2024.02.02 ON AIR

シカゴ・ブルーズにもブギウギ・ヒート vol.8

ON AIR LIST
1.Chicago Breakdown/Big Maceo
2.Spann’s Stomp/Otis Spann
3.Hawaiian Boogie/Elmore Jams(piano:Johnny Jones)
4.Chicago Boogi/Roosevelt Sykes
5.Lee’s Boogie/Rie Lee Kanehira

30年代から40年代にかけて流行ったブギウギのブームが去った後、ブギウギはブルーズ・ピアニストにとって必須の奏法のひとつとして定着しました。ブームというよりひとつの音楽革命です。それくらいブギウギが黒人音楽に与えた影響は強く、有名無名すごい数のブギウギ・ピアニストがいました。それは40年代からブルーズのメッカとなっていったシカゴでも同じでした。
まず40年代初めから中頃にかけてシカゴのブルーズ・ピアノのキングだったビッグ・メイシオ。彼はブルーズ史上に残る名作”Worried Lif Blues”で有名になり後続のシカゴのピアニスト、オーティス・スパンやリトル・ジョニー・ジョーンズたちはみんなメイシオに憧れていました。左利きだった彼が打ち出すピアノのリズムはピアノが強烈に揺れているのがわかる強さです。そして右手で繰り出されるフレイズの多彩さはやはり「キング・オブ・シカゴ・ブルーズ・ピアノ」と呼ぶにふさわしいものです。彼が残した強力なブギ・ピアノの名曲”Chicago Breakdown”をまず聞いてください。
1945年録音

1.Chicago Breakdown/Big Maceo

もうなんかピアノがウンウン唸ってます。強力なタッチで鍵盤をパーカッシヴに叩いているのが音だけでわかります。途中でリズムを弾いている左手で遊ぶところなどはもう余裕です。こんなにピアノが弾けたら気持ちええやろなぁと思います。ピアノは美しいメロディを奏で両手でオーケストラのように歌を包み込む楽器ですが、コンガのように鍵盤を叩くパーカッションでもあります。だからリズムが悪いピアニストはNGということになります。
ビッグ・メイシオの影響を強く受けた後続ピアニストの一人が次のオーティス・スパン。
僕がピアニストのアルバムで一番たくさん持っているのがオーティス・スパン。マディ・ウオーターズはじめいろんなブルーズマンのバックで録音したものもありますが、単独アルバムとして僕が持ってるのはスパンが多いです。そのスパンの曲の中でブギウギ関連の曲というと60年代にヴァンガード・レコードに録音した見事なブギウギのこの曲がまず浮かびます。

2.Spann’s Stomp/Otis Spann

スパンより少し前、1940年代終わりからビッグ・メイシオに代わりシカゴで台頭して来た若きピアニストの一人がジョニー・ジョーンズ。エルモア・ジェイムズやギター名人タンパ・レッドのレコーディングでパワフルでタイトなリズムを聞かせてくれる。御大ビッグ・メイシオが病気になって手が動かなくなった時には歌だけ歌うメイシオの横でピアノを任されるということもありました。ジョニー・ジョーンズ自身が歌った録音もあるがやはりバッキングに回った時の演奏がいいのでそれを聞きます。エルモアのバンドでいい仕事をしたジョニー・ジョーンズのリズミックなピアノが印象に残るこの曲も底辺に流れてるのはブギウギ。

3.Hawaiian Boogie/Elmore Jams(piano:Johnny Jones)

1953年の録音でブギウギということを全面には出していないが、弾いているピアノのスタイルはブギウギ。
シカゴというよりブルーズピアノの歴史の中で忘れてはいけないひとりがルーズベルト・サイクス。1929年にオーケー・レコードからリリースされた「44 Blues」という曲がヒットし名前が知られるようになった。この曲は歴史に残る曲となり今も演奏されている。アーカンソー州で生まれたサイクスは10代からいろんな土地を放浪して酒場で演奏するバレルハウスのブルーズ・ピアニストだった。ミシシッピ、テキサス、セントルイス、ニューヨークと流れ30年代半ばにシカゴに定着し録音も盛んに行うようになった。
聞いてもらうのは1951年のシカゴ録音

4.Chicago Boogie/Roosevelt Sykes

かってはシカゴもブルーズ・ピアニストが本当にたくさんいたのですが、ギターがブルーズの楽器の主役になってからはちゃんとブルーズが弾けるブルーズ・ピアニストが減りました。もう60年代くらいからそういう兆候はあったのですが・・。
今日は最後に現在シカゴで活躍する日本人女性ブルーズ・ピアニストRie Lee Kanehiraのオリジナルのブギの曲で終わりたいと思います。僕も親しくさせてもらっているLeeはシカゴのキャッシュ・ボックス・キングスというバンドに参加してそれをメインにソロやデュオでもシカゴで活動してます。ヨーロッパや中国にも演奏に行ってます。日本にいるときは東京中野のブライト・ブラウンというお店でソロライヴをやっているので是非聴きに行ってください。
2017年にリリースされた彼女のソロ・アルバムからアルバム・タイトル曲で”Lee’s Boogie”

5.Lee’s Boogie/Rie Lee Kanehira

こういう正統なブギウギのピアノが弾けるピアニストも少なくなってますが、こうして日本から出たピアニストによって受け継がれていることとが嬉しくもあり、誇りにも感じます。

2024.01.26 ON AIR

もうひとつのブギウギ/ジョン・リー・フッカーの個性的なブギ vol.7

ON AIR LIST
1.Boogie Chillen/John Lee Hooker
2.Hoogie Boogie/John Lee Hooker
3.Feelin’ Good/Junior Parker
4.I Feel So Good/I Wanna Googie/Magic Sam
5.Boogie Thing/The James Cotton Band

アメリカでは20年代から始まったブギウギの嵐が30年代も収まらず40年代にはアフリカン・アメリカンだけでなくアメリカのポピュラーソングの土壌にブギウギはしっかり根を張ってしまいました。つまり、一過性の流行りの音楽ではなくアメリカ音楽のルーツのひとつとなったわけです。
1946年にブギウギから発展したR&Bの匂いをさせたルイ・ジョーダンの”Choo-Choo Ch’ Boogie”が18週間R&Bチャートの1位となりそれまでのピアノ・ブギからバンド・サウンドによるブギそしてR&Bへと変化いく中で、49年にダウンホームつまりアメリカ南部を感じさせるイナたいブギがデトロイトから発信されました。ジョン・リー・フッカーの「ブギ・チレン」です。R&Bチャートの1位となり、なんと100万枚売れました。歌詞は「オレのお袋はオレが一晩中遊んでいるのを許してはくれなかった。オレはそんなこと気にせず一晩中ブギしてた。初めて街のヘイスティング・ストリートを歩いているとみんなが「ヘンリー・スイング・クラブ」のことを話していたので行ってみたら、みんなめちゃ盛り上がってるやん、そう「ガキども、ブギで踊れ!」だ」

1.Boogie Chillen/John Lee Hooker

ジョン・リー・フッカーの「ブギ・チレン」
このミシシッピー伝統のワン・コードのブギが都会に出て来ていたデトロイトの黒人たちから支持され、やがて全米ヒットになり「ブギ」はジョン・リー・フッカーの代名詞のようになった。都会に出て来て洒落た音楽が好きになる黒人ぱかりでなくこういう故郷南部のグルーヴを持ったリズムがやはり心地よいと感じる黒人も多かった。
しかし、このブギは今まで聞いて来たピアノやバンドのブギとまた違う種類のジョン・リー独自のブギ。リズムもギター一本で弾き語りで演奏されています。もうオーケストラやエレキ・ギターの入ったバンドが全盛になりつつある時にこんな土着的な匂いのブルーズ・ブギが大ヒットしたのです。
僕はとにかくジョン・リー・フッカーがめっちゃ好きでアルバムもボックスもたくさん持っているんですが、内容のバリエーションは全然ないです。でもなんかこう聞きたくなるんですね。もう一曲おかわりです。

2.Hoogie Boogie/John Lee Hooker

このジョン・リーの独特のブギのグルーヴはその後の時代もサウンドを変えて受け継がれてくのですが、50年代初期に”Feelin’ Good”という曲でこのブギを受け継いだのがメンフィスにいたジュニア・パーカー。ジョン・リーのギター・ブギのグルーヴを使いながらどこか洗練されたモダン・ブルースのテイストを感じさせる不思議な曲。

3.Feelin’ Good/Junior Parker

更に60年代にはジュニア・パーカーのヴォーカルに影響を受けたマジック・サムがこの曲を今度はロッキン・ブルーズとして”I Feel So Good/I Wanna Googie”というタイトルで見事に再生させるという素晴らしいブルーズの継承がありました。

4.I Feel So Good(I Wanna Googie)/Magic Sam

70年代になってこのジョン・リーのブギに新たに命を吹き込んだのがジェイムズ・コットン・バンド。
ハーモニカの名手ジェイムズ・コットンとギター名人マット・マーフィがタッグを組んだこのバンドが74年に発表した”100%コットン”はファンク・ブルーズと呼ばれ新しいグルーヴのブルーズを作りました。
そしてその中の「Boogie Thing」はジョン・リー・マナーのブギを使いながらも生き生きとした新しさがありました。
今日最初のジョン・リー・フッカーの1949年の「ブギ・チレン」からジュニア・パーカーの50年代の「Feelin’ Goodそして先ほどのマジック・サムの60年代後期の「I Feel So Good/I Wanna Googie」に受け継がれたブギが70年代に入って新しく生き返りました。マット・マーフィのリズム・ギターがジョン・リーのブギの裏打ちやリズム・パターンを何気なく使っているところが聞きどころです。

5.Boogie Thing/The James Cotton Band

前も言いましたが、70年代に今のコットン・バンドがデビューして間も無く彼らのロスでライヴを観たのですが、本当にブルースにもブギにも新しいテイストを吹き込んだ素晴らしいバンドでした。こんな素晴らしいブルースを「あんなのはブルースではない」と言ったアホな評論家もいました。

2024.01.19 ON AIR

ブギ・ウギからジャンプ・ブルーズ、そしてワイルドなギターのヒューストン・ジャンプへ vol.6

ON AIR LIST
1.Strollin’ With Bone/T.Bone Walker
2.Okie Dokie Stomp/Clarence”Gatemouth”Brown
3.Midnight Hour/Clarence”Gatemouth” Brown
4.Come On Let’s Boogie/Goree Carter
5.Frosty/Albert Collins

前回はブギウギからジャンプ・ブルーズが生まれた話をしましたが、そのジャンプ・ブルーズから今度はテキサスのヒューストンで「ヒューストン・ジャンプ」というアグレッサシヴなダンス・ミュージックを生みました。
ヒューストンはテキサス州の大きな街で今では工業、商業都市としてよく知られてますが、ブルーズにとってもヒューストンそしてテキサスは重要な場所です。1920年代にはテキサスから偉大なカントリー・ブルーズマン、ブラインド・レモン・ジェファーソンが登場し、子供の頃その盲目のブラインド・レモンの手を引いて手伝っていたのがT.ボーン・ウォーカーでした。T.ボーンのブルーズは1940年代初めにウエストコーストで花開いたのですが、そのアグレッシヴかつ緻密なギター・プレイは後続のテキサスのブルーズマンたちに大きな影響を与えました。だからヒューストン・ジャンプが生まれる素地はすでにテキサスにはあったのです。ではまずそのT.ボーンの豪快かつ緻密なインスト曲です。
バックのピアノは完全にブギウギ・ピアノです。

1.Strollin’ With Bone/T.Bone Walker

素晴らしいとしか言い様がない。バンドのリズム、ギターソロ、テーマ、ホーン・アレンジ全て完璧な曲です。こういうアグレッシヴな演奏というのがテキサス・ブルーズの一つの特徴です。そして更にギターをアグレッヴにしたのが後進のゲイトマウス・ブラウンでそれはヒューストン・ジャンプと呼ばれました。

2.Okie Dokie Stomp/Clarence”Gatemouth”Brown

この曲はご存知の方も多いと思いますが、1974年にリリースされた名ギタリスト、コーネル・デュプリーの”Teasin'”というアルバムでカバーされています。彼もテキサス出身なのでこのゲイトマウスの曲は多分若い頃聞いていたのでしょう。
次はゲイトの歌を聴いてみようかと思います。
歌もギターも男臭さが充満しています。これはウケるだろうなと思います。

3.Midnight Hour/Clarence”Gatemouth” Brown

「リトルT.ボーン」とう芸名で売り出されたゴーリー・カーターは確かにT.ボーン・ウォーカーが大好きで歌とギターを始めたヒューストン・ジャンプの人気者だった。T.ボーンより芸が荒いとの評判もあながち間違ってはいないのですが・・。40年代終わりから50年代初めの録音しかなく、その後は地元ヒューストンのローカル・ブルーズマンとしてクラブでライヴをやっていたようです。まあ、何かとT.ボーンに似ているというのも災いしたのかも知れません。この曲もB級T.ボーンという感じがしなくもないですが、僕はこういうB級感好きです。勢いがあってはみ出しそうな感じもいいですね。

4.Come On Let’s Boogie/Goree Carter

こういうヒューストン・ジャンプが後続の地元ブルーズマンに与えた影響は大きく、ジョニー・ギター・ワトソンやアルバート・コリンズに引き継がれて行きました。
今日は後一曲しかON AIRできないのでえげつないギターではゴーリー・カーターにも負けないテキサスの後輩アルバート・コリンズを聞きましょうか。曲は1962年の録音のインスト。

5.Frosty/Albert Collins

長い間ブルーズを聞いている自分の残念な想いはT.ボーン・ウォーカーのライヴを聞けなかったことです。もう少し長生きしてくれたらロスで観れたかもしれないのですが・・。こうしてテキサスのブルーズマンを聞いているとやはりT.ボーンが曲、歌、演奏、ギターで抜きん出ていると感じます。「モダン・ブルーズ・ギターの父」ですから。
それにしてもブギウギは完全にブルーズに埋め込まれ、60年代に入ってもアルバート・コリンズの曲のように脈々とそのリズムが生き続けているのがわかります。
来週はもう一つのブギを作った偉大なジョン・リー・フッカーです。

2024.01.12 ON AIR

ブギウギ Vol.5

ブギウギから生まれたジャンプ・ブルーズの大流行

ON AIR LIST
1.Let The Good Times Roll/Louis Jordan
2.Good Rockin’ Tonight/Roy Brown
3.Chicken Shack Boogie/Amos Milburn
4.When You Left Me Baby/Cecil Gant
5.Good Morning Judge/Wynonie Harris

30年代から始まったブギウギの大流行は黒人だけでなく白人も取り込んで全米に広がりました。ジャズ・オーケストラもブギを取り入れないと仕事にならない。曲もなんとかブギとタイトルをつけられた曲が星の数ほど作られました。
そしてブギ・ウギのリズムから次に生まれたダンサブルなR&B「ジャンプ・ブルーズ」が40年代の主役となりました。その中心となったのが大スター、ルイ・ジョーダン。ルイ・ジョーダンも元々はジャズ・オーケストラのサックス・プレイヤーでしたが、独立して「ティンパニー・ファイヴ」というコンボを組みR&Bチャートのトップに18曲ランクインさせるという人気ぶり。前々回でも2曲ほどOn Airしましたがとにかくヒット曲が多く「キング・オブ・ジュークボックス」と呼ばれました。つまりジュークボックスに彼の曲がたくさん入っているというわけ。今日最初の曲はリリース当時はそんなにヒットしなかったのですが、じわじわと人気が出て今やブルーズのスタンダード曲として多くのミュージシャンにカバーされています。

1.Let The Good Times Roll/Louis Jordan

この曲は映画「ブルース・ブラザーズ」でも流れていました。「楽しくやろうぜ」という内容でB.B.キングがステージのオープニングで歌っていた頃もありました。ちなみにB.B.はルイ・ジョーダンの大ファンでトリビュート・アルバムも録音してます。40年代に思春期を過ごした黒人ミュージシャンたちはほとんどこのルイ・ジョーダンに憧れを持っていたと言っても過言ではないでしょう。
ルイ・ジョーダンの曲もそうですがジャンプ・ブルーズにはジャズのアンサンブルが使われています。ホーン・セクションが決められたテーマやリフを吹き、ソロもサックスなどホーンがやることが多いです。ギターが前面に出てくるまでにはもう少し時代を待たなければなりません。しかし、ジャズ・テイストが強かったとしても根底にあるリズムはブギウギなのでダンサブルな音楽として人気だったのです。

次のロイ・ブラウンもジャンプ・ブルーズ時代に人気のあったシンガーです。後の大スター、エルヴィス・プレスリーはその歌い方を真似していると言われています。このロイ・ブラウンの大ヒット曲も”Let The Good Times Roll”と似ていて「今夜、ええ感じのパーティがあるから彼女と待ち合わせしてロックで踊って嫌なこと忘れるんや」という内容です。ブギウギ・ベースのダンス・ミュージックとして当時はこういう陽気な、他愛ない曲が受けたんですね。

2.Good Rockin’ Tonight/Roy Brown

1947年のヒット”Good Rockin’ Tonight”

次のピアニスト&シンガーのエイモス・ミルバーンは吉田類さんのテレビ番組「酒場放浪紀」のテーマにも使われている”Bad Bad Whisky”や”One Scotch,On Burbon,One Beer”などお酒ネタのブルーズでヒットがあるブルーズマンですが、1948年のこの素晴らしいブギ・ウギの曲も大ヒット曲しました。

3.Chicken Shack Boogie/Amos Milburn

次のセシル・ギャントは”I Wonder”というムードのあるブルース・バラードが大ヒットし、スロー・ブルーズでも実に味のあるピアニスト&シンガーですが、このアップ・テンポのブギは絶品です。
37才という若さで亡くなったため活動期間が短く、音源もそう多くはないために忘れられがちだが素晴らしブルーズマン、ピアニスト。

4.When You Left Me Baby/Cecil Gant

ブルーズというと悲しみや苦しさを表現してる憂いのある音楽と思っている人の中にはこのジャンプ・ブルーズというのはダンサブルな陽気な音楽で憂いがなくて好きじゃないという人もいます。バックはジャズのビッグ・バンド・スタイルもあればホーン・セクションを少なくしたコンボ・スタイルもありますがブギウギのリズムをルーツにしてホーンセクションを前面に出した躍動感のあるグルーヴが特徴です。シンガーは大きな声で歌うシャウターと呼ばれるタイプが多いのですが、大きな音のホーン・セクションを使ってれば歌声も大きくなるというものです。最後にジャンプ・ブルーズの代表的なシンガーの一人であるワイノニー・ハリスのご陽気なこの曲を。

5.Good Morning Judge/Wynonie Harris

昔ブルー・ヘヴンというバンドを吾妻光良くんとやっていた時にこの曲を歌っていました。今や日本のジャンプ・ブルーズ・キングと呼ばれる吾妻光良くんは「ジャンプとジャイヴだけあればいい」と私に言い放ちましたが、私はそこまでジャンプ・ブルーズに執心はありません。でも元気を出したい時なんかにはいいです。
来週はジャンプ・ブルーズのもう一つの流れヒューストン・ジャンプのゲイトマウス・ブラウンなどをお送りします。
いよいよアグレッシヴなギターが登場。お楽しみに!

2024.01.05 ON AIR

「ブギ・ウギ」vol.4

日本のブギの女王、笠置シズ子

ON AIR LIST
1.東京ブギウギ/笠置シヅ子
2.買物ブギー/笠置シヅ子
3.ジャングル・ブギー/笠置シヅ子
4.たよりにしてまっせ/笠置シヅ子
5.Beat Me Daddy, Eight To The Bar/The Andrews Sisters

明けましておめでとうございます。
去年から連続特集しているブギウギの4回目。
NHKの朝ドラ、皆さんご覧になっていますか。ドラマのタイトルが「ブギウギ」そして主人公のモデルが戦後「日本のブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子さんという音楽に関するドラマでもあり、僕は初回からずっと観ています。黒人のブルーズから生まれたスイングやブギはじめアメリカの音楽がどんな風に日本に入って影響を受けたのかということには興味がありますが、基本フィクションですからそこの音楽的な深堀りはドラマにはあまりありません。ドラマで描かれているのが第二次世界大戦の前後で、中心になるのが笠置さんが国民的スターとして売れた1940年代から50年代。第二次世界大戦が終わったのが1945年。先週ON AIRしたルイ・ジョーダンの”Choo-Choo Ch’ Boogie”が大ヒットしたのがその翌年46年。戦争に勝ったこともありR&Bチャート1位を18週間続けてキープしたブギでアメリカは踊りはしゃいでいたのでしょう。そして翌年1947年に日本でブギと名のつくこの曲が大ヒットしました。

1.東京ブギウギ/笠置シヅ子

戦争に勝ったアメリカもブギで揺れましたが、負けた日本もブギのこの曲でみんなが元気になったわけです。しかし、同じブギという言葉を使っていても音楽的には違ったテイストだとブルーズから生まれたブギウギを知っている方は感じるでしょう。
東京ブギウギの作詞は鈴木勝さんという方で作曲が服部良一さん。服部良一さんは日本のポップス史上とても重要な方です。元々ジャズ畑ですがクラシックの勉強もされていて幅広く作曲、アレンジができるだけでなくシャンソンなど当時の外国の音楽に精通されていました。服部さんはファンキーでパワフルな歌手、笠置シズ子さんに感動して笠置さんにたくさんの曲を書かれましたが、ブギと曲名がついていても黒人音楽のブギをそのまま持ってきたのではなくもちろん日本語ですし、日本風にうまくアレンジされた曲調になっています。それはその前に服部さんが作られ大ヒットとなった淡谷のり子さんの「別れのブルース」も黒人音楽のブルーズのダイレクトな取り込みではなくブルースの持つ憂鬱な、グルーミーなサウンドやテイストを取り入れているだけでビートやメロディは日本風です。つまりアメリカの音楽の日本風取り込みに成功した曲です。
特に笠置さんに提供した一連のブギの曲はそれまで日本になかったファンキーなテイストにあふれています。それまでの日本の大衆音楽はセンチメンタルで哀愁や悲しみを表現したものが大半でしたが、服部さんはパワーと笑い、そしてダンサブルであることに力を入れました。
しかし、ブルーズについてもブギ・ウギに関しても黒人音楽とはやはり一線を引いて聴くべきものだと感じます。
次の買い物ブギなんかはルイ・ショーダンの歌詞がノベルティなのをなんとか日本語でノベルティにできないかと工夫されたのではないかと思います。特に大阪弁を使ったところが素晴らしい発想で大阪弁のファンキーなテイストがこの曲の大切なポイントになっています。1950年リリース。当時45万枚の大ヒット。作曲服部良一、作詞は服部さんの作詞家としてのペンネーム村雨まさをになっています。

2.買物ブギー/笠置シヅ子

笠置さんは四国生まれの大阪育ち、作詞作曲の服部さんも大阪生まれというところでこういう歌詞と歌が生まれたわけですが、作曲も含めて本当に見事なポップ・ソングだと思います。
次の曲は日本映画の名監督黒澤明さんの映画「酔いどれ天使」の中で出演した笠置さんによって歌われました。驚くのは作詞したのが監督の黒澤さんということです。この映画はを私も何度か見ていますが、戦後の日本のどさくさの闇市の中で生き抜こうとする日本人の姿を描いています。1948年リリース。

3.ジャングル・ブギー/笠置シヅ子

リズムは4ビートシャッフル的で歌詞の合いの手なんかは日本的でホーンアレンジの不穏な感じといいすごいムードの曲です。そして笠置さんのリズムのいいパワフルな歌も素晴らしです。
次は1956年、戦争終わって約10年すぎると笠置さんのブギのブームも終わりに向かいます。そしてラテンのリズムを使ったファンキーな曲を服部さんは作ってます。
この関西弁をラテンのリズムに載せるという作曲方法が素晴らしくて、実によく考えられているのに驚きます。僕も小学校へ上がる頃で家にまだテレビはなかったですが、ラジオから流れてくるこの面白い(当時は変な曲やと思ってました)をよく聞いてました。

4.たよりにしてまっせ/笠置シヅ子

バンド上手いです。笠置さんの語るようなグルーヴ感のある歌が見事です。
今回、ブギの特集ということでいろいろ聞いて来ましたが、服部さんの作られたブギとタイトルにつく曲はストレートに黒人音楽のブギを全面的に入れたのではなく、ブギの持つリズムの高揚感とかダンサブルなところをそしてファンキーなテイストを取り入れてます。日本語なのでメロディは日本的です。多分黒人のブギではなく、黒人のブギを取り入れた白人のブギ、例えばアンドリュー・シスターズあたりから吸収したもので、黒人のR&B的なテイストは少ないように思います。
そのアンドリュー・シスターズ。1940年リリース。

5.Beat Me Daddy, Eight To The Bar/The Andrews Sisters

服部さんはジャズ・ミュージシャンでしたから黒人のモロのブギウギではなくてこういう白人ジャズの中のブギやスイングをよく参考にされたのではと思います。やはり日本に適応するブギという事で工夫されたのだと思います。笠置しづ子という傑出した歌手を見つけ自分が思い描くアメリカ音楽の導入をされてそれを日本風にアレンジされヒットを連発した作曲家服部良一さんの残した功績は偉大です。約10年で笠置さんの時代は終わっていくのですが、笠置さんのモノマネ登場したまだ少女だった美空ひばりさんがその後の時代の女王となりました。
黒人ブギのリズムは40年代の終わりから特にルイ・ジョーダンの大きな影響でR&BとR&Rの流れに取り込まれていきます。それは今も続いていてブギはジョン・バティーストの音楽の中にも生きているし、いろんなロックの曲の中にも生きています。ブルーズを演奏する者にとっては必ず身につけなければいけないビートの一つが黒人音楽のブギです。
次回は50年代以降の黒人音楽の中のブギ・ウギの変遷の話をしましよう。