2023.12.15 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.2

伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)

ON AIR LIST
1.Indiana Avenue Stomp/Montana Taylor
2.Boogie Woogie Cocktail/Andy Kirk & His Twelve Clouds Of Joy (Piano:Kenneth kersey)
3.Honky Tonk Train Blues/Meade “Lux” Lewis
4.Boogie Woogie Stomp/Albert Ammons & His Rhythm Kings
5.Death Ray Boogie/Pete Johnson

前回に引き続き「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」のアルバムを聴きながら。
ブルーズのダンス・ミュージックとして30年代から大流行したブギ・ウギの話。
現在NHKテレビの朝ドラでやっている笠置シズ子さんをモデルにした「ブギ・ウギ」。日本で流行ったのは1947年ころから50年代にかけてですが、アメリカではそれより30年ほど前からピアノによるブギ・ウギのブームが始まってました。
黒人たちが働く農園や材木の伐採場などを転々と放浪するビアノ・ブルーズマンたちによって広まっていったブギ・ウギはいろんなパターンのブギを作り出しました。今日の最初はアメリカ北西部モンタナ州の生まれなのでモンタナ・テイラーと呼ばれたピアニストが4曲だけ録音を残した内の1曲。
モンタナ生まれですがピアニストとして活躍したのかインディアナ州のインディアナポリスだったのでこういう曲名になったのでしょう。

1.Indiana Avenue Stomp/Montana Taylor

やはり他のブギ・ウギ・ピアニスト同様に左手のリズムはしっかり安定しています。この左手のリズムが基本のビートとなる重要なものです。右手で弾くフレイズに煌びやかな美しさがあります。とても印象に残る曲ですが、「ブギ・ウギ弾いても金にならへんわ」とたった4曲だけ残して姿を消したそうです。とにかく30年代にはすごい数のブギ・ウギ・ピアニストがいたらしです。
このアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」にはピアノ名人ばかり収録されているわけですが、中でも次の曲のピアノのスピード感とグルーヴ感には圧倒されました。録音の名義はアンディ・カーク楽団になってるのですが強力なブギ・ウギ・ピアノを弾いているのはケネス・カーシーというピアニスト。いろんな楽団、グルーブを渡り歩いた凄腕のジャズ・ピアニストです。

2.Boogie Woogie Cocktail/Andy Kirk & His Twelve Clouds Of Joy (Piano:Kenneth kersey)

リズムの感覚はすでにロックンロールです。
今のは1942年の録音なのですが、実はブギ・ウギが白人にも人気となったきっかけが1938年にジョン・ハモンドがプロデュースしNYのカーネギー・ホールで開催された「フロム・スピリチュアル・トゥ・スウィング」というコンサートでした。このコンサートでブギ・ウギ・トリオとも呼ばれる3人、ピート・ジョンソン、ミード・ルクス・ルイス、アルバート・アモンズがブギ・ウギ・ピアノを披露し熱狂的にウケたことからブームは白人の世界にも広がりました。
ひとり、ひとり聞いてみましょう。最初はミード・ルクス・ルイス
ピアノの左手のタイトなリズム・キープと右手から次々と繰り出されるフレイズの多彩さに唖然としてしまいます。タイトルにあるように汽車が走っているイメージの曲。

3.Honky Tonk Train Blues/Meade “Lux” Lewis

ミード・ルクス・ルイスは20年代にシカゴでタクシーの運転手をしながら夜パーティなどでピアノを弾いていて一部の人にしか知られていなかったそうです。今の曲は1935年2度目の録音で最初は1927年に録音されています。その最初の録音をたまたま聞いたプロデューサーのジョン・ハモンドがコンサートに呼び、そこから評判を得て人気のピアニストとして活躍しました。
次のブギ・ウギ・トリオの二人目はアルバート・アモンズ
シカゴ生まれのアモンズは6人くらいで編成されたバンドを持っていてピアノのソロだけで活動していたミード・ルクス・ルイスなどのピアニストとは違っていました。ジャズ寄りの洗練されたサウンドですが、バンドサウンドだけにリズムにもパワーがあります。

4.Boogie Woogie Stomp/Albert Ammons & His Rhythm Kings

バンド・アンサンブルの中でダイナミックにうまくブギ・ピアノを生かしているアルバート・アモンズでした。
次のピート・ジョンソンもジャズ畑のピアニストですが、強力なスピード感とグルーヴのあるこのブギは名演と言うしかない素晴らしさ。自然とみんなが踊るダンス・ミュージックとしてのブギ・ウギ・ピアノの極めつけの一曲。

5.Death Ray Boogie/Pete Johnson

いまの曲のスピードすごいです。左手でリズム引きながらですから・・・。
先週から聞いてもらっているピアニストは全員リズムがめっちゃいいです。これが肝。スイングしなけりゃ意味がないという曲がありますが、まさに「リズムが良くなければ意味がない」です。
1938年くらいから白人のジャズ・ファンにも浸透したブギ・ウギが約10年くらい経って作曲家の服部良一さんや歌手の笠置シズ子さんに日本風に使われて日本のブギ・ウギ・フームとなりました。来週は一回だけクリスマス特集になりますが、また再来週からブギの特集を続けます。先週と今週使ったアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)」はネットで中古で出ていたりレコード店でも見かけますので探してみてください。「トゥリー・トゥ・ワン・ゼロ!ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。

2023.12.08 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.1

伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)

ON AIR LIST
1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith
2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
3.Head Rag Hop/Romeo Nelson
4.Texas Stomp/Dot Rice
5.Overhand/Mary Lou Williams

皆さんはいまNHKテレビで放送されている朝ドラ「ブギ・ウギ」をご覧になっていますか。
日本のブギの女王と呼ばれた歌手笠置シズコさんをドラマのモデルにしていることもあって僕は興味深く見ています。しかもブギ・ウギという音楽はブルーズから生まれたものなので・・。だからこの機会に「本当のブギウギ」を知ってもらいたいと今回からしばらくブギの特集を続けたいと思います。
それでまずブギウギの入門アルバムとして1997年に日本のユニバーサル・ミュージックからリリースされた「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」を紹介したいと思います。メーカーでは廃盤になっていますが、ネットでは中古盤が出ているので是非ゲットしてください。
このアルバムは1928年から46年までの録音をコンピレーションしたもので、いろんなブギ・ウギの曲が収録されていて選曲と監修をされた故中村とうようさん。とうようさんの解説もとても役立ってます。
まずはブギ・ウギという曲名がついた史上初めて録音された曲。ブルーズ・ピアニストのパイントップ・スミスが1928年に録音したこの曲から

1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith

ブギ・ウギとはピアノから始まった音楽で1小節に8つのビートがある音楽で”8 To The Bar”とも呼ばれます。ピアノの左手でそのビートが打ち出されるます。これはのちにジャンプ・ブルーズというダンサブルな音楽を生み、それが50年代にチャック・ベリーやリトル・リチャードの登場でR&Rのビートの基礎となったリズムです。録音でブギ・ウギというタイトルが付けられた最初がいまの「Pinetop’s Boogie Woogie」ですが、それ以前、20世紀の初め頃からこういう音楽は黒人ダンスミュージックとして存在していました。
次のカウカウ・ダヴェンポートの曲は今の曲より少し前に録音されてブギウギと付いてないですがブギの曲です。
1928年の録音

2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
 
ピアノの左手の力強いビートと右手から繰り出されるいろんなフレイズが本当に見事。
いろんな本やネットにブギ・ウギが華開いたのは1920年代のシカゴと書かれてますが、実際は1900年くらいにはニューオリンズやミシシッピやテキサスの酒場のピアノで弾かれていたことがわかっています。特にテキサスでは材木伐採や石油を掘って採取する仕事に多くの黒人が労働者として集まっており、彼らの宿舎の近くにある安酒場のピアノで流れ者のピアニストが弾いたダンス・ミュージックのひとつがブギ・ウギの発祥とも言われています。
この「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」のアルバムには全部で26曲が収録されてて、どれも素晴らしい演奏ですが、録音されたブギ・ウギ・ピアニストの中には変わった人もいて、次のロミオ・ネルスンは4曲しか録音が残っていないのですが、どうもギャンブラーだったらしくてピアノを弾いてもギャンブルやるほど金にならないというのでピアノにはあまり気持ちがいかなかったようです。
こんなに個性的でアグレッシヴなブギウギ・ピアノを弾くのにギャンブラーにならずもう少し録音を残してくれれば・・と思います。

3.Head Rag Hop/Romeo Nelson

初めてアメリカへ行った75年に私がすごいなぁと思ったのはクラブやバー、ラウンジ、酒を飲むところにピアノが置いてあることでした。中にはオルガンがある店もかなりありアメリカの黒人音楽とピアノやキーボードの関係の濃さを感じました。多分昔の酒場なんかのピアノは調律も狂っていたりしたのでしょうが、そんなの関係ないとばかりブギでみんな踊ったのでしょう。
次のドット・ライスは女性のブギウギ・ピアニストですがこのアルバムでしか彼女の名前を知りません。20年代、30年代には女性ブギウギ・ピアニストもかなりいたようです。聞いてもらうとわかるように女性とは思えない豪快なピアノで、ピアノの音がすごく大きく鳴っているのがわかります。鍵盤を叩く手の強さも相当なものだったのでしょう。

4.Texas Stomp/Dot Rice

もうひとり女性ピアニスト。メアリー・ルー・ウィリアムズはブルーズ畑の人ではなく、ジャズ畑で有名な人です。作曲、アレンジでも有名で偉大なデューク・エリントンやベニー・グッドマンとも仕事をして100を超える録音を残しています。聞いてもらう曲ももろにブギウギの曲ではなくラグタイム・ビアノやオールドジャズのテイストが感じられます。

5.Overhand/Mary Lou Williams

今日聞いてもらった音楽が本当のルーツのブギウギです。
こうやって聞いてくるとアメリカではブギはピアニストにとっては弾けなければいけない、弾けなければ仕事にならない必須のジャンルだったのでしょう。ピアノ一つあればそこに人が集まってハウス・パーティでも酒場でもみんなでブギで楽しく踊れる。それは貧しい黒人たちにとって憂さを晴らす最高のダンス・ミュージックだったと思います。また来週もこのアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」から歴史的に貴重な録音を聴いてみようと思います。「ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。

2023.12.01 ON AIR

ウエストコーストの人気者だったフロイド・ディクソンの遺作

Time Brings About A Change: A Floyd Dixon Celebration

ON AIR LIST
1.Don’t Loose Your Cool/Floyd Dixon
2.Caldonia/Floyd Dixon
3.Sweet Home Chicago/Floyd Dixon feat.Henry Gray(vo)
4.Time Brings ‘Bout A Change/Floyd Dixon

今年の2月にリリースされたのに紹介するのをすっかり忘れていたライヴアルバムをON AIRします。
50年代半ばにウエストコーストで人気者だったピアノ・ブルーズのフロイド・ディクソン。ブルーズ・ブラザーズがカバーした(私もカバーしてますが)”Hey Bartender”のソングライターでありオリジナル・シンガーですが、そのフロイド・ディクソンの音楽的功績をお祝いしたイベント”Time Brings About A Change”が2006年6月に行われました。そのライヴ録音がBSMFレコードからリリースされています。
ゲストにはピアノと歌でヘンリー・グレイ、パイントップ・パーキンス、フレッド・カプラン、ハーモニカのキム・ウィルソン、そのキムのバンド「ファビュラス・サンダーバード」にも在籍していたギターのキッド・ラモス、そのラモスともアルバムを作ったことのあるジョニー・タッカーなどウエストコーストのしっかりしたミュージシャンたちがバックを務めています。
まずコンサートのオープニングを飾るインストルメンタルの曲

1.Don’t Loose Your Cool/Floyd Dixon

とてもいいバンドだと思います。ドラムはリチャード・イネス、ベースはラリー・テイラー、この二人はキム・ウィルソンとブルース・オールスターズというバンドをやってました。素晴らしいリズム・セクションです。

実はこのアルバムが録音されたライヴの二ヶ月後にフロイド・ディクソンは77才でガンで亡くなっています。そういう病のこともあってこのコンサートが企画されたようですが、ライヴではめちゃ元気です。とにかく人望の厚い人柄だったようです。次のディクソンの歌を聞いているととても二ヶ月後に亡くなるとは思えません。彼が好きだったルイ・ジョーダンの大ヒット曲。

2.Caldonia/Floyd Dixon
 
いろんなゲストによるいろんなブルーズが収録されているのですが、ここであまりにもスタンダード過ぎるこの曲を聞いてもらいたいと取り上げたのはこんなに自然にダウンホームに、緩やかに演奏ができているのが素晴らしいと思ったからです。途中のキム・ウィルソンのハーモニカ・ソロもいいです。ピアノと歌のヘンリー・グレイは

3.Sweet Home Chicago/Floyd Dixon feat.Henry Gray(vo)

このダウンホーム感が実はすごく難しいのです。
ヘンリー・グレイも2020年に亡くなってしまいましたが、50年代半ばのハウリン・ウルフのバンドはじめたくさんのシカゴ・ブルーズマンの録音やライヴに参加し晩年は故郷のルイジアナで活動していました。

次の曲は「時の流れは変化をもたらす。何事も同じままではない。一年前にしたことを俺はしたくない。愛した女は同じように愛しているが時が変えてしまう。一年前にここに住んでいた人たちももうここに住んではいない。時の流れは変化をもたらす」となんとなくフロイド・ディクソンの人生を歌っているようにも感じる曲です。

4.Time Brings ‘Bout A Change/Floyd Dixon

このアルバム、フロイド・ディクソンの記念ライヴのアルバムなのに彼のヒット曲の”Hey Bartender”や”Fine Fine Fine”などが演奏されていません。どういう理由かわからないのですが、DVDの方には彼のそういうヒット曲も演奏されているそうです。
今回はウエストコーストのブルーズシンガー&ピアニスト、フロイド・ディクソンの遺作となったライヴアルバム”Time Brings About A Change: A Floyd Dixon Celebration”
追記:あとでDVDを見たらすごくよかった。

2023.11.24 ON AIR

ジョン・バディーストのニューアルバム

”World Music Radio”

ON AIR LIST
1.Raindance/Jon Batiste feat.Native Soul
2.Be Who You Are/Jon Batiste feat.J.I.D,New Jeans,Camilo
3.Butterfly/Jon Batiste
4.Call Now/Jon Batiste feat.Michael Batiste

昨年のグラミー賞を5つも受賞して日本でもジョン・バティーストのファンになる人が増えてきて嬉しいと思っていたら10/6に来日しました。しかし、残念ながら単独公演がたった1日しかないその日、私は大阪でライヴがあり観れなくてとても残念な思いをしました。でも、今の彼の勢いがあれば近々また来日してくれると思います。
それで今日は8月にリリースされた彼のニューアルバム”World Music Radio”をON AIRします。前作の”We Are”が彼の故郷ニューオリンズのR&Bやジャズやブルーズ、つまり彼のルーツを感じさせるアルバムでしたが、今回のコンセプトはジョンが宇宙を旅するビリー・ボブというDJに扮して世界中の音楽をミックスさせ再構築して宇宙へON AIRするというアルバムです。新たなワールド・ミュージックの提案とも言えるのですが、これは常々ジョンが「ソーシャル・ミュージック」つまり誰もが繋がっていく音楽、世界を音楽で繋げるという考えの一つだと思います。
まずは一曲
「君が去ってしまった場所に僕はまだいる。君の雨を恵んで欲しい。愛の雨を降らせて欲しい。降り注ぐのをぼくは待っている。空を見上げてレインダンスを踊るよ」

1.Raindance/Jon Batiste feat.Native Soul

今回のアルバムは私がそんなに詳しくないヒッブホッブ、ラップ系のミュージシャン始め多くのゲストがいろんな曲に参加しています。でもそれが散漫にならずにできてるのはやはりジョンの手腕。
次の曲がこのアルバムの推し曲と思うのですが、その参加しているゲストをひとりも知らないので調べて見ました。まずはJ.I.Dというのは現在最も熱いラッパーのひとりと呼ばれていて、そのリリックが高く評価されグラミーにも何度かノミネートされている。
そしてNew Jeansというのは韓国Kポップのガールズ・グループで、アイドルグループなんですが、これがいろんな意味でクオリティが高くて日本のアイドルグループとは完全に一線を画してます。一度YouTubeでも見てください。そしてコロンビア出身の人気シンガー、カミーロ。
世界のいろんなミュージシャンを一つにコラボさせた曲です。

2.Be Who You Are/Jon Batiste feat.J.I.D,New Jeans,Camilo

次の曲はジョン自身がピアノだけで歌っている綺麗な曲です。タイトルは「バタフライ」ですから蝶々ですが、家に向かっている美しい彼女を蝶々に喩えて、何処へでも飛んでいけるよねと歌ってます。

3.Butterfly/Jon Batiste

次はジョンのお父さんのマイケル・バティーストがバック・コーラスで参加している曲です。ジョンの一家というより一族はニューオリンズでは有名な音楽一族でそういう中で育ったこともジョンの音楽に大きな影響を与えていると思います。そして実はジョンが来日してる時、10/10にジョンのいとこのドラマー、ラッセル・バティーストが亡くなってしまい葬儀に参加するためにジョンも早々とニューオリンズに向かったそうです。僕もニューオリンズに住んでいる山岸潤史を介してラッセルには会ったことがあるので驚きました。残念です。
ジョンのお父さんのマイケルは一族で結成していたバティースト・ブラザーズでベースと歌を担当していました。そのお父さんを迎えてのコラボです

4.Call Now/Jon Batiste feat.Michael Batiste

ジョンはあらゆる差別に反対する運動を続けているのですが、基本的にとてもポジティヴでパワフルな人で音楽で世界のミュージシャンをソーシャル、つまり繋げて行こうとしています。去年グラミーを取ったことで人脈も増えてコラボもやりやすくなっているように思います。その内に日本からも彼の録音に参加する人が出てくるかもしれません。新しいワールド・ミュージックの構築です。
今回のアルバムはその彼の考えを音楽的に一歩前に進めたアルバムだと思います。とても多彩で最初に聞いたときは少し統一感がないように思えたのですが、聞いている内に一つ一つの曲の繋がりがわかるようになってきました。すごくいいアルバムだと思います。
やはり才人、ジョン・バティーストです。

2023.11.17 ON AIR

チタリン・サーキットのキング、ボビー・ラッシュ新譜!

Bobby Rush /All My Love For You

ON AIR LIST
1.I Want To/Bobby Rush
2.Running In And Out/Bobby Rush
3.TV Mama/Bobby Rush
4.You’re Gonna Need A Man Like Me/Bobby Rush

自分が長いツアーをやっている時に思い出すのが「チタリン・サーキットのキング」と呼ばれる現役のボビー・ラッシュのことです。
その80才を過ぎたリヴィング・レジェンドのブルーズマン、ボビー・ラッシュが8月に新しいアルバムをリリースしました。今も現役でアルバムを出してくれるのは嬉しいですね。なんと29枚目のアルバムだそうです。グラミーを獲得した前のアルバム”Rawer Than Raw”はアコースティク・アルバムでしたが、今回は彼の看板でもあるサザン・ファンク・ブルーズなアルバムです。
まずはいかにもボビー・ラッシュらしいダウン・ホームなテイストのファンキーなブルーズ曲でハーモニカのソロもホビーならではの味わいのあるものです。

1.I Want To/Bobby Rush

この曲のプロモーション映像がyou tubeにアップされてるんですが、キラキラのラメの入ったジャケットに真っ白な靴という出で立ちで軽くステップを踏んで踊ってます。こういうイナタ・ファンキーなフィーリングがもう最高。
1933年にルイジアナに生まれたボビー・ラッシュはアーカンソー、シカゴと移り住みながらブルーズのスキルを磨き、64年にシングルデビューしてその後もろんなレーベルからシングルをリリースしましたがヒットには恵まれませんでした。79年になってやっと初アルバム”Rush Hour”をリリースしましたが、これも一部のブルーズ・ファンの評判になっただけでした。
でも、彼は南部の黒人クラブを毎晩ライヴして回るいわゆるチタリン・サーキットを続けその活動が途絶えることはなかった。映画「ロード・トゥ・メンフィス」で彼のツアーの様子が映し出される場面がありましたが、ステージだけではなく日程の調整からギャラの交渉、メンバーのケア、車の運転までやる彼が「B.B.キングとかバディ・ガイのようになれたら楽なんだけどなぁ」と少し弱音を吐くシーンがありました。でも、そういうツアーを続ける彼の姿が同じように日本でツアーを続ける私には励みになっています。

ジョン・リー・フッカーの「ブンブン」のようなイントロから始まる2ビートのトラッドなブルーズ・スタイル
ボビー・ラッシュのハーモニカは格別上手い訳ではないんですが、曲の味付けにすごくいい味を出しています。よくブルースを知っている人のハーモニカです。

2.Running In And Out/Bobby Rush

南部のブルーズの匂いがプンプンする曲でした。めちゃくちゃカッコええという訳でもなく、近所の目立ちたがりのちょっと歌のうまいおっちゃんが歌っているような感じがええんですわ。ファンクというてもジェイムズ・ブラウンみたいにビシビシ決める感じではなく、ジョニー・ギター・ワトソンのようにちょっと小粋な感じがある訳でもない・・まあイナたいんですね。

3.TV Mama/Bobby Rush

歌がめちゃ上手い訳でもなく、ハーモニカやギターがめちゃ上手い訳でもなく、何か斬新なことがある訳でもないのですが、ブルースのツボを心得ている人です。
もう1曲バラードを最後に「別れたいと言ったお前、わかってるよ街の向こうに住んでる男やろ。俺は仕事をふたつやって家に金を持って帰ってきたけどいつもお前はいなかった。全てをお前にあげたよ。でも、いつの日にかお前には俺のような男が必要になるのさ」

4.You’re Gonna Need A Man Like Me/Bobby Rush

日本のチタリン・サーキットをツアーしている僕にとってボビーは尊敬する、そして親近感のあるブルーズマンです。アルバムも出してツアーも続けて欲しいです。できれば来日してください。今日はボビー・ラッシュのニューアルバム ”All My Love For You”を聞いてもらいました。がんばってます、ボビー・ラッシュ。