2018.11.16 ON AIR

追悼:アレサ・フランクリン vol.4
アレサの人生

Love Songs/Aretha Franklin (Atlantic/RHINO/east west japan AMCY-2127)
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ON AIR LIST
1.I Say A Little Prayer/Aretha Franklin
2.Don’t Play That Song/Aretha Franklin
3.OH ME OH MY(I’m A Fool For You Baby)/Aretha Franklin
4.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin

ここ三回亡くなったアレサ・フランクリンを聞いて、前回はアレサのゴスペルを聴きました。今回は最後でアレサはどんな人だったのかな・・という話。
アレサは有名な牧師さんの子供として生まれましたが、決して幸せな子供時代ではなかったようです。というのもお父さんは牧師さんでありながらも女性が好きでいつも浮気をしているような人でした。それが原因でお母さんは家を出ていってしまいます。そしてお母さんは若くして亡くなってしまいます。そんな中でアレサは歌がすごく上手かったので教会のマスコット的な存在になり、お父さんが説教をしている時には後ろでちょこんと座り、お父さんに促されると誰もが驚くほどうまくゴスペルを歌いました。お父さんに連れられてゴスペルのツアーに連れられていくこともあり、学校にもあまり行かず大人の世界の中で育ちました。
母親がいない、お父さんは女好き、でも歌ではお父さんに認められたい、歌が上手いので周りからチヤホヤされる、それからアレサは3姉妹なんですがふたりにも歌で負けたくない・・・ある種いびつな世界で彼女は成人したんですね。
お父さんは牧師さんで信仰の世界に生きている人ですから、世俗のことが好きではないと思われがちですが、さっきも言った女性が大好きでもありジャズやR&Bを避けることもなく、アレサがコロンビアレコードでデビューすることが決まった時もお父さんは大喜びだったようです。そして、デビューしたもののあまり売れなかったのでお父さんもイライラし、アレサも私はこんなに歌が上手いのに・・と落胆もしたようです。
やはり、ジェリー・ウェクスラーというプロデューサーに声をかけられてアトランティックレコードでヒットを連発できて本当によかったです。
それで今日はアレサの特集の最後で、まだまだあるアレサのいい曲を聞きます。
僕がたぶん19才くらいの時に初めて買ったソウルのコンピレーション・アルバムで”This Is R&B”というのがあって、それにはサム&デイヴとかウィルソン・ピケットとかパーシー・スレッジとかが収録されてたんですが、その中に入っていたアレサの一曲がこの曲でした。
邦題は「小さな願い」
「朝起きてメイクをする時に、髪をきれいにして服を選ぶ時に私は小さな願い事をする。ずっとあなたのことを愛していますようにと願う。別れないようにと願う」という普通の女性が思う切ない、小さな願いの歌で僕は大好きです。
1.I Say A Little Prayer/Aretha Franklin
バート・バカラックとハル・ディヴッドが作ったこの歌はアレサが歌った68年の前の年にディオンヌ・ワーウィックが歌って最初に大ヒット。でも、アレサのバージョンもポップチャート10位、R&Bチャート3位まで上がるヒットになりアレサの代表曲のひとつとなりました。アレサの最後のライヴとなった昨年11月のエルトン・ジョンのエイズ基金のコンサートの時もアレサはこの曲を歌ったようです。こういうスタンダード的な、ポップの曲を歌ってもお聞きのようにアレサが歌うとソウルになってしまうん。そういう感じはレイ・チャールズにもありますが、歌唱力の底力を感じます。

次もすごく好きな歌です。71年にリリースされた”Spirit InThe Dark”というアルバムに収録されています。
「その曲は聴きたくない。あの人と一緒だった頃を思い出して胸が痛むの。初めてのデートも初めてのキスも覚えている。でも、あなたは嘘をついてたんだよね。ああもうその曲は聴きたくないの」
2.Don’t Play That Song/Aretha Franklin
アレサが録音したほぼ10年前1962年にベン・E・キングが歌ったのがオリジナルです。

次は以前イギリスの女性歌手Luluさんを特集した時にもON AIRした曲です。アトランティックレコードで最初に録音したオリジナル・シンガーはルルさんです。1969年録音でした。これもアレンジからなにからとても上手くできた曲でアレサは1972年に「Young Gifted And Black」というアルバムに収録されています。
「あなたを笑わせるためにおどけてバカみたいにしてるの。みんなは冷たい目で見るけど私は気にしてないわ。あなたをつなぎ止めるのならすべてあなたにあげる。あなたがいなくなったら私の心は壊れてしまう。ああ、あなたのことがすごくすごく好きなの。あなたに夢中なの・・・」Oh Me Oh My I’m A Fool For You Babyというところが切なくてたまりません。
3.OH ME OH MY(I’m A Fool For You Baby)/Aretha Franklin
盲目の愛といいますが、本当に切ない歌です。本当にいい曲でいい歌です。ヒモのような旦那との結婚生活がうまくいかなかった当時、アレサは誰に向かってこれを歌っていたんでしょう。ラブソングはジーザス、神様に向かって歌っていたという話もあります。それとも、最初の幸せな気持ちだった頃に戻りたいと思っていたのか・・・。

最後はアレサがアトランティックで初めて録音した曲で4週に渡って特集したアレサ・フランクリンを終えたいと思います。
最初のシングルのA面になったのは大ヒットした有名な”I NEVER LOVED A MAN THE WAY I LOVE YOU”、で、これはそのB面。でも、アレサらしい深みのある曲にしています。
「女もひとりの人間、おもちゃじゃないんだってわかるべき。男と同じように生きて血が流れているの。だから一緒にいて欲しいのなら私を、女を大切にして欲しい」ダン・ペンとチップ・モーマンが作った本当にいい曲です。アレサはひどい旦那に
4.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin

4回に渡って、アレサ・フランクリンの特集をしました。本当に偉大な、ソウルの女王と呼べるのはやはりアレサしかいないです。僕にとっては彼女の歌が強過ぎて聞くのにこちらもパワーが必要です。ある人はアレサの歌は過剰、多過ぎると言いましたが、それがわかります。でも、彼女がなぜ過剰になるほど歌わなければならなかったのか、それは歌にしか彼女の心の行き先がなかったのではないかと思います。有名な牧師の娘に産まれて、絶対音をもつ才能をもったゴスペルシンガーとして育ち、周りからも期待されて、でも母親は早くからいなくて・・無口な子供だったそうです。謎に包まれている13才での出産やいろんなことがあり、やっと結婚しても旦那がダメな奴だったりと・・・大人になってからも彼女が解放されるのは歌っていた時だけだったのでは・・・と思います。アレサのいろんな写真やフィルムを見ていると彼女が沈んでいる顔つきのものがよくあります。僕は彼女の歌に、ポップなものを歌っても、ゴスペルを歌っても、ジャズを歌っても、すべてソウルフルですがいつもその後ろに彼女のブルーを感じてしまいます。
みなさんもまたゆっくりアレサ・フランクリンを聞いてみてください。アレサの冥福を祈ります。