2025.02.28 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」vol.5

プリンスが聴かせてくれたメイヴィスの隠されていた魅力

ON AIR LIST
1.Interesting/Mavis Staples
2.I Guess I’m Crazy/Mavis Staples
3.Melody Cool/Mavis Staples
4.Time Waits For No One/Mavis Staples

80年代に入るとブルーズではブルース・ブラザーズの映画が大きな話題となりましたが、黒人音楽全体的にはシンセサイザーやドラム・マシンを多用したサウンドが定着しRun DMC、パブリック・エネミーなどヒップ・ホップ・サウンドが台頭し、プリンス、マイケル・ジャクソンがトップを走りアシュフォード&シンプソンなどの活躍もありました。明らかに黒人音楽の主流が変わって行く頃、アレサのアルバムにゲストとして歌った2年後1989年にメイヴィス・ステイプルズの少し意外なアルバムがリリースされました。
”Time Waits For No One”と題されたメイヴィスの4枚目となる久しぶりのソロ・アルバムでしたがこれがプリンスのペイズリー・パーク・レーベルからのリリースで6曲がプリンスの作った曲でプロデュースもプリンス。私はプリンスとメイヴィスが最初結びつかなくて戸惑いました。しかし実はプリンスが昔からステイプル・シンガーズのファンだったそうで、しばらくレコーディングのないメイヴィスに助けの手を差し出したのではないでしょうか。ソロとしては約10年ぶりのアルバム”Time Waits For No One”からその一曲目

1.Interesting/Mavis Staples

聴いてもらってわかるようにプリンスが作る当時の最新のサウンドに何の違和感もなく、実に充実した歌を歌っているメイヴィスにこの時戸惑うよりも感動しました。プリンスがうまく自分の懐にメイヴィスを入れつつ、誰も見つけられなかった新しいメイヴィスの魅力をプリンスが引き出した感じです。つまりメイヴィスにある女性としての品のある色香や情感といったものを引き出した感じがします。ある意味このアルバムのメイヴィスはとてもセクシーです。でも下品ではないんですよ。いちばん好きなのが新しいメイヴィス・ステイプルズを聞かせてくれた次の曲です。
「君を見なくても君が見える 君の声が聞こえる 君がしゃべらなくても 君のことを感じる 君に触れなくても。君が側にいなくても僕は君と一緒にいる。気が狂いそうなほど」狂おしいラブ・ソングです。

2.I Guess I’m Crazy/Mavis Staples

もうたまらないくらい好きな歌でぼくもライヴで歌っていたことがあります。
このアルバム”Time Waits For No One”はすごく気に入ったアルバムで今でもよく聞くのですが、音楽業界にも一般にもそんなに高い評価は得られませんでした。やはりメイヴィスにはシンセや打ち込みドラムのリズムではない方がいいという評価だったのかもしれませんが・・。それでこれで終わるかと思ったのですが前作から四年経った1993年再びプリンスがプロデュースに立ったアルバムが『The Voice』

3.Melody Cool/Mavis Staples

めちゃかっこいい曲やと思うのですが・・喜んでいるのは私だけでしょうか。これもメイヴィスの圧倒的な歌を聴けるアルバムなのですが大きな評価はなかったです。メイヴィスにとって画期的な二枚のアルバムであり、メイヴィス・ステイプルズという歌手の時代に対応する可能性がまだまだあることを知らしめたこの二枚のアルバム。彼女を語る上で大切な二枚です。

4.Time Waits For No One

プリンスのプロデュース1989年アルバム『Times Waits For No One』と1993年アルバム『The Voice』をぜひ聞いてください。
プリンスが亡くなった後2020年のトリビュート・コンサートでメイヴィスがプリンスのヒット曲”Purple Rain”を歌っている動画がYou Tubeにでています。それもとてもソウルフルな歌です。
80年代から徐々にステイプル・シンガーズとしての録音は減っていきました。時代がユーロビートなどからディスコ・ミュージックへそしてサウンド的にもテクノっぽい打ち込み、シンセ・サウンドに移っていったのもステイプルズにはフイットしませんでした。メイヴィスはなんとかソロでのライヴ活動やプリンスとのコラボやアレサのライヴアルバムへの客演などをしていました。
1999年にステイプル・シンガーズが「ロックの殿堂」入りをして久振りにみんなが揃ったその姿を今もTou Tubeで見ることができます。しかし、翌年2000年にお父さんのローバックが亡くなってしまいます。そこでステイプル・シンガーズとしての活動は終わりました。そしてメイヴィスの本格的なソロ活動が始まります。

初期のメンバーだったお兄さんのパーヴィス・ステイプルズも2021年に、お姉さんのクレオサ・ステイプルズが2013年に、イヴォンヌは2018年に亡くなっておりメイヴィスはひとりぼっちになってしまいました。しかし、彼女はずっと歌い続けています。
次回は近年のメイヴィスのソロ活動を聞いてみようと思います。

 

2025.02.21 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」Vol.4

カーティス・メイフィールドとのコラボ、そしてアレサとの熱烈ゴスペルライヴ

Let’s Do It Again
Aretha Franklin Gospel Live
Mavis and Aretha

ON AIR LIST
1.Let’s Do It Again/The Staple Singers
2.Tonight I Feel Like Dancing/Mavis Staples
3.Oh Happy Day/Aretha Franklin & Mavis Staples
4.We Need Power/Aretha Franklin & Mavis Staples

来日するメイヴィス・ステイプルズの大特集4回目
1975年に所属していたスタックス・レコードが倒産してステイプル・シンガーズはカーティス・メイフィールドが立ち上げたカートム・レコードに移籍します。
その75年にぼくは初めてステイプル・シンガーズのライヴをロスアンゼルスで観ました。それはテレビの公開録音でした。その年にシドニー・ポワチエが監督主演し、ビル・コスビーなどが出演した映画”Let’s Do It Again”(邦題は「シドニー・ポワチエの一発大逆転」)のテーマソングだった”Let’s Do It Again”をステイプル・シンガーズが歌って大ヒットしていました。チャート一位になりラジオでもヘヴィ・ローテーションで流れていてそれでテレビ番組でも取り上げられ公開録音になったのだと思います。
ライヴは最も油がのっている時期のステイプルズですから最高でした。
このヒット曲を作ったのはカーティス・メイフィールド。
僕が75年にロスで買ったノイズ混じりのシングル盤から聞いてください。

1.Let’s Do It Again/The Staple Singers

映画も観に行きました。黒人街の映画館でしたがコメディ映画なので観客がめちゃ盛り上がって最後にこの曲が流れるとみんなが口ずさんで映画館から出て行きました。この曲はビルボードのポップチャート、ソウルチャート両方で1位となる大ヒットとなりました。
しかし、これ以降は78年のザ・バンドの解散コンサート「ラスト・ワルツ」に出演して”The Weight”を歌ったという話題以外にステイプル・シンガーズの情報は少なくなり、レコード会社もワーナーはじめいくつかの会社で録音はあったものの80年代はあまり脚光を浴びることはありませんでした。もちろんライヴ・ツアーは行っていたのですが黒人音楽のシーンはプリンスやマイケル・ジャクソンが先頭を切る時代に変わって行きました。
そこで再びメイヴィスのソロ・アルバムの話が持ち上がってきたのだと思いますが、77年にソロ”A Piece Of The Action”がリリースされました。カーティス・メイフィールドがプロデュースした映画のサントラであまり評判にもなりませんでした。そして次のソロが79年の”Oh What a Feeling”。このアルバムはアトランティック・レコードに移籍してアレサ・フランクリンを世に出した名プロデューサー、ジェリー・ウェクスラーの元で作られました。これも微妙なアルバムです。
80年代のディスコ・ミュージックやコンピューターサウンドも取り入れたことは悪くないのですが、中途半端でメイヴィスにフイットしませんでした。
1曲聴いてみましょう。

2.Tonight I Feel Like Dancing/Mavis Staples

「今夜、私は踊りたい気分よ」という歌ですが、個人的にはエスター・フィリップスの”What A Difference A Day Makes”を思い出すようなディスコ・ソウル。しかし、メイヴィスにはハマらなかった。それでもメイヴィスほどの歌手になるとある程度の高いクオリティで歌えてしまうのですが・・・。
メイヴィスのソロ・アルバムの歴史を振り返ってみるとメイヴィスが初めてソロ・アルバムをリリースしたのは1969年。ステイプル・シンガーズが所属したスタックスレコード系列のヴォルトレコードからリリースされた初アルバムが『メイヴィス・ステイプルズ』。その時メイヴィス30才。メイヴィスの歌の実力からするとちょっと遅い感じがしますが、やはり彼女はステイプル・シンガーズを音楽活動の主体に考えていてソロ活動を活発にやる気はなかったのでしょう。その当時二枚ソロ・アルバムをリリースしました。いろんな曲のカバーをメイヴィスに歌わせているのですが、プロデュースがしっかりしてなくてコンセプトが決まっていない感じです。よくあることですが、初期のアレサ・フランクリンなども歌が上手いが故にプロデュースが良くなくても何でもそつなく歌えるのですがこれと言った決め手にかけてしまう・・この二枚のメイヴィスもそんな感じでアルバムとしては印象の薄いものでした。
ところで今アレサの名前を出しましたが、実は1987年にアレサ・フランクリン自身プロデュースしてリリースしたデトロイトの教会でのライヴ・アルバムにメイヴィスがゲスト出演してます。そこに素晴らしい二人のデュオがあります。アレサ・フランクリンのゴスペル・ライヴ・アルバム”One Lord One Faith One Baptism”。アレサが子供のころから歌っている教会でのライヴ。振り返って見るとアレサもメイヴィスも幼い頃からゴスペルを歌って教会で育った経歴を持っています。
そして二人とも子供の頃からゴスペル界で名を馳せ、その後ソウル・シンガーとしてレジェンドとなりました。そのふたりがデュエットという信じられない曲です。
空に舞い上がるようなアレサの歌声と地を這うようなメイヴィスのコントラルトの歌声がすごくよくマッチしていて強力なゴスペル・グルーヴになってます。曲はエドウィン・ホーキンス・シンガーズの大ヒット曲です。6分以上ありますがあまりに素晴らしいので最後まで聞いてください。

3.Oh Happy Day/Aretha Franklin & Mavis Staples

実力のある素晴らしい歌手が二人になるとさらなる相乗効果でこんなすごい音楽になるんですね。アレサもメイヴィスも合わせるところは合わせているのですが、互いにめちゃパワフルで高みに向かって行ってます。アレサには72年にリリーサされた教会でのライヴ・アルバムの有名な”Amazing Grace”がありますが、このアルバムはあのアルバムほどきちんとプロデュースされていませんが、教会の熱気とシンガーとプレイヤーのグルーヴの凄さは引けを取らない出来です。いいアルバムなので是非ゲットして聞いてください。”One Lord One Faith One Baptism”
そしてメイヴィスのゲスト出演でこのアルバムは一層輝きを増しました。
もう一曲。

4.We Need Power/Aretha Franklin & Mavis Staples

80年代ステイプル・シンガーズとしてヒットは出なくなったのですがライヴの活動はやっていました。ビル・ウィザースがディスコ・ソングをやりたくなくて引退してしまった難しい時代でした。80年代はコンピーター・サウンド、ドラムマシン、ヒップホップの台頭と60年代70年代から歌ってきたシンガーにとっては苦難の時代でした。歌の力があっても難しく、メイヴィスへの強力なプロデュースが欲しかった時期です。
そこに現れたのがかのプリンスでした。ではその話はまた来週、Hey,Hey,The Blues Is Alright!

2025.02.14 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」Vol.3

ステイプル・シンガーズのスタックスレコード黄金時代

ON AIR LIST
1.Respect Yourself/The Staple Singers
2.I’ll Take You There/The Staple Singers
3.If You’re Ready (Come Go With Me)/The Staple Singers
4.Touch A Hand,Make A Friend/The Staple Singers

来日するソウル・ゴスペル・シンガーのレジェンド、メイヴィス・ステイプルズ特集の3回目
1970年にメンバーの移動があり息子のパーヴィスがグループを離れて代わりに姉妹のイヴォンヌが参加。ファミリー・グループという姿勢は変わらないまま70年代へ。
時代は黒人たちが自分らしさを表現し権利を堂々と主張するブラック・パワー、ブラック・イズ・ビューティフルの時代に突入。そんな時代背景の中、ステイプル・シンガーズが歌ったこの曲が大ヒット。彼らにとってチャート2位まで上がった初めての大きなヒットとなりました。「おまえが誰も彼もバカにして尊敬しないのなら誰もおまえのことを尊敬してくれないだろう。まずは自分に誇りを持って尊敬できる人間にならなきゃ」と歌ったこの曲は黒人として誇りを持ってしっかり生きていこうとメッセージした曲でした。1971年リリース。

1.Respect Yourself/The Staple Singers

この曲はゴスペルやメッセージ・ソングを歌って来た誠実なイメージのグループのステイプル・シンガーズ”にぴったりの曲。お父さんポップスの温かい説得力のある歌声から始まり、その後に続くメイヴィスの濃厚なゴスペル・ヴォイスでグルーヴが盛り上がって行く・・という素晴らしい出来になっています。
いまのRespect Yourselfの後にリリースされたのがチャート一位に輝いたI’ll Take You Thereでした。
黒人としての誇りや尊厳を大切に同じ黒人同胞に救いの手を差し伸べようとする次の歌は強い共感を得ました。
「誰も泣いていない誰も心配することのない場所にあなたを連れて行ってあげよう」

2.I’ll Take You There/The Staple Singers

この曲は二つのコードの繰り返しですが、そして歌詞も多くないんですがバンドのグルーヴとメイヴィスの歌のグルーヴとコーラスの素晴らしさで全くコード二つと感じさせない曲になってます。
今の2曲を含むアルバム”Be Atitude Respect Yourself”でステイプル・シンガーズは70年代の優れたソウル・グループとして歴史に残ることになりました。ゴスペル・ルーツのグループが60年代にフォーク・ソングやメッセージ・ソングを取り入れ、そこに70年代の新しい黒人の認識を示唆する曲がヒットしました。名盤です。プロデュースはスタックスレコードの共同経営者だったアル・ベル。録音はマッスルショールズ、フェイム・スタジオ。

1973年にはスタックス・レコードからの三枚目”Be What You Are”がリリース
このアルバムは前作の”Be Atitude Respect Yourself”からのコンセプトを引き継いだ内容でヒューマンな歌が歌われている。
同時代のビル・ウィザースの”Grandma’s Hands”をこのアルバムでカバーしているが、そのビル・ウィザースやカーティス・メイフィールドに通じるメッセージを感じる次の曲がチャート9位まで上がった。
とてもポジティヴな歌で「もし用意ができてるならさぁ私と一緒に行こう」

3.If You’re Ready (Come Go With Me)/The Staple Singers

初期のゴスペルの核心を失わずに70年代という時代のソウル・ミュージックに新しいスタイルを作り、それが共感を得てヒットしてメジャーになったゴスペルグループはいないと思います。
もう一曲メッセージソングです。
「新しい時代の息吹を感じないか。変化が起こっている。さあ、手を伸ばして、手に触れて、友達を作ろう。私たちは世界をよりよい場所にする道を進んでいるんだ」

4.Touch A Hand,Make A Friend/The Staple Singers

ヒットに恵まれた70年代のステイプルズ・シンガーズでしたが、いつも彼らの心にあるのはゴスペルでそれは揺るがないものでした。ずっと誠実な姿勢を変えなかった本当に尊敬するグループです。メイヴィスはインタビューでもよくパパ、パパとお父さんのことを話題に出すんですが本当にお父さんを中心に結束の強いグループで、メイヴィスはグループをいちばん大切に活動していたのでソロ活動への強い動きはしませんでした。
来週は80年代のメイヴィス・ステイプルズの歩みを聞いてみます。

2025.02.07 ON AIR

祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」Vol.2

フォーク、ゴスペル、メッセージソング時代のステイプル・シンガーズ

ON AIR LIST
1.Freedom Highway/The Staple Singers
2.We Shall Overcome /The Staple Singers
3.For What It’s Worth/The Staple Singers
4.The Weight/The Staple Singers
5.How Many Times/Mavis Staples

3月に来日するメイヴィス・ステイプルズの大特集2回目です。
ステイプル・シンガーズはゴスペル・グループですが50年代後半から60年代にはキング牧師に傾倒し黒人の公民権運動にも積極的に参加しました。人種差別の反対や戦争反対などをテーマにしたメッセージ・ソングも歌い始めたのはその頃でした。
今日最初の曲は公平な選挙権を求めて、また人種差別反対の趣旨の元、キング牧師の主導のもとにセルマからモンゴメリまでの大きなデモ行進が1965年3月7日から25日にかけて行われました。この曲は行進参加者に捧げられた曲で「自由のハイウェイを行進しよう。来る日も来る日も前に進もう。私の決心は固い 私はもう引き返さない。自由のハイウェイを行進しよう」という内容です。シカゴの教会で行われたライヴから。

1.Freedom Highway/The Staple Singers

60年代の黒人音楽はR&Bがソウルと呼ばれるものに変わっていく時代で北部のモータウンレコード、南部のスタックスレコード、ニューヨークのアトランティックレコードなどが中心となって華やかな黒人音楽のシーンを作り、白人層もそこに魅力を感じて行った時代でした。
政治社会的には60年代は黒人公民権運動やベトナム戦争の反戦運動が盛り上がり、そんな中でよく歌われたのが次の有名曲”We Shall Over Come”日本語のタイトルは「勝利を我らに」ですが、直訳すると「私たちは打ち勝つ」。自分たちを励まし気持ちを鼓舞する内容で広くヒットし日本語でも歌われました。ご存知の方も多いと思います。

2.We Shall Overcome (Live)/The Staple Singers

この教会でのライヴ・アルバム”Freedom Highway”は60年代のステイプル・シンガーズのライヴ・ステージを聴くことができる貴重なものです。
60年代初めに白人層にも人気が出てきてゲイリー・クレイマーという敏腕マネージャーがつくようになります。クレイマーは当時の白人のフォーク・ソング・ブームを見透してフォークをステイプル・シンガーに歌わせました。次のバッファロー・スプリングフィールド(ニール・ヤング、スティーヴン・スティルス参加)の”For What It’s Worth”などのカバーやボブ・ディランの曲のカバーなども始めました。この時期に日本の民謡「ソーラン節」も録音しています。
次第に白人の若者ファンが増えロックコンサートにもオファーされロックの殿堂「フィルモア」にも出演しましたが、それが宗教的でなく商業主義的と捉えられ黒人教会では逆に反発を受けることにもなりました。60年代はまだまだゴスペル・シンガーが聖なるゴスペル以外の曲を歌うことに反感を持つ同胞黒人も多く、ステイプル・シンガーズもこの当時ある黒人教会で全く無視され拍手もなかったという話も残っています。
バッファロー・スプリングフィールドがヒットさせた”For What It’s Worth”なのですが、これは1966年に 10時以降の外出禁止令やロスで行われたデモへの弾圧に抗議してバッファロー・スプリングフィールドのメンバーであったステファン・スティルスによって作られたメッセージ・ソング。

3.For What It’s Worth/The Staple Singers

60年代中頃にメンフィスの「スタックス・レコード」と契約してゴスペルとフォークにメッセージ・ソングが混じったアルバムをブッカー・T&MG’sのギタリスト、スティーヴ・クロッパーのプロデュースでリリースするのですが、これがなんとも中途半端なもので選曲もあまりステイプル・シンガーズに寄り添っているとは言えないものだと感じました。
それが1968年リリースされたアルバム”Soul Folk In Action”と続けてリリースされた”We’ll Get Over”でした。”Soul Folk In Action”でのいちばん印象に残る曲はのちにザ・バンドのラストコンサート「ラスト・ワルツ」でステイプル・シンガーズが歌い、メイヴィスがいまも歌い続けているこの曲です。

4.The Weight/The Staple Singers

いい曲なんですが、この歌の内容はいろんな人の名前や宗教的な言葉も出てきてなんと理解したらいいのか難しいのですが、「自分が背負っている人生の重荷を下ろせよ」という風に僕は捉えてます。
スティーヴ・クロッパーはメイヴィスの初ソロ・アルバムもプロデュースしています。まあ、スタックスと契約していた関係でクロッパー・プロデュースになったのだと思いますが、ゴスペル界ではアレサ・フランクリンと双璧といっていい逸材のメイヴィスのプロデュースが成功したとは言い難いものでした。それでもメイヴィスは歌唱力が抜群にあるのでかろうじていい歌を聴かせていますが・・。
そして2枚目のソロ”Only For The Lonely”ではプロデューサーが変わります。敏腕プロデューサーとして名高いドン・ディヴィスに代わり録音スタジオもマッスル・ショールズに移りドラムのロジャー・ホーキンスやベース、デヴィッド・フッドといった当時の最先端のサザン・ソウルを作っていた連中が参加していいアルバムになりました。そのアルバムから。
「あなたは何度私の心を踏みつければいいのか。私は何度泣けばいいのか。私は何度試されるのか。私が這って戻ってくると思うのか」というひどい目に遭わされた男に向かって歌っている歌。メイヴィスのコントラルトの重い声が生かされたいい曲。

5.How Many Times/Mavis Staples

さてメイヴィス・ステイプルズ特集、来週はいよいよスタックスレコードでソウル・コーラスグループとしてステイプル・シンガーズが大きく花を開いた70年代に突入します。いまに残る名曲の数々をON AIRします。ではまた来週。Hey,Hey,The Blues Is Alright