/Little Brother Montgomery

若い頃はお金がなくてレコードを買うのにも四苦八苦していました。歳を重ねてからもお金のことを考えずにレコードを買ったことはありませんし、すごくレアなLPやシングルが高くて断念することは今もあります。若い頃はアルバイトもしてましたが、バンドが少し忙しくなると継続するバイトができなくてレコードどころではなくなり泣く泣くレコードを売ったこともあります。
実は今日紹介するアルバムはそういう金がなかった頃に売ってしまった一枚で売ってからしばらくしてすごく後悔したアルバムです。というのもこのアルバムはブルーズを知り始めた頃に何度も何度もよく聞いたアルバムで自分にとって思い出深いものでした。お世話になったアルバムです。なんで売ってしまったのだろうと・・・後悔しましたが、そのくらい金に困っていたんですね。そのアルバムに今年に入って出会いました。もちろん自分が持っていた全くのそのアルバムではないんですけど・・。とても状態のいいレコードでジャケットも自分が持っていたものより綺麗です。中古レコード屋のボックスの中で見つけた時はなんか昔好きだった女性にばったり出会ったようなときめきがありました。そのアルバム「アメリカン・フォーク・ブルースフェスティバル’65~’66」を今日は聞きます。
まずこのアルバムですごく好きなJ.B.ルノアのこの曲を。ハーモニカはシェイキー・ホートンことウォルター・ホートン

1.Slow Down/J.B.Lenoir

8小節のブルーズ・バラードですごく素朴な感じがたまらなく好きで買った当初、多分1971年頃は何度もこの曲をリピートしていました。ウォルター・ホートンのハーモニカもダウンホームでいい感じです。
このアルバムがリリースされたのは1967年でPhillipsの音源を日本でコンピレーションして日本ビクターからリリースされたものです。まだ日本でのブルーズの黎明期にも入っていない頃で解説を書いている中村とうようさんも関連資料が少なくて手探りで書いている感じです。
そのとうようさんがモダン・シカゴ・ブルースを代表する一人と書いているバディ・ガイです。
バディはこの曲を何度も録音しているのですが、僕はこの録音が一番好きです。「初めてブルーズに出会った時」
という曲名ですが本当に初めてブルーズに出会った頃の思い出の一曲です。

2.First Time I Met The Blues/Buddy Guy

ウエストロード・ブルーズバンド時代に僕はこの曲をカバーして50年くらい歌っていて僕にとっても大切な一曲となっています。だからこのアルバムは本当に売ってはいけないアルバムだったんです。
でも、いまこうしてまた出会えてよかった。
次はいまのバディ とはブラザーといってもいいジュニア・ウエルズ。バックはギターがオーティス・ラッシュ、ドラムがフレッド・ビロウ、ベースはジャック・マイヤーズと当時のシカゴ・ブルーズの精鋭たちです。ドラムとベースがすごいです。

3.Checkin’ On My Baby/Junior Wells

この当時ジュニアは32歳、ラッシュは31歳、バディ・ガイは29歳です。みんな初めてヨーロッパへ行った時だと思います。そしてみんなシカゴのゲットーから抜け出そうともがいていた頃です。
次はオーティス・ラッシュ。次の曲はエリック・クラプトンがジョン・メイオール・ブルース・ブレイカーズにいた頃にギタリストとして録音している曲ですが、調べてみたらそのアルバムもこのライヴがあった66年リリースなんです。クラプトンはこのコンサートを聴きに来たんでしょうか。

4.All Your Love/Otis Rush

シカゴ・ブルーズの若手と言われた3人が聞けるのもこのアルバムの魅力です。三人三様、それぞれ素晴らしいです。
さて最後はこれも一曲目のSlow Downと同じようにヘヴィ・ローテーションで聴いていた曲です。
当時自分が始めていたウエストロード・ブルーズバンドはエレキ・バンドなので必然的にモダン・ブルーズを取り上げることになっていたのですが、僕が自分の部屋で好んで聴いていたのは一曲目のJ.B.ルノアのSlow Downとか次のピアニスト、リトル・ブラザー・モンゴメリーのようなダウンホームなブルーズでした。

5.I Keep On Drinkin/Little Brother Montgomery

音楽は個人的な体験や経験に他ならないと言いますが、本当に40年ぶりくらいにこのLPを聴いていると当時住んでいた京都の街や通ってたロック喫茶やジャズ喫茶もバイト先のビアホールなんかが浮かんで来ました。 

2025.09.12 ON AIR

LP中古盤放浪記その11

リトル・ミルトンの名作を中古カット盤でゲット!

If Walls Could Talk/Little Milton

ON AIR LIST
1.If Walls Could Talk/Little Milton
2.Baby I Love You/Little Milton
3.Poor Man/Little Milton
4.Blues Get Off My Shoulder/Little Milton
5.I Play Dirty/Little Milton

ちょっと久しぶりのLP中古盤放浪記でその11
私が中古盤でゲットしたこのアルバムは「カット盤」と呼ばれているもので、アルバム・ジャケットの左上にナイフが何かで入れた切り込みが入っています。こういうジャケットに切り込みやパンチホールと呼ばれる小さな穴、またはジャケットの端がカットされているものが中古盤にあり一般的に「カット盤」と呼ばれています。流通の問屋などが売れなくなったアルバムにわざとキズを入れて安い中古盤として再販する方法ですが、中身の音には何も関係ないし安いので私は平気で買います。
さて、今日の中古盤はブルーズ&ソウル・シンガーのリトル・ミルトンのチェス・レコードから1970年にリリースされたものです。1970年という時代の黒人音楽はニューソウルと呼ばれる音楽が流行り始めた頃でロバータ・フラックやダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーが第一線に踊り出てくる時代でした。ブルーズは・・・というと50年代から60年代に隆盛を誇ったシカゴ・ブルーズも、メンフィスそしてテキサス、ミシシッピーのブルーズも勢いが全体的に落ちてしまった頃です。そんな中でブルーズもソウルも歌うブルーズ&ソウル・シンガーのリトル・ミルトンは過去のブルーズマンとしてではなく現在形のミュージシャンとして生き残って行きました。
まず、アルバム・タイトル曲を。”If Walls Could Talk” そのまま訳すと「もし壁が喋ることができたら」ですが、もし、部屋の壁が喋ることができたら泣きたくなるようなことがいっぱい聞こえてしまうんだろうな」という歌詞で始まります。つまり部屋の中で不倫していたり、秘密にしていることを部屋の壁が喋ったらめちゃヤバいことがまずいことがたくさんある。だから壁が喋れなくてよかっただろうと言ってる歌です。

1.If Walls Could Talk/Little Milton

ブルーズに昔からあるダンサブルなリズム・パターンを使った曲ですが、サウンドが1970年なので当時の新しい感じが入ってます。
次の曲は60年代に素晴らしい曲を残したシンガー&ソングライターのジミー・ホリデーが作った私の好きなR&Bのいい曲です。

2.Baby I Love You/Little Milton

こういう曲を歌うとブルーズを期待している人たちは「こんなの歌うの?」ってなるんですが、ブルーズもR&Bもソウルもファンクも同じ黒人音楽で黒人の人たちは同じように聞いているし、ラジオの黒人ステーションからは同じように流れてくるわけです。まあ、今はヒップホッブとかラップしか聞かない若い黒人の人たちもいるでしょうが・・・
リトル・ミルトンは確かにブルーズから始まっているのですが、時代はブルーズからR&Bと呼ばれたものがすでにソウル・ミュージックに移り変わった時代なので当然ソウルの影響は受けるわけです。そして、リトル・ミルトンにはそれを歌える十分な資質があったということです。例えばライトニン・ホプキンズに今みたいな歌を歌えと言っても無理ですが。

次のファンク・テイストのブルーズなんかめちゃカッコいいです。特にベース。1970年のブルーズ&ソウルはこういうビートという典型みたいな曲です。こういう時代の流れに乗って行けた音楽的な力量があったわけです。歌の力は素晴らしいです。

3.Poor Man/Little Milton

リトル・ミルトンは若い頃メンフィスで活動を始めているのですが、その頃最も影響を受けたのが名ブルーズ・シンガーのボビー・ブランドです。時々、歌を聴いていると「ブランドか」と思うことがあるほどです。次の曲もそのボビー・ブランドからの影響を感じます。
現在第一線級のブルーズマンとなったロバート・クレイも録音している曲でオリジナルはボビー・パーカー。そういえばロバート・クレイもボビー・ブランド好きです。
「心がどんどん冷たくなっていく。ブルーズに触れることで心が重くもなっていく。ブルーズよ、俺の肩から降りてくれないか」リトル・ミルトンのディープなブルーズ表現が聴ける見事な歌唱です。

4.Blues Get Off My Shoulder/Little Milton

やっぱりボビー・ブランドの影響を感じますね。リトル・ミルトンはギターも弾きますが、ギターは少し先輩のB.B.キングの影響を受けたギタースタイルです。このアルバムは50年代からブルーズの大きなレコード会社であったチェス・レコードの系列レーベルのチェッカーから1970年にリリースされたものですが、その頃もうチェス・レコード自体が経営状態がよくなくて傾いていたのであまり強いプロモーションもされなかったのでは・・と思います。この”If Walls Could Talk”はチェスでの4枚目のアルバムでこれを最後にミルトンはスタックス・レコードに移籍します。そこではもっと明確なブルーズ&ソウルの路線になりいい時代を迎えます。
ではもう一曲

5.Your Precious Love/Little Milton

最初に言いましたが中古盤でジャケットに切り込みや小さな穴が開いているレコードは「カット盤」と呼ばれて、まあキズもの扱いで安いのですが、中身のレコード本体には関係なく全く同じですからオススメです。とにかく安い!
リトル・ミルトンは2004年に亡くなってしまったのですが、一度だけ1983年に来日してくれました。ぼくは渋谷のライヴインというライヴハウスで聞きましたが、もう圧巻の堂々たるステージでブルーズ&ソウルの真骨頂を聞かせてくれました。
またいい中古アルバムをゲットしたら紹介します。

2025.09.05 ON AIR

祝50周年P-Vine Records! 第10回

35年という短い人生だったがメンフィスの人たちを楽しませたワンマン・バンド・ブルーズマン、ジョー・ヒル・ルイス

The Be-Bop Boy/Joe Hill Louis

ON AIR LIST
1.Boogie In The Park/Joe Hill Louis
2.Tiger Man/Joe Hill Louis
3.Hydramatic Woman/Joe Hill Louis
4.We All Gotta Go Somtime/Joe Hill Louis
5.I’m A Poor Man/Joe Hill Louis

シリーズでON AIRしている世界に誇る日本のP-Vineレコード設立50周年記念お祝いシリーズ
今回は10回目。
1986年にP-Vine からリリースされて嬉しかったアルバム。ジョー・ヒル・ルイスの”The Be-Bop Boy”。これは亡き小出斉くんがコンピレーションしたもので音源は1950年から53年の間にジョー・ヒル・ルイスがメンフィスの有名なサン・レコードに録音したもの。サン・レコードはエルヴィス・プレスリーが最初に録音したレコード会社として有名ですが、ブルーズのハウリン・ウルフ、ジェイムズ・コットン、ジュニア・パーカー、リトル・ミルトンなど黒人ブルーズマンの録音をたくさん残した会社でもあります。
ジョー・ヒル・ルイスはいわゆる「ワンマン・バンド」で演奏していたブルーズマンですが、ワンマン・バンドとは一人でギター弾いて、ハーモニカを吹いて、バスドラムとハイハットを踏んで歌を歌うという曲芸みたいなスタイルで演奏した人ですが、これが実はすごい人気になりました。普通の弾き語りのブルーズマンは歌とギターですが、そこにハーモニカでアンサンブルに彩りを加え、さらにビートを強くするためにドラムのバスドラとハイハットを両足で踏むというスタイルを考え出しました。ジョー・ヒル・ルイスは、メンフィスのハンディ・パークといういろんなブルーズマンが演奏している公園でよく演奏していたようでそれでより目立つようにそしてみんなが踊りやすいように考えたのでしょう。そんな中彼の代表曲のひとつ「公園でブギ」なんていう曲が生まれたのかもしれません。
「オレのベイビーを見つけて公園でブギ。公園でブギや。ずっとブギや。日が暮れるまでブギしたい。昔、オレとベイビーは喧嘩ばかりやったけど今は仲良くやってる。太陽の下で二人でブギや」

1.Boogie In The Park/Joe Hill Louis

彼はB.B.キングもDJをやっていたWDIAというラジオ局でDJをやっていたことがあり、その時のニックネームがこのアルバムのタイトルにもなっているThe Be-Bop Boyでした。アルバム・ジャケットとかいろいろ彼の写真を見るといつもニコニコしていてファンキーな感じの人ですが、実際B.B.キングや昔メンフィスにいたミュージシャンの思い出話になると必ずこのジョー・ヒル・ルイスの名前が楽しい思い出として出てきます。
次の曲はエルヴィス・プレスリーがカバーしているので驚きました。エルヴィスもジョー・ヒル・ルイスが活動していたメンフィスの出身ですし、最初にレコードは同じサン・レコードからリリースされてますからね。ひよっとしたらエルヴィスもハンディ・パークでジョー・ヒル・ルイスを見たかもしれません。「俺はジャングルのキング、タイガー。みんなはタイガーマンって呼ぶんや。もし、俺の道を横切ったらお前はお前の命はその手に中にある」まあ、俺の道を横切ったらどうなっても知らないぞということでしょう。

2.Tiger Man/Joe Hill Louis

次の曲を聴いていたら何かに似てるなぁと思ったんですが、アイク・ターナーの大ヒットRocket88に似てます。ライナーで小出くんもそれを指摘してますがこの曲の別名が「オートマティック・ウーマン」というそうで、めっちゃキレイなイケてる女性を高性能の車に見立てた曲です。これはバンド・スタイルでめちゃ印象に残るハーモニカはウォルター・ホートンです。ホートンのハーモニカはじめ全体のリズムが良くて歌詞も含めてノリノリのダンス・ナンバーです。

3.Hydramatic Woman/Joe Hill Louis

次の曲はマディ・ウォーターズのFeel So Goodにメロディと曲の構成が似てますが、どっちが先かはちょっとわかりません。ジョー・ヒル・ルイスは売れてからピアノとドラムをつけるようになって録音してますが、ひとりでやっている時と基本的にあまり変わりません。南部のビートがサザン・ビートと呼ばれていたのですが、それが彼の体の中に入っているのでギターもハーモニカも南部のダウンホーム感と荒々しさを持ってます。

4.We All Gotta Go Somtime/Joe Hill Louis

1950年くらいから57年に破傷風で亡くなるまでの7,8年の短い活動期間でしたが、ジョー・ヒル・ルイスはメンフィスの人たちに愛されたブルーズマンでした。今調べて見たらエルヴィス・プレスリーはジョー・ヒル・ルイスがメンフィスの黒人街で人気になった頃にデビューしてますから、おそらく会ったことはあったのでしょう。エルヴィスはブルーズが大好きでしたから。そうやって遠い昔に想いを馳せるとなんか音楽はロマンティックでいいですね。
次の曲はこれまたメンフィスで同時期に人気だったハウリン・ウルフかと思うほど曲調も歌も演奏も似ている曲。わざと真似したような気がします。小出くんのライナーによるとジョー・ヒル・ルイスはメンフィスのWDIAというラジオ曲で番組を持っていて、片やウルフしはKWEMで番組を持っていて二人は張り合っていたそうです。なのでウルフとよく似た曲を録音してウルフを刺激したのかもしれません。
歌の内容が「俺は貧しくて行くところもない。寂しさと厄介ごとばかり、お袋はいないし親父は俺を捨てやがった。行くところがないんだ」

5.I’m A Poor Man/Joe Hill Louis

明るくファンキーなジョー・ヒル・ルイスですが本音は今の歌なのかもしれません。
今日のP-Vineレコードの50周年を祝うシリーズの第10回目は1986年に亡き小出斉くんがコンピレーションしたジョー・ヒル・ルイスのアルバム”The Be Bop Boy”をききました。ブルーズの源流のひとつがわかるいいアルバムで、なんか嫌なことを吹き飛ばすような勢いがあって元気出ます。アルバム・ジャケットも最高です。ぜひ、ホームページでみてください。