2018.03.02 ON AIR

★戌年ということで猟犬(ハウンドドッグ)とあだ名のついたHound Dog Taylor特集

Hound Dog Taylor And The House Rockers
(Alligater Records/日本キングレコードKICP 2916)

img

ON AIR LIST
1.She’s Gone/Hound Dog Taylor And The House Rockers
2.Wild About You Baby/Hound Dog Taylor And The House Rockers
3.Give Me Back My Wig/Hound Dog Taylor And The House Rockers
4.The Sun Is Shining/Hound Dog Taylor & The HouseRockers

ハウンド・ドッグ・テイラーは本名セオドア・ルーズヴェルト・テイラー
いい名前なのに芸名がハウンド・ドッグ(猟犬)になってしまったんですね。
1917年生まれ。生きてたら100才です。
多くのブルーズマンと同じようにミシシッピ生まれ。堅気の仕事をしながらずっとミシシッピの酒場なんかで演奏していたが、25才の時にシカゴへ出てくる。この時もしっかり堅気の仕事をしながらセミ・プロ的な活動で明け暮れる。
50年代に入ってシカゴのクラブでプロらしい活動をやれるようになり、60年代に入ってマイナーレーベルから何枚かシングルを出すが売れない。しかし、シカゴのゲットーのクラブではそのライヴが評判よくて、毎晩のようにライヴをやり続けドラムのテッド・ハーヴィ、ギターのブリュワー・フィリップスと3人でベースレスの真っ黒なブルーズ・サウンドを70年に作り上げていた。そのライヴにめっちゃ感動したブルース・イグロアという男が、彼はシカゴのデルマーク・レコードで働いていたのだけど、ハウンド・ドッグにどっぷりハマって彼のアルバムを出すためにアリゲーターというレーベルを立ち上げる。
これだけでもすごい話です。1人の男の人生を変えてしまったハウンド・ドッグ・テイラーのブルーズってちょっと興味出てきますよね。
その最初のアルバムがまず今日聴いてもらう”Hound Dog Taylor And The House Rockers”
1971年リリース その時ハウンドドッグはすでに54才。充分におっさんです。あと6年で還暦。これが彼のアルバム・デビューです。
では、そのアルバムの一曲目です
「オレから金を巻き上げておれをガキのように扱ったあいつはオレを好きやなくなったんや。あいつが行ってしもたから。オレもここには長くはおらんよ。オレはあいつと別れるけど本当はここを離れたくない。でもあいつは他の男を好きでオレをもう愛してないから・・いいよ。ええよ、もうええよ」とワンコードでずっとグルーヴするブルーズ。
1.She’s Gone/Hound Dog Taylor And The House Rockers

なんかもうシカゴのクラブが見えてくる感じです。実際、プロデューサーのイグロアはハウンド・ドッグ・テイラーのライヴをそのままレコードにパックしたいと考えたみたいです。それがよかったと僕も思います。こういうライヴがいいミュージシャンってあれこれアレンジしたり、手を入れると絶対にええことないんです。
ハウンド・ドッグはエルモア・ジェイムズの影響をすごく受けているブルーズマンでスライド・ギタースタイルに関してはエルモアを更にワイルドにラフにした感じです。
では、彼がリスペクトするエルモア・ジェイムズの定番フレイズのギターで始まる曲です。
2.Wild About You Baby/Hound Dog Taylor And The House Rockers

だいたいハウスロッカーズというバンド名がかっこいいです。ハウスー家、つまりクラブやライヴハウスをRockする揺らす。家を揺らす、クラブを揺らしてグルーヴするバンドです。
ドラムのテッド・ハーヴィは64年くらいからハウンド・ドッグと活動しているんですが、素晴らしいブルーズ・ドラマーでジミー・ロジャース、J.B.Hutto、スヌーキー・プライヤー、パイントップ・パーキンスなど名だたるシカゴのブルーズメンと録音を残してます。残念ながら2016年にシカゴで亡くなりました。
このテッド・ハーヴィのドラムがハウンド・ドッグのブルーズにぴったりのグルーヴなんです。ストレートでワイルドなドラミングで次の2ビートのグルーヴも最高です。
次は「オレのカツラかえしてくれ」という歌ですが、確かにハウンド・ドッグがカツラ疑惑の写真がいろいろあります。
3.Give Me Back My Wig/Hound Dog Taylor And The House Rockers
もうシカゴの黒人のゲットーのクラブへ行った感じです。
もうひとりのギターのブリュワー・フィリップスもミシシッピーの出身ですが、彼はメンフィスを経由してシカゴにやってきた。ドラムのテッド・ハーヴィのバンドでルーズヴェルト・サイクスのレコーディングに参加して、そのままハウンド・ドッグとやるようになったらしいです。ハウンド・ドッグは日本製のテスコのギターを使ってるんですが、フィリップスはテレキャスターで指弾き。ふたりとも歪んだギターの音で、そのサウンドとノリは故郷ミシシッピのジューク・ジョイント(酒場)のグルーヴ。
3人がそれぞれ自由にやってるようですが、一体になっていくところがかっこいい。
元々ベースがいないブルーズ・サウンドというのは当たり前にあってマディがシカゴで初期にやっていたバンドもギターがベース・パターンを弾いていたし、エルモア・ジェイムズとかにもそういう録音がある。
僕もいまのブルーズ・ザ・ブッチャーの前にやっていたブルーズ・パワーはベースレスで亡くなったギターの浅野くんがリードギターで僕が歌いながらギターでベースの役割をやり、ドラムの沼澤くんがグルーヴを作っていくというバンドでした。ベースの低音がないというちょっと音が欠けている感じがするんですが、僕のギターと沼澤くんのドラムが合わさるとベースがいるように聴こえるんです。独特のビート感が生まれます。
次もエルモアのカバーですが、オリジナルのエルモアにひけを取らない濃度の濃いブルーズです。シカゴのゲットーからミシシッピー・デルタのジューク・ジョイントに連れて行かれるような素晴らしいリアル・ブルーズです。
ライヴアルバム”Beware Of The Dog”から
4.The Sun Is Shining/Hound Dog Taylor & The HouseRockers
もう思いっきりブルーズです。ハウンドドッグの歌も手加減なし全力投球でいいです。

彼らが長い間シカゴ・ゲットーのクラブで人気のバンドだったのがよくわかります。1970年代というと黒人音楽の主流はソウル、ニューソウルと言われた時代で、ブルーズもファンクやソウルの影響が出てきていわゆるブルーズン・ソウルというジャンルも生まれた頃です。でも、シカゴのゲットーの深いところではハウンド・ドッグのようなブルーズで一晩中踊っていた黒人もたくさんいたわけです。ブルーズを必要とする人たちがまだまだいたんですね。
このHound Dog Taylor And The House Rockersのファースト・アルバムはゲットしてください。B.B.キングやボビー・ブランドのようなモダン・ブルーズではないもっと下世話な、ストリート感覚のあるリアルなブルーズが聴けます。また、ロックするテイストもあります。
今日は1971年アリゲーター・レコードがリリースしたHound Dog Taylor And The House Rockersを聴きました。