2019.10.25 ONAIR

「番組13年目、始めます!ブルーズ・スタンダード曲集」

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.1
「シカゴ・エレクトリック・ブルーズ」

Chicago Bound/Jimmy Rogers(CHESS /P-VINE PLP-813)

Chicago Bound/Jimmy Rogers(CHESS /P-VINE PLP-813)

The Best Of Muddy Waters/Muddy Waters (CHESS 1427)

The Best Of Muddy Waters/Muddy Waters (CHESS 1427)

At Newport 1960/Muddy Waters(CHESS/VICTOR SJET=8237))

At Newport 1960/Muddy Waters(CHESS/VICTOR SJET=8237))

The Best Of Little Walter/Little Walter (CHESS MCA MVCM-22008)

The Best Of Little Walter/Little Walter (CHESS MCA MVCM-22008)

ON AIR LIST
1.That’s Alright/Jimmy Rogers
2.Juke/Little Walter
3.Hoochie Coochie Man/Muddy Waters
4.I’ve Got My Mojo Working/Muddy Waters
5.Walking By Myself/Jimmy Rogers

この番組も10月で13年目に突入しました。インターネットでもON AIRされていてたくさんの方に聴いていただけるようになり海外でも聴いてくれている方もいます。
それで最近いろんなところにライヴに行くと「お薦めのアルバム」とか「お薦めの曲」をラジオで教えてくださいとよく言われるので、今回から一曲単位でこれは聴いた方がいいと思うブルーズの曲、僕が思うブルーズのスタンダード曲をON AIRしょうと思います。
このHPも参考にしてブルーズの大海原に飛び込んでみてください。
初心者の方にわかりやすくブルーズという音楽を話していきたいと思います。

ブルーズはいろんなジャンル分けがされていて、シカゴ・ブルーズとかデトロイト・ブルーズ、テキサス・ブルーズ、サザン・ブルーズとかウエストコースト・ブルーズ、デルタ・ブルーズ、ルイジアナ・ブルーズとかアメリカの地域によって分類される場合もあれば、戦前(PRE WAR)ブルーズ、戦後のブルーズという時代で区切られる場合もあり、この場合の戦前というのは第二次世界大戦より前のブルーズを戦前ブルーズと呼んでいるのですが、そういう古いブルーズの中でも南部など田舎で生まれた初期のブルーズをカントリー・ブルーズと呼ぶこともあります。そして、都会で主に女性によって歌われた20年代30年代のブルーズをクラシック・ブルーズと呼んでいます。
そして、ブルーズが都会に住む黒人によって洗練化されていくと今度シティ・ブルーズと呼ばれるようになりました。
戦後エレキ化してバンド形態のサウンドになっていくと、今度はモダン・ブルーズと呼ばれるようになります。その他、40年代から50年代にジャズの影響を受けたダンサブルなブルーズありジャンプ・ジャイヴ・ブルーズという分類もあります。
まあ、基本的に分類分けなんかどうでもいいのですが、自分の好きなブルーズを探すときの目安としてこういう分類をちょっと知っておくと便利です。
そして、ブルーズへの入り方はいろいろで僕のようにロックを聴いていてブルーズにハマった人、最初からカントリー・ブルーズのロバート・ジョンソンにハマったという人もいます。それでどこからブルーズのスタンダード曲を紹介しょうかと考えたのですが、ブルーズという音楽を説明するのにわかりやすく、しかもブルーズの歴史の中で大きな比重を占める戦後のシカゴ・ブルーズから話します。

ブルーズにはひとつの音楽的定型、決まった形のフォーマットがあり、それは12小節でワン・コーラスになっていて三つのコードで構成されています。それがわかりやすいブルーズのスタンダード中のスタンダード、シカゴブルーズの名曲と言われているこの曲を聴いてください。
「お互いに愛し合ってたのに相手の女性に好きな男ができて、もうオレのことなんか愛してないんやろ。かまへんよ、大丈夫や。でもオマエは誰と愛し合ってるんやろ」という男の切ないブルーズ
1.That’s Alright/Jimmy Rogers
いまの曲はキーがEで最初の4小節がE次にA2小節、そしてEに戻って2小節 そして最後にBに行ってAからEへと戻って行くこれが一般的なブルーズの定型です。
いまのThat’s Alrightは1950年の録音でベースにビッグ・クロフォード、ハーモニカにリトル・ウォールターそれにジミー・ロジャースという3人編成です。
そのハーモニカのリトル・ウォルターが録音したいくつかのブルーズがシカゴだけでなく全国区ですごい人気になり、いまやブルーズのスタンダードとなって歌い継がれています。
ブルーズのハーモニカをやるなら必ず出会ってしまう有名インストルメンタル曲で1952年R&Bチャートで1位になりました。
2.Juke/Little Walter
軽快なシャッフル・リズムの曲でこういう曲がバーやクラブのジュークボックスに入っていて、50年代シカゴのクラブでみんながダンスしてたんですね。
いまの曲のバックはドラムがエルジン・エヴァンス、ギターが一曲目に聴いてもらったジミー・ロジャースとマディ・ウォーターズ。ベースはいません。戦後のシカゴブルーズにはベースがいないことがよくあってギターがペースの役割をやってます。さて、いまマディ・ウォーターズの名前が出ましたが、戦後シカゴ・ブルーズの主役のひとりがマディで、エレクトリックされたシカゴ・ブルーズサウンドを作ったのがマディのバンドでした。それはのちにローリング・ストーンズのようなブルーズに影響を受けたロックバンドの形として受け継がれていきます。形としてはギターがふたりにピアノ、ハーモニカ、ベース、ドラムという編成です。ストーンズも最初はイアン・スチュアートというピアニストがいましたからね。
マディ・ウォーターズのスタンダード曲
3.Hoochie Coochie Man/Muddy Waters
1953年の録音。
ハーモニカはビッグ・ウォルター・ホートン、ギターはジミー・ロジャース、ドラムはエルガー・エドモンズ、ピアノはオーティス・スパン、そして歌とギターのマディ・ウオーターズ。
戦後のモダン・シカゴ・ブルーズの完成品のような名曲で、サウンド、グルーヴ、曲、歌詞、そしてマディの歌。南部のミシシッピー・ブルーズの泥臭いルーツの上に当時の最新のエレキサウンドをほどこした素晴らしいブルーズです。タイトルのHoochie Coochie Manとは「精力絶倫男」のような意味で、まあ強い男を表しているわけですが、こういう性的なセクシャルなブルーズの表現も僕がブルーズを好きになったひとつの理由でした。歌詞が面白いというか、赤裸々な歌詞もあればすごく詩的な美しい詞もあり、それを同じような音楽形式で歌いながらみんながまったく違う表現をするのが面白いと思いました。この曲を作ったのはベーシストでもありソングライターでもあったウィリー・ディクソンですが、彼はスタジオの中で録音する時にメンバーをまとめるバンマス的役割とかプロデューサー的、アレンジャー的な役割もした人で、彼が果たした功績は大きいです。
もう一曲、マディが残したブルーズスタンダードが”I’ve Got My Mojo Working”。今日は1960年のニューポート・ジャズ・フェスティバルのライヴ録音からですが、これもいまのHoochie Coochie Manと関連する曲で「オレのモジョがオマエには聴かない。どうしたらいいかわからないくらいオマエにすごい惚れてるのに。オレはルイジアナに行ってモジョ(Mojo)を手に入れた、他の女には効くのにオマエには聴かない。」という歌詞ですが、Mojoというのは女性にモテたり、ギャンブルに勝てたりするというおまじないのひとつで、そのおまじないが大好きな女には効かないという。
4.I’ve Got My Mojo Working/Muddy Waters
後半に向かってリズムが前へ前へとプッシュされていくところがずごいです。いまのライヴ録音は現在映像も出ているのですが、ギターがパット・ヘア、ピアノがオーティス・スパン、ハーモニカがジェイムズ・コットン、ベースがアンドリュー・ステファンズ、ドラムがフランシス・クレイという鉄壁の布陣です。

どんなジャンルの音楽もそうですが、名曲が生まれるにはそれを作詞、作曲する人、歌手が優れていることが大切ですが、それを録音する時のミュージシャンたちも優れていないと後世に残る名曲はできません。この50年代のシカゴには南部から出てきた名プレイヤーがたくさんいました。ベースのビッグ・クロフォードやウィリー・ディクソン、そしてエレキベースの時代になってからジャック・マイヤーズ、デイヴ・マイヤーズ、ハーモニカのリトル・ウォルター、ジェイムズ・コットン、サニーボーイ・ウィリアムスン、ウォルター・ホートン、ジュニア・ウエルズ、ピアノのオーティス・スパン、サニーランド・スリム、パイントップ・パーキンス、そしてギターのロバート・Jr.ロックウッド、エディ・テイラー、ルイス・マイヤーズ、アール・フッカー、そしてさっき聴いてもらったジミー・ロジャース。ジミー・ロジャースのようにバック・ミュージシャンでありながらも自分でヒットを出すというブルーズマンもいました。しかし、ジミー・ロジャースは50年代エレクトリック・シカゴブルーズギターの基本を作った人で、B.B.キングのようなソロ・ギタリストとしてではなくまずサウンドを支える、サウンドを作るギタリストとして後世に残したものは本当に偉大です。
もう一曲いまも歌い継がれている彼のブルーズのスタンダードを聴いてください。
「ひとりで歩いていくよ。本当に君の恋人になりたかったことをわかって欲しいんだ。心の底から愛してる君を祖末になんかしないよ。君にすべての愛を捧げているのにこれ以上オレに何ができるんだよ」歌詞も最高です。
5.Walking By Myself/Jimmy Rogers
最初に言ったブルーズの定型より少し変っていますが、でもコードは三つです。
今日は永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダードの第1回としてThat’s Alright/Jimmy Rogers、Juke/Little Walter、Hoochie Coochie Man/Muddy Waters、I’ve Got My Mojo Working/Muddy Waters、.Walking By Myself/Jimmy Rogersの5曲を聴いてもらいました。
これからも断続的にこのブルーズスタンダード曲シリーズを行います。そして紹介しながらブルーズの素晴らしさ、楽しさをお伝えできればと思います。ご期待ください。