2022.01.07 ON AIR

今年の幕開けはグラミー賞11部門ノミネート、ニューオリンズの若き才能

WE ARE / Jon Batiste (Verve UCCV-1190)

ON AIR LIST
1.I Need You/Jon Batiste
2.Freedom /Jon Batiste
3.We Are/Jon Batiste
4.Tell The Truth(Uptown Remix)/Jon Batiste
5.Cry/Jon Batiste

明けましておめでとうございます!今年もブルーズを中心にブラック・ミュージック関連の素晴らしい音楽をON AIRしていきます!
毎年11月になるとグラミー賞のノミネートが発表されます。僕はグラミーにそんなに興味があるわけではないのでいつもなら眺めている感じですが、今年は今日聴いてもらうジョン・バティーストのアルバム”WE ARE”が高く評価されアルバム・オブ・ザ・イヤーはじめ11部門にノミネートされていてちょっと興味津々です。
ニューオリンズ出身のジョン・バティステは非常に才能のある若者でジュリアード音楽院を卒業した後教育に携わったり、テレビのパーソナリティをやったり、「世界を変える30歳未満の30人」に選ばたこともあり、国際ジャズ博物館のアートディレクターもやっています。2015年くらいからアルバムやライヴが高く評価されていたらしいんですが、最初にジャズのカテゴリーから始まったのであまり知られなかったのかも知れません。しかし、彼の音楽にはジャズ、ブルーズ、R&R、ゴスペルなど音楽の先人たちが残してくれた様々な音楽をミックスされています。
そして故郷ニューオリンズの音楽のテイストもあります。今回の新譜にもニューオリンズ・テイストが散りばめられています。
まずはアルバムの一曲目

1.I Need You/Jon Batiste

ジョンはジャズ・ピアニストとして出発してそのテクニックだけでなく豊かな音楽的才能を早くから認められています。好きなミュージシャンはハービー・ハンコック、ウィントン・マルサリス、カサンドラ・ウィルソン、プリンス、スティーヴィー・ワンダー、レニー・クラヴィッツなどのジャズ、ソウル、ロックなど幅広く聴いていたようです。
次の”Freedom”は曲がソウル・ファンクでその下にR&Bベースがありファルセットの使い方などはプリンスの”Kiss”あたりを感じさせる。なんとなく懐かしいテイストがあることに気づく人も多いと思います。
このあたりがぼくのようなオールドスクールにも入りやすいところ。「体を動かすと自由を感じる。みんな自由なんだ」とポジティヴなメッセージソング

2.Freedom /Jon Batiste

この”Freedom”のミュージック・ビデオは彼の地元ニューオリンズで撮影されていて彼の母校の高校のマーチング・バンドや教会のクワイアそしてニューオリンズのいろんな風景が映し出され彼のニューオリンズ愛が溢れるほど出ています。

ジョン・バティーストはテレビのパーソナリティもやったり、テレビの「レイトショー」ハウスバンドのリーダーとしてかなり知名度はありました。
そして、更に一躍彼の名前が知られたのは2020年に黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官によって殺された事件があり、それに抗議するデモ行進「We Are: A Peaceful Protest March With Music」というのを彼が主催したことでした。その時彼は拡声器を持ちショルダー・キーボードを肩からかけて歌い、アジテーションし、そのあとをマーチング・バンドのように音楽を奏でながらたくさんの人たちが平和的に行進するというものでした。「言葉を超えて、一緒に歌い、手拍子したり、踊ったりして、愛を分かち合っている。そういう場所をこの活動を通して僕は作ってきた」と彼は語っています。

3.We Are/Jon Batiste

考えてみればニューオリンズではみんなで演奏し歌いながら街を行進することは日常でよくあることです。

ジョンの父、マイケルは自分の兄弟たちと「バティースト・ブラザーズ・バンド」というのを作って活動して、そういう音楽一族の中でジョンは育っています。おじさんのラッセル・バティーストはドラマーでニューオリンズで活躍する僕の盟友、山岸潤史がやっていた「パパ・グロウズ・ファンク」のメンバーでした。その山岸が参加したトロンボーン・ショーティのファースト・アルバムにはこのジョンも参加しています。
次の曲には彼のルーツ・ミュージックや地元マルディグラ・インディアンのテイストもたっぷり入った曲でニューオリンズ・ミュージックを好きな人の耳にはひかかるものがあると思います。

4.Tell The Truth(Uptown Remix)/Jon Batiste

次の曲もどこか懐かしいメロディで私のようなオールドタイマーのおじさんはぐっとくるものがあります。

5.Cry/Jon Batiste

このアルバムを毎日のように聴いていて思ったのは、才能というのはこのジョン・バティーストのようなことではないかと。
ただ卓越した才能があるだけではなくその才能を生かすことができることの才能。社会や政治、日々の出来事、人間の気持ちを広く俯瞰し理解することができてそれを誰もが理解できるように、しかも自己の音楽性を失わずに表現できること。アヴァンギャルドでありながらポップでもあるさじ加減ができること。それらが多くの人たちに支持されグラミーに11部門もノミネートされることになったのではと思う。まだ35歳です。
ジョンは素晴らしくピアノも上手いし、曲も作れるしサウンドやグルーヴなどマルチな才能に恵まれているけど、それを多くの人たちが共感できる精神を伴った音楽にしたところが素晴らしい。これから先もどんな音楽を作ってくれるのか楽しみだ。このアルバム”WE ARE”はゲットしてください。日本盤もリリースされています。