2018.08.17 ON AIR

ブルーズロックの大きなアイコン、エリック・クラプトンの集大成
今秋公開ドキュメントフィルム”Eric Clapton LIfe In 12 Bars” vol.1

Eric Clapton/ LIfe In 12 Bars(UNIVERSAL UICY-15738/9)
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ON AIR LIST
1.I Wish You Would/The Yardbirds
2.All Your Love/John Mayall & The Bluesbreakers with Eric Clapton
3.Strange Brew/Cream
4.While My Guitar Gently Weeps/The Beatles
5.After Midnight/Eric Clapton

エリック・クラプトンのドキュメント映像”Eric Clapton LIfe In 12 Bars”がこの秋に公開されます。予告資料を読むとかなりリアルなドキュメントになっているようで楽しみです。エリック・クラプトンのこれまでの人生そのものが、60、70、80、90、2000、2010と半世紀以上に渡るロックのひとつの歴史でもあるわけで、それが映像として描かれるのはとても意義深いことです。
それで今日から2回に渡ってこの映画のサントラを中心に僕が思うエリック・クラプトンの話をしたいと思います。
クラプトンは60年代ヤードバーズでプロ・キャリアのスタートを切ってから現在に至るまで白人ロック・ミュージシャンとしてブルーズの大きなアイコンであることに間違いはなく、昔もいまもクラプトンからブルーズに入る人はたくさんいると思います。
この映画のタイトル”LIfe In 12 Bars”も「12小節の人生」ということですが、12小節とは一般的なブルーズの音楽形式のことで実にうまい表現だなと思います。だから「ブルーズの人生」と訳してもいいんですが・・・。
でも、クラプトンが歌っているオリジナルの「サンシャイン・オブ・ユア・ラブ」「いとしのレイラ」「バッジ」「ティアーズ・イン・ヘヴン」などは、僕はブルーズとして捉えていません。だから、ブルーズの大きなアイコンなのですが、必ずしも彼の志向はブルーズだけではなかったのです。もちろん、彼がロバート・ジョンソンのカバー・アルバムをリリースしたりするブルーズをすごく好きなミュージシャンであるのは間違いないのですが・・。
このサウンドトラックの最初に収録されている曲が彼のオリジナル曲やヒット曲ではなく、彼が敬愛するビッグ・ビル・ブルーンジーのブルーズであることからも彼のブルーズ好きがわかると思います。
そのあとにマディ・ウォーターズが2曲収録されていて、クラプトン本人の演奏が出てくるのは三曲目からです。
それでまずクラプトンの最初のバンドと言えば「ヤードバーズ」ですが、ヤードバーズがデビューした頃、僕はとにかくビートルズに夢中で・・次にストーンズという感じでした。まあ、興味はあったけど中学生ですからお金もなかったのでヤードバーズは後回しになりました。つまりビートルズがあまりに圧倒的で、子供心にも他のブリティッシュのグループから群を抜いているのがわかってました。そして、ヤードバーズはまだ子供だった僕がブルーズ的な音を理解できないでいたということもあると思います。だからヤードバーズは高校生くらいで初めてしっかり聴きました。
この”Eric Clapton LIfe In 12 Bars”のアルバムではクラプトンの最初のキャリアとしてヤードバーズのこのブルーズを収録しています。
1.I Wish You Would/The Yardbirds
I Wish You Wouldは50年代から60年代にかけて活躍したブルーズマン、ビリーボーイ・アーノルドがオリジナルですが、ロッキン・ブルーズのテイストが濃いかっこいいブルーズで選曲のセンスは抜群です。60年代当時のイギリスのロック・ミュージシャンのブルーズへの傾倒はかなりなものでいろいろ聴いていないとビリーボーイ・アーノルドあたりにはたどり着かないと思います。
ヤードバーズが”For Your Love”というポップなオリジナル曲への志向を始めたので、クラプトンがバンドを辞めてしまったのは有名な話ですが、それほど当時はブルーズへの気持ちが強かったんでしょうね。
1965年のはじめにはヤードバーズをやめて、イギリスのブルーズ専門店のような「ジョン・メイオール&ブルーズブレイカーズ」に加入します。この時クラプトンまだ20才です。そして、翌年リリースされたのが名盤”Bluesbreakers with Eric Clapton”です
このアルバムは黒人ブルーズを知ってから聴くとかなり衝撃的でした。つまり、1960年代の半ばで白人であれだけブルーズギターを巧みに弾けるのは、クラプトンだけだったかも知れません。
やっぱり上手いです、ギター。その見本みたいな演奏がそのアルバムに入っているオーティス・ラッシュの曲のカバーです。
2.All Your Love/John Mayall & The Bluesbreakers with Eric Clapton

クラプトンはこのブルーズ・ブレイカーズ時代に急速にギターの腕を上げていきます。当時イギリス国内ではいちばん上手いギタリストという評価でした。でも、このブルーズブレイカーズにいたのも1年足らずでクラプトンは次のバンド、「クリーム」結成に向います。
1966年7月にクリームのデビューとなるのですが、ドラムのジンジャー・ベイカーがクラプトンにバンド結成をもちかけ、OKしたクラプトンはベースにジャック・ブルースを指名するんですが、実はブルースとベイカーはめっちゃ仲悪かったんですね。その前にやっていたグレアム・ボンド・オーガニゼーションでふたりは同じだったんですが、その頃からジンジャー・ベイカーとジャック・ブルースは仲悪かったそうです。ふたりともその音楽的な才能は認め合ってるんですが・・ね。
クリームというバンドは1966年から69年までの3年間続いたバンドでちょうど僕の高校3年間にあたります。実はその3年間というのはめまぐるしくロックが変った時期で、歴史的な名盤ビートルズの”Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band”が67年にリリースされ、ジミ・ヘンドリックスがデビューして革命的なギター・プレイでロックを変革し、ジャニス・ジョップリンが登場し、ローリング・ストーンズは「ベガーズ・バンケット」を68年にリリース、「レット・イット・ブリード」69年にリリース、同じ69年には現在にも届くハードロックの元祖レッド・ツェッペリンがデビューし・・という非常に充実した時期でした。新しいサウンドや新しいコンセプトや歌詞やメロディにおいてもすごく変遷の激しい時代でした。その中でクリームは僕の中では、いくつかの好きな曲を除いてそんなに好きなバンドではなかったのです。それはドラムが好きではなかった。つまりジンジャー・ベイカーのドラムが・・・・・すんませんね。結構リードを取っているジャック・ブルースの歌もあまり好きではなかったんですが・・。もちろんクラプトンのギターは上手いなぁとは思ってましたが、いつも言ってるように僕にとっては歌がまず大事なんですよ。
そんな中、クリーム時代のクラプトンで僕が好きなのがこの曲
3.Strange Brew/Cream
クリームは有名なロバート・ジョンソンのカバー”Crossroads”とかハウリン・ウルフのカバーの”Spoonful”とかよりいまの”Strange Brew”とか”Sunshine of your love”のオリジナルの方が僕は好きでした。当時は高校生でまだ黒人ブルーズを知らなかったけど、黒人ブルーズを知ってからはより黒人ブルーズの彼らのカバーは好きになれなかった。アレンジが大げさに感じたし、17分くらい演奏している”Spoonful”に至っては退屈なインプロビゼーションとしか感じられなかった。だから当時のたくさん登場したロック・グループの中で、僕にとってクリームはあまり惹かれるバンドではなかった。やはりダントツに刺激的だったのはビートルズとジミ・ヘンドリックスでした。
このクリームをやっている頃にビートルズやアレサ・フランクリンのレコーディングに参加を依頼されてクラプトンは印象に残る素晴らしいギターを弾いています。
これから聴いてもらうビートルズのこの曲、ジョージ・ハリスンが作った曲も素晴らしいですが、クラプトンのギターは実に印象に残る素晴らしいものでした。

4.While My Guitar Gently Weeps/The Beatles
結局、最初から仲の悪かったジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーの関係が最悪になりクリームは解散。
クラプトンは前々から一緒にやりたかったスティーヴ・ウィンウッド(スペンサー・デイヴィス・グループ)と、「ブラインド・フェイス」を結成するのですが、この時もドラムはジンジャー・ベイカーなので僕は好きになれなかった。ウィンウッドは大好きなんですがね。しかも、このバンドは1年もたずに解散。僕の思い出に残っているのは”Presence Of the Lord”一曲くらいです。それでその後アメリカに渡りデラニー&ボニーのゲスト・ギタリストとして彼らのツアーを一緒に回った。このことがクラプトンにとっては大切な時期だったと思います。ゲスト・プレイヤーということでひと息着いたと思うし、大好きなアメリカの音楽に囲まれ、いろんなミュージシャンにも出会えたと思います。イギリスでは神とか天才扱いされていましたけど、アメリカでは自分の好きなブルーズマンはじめたくさん素晴らしいギタリストもいるし、自分の好きな音楽がより身近に感じられたと思います。大体僕は人間を神と呼んだり、簡単に天才と呼んだりするのは好きやないんですけどね。
それでデラニー&ボニーとの活動のあと、いよいよソロ・デビューです。
1970年、ファースト・ソロアルバム「エリック・クラプトン・ソロ」に収録されていたJ.J.ケイルの曲のカバーです。
5.After Midnight/Eric Clapton
この曲のオリジナルであるJ.J.ケイルの音楽に出会えたことも彼にとっては大きかったですね。つまり、J.J.ケイルのようなレイドバックした音楽との出会いは彼のギターにも、そして特に歌うことにとても影響したと思います。あと曲作りにも・・・。だから、僕はクラプトンは多くの黒人ブルーズマンと同じようにJ.J.ケイルに足向けては寝れないと思います。歌はかなり影響うけたと思います。

クラプトンは最新のインタビューで「音楽を聴くことは、音楽を演奏できるようになることと同じくらい大切だった」と語っています。これはクラプトンだけでなくキース・リチャーズでもポール・マッカートニーでも、ボブ・ディランでももちろん歌ってギターを弾くことは大切ですが、同じように音楽聴くことがすごく好きなんですね。だからプレイヤーの前に音楽のリスナーとしてまず深く音楽に入って音楽をたくさん聴かないといいプレイヤーにはなれないということだと思います。この「音楽を聴くことは、音楽を演奏できるようになることと同じくらい大切だった」というのはいい言葉だと思います。

来週ももう一回クラプトンの新しい”Life In 12 Bars”