2025.06.13 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その10

やっぱり好きなミュージシャンのベスト盤はLPで欲しい

The Best Of Sam & Dave(Atlantic SD8218)

ON AIR LIST
1.Hold On I’m Coming/Sam And Dave
2.Soul Man/Sam And Dave
3.When Something’s Wrong With My Baby/Sam And Dave
4.Soothe Me/Sam And Dave
5.I Thank You//Sam And Dave

60年代に活躍し現在もなお多くの人たちに親しまれている曲をたくさん残したR&Bデュオ「サム&デイヴ」のサム・ムーアが今年1月10日に89才で亡くなりました。「サム&デイヴ」の名前を知らなくても60年代の大ヒット「ソウル・マン」や「ホールド・オン」をどこかで聞いて知ってる人は多いと思います。以前も話しましたが、僕が初めてライヴで聞いた黒人の歌声はこの「サム&デイヴ」でした。1969年の初来日の時です。残念ながら仲が良くないと噂されていたサムとデイヴは70年に解散してしまいます。その後、何度か再結成もあったのですがいつもワン・ショットで長くは続きませんでした。二人はそれぞれソロで活動し続けサムは何度も来日しています。
サムが亡くなった1月に中古レコード店で”The Best Of Sam & Dave”という彼らのベスト・アルバムに遭遇。彼らのアルバムはLPとCDでほとんど持っているし確かベスト盤CDもあったはずだと思いながらも手がこのLPを掴んでました。やっぱりレコード、今まで何度もレコード店で見かけたこのジャケットのベスト盤をレコードで欲しいとフツフツと思いレジへ。「亡くなったサムへの供養だ」とも思いながら。
まずは定番の二曲を聞きましょうか。

1.Hold On I’m Coming/Sam And Dave

2.Soul Man/Sam And Dave

やはり鉄板の二曲なんですが、改めて聴くと曲もよくできてるし歌詞もいいですし、バックの演奏もアレンジも全て素晴らしいです。
ぼくが初めて買ったサム&デイヴのシングル盤は今の二曲がカップリングされたもので今も持っています。
高い方のパートを歌っているのがサムで低い方がデイヴですが「ダブル・ダイナマイト」の異名もあったくらい強力にパワフルです。今の2曲は両方ともR&Bチャートの1位になっていますが、僕がディスコで歌っていたときもこの2曲はディスコのジューク・ボックスの定番でした。彼らのずば抜けた歌唱力はスロー・バラードでも発揮されていて次の曲が好きな人たちもたくさんいると思います。
「何か困ったことがあったら俺は君を助けるよ。君と同じ気持ちなんだ。何と言われようが俺の彼女だから」
日本語のタイトルが「ぼくのベイビーに何か?」

3.When Something’s Wrong With My Baby/Sam And Dave

とにかくゴスペル出身の熱唱型のふたりですからめちゃ盛り上がります。当時のヨーロッパでのライヴ映像がYou Tubeにアップされているのですが強烈なテンションです。是非観てください。
彼らはマイアミの出身で1961年にデュオで活動を始め広く知られるきっかけとなったのは1965年にメンフィスのスタックスレコードで録音されたものが契約したアトランティク・レコードからリリースされるようになったからです。とにかくシングルは10枚連続トップ20入り、アルバムは3枚連続でトップ10入りです。さっきの曲「ソウルマン」もそうですがソウルという言葉、ソウル・ミュージックという言葉を広く世界に認知させた二人です。サム・クックのカバーの”Soothe Me”も素晴らしいです。

4.Soothe Me/Sam And Dave

今日聴いてもらっているベスト盤”The Best Of Sam & Dave”は1969年のリリースですが、翌70年には解散してしまいます。アトランティック・レコードに入って売れてから5年ほどで解散です。でもその5年間がめっちゃ忙しかったと思います。ヒット連発で国内だけでなくヨーロッパにも行ってまだ来日R&Bミュージシャンが少なかった日本にも69年に来たわけでずっと二人でいると仲悪くなるんですかね。笑いの世界の二人組とか3人組が芸が上手いのに仲が悪いという話がありますが、サムとデイヴも仲が悪かったようです。仲が悪くなっても歌、ステージは最高なんです。

5.I Thank You/Sam And Dave

ソウルの男性デュオは他にもピック&ビルとかいるんですがやっぱり総合力でサム&デイヴです。サム・ムーアは解散後もソロとして来日してくれましたし、アメリカのテレビにでているのをたまたま観たこともありました。いつも全力投球で歌う姿は立派でした。グラミー賞はじめ多くの賞にも輝いたし、ロックの殿堂入りもしています。亡くなって間もないレコード店でこうしてサム&デイヴのベスト・アルバムと出会ったのも、初めて生で聴いたソウル・シンガーがサムだったこともあり何か繋がりを感じました。素晴らしいアルバムです。
最後にサム&デイヴに言いたいです・・I Thank You,Sam And Dave

 

2025.06.06 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その9

若い頃買えなかったブルーズ名盤を50年経って廉価中古盤で買う

“Soul Of The Blues”「ブルースの魂」/Big Joe Williams(東芝EMI LLS-70047)

ON AIR LIST
1.Oh Baby/Big Joe Williams
2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams
3.Blues Round The World/Big Joe Williams
4.EveryBody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams
5.Pearly Mae/Big Joe Williams

日本にブルーズのブームが起こったのが1974年くらいから 76年頃まででした。日本のレコード会社はどこもブルーズのアルバムをリリースして1ヶ月でリリースされる枚数が多すぎて欲しいけど買えなかったアルバムもたくさんあった訳です。
今ちょっと昔の1974年に刊行されたニューミッジック・マガジンの増刊号「ブルースのすべて」をいまパラパラとめくってレコード会社の広告をみると、まずビクター・レコードが「チェス・ブルース・コレクション」でチェス・レコードのマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、サニーボーイ・ウィリアムスン、エルモア・ジェイムズ、バディ・ガイなどをシリーズで毎月リリースして、画期的な日本編集の「RCAブルースの古典」というLP3枚組もリリースしてます。ちなみにこれが価格¥5,400。 当時かなり無理して買った記憶があります。東芝レコードはT.ボーン・ウォーカー、B.B.キングのアルバムを立て続けに出し、ライトニン・ホプキンスやリル・サン・ジャクソンなどのカントリー・ブルース系もリリースしてます。そしてCBSソニーはロバート・ジョンソンの歴史的録音はじめリロイ・カーやブッカ・ホワイト、サン・ハウスなどの名盤を次々にリリース。トリオ・レコードはデルマーク・レコードを一度に10枚発売してその中にはマジック・サム、ジュニア・ウェルズ、スリーピー・ジョン・エステス、ロッバートJr・ロックウッドなどの名盤がずらり並んでいる。つまり当時20代中頃の定職にも着いていない金のないバンドマンの私がそんなに買えるわけもなかったわけです。その頃買えなかった、買いそびれた、買い逃したアルバムはかなりあるわけです。その一枚に先日中古レコード店で遭遇しました。それが今日聴いてもらうビッグ・ジョー・ウィリアムスの”Soul Of The Blues”「ブルースの魂」と題されたアルバムです。これは当時東芝レコードの「ブルース名盤シリーズ」という企画でリリースされたものです。当時モダン・ブルーズとシカゴ・ブルーズあたりを買うのが精一杯でなかなかこういうカントリー・ブルーズには手が回りませんでした。
まず一曲。歌詞を聞いているとロバート・ジョンソンの”Sweet Home Chicago”の最初の一節”Come On Baby,Baby Don’t You Wanna Go”が同じですが、ブルーズは伝承音楽でもあるのでこういう常套句はいろんなブルーズマンが自分の曲で使ってます。でもそのあとの一節がシカゴではなくて「おいでよベイビー、行きたくないかい。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくんだ」です。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくというところが本物の放浪のブルーズマン、ビッグ・ジョー・ウィリアムスらしい一節です。

1.Oh Baby/Big Joe Williams

先頃公開された若き日のボブ・ディランを描いた「名もなき者」という映画を観た方もいらっしゃると思いますが、そのディランが憧れた放浪のブルーズマンがこのビッグ・ジョー・ウィリアムスです。10代の頃にディランは放浪しているビッグ・ジョーに付いて回ったという話もあります。
ビッグ・ジョーはスライド・ギターもやるんですが次はそのスライドギターが最初から切り込んでくるスリリングな一曲です。

2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams

歌もギターも豪快で気持ちいいです。
ビッグ・ジョーは普通の六弦ギターに弦を自分で足して9弦にしたもので、世界で一つの9弦ギターというのを使ってました。僕は彼が来日したとき、日比谷野音の楽屋で見せてもらいましたがよくわからない構造のギターでした。長い放浪生活でずっとギターも旅をしているのでケースもギターもボロボロで見る人によってはガラクタにしか見えないのですが、一旦ビッグ・ジョーに抱えられると今ような素晴らしい音を出すのです。
次はBlues Round The Worldという曲名で直訳すると「ブルーズ世界一周」となりますが、歌詞の内容を聴くと女性世界一周という感じです。「キューバでもスペインでもイギリスのロンドンでも俺は女がいた」と始まるのですが、「いろいろ女遊びをするのをやめてアメリカに帰って心を入れ替えて昔の女とやり直そう」となり最後に「オレはお前を落ち込ませてしまう。やっぱりお前が必要じゃないんだ。旅に出るよ」とまあわがままのことを言ってますが、Blues Round The WorldではなくてWomen Round The Worldに曲名を変えた方がええやろ。

3.Blues Round The World/Big Joe Williams

とにかく歌声がめちゃでかいのがわかります。そんなにいろんなパターンがあるブルーズマンではないんですが、70年代後半まで現役でやり続けられたのはやはりそのライヴに魅力があったからでしょう。
このライナー・ノーツを書いている故中村とうようさんが「生きたブルースが大きな背中を見せて歩いて行く」とタイトルをつけています。その生きたブルースが日本にやってきたのは1975年7月。時にビッグ・ジョーは72歳。私は日比谷野外音楽堂で観ましたが多分どこで歌っても彼は変わらないと思う堂々とした歌いっぷりでした。彼しか持っていない、彼しか弾けない不思議な9弦ギターで力強い歌とパーカッシヴなギターと息を飲むようなスライドギターを聞かせてくれました。
そのスライドが聞ける曲を。「俺が死んだらみんな寂しくなるだろう。金があるときは友達が寄ってくる。金がなくなると友達はいなくなる。俺が死んだらお前は寂しく思うだろう」

4.Everybody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams

次の歌は出て行ってしまった彼女に寂しいから帰ってきてくれという歌詞ですが、曲名は彼女の名前です。”Pearly Mae”ですから「真珠のようなメイ」になります。なかなか素敵な名前ですよね。

5.Pearly Mae/Big Joe Williams

1903年にミシシッピで生まれて若い頃から放浪を続け1941年には放浪のブルーズマンらしい「Highway 49」という歴史に残るブルーズを録音し、僕もカバーしている今やブルーズ・スタンダードとなった「Baby Please Don’t Go」も彼のオリジナルです。ヨーロッパやいろんな国でも演奏し、82年に故郷ミシシッピで79歳で亡くなりました。彼のギターとギターケースを見た時にその厳しい放浪の日々がわかるような気がしました。
今日聞いたのは1974年東芝EMIがリリースした「ブルース名盤シリーズ」の一枚ビッグ・ジョー・ウィリアムスの「ブルースの魂」でした。素晴らしいリアル・ブルーズ・アルバムです。
ホトケのレコード中古盤放浪記 その9