2025.06.06 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その9

若い頃買えなかったブルーズ名盤を50年経って廉価中古盤で買う

“Soul Of The Blues”「ブルースの魂」/Big Joe Williams(東芝EMI LLS-70047)

ON AIR LIST
1.Oh Baby/Big Joe Williams
2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams
3.Blues Round The World/Big Joe Williams
4.EveryBody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams
5.Pearly Mae/Big Joe Williams

日本にブルーズのブームが起こったのが1974年くらいから 76年頃まででした。日本のレコード会社はどこもブルーズのアルバムをリリースして1ヶ月でリリースされる枚数が多すぎて欲しいけど買えなかったアルバムもたくさんあった訳です。
今ちょっと昔の1974年に刊行されたニューミッジック・マガジンの増刊号「ブルースのすべて」をいまパラパラとめくってレコード会社の広告をみると、まずビクター・レコードが「チェス・ブルース・コレクション」でチェス・レコードのマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、サニーボーイ・ウィリアムスン、エルモア・ジェイムズ、バディ・ガイなどをシリーズで毎月リリースして、画期的な日本編集の「RCAブルースの古典」というLP3枚組もリリースしてます。ちなみにこれが価格¥5,400。 当時かなり無理して買った記憶があります。東芝レコードはT.ボーン・ウォーカー、B.B.キングのアルバムを立て続けに出し、ライトニン・ホプキンスやリル・サン・ジャクソンなどのカントリー・ブルース系もリリースしてます。そしてCBSソニーはロバート・ジョンソンの歴史的録音はじめリロイ・カーやブッカ・ホワイト、サン・ハウスなどの名盤を次々にリリース。トリオ・レコードはデルマーク・レコードを一度に10枚発売してその中にはマジック・サム、ジュニア・ウェルズ、スリーピー・ジョン・エステス、ロッバートJr・ロックウッドなどの名盤がずらり並んでいる。つまり当時20代中頃の定職にも着いていない金のないバンドマンの私がそんなに買えるわけもなかったわけです。その頃買えなかった、買いそびれた、買い逃したアルバムはかなりあるわけです。その一枚に先日中古レコード店で遭遇しました。それが今日聴いてもらうビッグ・ジョー・ウィリアムスの”Soul Of The Blues”「ブルースの魂」と題されたアルバムです。これは当時東芝レコードの「ブルース名盤シリーズ」という企画でリリースされたものです。当時モダン・ブルーズとシカゴ・ブルーズあたりを買うのが精一杯でなかなかこういうカントリー・ブルーズには手が回りませんでした。
まず一曲。歌詞を聞いているとロバート・ジョンソンの”Sweet Home Chicago”の最初の一節”Come On Baby,Baby Don’t You Wanna Go”が同じですが、ブルーズは伝承音楽でもあるのでこういう常套句はいろんなブルーズマンが自分の曲で使ってます。でもそのあとの一節がシカゴではなくて「おいでよベイビー、行きたくないかい。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくんだ」です。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくというところが本物の放浪のブルーズマン、ビッグ・ジョー・ウィリアムスらしい一節です。

1.Oh Baby/Big Joe Williams

先頃公開された若き日のボブ・ディランを描いた「名もなき者」という映画を観た方もいらっしゃると思いますが、そのディランが憧れた放浪のブルーズマンがこのビッグ・ジョー・ウィリアムスです。10代の頃にディランは放浪しているビッグ・ジョーに付いて回ったという話もあります。
ビッグ・ジョーはスライド・ギターもやるんですが次はそのスライドギターが最初から切り込んでくるスリリングな一曲です。

2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams

歌もギターも豪快で気持ちいいです。
ビッグ・ジョーは普通の六弦ギターに弦を自分で足して9弦にしたもので、世界で一つの9弦ギターというのを使ってました。僕は彼が来日したとき、日比谷野音の楽屋で見せてもらいましたがよくわからない構造のギターでした。長い放浪生活でずっとギターも旅をしているのでケースもギターもボロボロで見る人によってはガラクタにしか見えないのですが、一旦ビッグ・ジョーに抱えられると今ような素晴らしい音を出すのです。
次はBlues Round The Worldという曲名で直訳すると「ブルーズ世界一周」となりますが、歌詞の内容を聴くと女性世界一周という感じです。「キューバでもスペインでもイギリスのロンドンでも俺は女がいた」と始まるのですが、「いろいろ女遊びをするのをやめてアメリカに帰って心を入れ替えて昔の女とやり直そう」となり最後に「オレはお前を落ち込ませてしまう。やっぱりお前が必要じゃないんだ。旅に出るよ」とまあわがままのことを言ってますが、Blues Round The WorldではなくてWomen Round The Worldに曲名を変えた方がええやろ。

3.Blues Round The World/Big Joe Williams

とにかく歌声がめちゃでかいのがわかります。そんなにいろんなパターンがあるブルーズマンではないんですが、70年代後半まで現役でやり続けられたのはやはりそのライヴに魅力があったからでしょう。
このライナー・ノーツを書いている故中村とうようさんが「生きたブルースが大きな背中を見せて歩いて行く」とタイトルをつけています。その生きたブルースが日本にやってきたのは1975年7月。時にビッグ・ジョーは72歳。私は日比谷野外音楽堂で観ましたが多分どこで歌っても彼は変わらないと思う堂々とした歌いっぷりでした。彼しか持っていない、彼しか弾けない不思議な9弦ギターで力強い歌とパーカッシヴなギターと息を飲むようなスライドギターを聞かせてくれました。
そのスライドが聞ける曲を。「俺が死んだらみんな寂しくなるだろう。金があるときは友達が寄ってくる。金がなくなると友達はいなくなる。俺が死んだらお前は寂しく思うだろう」

4.Everybody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams

次の歌は出て行ってしまった彼女に寂しいから帰ってきてくれという歌詞ですが、曲名は彼女の名前です。”Pearly Mae”ですから「真珠のようなメイ」になります。なかなか素敵な名前ですよね。

5.Pearly Mae/Big Joe Williams

1903年にミシシッピで生まれて若い頃から放浪を続け1941年には放浪のブルーズマンらしい「Highway 49」という歴史に残るブルーズを録音し、僕もカバーしている今やブルーズ・スタンダードとなった「Baby Please Don’t Go」も彼のオリジナルです。ヨーロッパやいろんな国でも演奏し、82年に故郷ミシシッピで79歳で亡くなりました。彼のギターとギターケースを見た時にその厳しい放浪の日々がわかるような気がしました。
今日聞いたのは1974年東芝EMIがリリースした「ブルース名盤シリーズ」の一枚ビッグ・ジョー・ウィリアムスの「ブルースの魂」でした。素晴らしいリアル・ブルーズ・アルバムです。
ホトケのレコード中古盤放浪記 その9