2024.11.29 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

スタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランド その3

ON AIR LIST
1.It’s Not The Spotlight / Bobby Blue Bland
2.This Time I’m Gone For Good / Bobby Blue Bland
3.What A Difference A Day Makes / Bobby Blue Bland
4.3’Clock In The Morning/Bobby Bland & B.B.King
5.That’s The Way Love Is/Bobby Bland & B.B.King

先週、先々週に引き続きボビー・ブルー・ブランド。
ホビー・ブランドは1973年に長年在籍したデューク・レコードが大手のABCレコードに売却されたことでABCの所属となりました。73年頃黒人音楽はマービン・ゲイ、ロバータ・フラック、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハサウェイなどが新しいソウル・ミュージックを作っていった時代でブルーズ系のミュージシャンにとってショー・ビジネスを生き抜くには辛い時代でした。それでもブランドが新しいレーベルで録音を続けられたのはやはり歌手としての実力を認められていたからでしょう。コアなブルーズ・ファンからはこの時代の録音は少しブルーズから遠ざかったコンセプトだったために無視されていますが、それでもやはり稀代の名シンガー、ボビー・ブルー・ブランドですから聞きどころはたくさんあります。
まず1973年移籍後の初アルバム”His California Album”から一曲。作詞作曲はキャロル・キングの元夫でもあるジェリー・ゴフィンと、キーボーディストのバリー・ゴールドバーグの共作でジェリー・ゴフィンの73年のアルバム『It Ain’t Exactly Entertainment』に収録されています。またロッド・スチュワートのカバーで知っている方も多いと思います。

1.It’s Not The Spotlight / Bobby Blue Bland

ぼくは75年にロッド・スチュワートが「アトランティック・クロッシング」というアルバムでカバーしているのを聞いたのが最初です。浅川マキさんが自分の日本語詞にして歌われたバージョンもよく知られています。
たぶんプロデュース側からの選曲でブランドは歌ったのだと思いますかせ、時代の音楽ではなくなったブルーズという厳しい音楽シーンの中で生き延びていくためには提案されたこういう歌も歌わなければならなかったのでしょう。
しかし、それだけでは終わらないブランド。次の曲はデューク時代にも録音していたブルーズで「とうとう彼女と別れる決心がついた」という曲です。R&Bチャートの5位まで上がりました。さすがボビー・ブルー・ブランド。

2.This Time I’m Gone For Good / Bobby Blue Bland

いいですね。ブランドの最高のディープ・ブルーズ・ヴォーカルです。

次は81年のアルバム”Try Me I’m Real ” このアルバムを買ったのは次の曲が収録されていたからです。
途中の名人芸のギター・ソロはシカゴ・ブルーズでも活躍し、その後ウエストコーストでソロ・アルバムも出していたフレディ・ロビンソン。
日本語のタイトルが「恋は異なもの」とつけられたこの名曲はもともとダイナ・ワシントンの大ヒット曲。ブランドの濃口ソース・ヴォイスでどうぞ。

3.What A Difference A Day Makes / Bobby Blue Bland

ボビー・ブルー・ブランドは84年までの約10年間にABCから10枚ほどのアルバムを出しました。やはりある程度のクオリティはあり歌に関しては聞きどころも多いのですが、このアルバムという決定打は出ませんでした。そんな中で記憶に残る一枚が1974年にリリースされたB.B.キングとのデュエット・ブルーズ・ライヴ・アルバムです。
ボビー・ブランドはかってのメンフィスでの仲間であり、ブルーズの盟友B.B.キングと二人が名義になったライヴアルバムをリリース。初めて一緒に歌う( Together For The First Time)と題された二枚組のアルバム。スタジオにお客さんを入れたスタジオライヴです。
B.B.はすでに”The Trill Is Gone”でグラミーを獲得しており、白人のロックの殿堂フィルモアでもライヴを敢行しており白人層まで含めた知名度という点ではB.B.の方が有名な存在です。しかし、黒人サーキットではB.B.を凌ぐ超大物のボビー・ブランドという立ち位置。リラックスしながらもここぞという時にはお互いに引かない場面があったりなかなか面白いアルバムです。バックはB.B.のバンドにブランドの右腕とも言えるメル・ブランドなども入っており大人数ですがうまくコントロールされています。
二人で語りをしたり笑いあったりしながら自分たちのヒット曲やブルーズのスタンダード・ナンバーを次々歌い繋いでいくメドレーなどなかなか楽しいアルバムです。

まずMCの後にすぐB.B.キングのヒット曲”3’Clock Blues”が始まります。最初はブランドから歌い始め呼応するようにB.B.がギターを弾き、2番はB.B.が歌い、3番は掛け合うように二人で歌うというコテコテなライヴです。

4.3’Clock In The Morning/Bobby Bland & B.B.King

世界を飛び回るB.B.キングとブルーズが生まれた同胞黒人のクラブを回り続けるボビー・ブランド。今思えばこの大きな柱である二人がいたからこそブルーズという音楽は80,90年代そして21世紀へと続いていく力になったのだと思います。
スタンダップ・シンガーであるボビー・ブランドの歌うブルーズのバックでB.B.のギターが聞こえてくるのはブルーズファンにとって贅沢な感じがします。
このライヴが評判になってTV番組の「ソウル・トレイン」にも二人で出演し、2年後の76年に再びライヴ・アルバム”Together Again…..Live”を二人でリリースします。ブランドにとってはシンガーとして高いクオリティを保ったアルバムは出し続けたものの、この70年代に決定打となるアルバムが出なかった時代にこのB.B.とのアルバムが話題になり良かったと思います。
最後の曲は1962年にR&Bチャート1位、ポップチャートでも33位まで上がったボビー・ブランドのヒット曲にB.B.が絡んで歌っています。バックがさっきのB.B.キング・サウンドからボビー・ブランド・サウンドに変わっているところも面白いというかすごいです。

5.That’s The Way Love Is/Bobby Bland & B.B.King

このアルバム”Bobby Blue Bland&B.B.King Together For The First Time”はR&Bチャートで2位まで上がりました。さて来週もう一回、スタンダップ・ブルーズ・シンガー・シリーズの大本命このボビー・ブランドの第二の全盛期80年代マラコレコード時代に突入します。
ではまた来週。

2024.11.22 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

スタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランド その2

ON AIR LIST
1.I Pity The Fool [Single Version]/Bobby “Blue” Bland
2.Turn On Your Love Light [Single Version] /Bobby “Blue” Bland
3.Chains Of Love [Single Version]/Bobby “Blue” Bland
4.Call On Me [Single Version]/Bobby “Blue” Bland
5.Stormy Monday Blues [Single Version]/Bobby “Blue” Bland

連続してON AIRしているスタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集シリーズですが、今日は先週に引き続きスタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランド その2です。
このスタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集を始めた理由なのですが、ブルーズというと何かとギターという楽器がでてきます。確かにギターという楽器でブルーズはその歴史を作ってきた面もあります。ぼくもギターを弾いてますし、ギターは大好きです。しかし、ブルーズにはピアノもあればハーモニカもオルガンもサックス始めいろんな管楽器も重要なパートを担っているし、ドラムとベースがいなければバンド・ブルーズはできないわけです。そして、もちろん一番大切なのは歌です。ブルーズはインストの音楽ではなくヴォーカル・ミュージックです。それがなぜかギターを弾くための音楽のように思っている人がたくさんいて残念に思います。そしてその逆に楽器を弾かないで歌だけで勝負しているスタンダップ・ブルーズ・シンガーにこの国ではイマイチ人気がないことに長い間残念に思ってきて、とうとう今回のシリーズで爆発です。

今日は先週に引き続きスタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランドの二回目
まず個人的にブランドの歌の中で一番好きかもというブルーズ
悪い女に騙されているとわかっているけどやめられないみたいな歌です。タイトルはそのままだと「私はバカを哀れむ」バカは自分のこと。周りのみんなにもあああんな女に熱上げて・・と思われている歌。

1.I Pity The Fool [Single Version]/Bobby “Blue” Bland

この60年代初期にはトランペッターのジョー・スコット率いるオーケストラがついて質の高いバンド・サウンドが聞けます。ドラマーのジャボ・スタークスやギターのウエイン・ベネットの演奏にも脂が乗っていて素晴らしい録音が続きます。次のアッブテンポの曲などはまさに教会のゴスペル・テイストいっぱいです。

2.Turn On Your Love Light [Single Version] /Bobby “Blue” Bland

ボビー・ブランドの歌のテンションが強力すぎて、フェイドアウトするのが勿体無い。もうすこし聞かせて欲しい。これライヴで聴いたらすごかっただろうなと思います。
次の曲はオリジナル・シンガーは1951年に録音したビッグ・ジョー・ターナーですが、サム・クック、B.B.キング、ルー・ロウルズなどそれぞれに素晴らしいカバーの歌が残っています。聴いてもらうブランドの歌は夜のクラブでカクテルでも呑みながら聴きたい歌です。
「愛の鎖で私の心はあなたに縛り付けられている。私はあなたの囚人です。私をどうするつもりですか。もし、私を捨てるのなら鎖を解いて自由にしてください。月が輝く朝の三時にあなたはどこにいるのだろうかと私は思い耽っている」

3.Chains Of Love [Single Version]/Bobby “Blue” Bland

いいですよね・・大人の男の溢れる恋の想いをぐっとこらえているようなこの歌、どうですか・・・。男、ブランドここにあり!ですよ。

次の曲なんかはラテン風味でちょっとサム・クックが歌うようなポップなテイストもありますが、やっぱりブランドの歌声のブルーズテイストが強くてポップにはならないところが面白いです。
ちなみにサム・クックとボビー・ブランドは一才違いの同年代です。白人層にも売れていったサム・クックのことは当然気になっていたでしょうね。

4.Call On Me [Single Version]/Bobby “Blue” Bland

ここまで50年代から60年代までの充実していたデューク・レコード時代のボビー・ブランドを聞いてきましたが、来週は70年代以降のボビーを聞きます。
最後にやはりこの珠玉のブルーズを聞いてもらわないとボビー・ブランドのデュークレコード時代は終われないので、この名曲名唱を堪能してください。

5.Stormy Monday Blues [Single Version]/Bobby “Blue” Bland

原曲のT.ボーン・ウォーカーはもちろん素晴らしいのですが、このボビー・ブランドの名唱によってこの名曲はさらに輝きを増したように感じます。

2024.11.15 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

スタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランド その1

ON AIR LIST
1.Farther on up the Road/Bobby Blue Bland
2.I Don’t Want No Woman/Bobby Blue Bland
3.I Smell Trouble/Bobby Blue Bland
4.Cry Cry Cry/Bobby Blue Bland
5.Don’t Cry No More/Bobby Blue Bland

ボビー・ブランドの正式な芸名はボビー・ブルー・ブランドと言います。このブルーが入るところに彼が歌ってきた歌におけるブルーズ濃度の濃さが表れているように思います。今回ギターなど楽器を弾かずに歌だけで勝負するスタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集でやはりスタンダップ・ブルーズ・シンガーと言えばまずこのボビー・ブルー・ブランドを思い浮かべる
人も多いと思います。
1930年生まれで同時代にメンフィスで活動を始めたB.B.キングの5才年下。幼少の頃からゴスペルを歌ったそのルーツはブルーズを歌う時に彼の大きな武器になりました。その彼がボビー・ブルー・ブランドとしてその名を知られるようになったのは1952年にデューク・レコードと契約してから。
最初のヒットは1957年の”Farther on up the Road”
「その道の行く先でおまえがオレを傷つけたようにオマエを傷つけるヤツが出てくるやろ。いつかオマエにもわかるよ。自分で蒔いた種は自分で刈らなあかんっていうことわざがあるやろ、あれは本当や。オマエが誰かをひどい目に合わせるように誰かがオマエをひどい目に合わせることになるんや。笑っているオマエがいつか泣くことになる。これから行く道の先でオレがウソを言うてないことがわかるやろ。この道の行く先でそのうちオマエはわかるはずや」
フラれた男の恨み節のようですが、実にブルーズという感じの歌詞です。

1.Farther on up the Road/Bobby Blue Bland

途中で熱いギター・ソロを弾いているのはブルーズギターの名手パット・ヘア。どっしりとしたシャッフル・ビートを叩き出しているのはのちにB.B.キングのバンドマスターになるソニー・フリーマン。このくらいのテンポのシャッフル・ビートは本当に難しいです。

同じ57年にリリースされたのが、これも今やモダンブルーズ・スタンダードの一曲になっている”I Don’t Want No Woman”
そしてその曲を少しテンポを上げて60年代終わりにギター・サウンドで見事にカバーしたのがマジック・サム。この原曲のギターはクラレンス・ホラマンでマジック・サムはほぼ完コピに近いカバーしてますのでサムも聞いてみてください。アルバム”West Side Soul”に収録されています。
「俺の人生にツベコベ口出すような女はいらん」と突き放すような男らしいブルーズですが、なんか裏があるかもです。

2.I Don’t Want No Woman/Bobby Blue Bland

いまの曲はホーンセクションが入ってないコンボ編成でしたが、ボビー・ブランドは次第に売れるようになるとホーンセクションがついてしっかりアレンジされたゴージャスなサウンドになっていきます。でも実はブランドはギターを重要視していてバット・ヘア、クラレンス・ホラマン、のちに出てくるウエイン・ベネットと必ずギターの名手を起用しています。
次の曲もギターはクラレンス・ホラマン。まさにブルーズという曲。なんか厄介なことが起きるような気がすることをI Smell Troubleつまり「トラブルの匂いがする」と表現しています。そのトラブルが具体的に何かということは歌われてなく、それは男女間のトラブルか金銭的なトラブルか、行く先々の漠然とした不安感なのかわからない、何か悪いことが起きるのではないかというブルーな気持ちが表現されてます。

3.I Smell Trouble/Bobby Blue Bland

途中で「そのトラブルに逃げたり隠れたりしないでオレは笑顔で立ち向かうよ。そしてそれが過ぎ去って行くのを願うばかりさ」という一節がいいですね。
ブルーズのスタンダードとなったこの曲もバディ・ガイ、アイク&ティナ・ターナー、この前特集したリトル・ジョニー・テイラーなどたくさんのカバーがあります。歌もギターもモダンブルーズの教科書のような曲です。

デューク・レコードで以前からアレンジや録音に参加していたトランペットのジョー・スコットが編成したオーケストラがボビー・ブランドのレコーディングバンドとしてつきます。1957年くらいです。トランペットにサックス、トロンボーンにピアノ、ギター、ドラム、ベースという豊かなサウンドになり、それがボビー・ブランドの歌声とうまくマッチしてのちに「デュークのブランド」と言われるようになります。

4.Cry Cry Cry/Bobby Blue Bland

後半に向かってブランドのゴスペル培った力強い歌声を聴くことができます。バックの演奏や録音のサウンドのクオリティが上がった感じがします。
いまの歌は”Cry Cry Cry”「オレのために泣いて欲しい。オレに涙を見せて欲しい。誰かが君を傷つけているように君は僕をずっと傷つけている。ひざまずいて泣いて欲しい。そして君への愛は無駄ではなかったと僕は気付くだろう」
なかなか複雑な大人の愛の歌です。

この頃の録音のドラマーはのちにジェイムズ・ブラウンのバンドに加入するジョン・ジャボ・スタークス、ギターはかのT.ボーン・ウォーカーも絶賛した名人、ウェイン・ベネット。もうこの頃のデュークのスタジオ・ミュージシャンは鉄壁です。そういう腕のあるミュージシャンがバックをしていたこともブランドの歌を引き立たせたと思います。次の曲ではジョン・ジャボ・スタークスのドラムが素晴らしくグルーヴしていて自然と体が動きます。
さっきの歌はぼくのために泣いて欲しいという歌でしたが、次は「泣かないで」です。
「君の愛が本物だとわかったからもう泣かないで。川のように海のように君はたくさん泣いた。わかってるよ君の愛が本当だということは。だからもう泣かないで」

5.Don’t Cry No More/Bobby Blue Bland

長くブルーズを聞いているとブルーズには本当にたくさんいい歌があり、れぞれの歌い方があります。例えば20、30年代のチャーリー・パットンやブラインド・レモン・ジェファーソンのような衒いなく思うままを吐き出すような歌、そしてその流れを汲むライトニン・ホプキンスやジョン・リー・フッカーのようなドライな、熱のある砂漠の風のような歌、そしてB.B.キングやこのボビー・ブランドのような力強いゴスペルの唱法の影響が強いアーバン・ブルースの歌・・・それぞれに魅力的です。その中でもボビー・ブランドがブルーズ・シンガーとしてブラック・ミュージックの世界で評価が高いのは黒人の人たちが感じる自分たちの生活の匂いをその歌から感じさせるからだと思います。
来週またスタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランドをお送りします。

2024.11.08 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

不滅の名曲バラードを残した不世出のスタンダップ・シンガー、ジョニー・エース

ON AIR LIST
1.My Song/Johnny Ace
2.Don’t You Know/Johnny Ace
3.Pledging My Love/Johnny Ace
4.How Can You Be So Mean/Johnny Ace
5.Saving My Love For You/Johnny Ace

先週と先々週On Airしたリトル・ウィリー・ジョンにも匹敵する名シンガー、ジョニー・エースが今回のスタンダップ・ブルーズ・シンガーです。
ジョニー・エースは50年代前半素晴らしいブルーズマンたちが群雄割拠していたメンフィスの音楽シーンに登場してB.B.キング、ボビー・ブランドたちと並ぶ人気のシンガーでした。そのふたりとクラブが立ち並ぶメンフィスの”ビールストリート”から名前をとった”ビールストリーターズ”というグループにも参加していた実力の持ち主。
時代はブルーズからR&Bそしてソウルへと流れていく激しい変化の時代。その中で飾り気のないバラードを歌って真っ先に全国的なシンガーとなったのはB.B.よりもボビー・ブランドよりも早いジョニー・エースでした。
先週聞いたリトル・ウィリー・ジョンもバラードがすごく上手い歌手でしたが、ジョニー・エースはウィリー・ジョンより歌声の音域も低くて柔らかく奥深い朴訥な感じもある男っぽい声です。その歌声で珠玉のバラードを残したシンガーです。
まずデビューの1952年、22才の時にデューク・レコードで録音した最初の曲”My Song”
「君は涙して僕と別れると言った。いま君がいなくなって1時間が1年のように思える、だから愛する人よ、僕は僕の歌を歌う。僕はまだ愛してる。帰ってきてくれないか。僕たちは永遠に一緒のはずだよね」
「僕の歌」”My Song”

1.My Song/Johnny Ace

バックのサウンドのイナタさとジョニー・エースの飾らない歌声。歌い上げないでもソウルフルでじんわりと心に染み入ってくる歌。バラードシンガーの一つの手本みたいな人だと思います。実際B.B.キングもブランドもこのジョニー・エースの歌い方を研究したと言われてます。そしてアレサ・フランクリンが68年にこの曲を録音しています。

次の曲はまさに50年代中頃に流行ったジャンプ系のブルーズでスタンダップ・シンガーの本領発揮という感じです。
「オレが君のことすごく好きなこと、愛してること知らんのか」

2.Don’t You Know/Johnny Ace

どこかイナタさもあるバックのバンドがめちゃスイングしていて気持ちいいブルーズです。日本人でブルーズを好きだという人たちはギター・サウンドが好きな人が多いのですが、こういうオーケストラをバックにしっかりアレンジされたブルーズというのが苦手な人も多いんですがバックのギターにまで耳が行ってないのが残念です。いい録音には必ずいいギタリストが参加しています。                           
デビューしてすぐに全国的に売れまくっていたジョニー・エースは “Cross My Heart,” “Please Forgive Me,” “The Clock,” “Yes, Baby,” “Saving My Love for You,” そして”Never Let Me Go.” とヒット連発でその年のラジオで「最もONAIRされたシンガー」に選ばれました。
しかし1954年にビッグ・ママ・ソーントンとその年の長いツアーを終えてテキサスに着いて最後のライヴの前に彼は楽屋で酔っ払い、玉が入ってないと思った拳銃をふざけて自分の口に向けて撃ってしまったのです。それはクリスマスの夜でした。ロシアン・ルーレットの遊びで自分を撃ったという話もあるようですがちょっとふざけてみたのが真相のようです。それを目の前で見てしまったビッグ・ママは本当に髪の毛が逆立ったそうです。それにしても同時代の名シンガー、サム・クックは33才、リトル・ウィリー・ジョンは30才、そしてジョニー・エースは25才と次の世代を担う名シンガーが次々と若くして亡くなったのは本当に残念。
生涯に21曲しか録音しなかったのに8曲がヒット・チャートインしたジョニー・エース。その内3曲が1位という凄さですが、次は彼が亡くなった後にリリースされ10週間1位となった不滅のバラード。プロデュースしたジョニー・オーティスの演奏するビブラフォンの甘い音が印象的です。

3.Pledging My Love/Johnny Ace

1954年12月から10週連続1位の”Pledging My Love”

実は僕は自分のバンド”ブルーズ・ザ・ブッチャー”でジョニー・エースのジャンプ・ブルーズ・ナンバー”How Can You Be So Mean”をカバー録音しているのですが、ジョニー・エースはバラード・シンガーとして有名ですがアップテンポの曲でも見事な歌を残しています。丸みのある太い男らしい声で軽快に歌うのも彼の魅力です。「オレがおらん時にオマエは新しい男とキスしているやろ。オレの心は重くて冷たくなってる。これ以上続けたらオレは気狂ってしまう。オマエはどうしてそんなに意地が悪いんや。どうしてそんなにひどいことができるんや」

4.How Can You Be So Mean/Johnny Ace

次の曲ですが、内容がすぐに一緒にはなれないけど「僕の愛は君のために取ってあるんだ」という歌だと思う。「僕たちは一緒になるのにそんなに時間はかからない。そして一緒になったらその日から僕は君に愛してもらうよという内容。でも、なんで今すぐ一緒になれないのか気になります。大丈夫かこの男という勘ぐりもありますが、まあまあ・・ということで。

5.Saving My Love For You/Johnny Ace

この曲はリトル・ミルトン、アーマ・フランクリン、タイロン・ディヴィスと多くのシンガーがカバーしています。

ブルーズからR&Bに移っていく時代にやはり重要なのは歌の力と曲の良さだったと思います。ジョニー・エースには亡くなってからリリースされた「メモリアル・アルバム」という有名なアルバムがあります。是非、ゲットしてください。

 

2024.11.01 ON AIR

ブルーズは歌だ!スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集

ジェイムズ・ブラウンはじめ多くのシンガーに敬愛された稀代のシンガー、リトル・ウィリー・ジョン vol.2

ON AIR LIST
1.Let Them Talk/Little Willie John
2.Leave My Kitten Alone/Little Willie John
3.Leave My Kitten Alone/The Beatles
4.Sleep/Little Willie John/Little Willie John
5.I’m Stickin’ With You Baby/Little Willie John

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集は先週に引き続きリトル・ウィリー・ジョン。彼が活躍したのは50年代の中頃から60年代にかけてですから黒人音楽の主流はブルーズからR&Bへ、さらにソウル・ミュージックに移行していく時代です。曲調も色々なスタイルの曲が生まれリトル・ウィリー・ジョンにも様々な曲が提供されましたが、どれも難なく歌ってしまうところがすごいというか腹立ついうか・・(笑)。
今日の1曲目はリトル・ウィリー・ジョンを代表する曲で僕もいつか録音したい大好きな曲です。
歌詞の内容は「彼女とのことを悪く言いふらしてる奴らは言わせておけよと。どんなに君のことを愛しているか世界中の人に知ってもらいたいくらいだ。あいつらは俺たちの愛をぶち壊したいんだよ。でも、俺たちの愛はずっと続くんだよ・・・」と熱烈な愛の歌です。ウィリ・ジョンの強力な歌唱力にただただ感嘆するばかりです。

1.Let Them Talk/Little Willie John

この曲にはロバータ・フラックがテンポを落としてしっとりと歌い上げた素晴らしいカバー・バージョンもあります。

次の曲は1959年リリース。R&Bチャート13位。タイトルが”Leave My Kitten Alone”「オレのKitten(オレの子猫ちゃん)に手を出すなよ」という意味です。この曲のことを調べていたらビートルズがカバーしていることがわかりまして、そのアルバム僕持ってました。
この曲はビートルズが1964年にリリースした”Beatles For Sale”のためにレコーディングしたが長くお蔵入りになっていて94年に『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』に収録されました。”Beatles For Sale”はビートルズがたくさんカバーをやっているアルバムですが、しかしすごくメジャーな曲でもないこの曲をどうしてビートルズが知ったのか知りたいです。この曲を選んだビートルズの選曲のセンスの良さにも改めて感心します。どうもリード・ヴォーカルをとったジョン・レノンがこの曲を好きだったようです。ウィリー・ジョンのオリジナルの良さを壊さず、自分たちのテイストでカバーしてます。ジョン・レノンの素晴らしい歌唱が聞けます。ということでウィリー・ジョンとビートルズと両方聞いて見ましょうか。
最初にリトル・ウィリー・ジョン

2.Leave My Kitten Alone/Little Willie John

バックで「ミャ」っていうおもろい女性コーラスが入っているのはたぶん子猫の声を模したものだと思います。
次はそのミャは入ってないビートルズ・ヴァージョン。たぶんビートルズがデビューする前のハンブルグのクラブとかリバプールのキャバーン・クラブの下積み時代に何度もこの曲をやっていたんだと思います。

3.Leave My Kitten Alone/The Beatles

ビートルズもいいんですよね。リズムがすごくグルーヴしていて歌がしっかりしていてさすがビートルズです。

リトル・ウィリー・ジョンに戻ります。次の曲は1960年にR&Bチャート10位 Popチャート13位まで上がった曲です。
Sleepですからタイトルの意味は「眠る」
歌詞は「私たちは眠るのがめちゃ好き。一日の終わりにその日の喜びが消え去るとき、夢の中で日々の甘い思い出が繰り返される。眠っている間に眠ってる時に眠っている間に」

4.Sleep/Little Willie John

とてもPopなサウンド作りです。黒人音楽のヒット・チャートだけでなく白人のPopチャートにも13位まで上がった感じがわかります。ストリングスを入れたソフトなアレンジですがやはり白人層にも売れたいという制作側の気持ちがあったのでしょう。
歌が上手い人というのは逆に言うとなんでも歌えるのでいろんなプロデュースを受けやすく、ウィリー・ジョンもジャズやスタンダードにも手を出していますが、結局オリジナルのR&Bを歌った時にこそその本領を発揮しています。その辺はサム・クックなんかも同じでサムも先輩のナット・キング・コールを狙ったようなジャズ・アルバムを出しています。しかしキング・コールはもともとジャズ・フィールドのミュージシャンなので、ゴスペルからR&Bでスターになったサム・クックとは違います。サムももちろん歌が上手いのでクオリティはあるのですが、ジャズは「なんか違うなぁ」と言う感じがします。
やはりウィリー・ジョンもジャズ風味より次のようなJumpブルーズ風のR&Bの方が僕は好きです。

5.I’m Stickin’ With You Baby/Little Willie John

リトル・ウィリー・ジョンはもっとたくさんの人に知られてもいい優れたシンガーなのですが、同時代のサム・クックほど白人に受けずポピュラーにならなかったのですが、黒人ミュージシャンの中では偉大なシンガーとして認められています。そして海を渡ったイギリスのビートルズのように白人でも彼の歌の素晴らしさをわかっているミュージシャンもいたというのがなんとも嬉しいですね。
ウィリー・ジョンは喧嘩した相手をナイフで刺して殺してしまい、服役中の68年に刑務所で亡くなってしまいました。わずか30才でした。
スター・シンガーになるには歌唱力や曲の良さだけではなく、マネージメント側の売り出し方ビジネスのつながり、レコード会社のプロモーションの力、また本人のルックスや受ける印象などいろんな要素が必要です。しかし。歌だけで言えばウィリー・ジョンはとてつもない歌の才能と天性の資質があったシンガーでした。
今回の「スタンダップ・ブルーズ・シンガー」特集は不世出の名シンガー、リトル・ウィリー・ジョンでした。