2021.04.09 ON AIR

現在トップの女性ブルーズシンガー、シェメキア・コープランドの新譜

Uncivil War / Shemekia Copeland (Alligator ALCD5001)

1.Uncivil War / Shemekia Copeland
2.Walk Until I Ride / Shemekia Copeland
3.Under My Thumb/ Shemekia Copeland
4.Love Song// Shemekia Copeland

1998年に18歳でデビューしたシェメキア・コープランドの登場はブルーズ・シーンに光を灯すものだった。確かな歌唱力を持ちソウルフルに歌えるブルーズ系の女性シンガーの登場にブルースシーンの期待は大きかった。
ブルーズマン、ジョニー・コープランドの娘として生まれたシェメキアは10代の中頃から父親のステージでオープニング・アクトをしてツアーにも出ていたが、もっと幼い頃から歌い始めていた。病を持ちながらもずっと現役を続けて来た父が97年に突然亡くっなてしまい、その1年後98年にシェメキアは19歳でデビュー・アルバム”Turn The Heat Up”をリリース。そこから2.3年に一枚、着実にアルバムをリリースしながら自分の音楽を作り続けて来た。グラミーにノミネートされてもいるし、いろんな賞も獲得して来た。歌唱力には高い評価を受けているがこれといった大きなヒットにはまだ恵まれていない。今回のアルバムが彼女の更なる飛躍になればいいのですが。

シェメキアの前のアルバム「America’s Child」はブルース・ミュージック・アワードの年間ベストアルバム賞を受賞。そのプロデューサーのウィル・キンブロウが今回もプロデュースとギターで参加している。キンブロウについてはあまり詳しくないのだが90年代から南部で活躍するシンガー・ソング・ライターで、ニール・ヤングの影響を強く受けたようです。「ウィル&ザ・ブッシュメン」はじめいくつかのバンドを結成して解散後ソロになり、ソングライターとして高い評価を受けています。
まずはアルバム・タイトル曲「Uncivil War」
歌詞の内容は「この野蛮な、無益な戦いをいつまで私たちはするのだろうか。誰も勝つ者なんていないこの戦いを」というもので、トランプ前大統領によって分断された現在のアメリカ人たちが憎しみ合うことに警鐘を鳴らす歌になっています。最初にマドリンの音が聞こえて来ます。マドリン・ブレイヤーとしてはもうレジェンドと言ってもいいサム・ブッシュの牧歌的なマドリンの音とこれまたラップ・スティール・ギターの名手ジェリー・ダグラスのドブロ・ギターの音色が印象的にこの曲を彩っています。そして力強いシェメキアの歌声。
1.Uncivil War / Shemekia Copeland
今回のアルバムは前大統領のトランプによってもたされた分断、人種差別そしてずっと解決されない銃社会、性差別、格差などアメリカの持つ問題の提起とそれらに対するシェメキアなりの意見を音楽にして表明したものです。こういう重い問題を音楽としても聴けるものにすることが我々日本人は下手で、やたらメッセージだけに主張が置かれ音楽的でないものが多いのですが、アメリカやイギリスのミュージシャンは音楽的にも受け入れやすいものを上手く作りますね。

次の曲はメイヴィス・ステイプルズが歌いそうなゴスペル・タッチのオリジナル曲。
「空から雨が降ってくる中、タクシーを拾おうとしているけど、どれも止まってはくれないどころかスピードを落とそうともしない。だから私は乗るまで歩く。そして私は頭を高く上げ続ける。私の自由は奪えても私のプライドは奪えない。朝、私の子供が熱を出して泣いている。子供の熱がとても高くなり私は救急に電話をするけれど彼らがやってこないことを私は知っている。だから私は歩く。歩く。私たちは貧しさ、失業、空腹、失望、そして喜びもない中、歩き続ける。乗るまで歩き続ける」
2.Walk Until I Ride / Shemekia Copeland
60年代の公民権運動の頃に作られたような曲でした。

次の歌はローリング・ストーンズでおなじみです。オリジナルのストーンズは男目線で歌っているので、「気ままに振舞っていた態度のでかいわがままな女を自分の女にして思うようにしてやったぜ。いい気分だ。」ということなんですが、ここでは女性が自分の思うような男にしてやった。偉そうな男をおとなしく変えてやったとなるわけです。アメリカの女性は強いですからね。アメリカでは男性の女性へのセクハラやパワハラに声をあげた”ME TOO”の運動が昨今あって、そういうこともバックにありつつの皮肉った歌とも取れます。
3.Under My Thumb/ Shemekia Copeland
何気ないなかなかいいアレンジだと思います。

前のアルバム「America’s Child」でも亡き父のジョニー・コープランドの曲を歌ってましたが、今回のアルバムでもジョニーの曲を最後に歌ってます。
多分お父さんは立派になった娘の歌に喜んでいると思います。
4.Love Song

大好きなシェメキアが今のままでもいいのですが、何か大きなヒット曲があれば彼女の良さがもっと知れ渡り、日本にも来てもらいやすくなるのではないかな。