2018.05.11 ON AIR

レコードで聴くソウル名盤
追悼:南部の真のソウル・シスター デニス・ラサール Denise LaSalle

Trapped By A Thing Called Love/Denise LaSalle (WESTBOUND WB 2012)
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ON AIR LIST
1.Trapped By A Thing Called Love/Denise LaSalle(A-1)
2.Catch Me If You Can/Denise LaSalle (A-5)
3.Do Me Right/Denise LaSalle (B-2)
4.The Deeper I Go(The Better It Gets)/Denise LaSalle (B-3)
5.Hung Up,Strung Up/Denise LaSalle (B-1)

2018年1月8日に本当にサザンソウルらしい女性シンガー、デニス・ラサールが78才で逝去しました。
大好きな歌手だっただけに本当に残念です。
デニス・ラサールが同時代の女性ソウル・シンガーと違うところは、作詞作曲が出来たということです。もちろん他にもローラ・リーやキャディ・ステイトンという女性たちもソング・ライティングができるシンガーでしたが、ラサールほどどの時代にも黒人たちに支持され続けた人はいないのではないだろうか。
1939年ミシシッピーのグリーンウッドに生まれてミシシッピーで育った彼女の奥底にはもちろんブルーズもたっぷりあった。
15才の時にシカゴに出てきてそこで3年間ゴスペルグループに在籍して、それが彼女の音楽の実質的な出発となっている。その後シカゴのマイナー・レーベルから”Love Reputation”という曲でデビュー。その後シカゴと言えばそうチェス・レコードで録音するのだけど、ヒットはせずシングル3枚で終わる。
彼女のすごいところはここからで、ビル・ジョーンズというのちに旦那さんになる人と「クレイジョン」というレーベルを立ち上げ、70年代に入ると自分の歌はシカゴソウルよりもメンフィスの方が合うと感じてメンフィスの「ハイ・レコード」のプロデューサー、ウィリー・ミッチェルのところに駆け込む。ウィリー・ミッチェルと言えば、70年代にアル・グリーンやO.V.ライト、オーティス・クレイ、アン・ピープルズを録音してヒットを連発した敏腕プロデューサー。そのウィリー・ミッチェルにプロデュースしてもらった曲が71年R&Bチャートの1位になる。この曲も彼女の自作の曲です。
1.Trapped By A Thing Called Love/Denise LaSalle

タイトルのTrapというのは最近日本でもよく言うハニー・トラップ°(女性を使って男を誘惑して罠にはめる)のことで、つまり罠にはめる。Trapped By A Thing Called Loveだから恋という名前の罠にハマってしまった。嘘をつきたくないのに嘘をついたり、泣いてみたり、彼に電話をしてしまう・・まあ恋と言う名の罠に私はどんどんハマってしまう。どうしょうもなくずふずふと恋に溺れる女性の歌です。いいですよね、恋愛にハマった時のどうしょうもない気持ちって・・・・なんかね。
それでいまの曲がタイトルになった最初のアルバム「Trapped By A Thing Called Love」が72年にリリースされます。
今日はそのTrapped By A Thing Called Loveを中心に聴きたいと思います。
この最初のアルバムからずっと追いかけて聴いているんですが、歌声の質と歌い方が僕の好みなんですよ。同じメンフィスのハイレコードで録音していたアン・ピーブルズもそうなんですがあまり歌い上げない歌手なんです。アレサとかパティ・ラベルは歌い上げがすごいんですが、歌上げる時に聴いててしんどい時があるんですね、僕は。ちょっと淡々とした感じがあるところがデニスのいいとこだと思います。
「時間は待ってくれない。私も待てない。決して鳴らない電話の前で私はひとり座っている。私の涙はすべてムダね。私は行くわ。もし、あなたがつかまえてくれるなら私をつかまえて、愛して」
こりも女性に受けるでしょう。まあ男が聴いてもぐっときますけどね。
2.Catch Me If You Can/Denise LaSalle
次はちょっとアップ・テンポの曲なんですが、実は70年代中頃からポピュラーミュージック全体がディスコ・ブームになった時があって、デニス・ラサールもディスコ調の曲をリリースしました。彼女自身もたぶん自分のいちばんいい歌はディスコものではなく、今日聴いているような南部のソウルの感じがあるものだと思ってたはずです。でも、たぶんショー・ビジネスを生き抜いていくには、ディスコものをやらなくては仕方のない時期だったのでしよう。
いまから聴いてもらうのは、ABCレコードから77年にリリースのアルバム”Bitch Is Bad”(すごいタイトルですが)に収録されているディスコ調なのですが、どうしても南部の匂いがしてしまうジャンプ・ナンバーです
3.Do Me Right/Denise LaSalle
なんかやっぱりね、いい意味でイナタイんですよ。完全に洗練されないんですよね。

彼女はアレサ・フランクリンを尊敬していてインタビューでよくアレサの名前を出しているのですが、ミシシッピーにいた小さい頃好きで聴いていたのはダイナ・ワシントンやルース・ブラウンだったそうで、僕はどちらかというとアレサよりそのふたりの影響を感じます。
次は一曲目のTrapped By A Thing Called Loveの続編みたいな曲です。デニスは子供の頃、好きで物語を書いていたらしいんですが、次の曲の歌詞にちょっとその片鱗を感じます。
「ある連中は「わからんわ」って頭を振る。私がある男の罠にひっかかるのをわからんわって頭を振る。でも、私はQuick Sand(流砂)の中にいる(ズフズブと落ちて行く)でも、私はそこ(流砂)にいたいから大丈夫なんよ。私はどんどん深く男の穴に落ちて行く、でもね深く入れば入るほどいいことをゲットするのよ、ほんとにそうよ」
流砂にどんどん深く入っていくなんていう表現がいいです。
4.The Deeper I Go(The Better It Gets)/Denise LaSalle
次の歌も好きになってどうしょうもない気持ちの歌です。
「貴方と別れて誰か新しい人をと自分自身に言うの。でもいつもあなたと別れようとするとあなたは笑ってみせる。あなたはダメなんだけど恋人。私は新しい人を見つけられないってわかっている。あなたは私を引き止め、気持ちを高ぶらせて、私を夢中にさせる」
5.Hung Up,Strung Up/Denise LaSalle

70年代後期はレコード会社もなかなかうまくプロモーションしてくれなくて彼女も苦労してましたが、シカゴとメンフィスあたりでライヴ活動は活発にやっていたようです。そして、82年ミシシッピーのジャクソンにある「マラコ・レコード」から曲の依頼が来ます。ソング・ライターとしての彼女の力は南部のミュージシャンやプロデューサーには認められていたからです。マラコ・レコードはマイナーレーベルですが、数多くの素晴らしいブルーズ、ソウルをリリースしてきたレーベル。それで彼女はZ.Z.ヒルはじめマラコのいろんなミュージシャンに曲を提供しながら自分も歌い始めます。
そこからは南部の人たちの強い支持を受けて、いい第二の人生が開けて行きました。

晩年病気になり足が悪くなってイスに座って歌う映像がネットに出てます。それでも歌は素晴らしい。僕は2004年に来日したライヴを一回だけ見たのですが、典型的なソウルショーっていう感じで良かったです。
彼女は振り返れば、すごくいいミュージシャン人生だったのではと思います。いろんな人が彼女の曲を歌っているし、それはずっと残るし、サンプリングもされて若い人にも聴かれているし・・。
是非みなさんも探してください・・・デニス・ラサール