ブルーズと共に歩いた故小出斉くんを悼む
Walking Alone With The Blues/Hitoshi Koide(SouthSide Records)

ON AIR LIST
1.You Don’t Have To Go/Hitoshi Koide
2.The Moon Is Rising/Hitoshi Koide
3.If I Get Lucky /Hitoshi Koide
4.Broken Heart/Hitoshi Koide
ブルーズに興味があり音楽雑誌を読んだり、ブルーズのサイトを訪ねたり、またブルーズのアルバムを持ってる人なら小出斉という名前を見たことがあるはずです。またブルーズバンド、ローラー・コースターやハーモニカ道場などライヴの場で小出くんの演奏を聴いたことがある人も多いと思います。彼はブルーズ・プレイヤー、ギタリストでありながら、膨大で正確なデータを盛り込んだ「ブルース・CDガイド・ブック」やブルーズの歌詞を説明した「意味も知らずにブルースを歌うな」などブルーズ関連の書籍を残したライターでもありました。また多数のブルーズアルバムのライナーノーツも書いてきました。その小出くんが今年の1/28に66歳で亡くなってしまいました。改めてご冥福を祈ります。
小出くんと知り合ったのは僕が70年代後半からやっていたブルー・ヘヴンというバンドで、それまでのギターの吾妻光良くんがバンドを辞める際に代わりに紹介してくれたのが小出くんでした。吾妻くんは小出くんとは同じ早稲田大学の軽音楽同好会の先輩後輩という間柄でした。「後輩でちゃんとブルーズを弾ける奴を紹介します」と吾妻くんが言って連れてきたのが小出くんでした。最初はあまり喋らなかった彼は「寒い新潟生まれなので口が重い」と笑いながら自分で言っていました。その頃から彼がブルーズのレコードをたくさんコレクトしていることは有名でした。そんな彼が当時好きなのはダウンホームなシカゴ・ブルーズから戦前カントリー・ブルーズでした。
今日は昨年リリースされた小出くんの弾き語りソロアルバム”Walking Alone With The Blues”を聴きながら彼を追悼したいと思います。まず一曲。これもシカゴ・ダウンホームブルーズのビッグスター、ジミー・リードの有名曲
1.You Don’t Have To Go/Hitoshi Koide
この小出くんのソロ弾き語りアルバム”Walking Alone With The Blues”は昨年5/8にリリースされ、小出くんはひとりでアルバム・リリースツアーをやっていました。頑張ってるなと思ってたのですが・・残念です。
振り返るとブルー・ヘヴンというバンドを一緒にやっていた時、車でツアーすると車中で聴くテープをメンバーみんなが持ってきたものです。その時小出くんが持ってきて私が初めて聴いたのがロバート・ナイト・ホークでした。スライド・ギターの名手でブルーズをたっぶり含んだ重い、でも輝きのあるギターの音色がすごく印象に残り「小出、これ誰?」と聴くと「ロバート・ナイトホークです」と言うから「ナイトホーク・・夜鷹か」と笑った想い出があります。
スライドギターはやってませんが、そのナイトホークの曲です
2.The Moon Is Rising/Hitoshi Koide
ギターもいいんですが、小出くんの歌がすごくいいです。
ロバート・ナイトホークはじめ、エディ・テイラー、ジミー・ロジャースなどダウンホーム・ブルーズマンの魅力を僕に教えてくれたのが小出くんでした。70年代後期、モダン・ブルーズ・ギターに傾倒する日本人ギタリストが多い中で小出くんはしっかりしたウォーキン・ベースを弾き、僕らが「ラジオ・ヴォイス」と呼んでいたちょっとくぐもった声でダウンホームなブルーズを歌っていました。
ブルーヘヴンに参加してもらった時、自分もバンドも方向がロッキン・ブルーズに向いていてダウンホーム・ブルーズが好きな小出くんには辛い思いをさせたかなとずっと思っていた。その話をしないまま彼は逝ってしまいました。
次の曲はアーサー・クルーダップがオリジナルですが、小出くんのこのアレンジは自分で考えたものでしようか。
3.If I Get Lucky /Hitoshi Koide
ライターとしての小出くんにもその人柄が出ていて必ずそのアルバムのいいところ、そのミュージシャンのいいところを見つけて書いていました。そして何より彼がライナーノーツや本を書くときに聞くのはもちろん、ブルーズのことを調べる量が半端なくていつも読んでいて信用できる文でした。彼がいなくなってブルーズのライナーや文をこれから誰が書いていくのだろうかと思います。
文も音楽にもやはりその人の人柄が出るもので小出くんの優しい人柄がこのアルバムにも溢れています。時折、アグレッシヴになる時もあるのですがそれは小出くん自身が自分を変えようとした気持ちの表れのように感じます。
そして66年の人生の中でミュージシャン小出斉として最も嬉しかったのは、恐らく敬愛する偉大なブルーズマン、ロバート・Jr.ロックウッドと共演し録音できたことだったのではないでしょうか。そのロックウッドの曲をこのアルバムでも録音しています。ミュージシャンとライターという二つの看板を小出くんはこれからどうしようとしていたのか・・・本当に日本のブルース・シーンに大切な人を失くしてしまいました。
最後になってしまいましたが、このアルバムで私がいちばん好きになった曲です。最初は夢のように始まった彼女とのことが結局他の男と去ってしまい、傷ついた自分の心だけが残されたという歌です。
4.Broken Heart/Hitoshi Koide
1/28に66歳で亡くなってしまった小出斉くんの追悼をしました。
小出くんはこの弾き語りソロアルバムをリリースしてこれからたくさんやりたいこともあっただろうし、彼のブルーズの見識をライナーノーツや書籍にもっとたくさん残して欲しかったと思います。
自分より年下の仲間に先に逝かれるのは本当に辛いです。
このアルバム”Walking Alone With The Blues”本当にいいアルバムです。
ぜひゲットして聞いてみてください。