2019.08.30 ON AIR

ニューオリンズの至宝、ドクター・ジョンの死 Vol.3

In A Sentimental Mood (Waner Bro 9 25889-2)
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Going Back To New Orleans (Waner Bro 9 26940-2)
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Tango Place (A&M POCM-1807)
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ON AIR LIST
1.In A Sentimental Mood/Dr.John
2.Basin Street Blues/Dr.John
3.My Indian Red/Dr.John
4.Louisiana Lullabye/Dr.John

今回で三回目を迎えるドクター・ジョンの追悼特集ですが、改めてドクターの音楽の足跡を辿ってみるといろんなドクターがいるんですが、ひとつひとつのアルバムにその当時の彼の気持ちが表れてます。
ウエストコーストに住んでいた頃、ニューヨークにいた頃、その時々で彼はアルバムを残しているけど、やはり故郷ニューオリンズへの強い想いはどこにいてもずっと揺るがなかった。そして、その一枚一枚のアルバムに彼が生きて音楽を続けるための苦闘も感じられます。
晩年ジャズの曲を取り上げたり、デューク・エリントンへのトリビュートアルバムを作ったりしましたが、でもやっぱりそこにもはっきりドクターはいて「こんなジャズのいい曲知ってますか」と自分のスタイルで演奏していたような感じです。
今日の一曲目は1989年リリースの”In A Sentimental Mood”からこのデューク・エリントンの曲から、ドクターの絶妙に艶っぽいピアノが堪能できます。
1.In A Sentimental Mood/Dr.John
ため息が出るいい曲、素晴らしいピアノでした。ドクターは若い頃ニューオリンズのヤバい店で演奏していた時からジャズの曲はやっていたとインタビューで言ってます。
そして、このアルバム”In A Sentimental Mood”のあと1992年に”Going Back To New Orleans”というアルバムをリリースします。これはタイトルどおりニューオリンズへ回帰するアルバムで、ニューオリンズのファッツ・ドミノやデイヴ・バーソロミューの曲も取り上げていますが、72年の「ガンボ」とはひと味違うニューオリンズ音楽の豊かさを聴かせてくれています。
ドクターが若い頃のニューオリンズは、有名な歓楽の街で酒やドラッグや売春が行き交う場所ででした。そういう歓楽の場所ではブルーズもR&Bもジャズも同じように演奏されていて、これといった音楽のジャンルの垣根はなかったのでしょう。
92年のアルバム”Going Back To New Orleans”から。この曲のタイトルのベイズン・ストリートもニューオリンズのフレンチ・クォーターの歓楽街です。
2.Basin Street Blues/Dr.John

このアルバムにはニューオリンズのマルディグラというお祭りの季節によく演奏される次のようなインディアンの音楽も収録されています。
1940年代半ばにダニー・パーカーというギタリスト・シンガーが作った曲で、いまやニューオリンズ・スタンダードです。こういう曲を忘れないでアルバムに入れるところにニューオリンズ愛を感じます。そして、僕にとっては親友の山岸潤史がニューオリンズに住んでマルディグラ・インディアンのバンドに加入してこうい曲を演奏していた頃を想い出す・・・そういう曲でもあります。
3.My Indian Red/Dr.John

2005年の8月ハリケーン・カトリーナによって壊滅的な被害を受けたニューオリンズの街でしたが、とくに黒人や有色人種が住む地域の復興になかなか積極的に出ない政府、自治体に腹を立てたドクターはハリケーンから三年後の2008年に”City That Care Forgot”というアルバムをリリースします。タイトルはケアを忘れられた街、つまり復興を忘れられた街ということです。
実際、観光用の表通りは体裁をつくろうように修理されたりしたが、黒人たちが住んでいる地域の復興はまったく言っていいほどされてなかった現状を僕も後から知りました。
最後は1979年ニューヨークで録音されたアルバム”Tango Place”から
これもルイジアナ、ニューオリンズへの想いがあふれた曲で作詞がドク・ポマスで作曲がドクター・ジョン
4.Louisiana Lullabye/Dr.John

ここ二年くらいライヴが減って、ドクターの体調がよくないことが伝えられていましたが、なんせドクター・ジョンですから、ブードゥー教の司祭ですからなかなかくたばらないだろうと思っていた矢先の6月6日の訃報でした。
残念です。そして、ドクターが亡くなってすぐあとに、ドクターの大先輩のデイヴ・バーソロミューが100才で亡くなりました。そして、つい最近ネヴィル・ブラザーズのアート・ネヴィルが亡くなりました。ニューオリンズの音楽は大丈夫かと思うくらい次々と知る訃報に気持ちが落ちてしまいます。

伝統あるニューオリンズの音楽を原点にいろんなフィールドで活躍し、いろんなミュージシャンのアルバムやライヴにも参加して、六回グラミー賞を受賞して、ここ三回で聴いてもらったようにいろんな曲を録音しましたドクター・ジョンでした。なによりみんなが知らなかったニューオリンズのいろんな音楽、ミュージシャンを率先して紹介してきた功績は大きいと思います。でも、カバーをやる時でも変ったアレンジをしなくてもドクターの味が自然と出ているところが素晴らしいです。改めてドクター・ジョンの冥福を祈ります。そして、亡くなる前に録音された最後のアルバムがリリースされるのを待ちたいと思います。