2019.05.31 ON AIR

10インチ盤でリリースされたJ.B.Huttoの素晴らしいブルーズ

Things Are So Slow-The Legendary Chance Masters/J.B.Hutto &His Hawks(SPACE AGE SPACE-701)

ON AIR LIST

  1.  Combination Boogie/J.B.Hutto &His Hawks
  2. Now She’s Gone/J.B.Hutto &His Hawks
  3. Dim Lights/J.B.Hutto &His Hawks
  4. Things Are So Slow/J.B.Hutto &His Hawks

J.B.ハットーはB.B.キングのようにすごく有名なブルーズマンというわけではないが、50年代から60年代のシカゴのブルーズ・シーンを語るときには必ず名前の挙がるひとりだ。その時に必ず使われるのが「エルモア・ジェイムズ直系のスライドギタリスト」という言われ方だ。確かに間違いではないのだが、それだけではなくもっと個性的な深い持ち味があるブルーズマンであることが今回の10インチ盤のリリースでたくさんの人にわかってもらえると思う。実は僕もそのひとりだが、いままで彼の良さを本当にはわかってなかったと反省しきりです。
このアルバムの制作には、日本のP-Vineレコードのファウンダーである日暮泰文さんと高地明さんが中心になっていて、スベースエイジという会社から3月6日にリリースされている。おふたりとももうP-Vineを離れられて久しいがこうして新しいブルーズへの取り組みをされているのが嬉しい。今回はレコードしかも10インチ盤というブルーズ・レコード好きの心くすぐるような仕様でのリリースとなった。

アルバムタイトルは”Things Are So Slow-The Legendary Chance Masters “名義がJ.B.Hutto &His Hawks
まず一曲聴いてみましよう。
1.Combination Boogie/J.B.Hutto &His Hawks
サウンドにもビートにも南部の匂いがプンプンします。1954年の録音ですが、たくさんの南部の黒人たちがより良い仕事と生活を求めて大都会シカゴに集まってきていた時代。そのシカゴという大都会に出てきても抜けないイナタさ、つまり南部の田舎臭さ・・それが当時の黒人たちにすごく響いたんでしょう。彼らは身体に染み付いたビートとサウンドを懐かしく思ったはずです。

次の曲などは曲調もJ.B.ハットーの歌も当時のシカゴブルーズのボス、マディ・ウォーターズの影響がはっきり感じられます。声もよく似ています。
でも、マディがチェスレコードという会社で次第にモダンに洗練されていく中、シカゴのインディーズレーベル「チャンス・レコード」で録音されたこのJハットーは南部のラフさとタフさを備えてます。
しかし、当時ヒットを放ってシカゴの人気ブルーズマンだったマディの影響が大きかったのもわかります。

2.Now She’s Gone/J.B.Hutto &His Hawks

最初にJ.Bハットーは「エルモア・ジェイムズ直系のスライドギタリスト」という言われ方をよくされると言いましたが、この10インチに収録の8曲の中で、そのエルモアの影響を感じさせる曲は1曲しかありません。ライナーを読むとこれ以降エルモアスタイルのスライド・ギターを多用する時代に向かうようですが、このままでも充分な気がしますが・・でも、やはりエルモアの影響は大きかったんでしょうね。
僕もエルモア・スタイルのスライドをやりますが、なんと言うか強烈なテンションがエルモアにはあって弾いているうちに独特のグルーヴが自分の中に生まれてくる快感があります。
そのエルモア調の曲を聴いてみたいと思いますが、エルモアのようなやさぐれ感はないです。エルモアよりもっとダウンホームなテイストにあふれています。
3.Dim Lights/J.B.Hutto &His Hawks

スライドギターの曲を聴いてもらいましたが、もしエルモアもJ.Bハットーもスライド・ギターをやらなくても素晴らしかったと思います。それは歌がいいからです。ハットーはパワフルで深さもあり広がりもあるいい声をしてます。まさにブルーズ・ヴォイス。
だから「エルモア・ジェイムズ直系のギタリスト」というだけで終わらせてはダメなんですね。次はアルバム・タイトル曲です。
ハットーの歌をじっくり味わってください。
4.Things Are So Slow/J.B.Hutto &His Hawks

このアルバムは日本のスペースエイジからリリースされたのですが、オリジナルは1954年にチャンスレコードというシカゴのインディーズ・レーベルが録音したもので、ハットーにとっては当時28才の初レコーディング
このチャンスというレコード会社は1950年に設立されてブルーズだけでなく、ジャズ、R&B、ゴスペルなどもリリースしていて、面白いのは有名なブルーズマン、ジョン・リー・フッカーがジョン・リー・ブーカーという変名でレコーディングしています。ジョン・リーは他のレコード会社と契約していても平気で違う名前で契約するという荒技を度々使ってますが、声を聴いたらいっぱつでバレますけどね。
あと、チャンスにはフラミンゴスとかスパニエルズとかドゥワップのコーラスグループなんかも録音している50年代のシカゴの音楽シーンではとても重要なレコード会社でした。
ブルーズにとっては50年代のシカゴ・エレクトリック・ブルーズはもう全盛の時代でチャンスだけでなくJOB,パロット、ユナイテッド/ステイツなどインデーズレーベルも花盛りでした。

それでこのアルバムで僕がいいなぁと思ったのはハーモニカのジョージ・メイウエザーのプレイです。彼も南部アラバマの出身で最初はシカゴでは超有名なサニーボーイ1の影響を受けていたのですが、有名なリトル・ウォルターと友達になってウォルターからハーモニカを教えてもらったようです。どこか南部テイストがするハーモニカがハットーの歌とギターにぴったりです。

今日は3月6日に10インチアルバムでリリースされたJ.B.ハットーのThings Are So Slowというアルバムを聴きました。10インチアルバムというのは普通のLPレコードが直系30センチですが、10インチは25センチとちょっと小ぶりで、それゆえに収録時間は短いのですが、音はいいです。
アルバム・ジャケットのJ.B.Hutto の写真が物語るように彼は温厚で優しい人だったらしい。歌声の中にもなにかしらそういうものを感じます。