2025.01.17 ON AIR

カントリー&ウエスタンをソウルにしたジニアス、レイ・チャールズの魅力

ON AIR LIST
1.I Can’t Stop Loving You/Ray Charles
2.Take These Chains From My Heart/Ray Charles
3.Careless Love/Ray Charles
4.You Are My Sunshine/Ray Charles
5.Born To Lose/Ray Charles

もっと早く紹介するべきだったのですが、去年の10月と11月に日本のBSMFレコードから名盤再発掘シリーズでレイ・チャールズのアルバムが4枚リリースされました。
1962年の『Modern Sounds In Country And Western Music』VOL.1、VOL.2そして65年『Country & Western Meets R&B』と66年『Crying Time』がリマスターされての再発です。レイ・チャールズが白人音楽であるカントリー&ウエスタンを自身のルーツであるゴスペルやブルーズのテイストを加えて新たに生命を吹き込んだ音楽になりました。またそれによってレイは白人聴衆にも受け入れられる存在となっていったのです。
50年代にアトランティックで「ホワッド・アイ・セイ」など多くのヒットを飛ばし、R&B界で頂点を極めソウル・ミュージックの先駆けとなったレイ・チャールズだが、60年代に入るとアトランティックを離れ、ABC/パラマウントと契約。そこでリリースしたポピュラー・ソング「我が心のジョージア」のカバーがナンバー1・ヒットを記録。そして1962年に立ち上げた自身のレコードレーベル「タンジェリン・レコード」からリリースしたのが白人のカントリー・ミュージックのカバーアルバム『Modern Sounds in Country and Western Music』が翌年のグラミー賞を受賞し、黒人ミュージシャン、さらにカントリーの中でも最も売れたアルバムとなった。そしてわずか6か月後にリリースされたVolume 2も前作同様、高い評価を受け多くのヒット・シングルを生みだしました。

今日最初の曲は元々はカントリー・ウエスタンの白人シンガー、ドン・ギブソンが作って歌った曲で1958年にリリースされた。700人以上のミュージシャンにカバーされたボビュラーすぎるほどポピュラーな曲で邦題が「愛さずにはいられない」。1962年リリース。

1.I Can’t Stop Loving You/Ray Charles

レイが白人のボピュラー・ソングをたくさん歌うきっかけになったのは1960年に発表した”Georgia On My Mind”が大ヒットしたことでした。日本でも邦題「我が心のジョージア」で大ヒットしました。このヒットで白人の曲を歌うとやり方によっては白人にも買ってもらえることがわかり、1962年に自身のレーベル「タンジェリン・レコード」を立ち上げたレイ・チャールズは白人の音楽であるカントリー&ウエスタンのカバー・アルバムを録音するようになります。その時レコード会社の幹部である白人たちは逆に「黒人なのに白人の音楽を歌って黒人に売れるわけはないだろう」とレイを説得したらしいです。でも、レイは黒人にも白人にも受け入れられるという確信があったようです。
50年代はアトランティック・レコードで黒人マーケット向けにアルバムをリリースしていたレイがここで一気にターゲットを変えたわけです。しかし、レイ自身の歌が変わるわけもなく白人の曲でもレイが歌うとゴスペルみたいに聞こえてしまうのですが、今のI Can’t Stop Loving Youでもそうですが、大げさなコーラスのアレンジ(恐らく白人のコーラス隊を使っている)が僕には要らないかなという感じです。でも、それがあるから白人層に売れたんでしょうね。

次の曲はカントリー &ウエスタンの大御所、ハンク・ウイリアムスが1952年に録音したのを1962年にリリース。レイのこのカバーも白人のポップチャートで8位、黒人のR&Bチャートで7位になり白人黒人両方でヒットした曲となりました。
「新しい恋人ができた彼女にもうぼくに愛がないのならこの鎖を解きほどいて僕を自由にしてくれ」という歌です。

2.Take These Chains From My Heart/Ray Charles

次の曲は1920年代からあり女性ブルーズシンガーの女王、ベッシー・スミスのテイクもあります。ダイナ・ワシントン、ナット・キング・コール、ブルック・ベントン、ブルーズ派ではスヌークス・イーグリン、ロックではヴァン・モリソンと多くのシンガーにカバーされています。ブルーズの範疇に入る曲ですがメロディが覚えやすく早くからボビュラーに取り上げられた曲です。

3.Careless Love/Ray Charles

1962年にチャート1位となった次の曲もアメリカのよく知られたボビュラー・ソングですが、レイが歌うと重みとグルーヴ感が増してやっぱりゴスペルのテイストが感じられます。タイトルの通り「君はぼくの太陽だ」なんですが、歌詞を見ていくと「彼女が他に好きな人ができてしまってぼくの夢は壊されてしまった。空が曇っていてもぼくを幸せにしてくれる太陽だったぼくの太陽を奪わないでくれ」まあ他愛ない曲ですがレイが歌うとディープな感じがします。チャート一位の大ヒットになった曲です。
昔、この曲を君は僕の太陽だと歌っている能天気なラヴ・ソングだと思っていたのですが、よく聞いたら失恋ソングでした。しっかり聞けということです、

4.You Are My Sunshine/Ray Charles

次の歌はちょっとヘヴィです。でも、このヘヴィさというのはレイが元々持っているブルーズの感覚にあるもので50年代のアトランティック・レコード時代のブルーズを聴くとわかる彼のテイストです。
「俺は負けるために生まれたんだ。人生には虚しさしかなく、全ての夢は俺を苦しめるだけ。君はオレのたった一つの望みだったけど俺は君さえ失うんだ」
かなり絶望的な歌ですが、何も所有することのない貧しいアフリカン・アメリカンの人たちのことを思うと財産や土地どころか日々のお金もない黒人にとっては彼女の愛を失うというのは本当に全てを無くしてしまう、生きる術がなくなってしまうということなんでしょう。

5.Born To Lose/Ray Charles

また来週もBSMFレコードからリリースされたレイ・チャールズの60年代の4枚のアルバムからレイの素晴らしい歌を聞きます。

2025.01.10 ON AIR

80年代にブルーズを復活させたスタンダップ・ブルーズ&ソウル・シンガー、Z.Z.ヒル

ON AIR LIST
1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill
2.Down Home Blues/Z.Z. Hill
3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill
4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill

スタンダップ・ブルーズシンガーの特集最終回です
今日ON AIRするZ.Z.ヒルは黒人音楽にハマってからも私の中ではこれという決め手のない微妙なシンガーでした。60年代からブルーズとソウルを歌う上手いスタンダップ・シンガーということはわかっていてもジョニー・テイラーやボビー・ブランドほどのインパクトを感じたことがなかったんですね。
それが覆されたのが70年代終わりに南部ジャクソンのマラコ・レコードに移籍してから。当時、自分の中ではサザン・ソウルがブームになっていてOV.ライトやオーティス・クレイ、アル・グリーンなどを聴き漁っている時、あるバーで聞かされたのがマラコから初めてリリースされたばかりのZ.Z.ヒルのシングルでした。
こんな歌詞です「みんなが君はオレを騙そうとしているっていうんや。そんなのはほんまやないって言うてくれよ。オレは君だけを愛してきたんや。だから俺に悪いことをさせないでくれよ。君を傷つけたくないんよ。お前にはジョーンズいう男がいて、俺が仕事でおらん間にこの家にその男が来てるっていう、お前、それはあかんやろ。オレは嫉妬深い男なんや。だからお前に悪いこと、嫌なことはしたくないんや」

1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill

とてもソウルフルな歌です。これでZ.Z.ヒルへの印象が変わりました。彼はサム・クックとボビー・ブランドを尊敬していてダイレクトではないけれどその二人の影響が感じられます。ソウルに関してはサム・クック、ブルーズに関してはボビー・ブランドというのも聞いているとわかります。次のZ.Z. Hillの生涯の大ヒットとなった曲ではやはりボビー・ブランドのテイストが感じられます。
絶妙なミディアム・シャッフルのビートとゆったりとした南部ならではのダウンホーム・フィーリング。
これは女性の歌です。仕事を頑張っている女性が週末のパーティにやって来て靴(多分ハイヒール)を脱いで、髪を下ろしてお酒飲んでリラックスしているときに「そんな子供っぽい曲ではなくてダウンホーム・ブルーズをかけてよ」とDJに言ってる・・そんな歌。

2.Down Home Blues/Z.Z. Hill

ダウンホームとはアメリカの黒人の人たちにとっては南部の故郷のこと。つまり、リラックスしてくつろげる場所のこと。

Z.Z.ヒルは50年代にゴスペル・シンガーとして出発してからいろんなレーベルを渡り歩きました。大きなところではケント、ユナイテッド・アーティスツ、コロンビアなど。しかし最もヒットしてチャートに上がったのは62位の”Don’t Make Me Pay for His Mistakes”なので全国区のシンガーというわけではなかったのです。でも、レコーディングするレコード会社があるということは業界では歌の実力を認められていたということでしょう。
それがやっと花開いたのがマラコ・レコードに入ってからで遅咲きのシンガーでした。マラコ以前の曲ではKentレコード時代の曲にいいのがあるのですが、大きなヒットには至らなかった。次の曲はぼくのバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」でハーモニカのコテツくんが歌ってますが、最近歌いませんね。マラコレコードに入るほぼ20年前のケント・レコードでの録音です。

3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill

マラコに移籍して最初にチャートに上がったのが次の”Cheating In The Next Room”
Cheatというのは浮気。「隣の部屋で浮気している。浮気相手と次に会う計画をしている。電話で小声で話して次に会う約束をしている。おまえのキスと愛の営みはずっと偽りだったや。でもうまくいくことを願ってそれについて来た。でももう自分の気持ちを利用されるよりは自分で踏み潰したほうがマシや」なんや怖い歌です。

4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill

アメリカの皆さんはこういう不倫ソングが本当に好きなんですね。まあそれだけ不倫がよくあるということなんでしょうけど・・。

Z.Z. Hillは1984年に交通事故の後遺症で足に血栓ができてそれが原因で心臓発作を起こして急死してしまいました。48才という若さでした。79年にマラコに入って5年後です。せっかくその実力と人気が一致して南部のスター・シンガーになれたのに本当に残念です。実は彼がマラコレコードでヒットを出したことでそのあとにジョニー・テイラー、リトル・ミルトン、デニス・ラセール、ボビー・ブランドたちがマラコに入社して南部のブルーズシーンは再び盛り上がったのです。彼の存在は”Blues Is Back”(ブルーズが戻って来た)と銘打ったマラコにとっては看板のような存在でした。そのブームの先駆けでした。亡くなったあとにはメモリアル・アルバムもリリースされました。
そして、彼が尊敬していたボビー・ブランドは先日この番組で特集したようにこのマラコレコードで素晴らしいアルバムを残し、晩年を悠々自適に暮らすことができたと思います。敬愛するブランドに恩返しできたとZZは思っていたのではないでしょうか。
今年も素晴らしい、いい曲をON AIRします。Hey,Hey,The Blues Is Alright

 

2025.01.03 ON AIR

新年最初はマラコ・レコード時代のボビー・ブランド

ON AIR LIST
1.Members Only/Bobby Bland 
2.In The Ghetto/Bobby Bland
3.That’s The Way Love Is/Bobby Bland
4.Stormy Monday/Bobby Bland,Johnnie Taylor,Bobby Rush

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ちょっと間が空いてしまいましたが、スタンダップ・シンガー特集ボビー・ブランドの4回目です。
ギターとかピアノとかハーモニカとか楽器を演奏しないで歌だけ歌うブルーズマンをスタンダップ・ブルーズシンガーと言いますが、ボビー・ブランドはその代表的なブルーズマン。2013年に83才でなくなるまでブルーズ・シンガーとしての風格と威厳があった人でした。
80年代にマラコ・レコードに入ってからは南部の同胞黒人たちに向けたダウンホーム感のあるブルーズで人気がありました。
ジョージ・ジャクソン、トミー・テイト、ジーター・ディヴィスなど優れたソングライターたちによって書かれた曲をマラコレコードの腕利きミュージシャンたちで録音しリリースしました。今日の最初は1985年の名作”Members Only”からそのタイトル曲
「メンバーズ・オンリーのプライベートなパーティなんだ。金もいらないしチェックブックも必要ない。持ってくるのは君の傷ついた心だけだ。今夜はメンバーズ・オンリーなんだよ」とぐっと泣かせる歌詞です。

1.Members Only/Bobby Bland

この曲をカバーして歌う人が多いのですが、やっぱりブランドのように歌手として懐が深くないとシンプルな曲だけに安っぽく聞こえるんですよね。簡単に歌えるようですが難しい歌です。
次の曲もブランドの深い歌声だから説得力があるという曲です。
貧しい黒人たちはじめマイノリティたちが住んでいるゲットーについて歌ったこれもいい曲です。

2.In The Ghetto/Bobby Bland

ボビー・ブランドは2003年のアルバム”Blues At Midnight”までマラコレコードに在籍してコンスタントにアルバムを発表しました。その11枚のアルバムの中には”Live On Beale Street”というブランドの唯一のライヴ・アルバムがあります。長いキャリアの中でライヴ・アルバムはB.B.キングとデュエットしたものだけで単独のライヴ・アルバムはこれ一枚です。
彼はいつもホーン・セクション入りのバンドを抱えてしっかりしたアレンジがされたサウンドの中で自分のブルーズを歌い続けてきました。盟友のB.B.キングが白人聴衆も巻き込んで世界のB.B.となっていきましたが、彼は同胞の黒人聴衆から非常に強い人気があり黒人のサーキットを回るライヴも続けました。このライヴ・アルバムもメンフィスのビール・ストリートというかって若い頃にB.B.キングたちと切磋琢磨した街のクラブで録音が行われました。
今から聴くこの曲もその若き日に歌っていたでしょう。”Live On Beale Street”から

3.That’s The Way Love Is/Bobby Bland

このライヴに飛び入りゲストのような感じで参加しているのがジョニー・テイラーとボビー・ラッシュ。その二人をステージに呼んでブランドの十八番の一つであるStormy Mondayを歌っています。
ボビー・ラッシュはアーシーなミシシッピ・スタイルのハーモニカを披露しています。ジョニー・テイラーの歌が素晴らしく主役のボビー・ブランドに肉薄しています。
こんな風にブルーズで歌を交えてセッションできて高いクオリティを出せるというのもやはり歌の力を人一倍持っているシンガーたちだからできることです。これ歌の力がなかったら本当につまらないセッションだと思います。

4.Stormy Monday/Bobby Bland,Johnnie Taylor,Bobby Rush

昔、アメリカの黒人ソウル・フード・レストランに夜中行った時、ジュークボックスからMembers Onlyが流れてお客さんみんなで大合唱になったことがありました。この歌がいかにアフリカン・アメリカンの特に中年層の胸に響いているのかよくわかった時でした。
ずっと昔からボビー・ブランドの素晴らしさを言い続けているのですが今もギタリスト・ブルーズマンに人気がいく日本です。
新年一発目に改めてここに記しておきます「ブルーズは歌だ。ギターじゃない」
では今年もよろしくお願いします。Hey Hey The Blues Is Alright!