2020.04.03 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 Vol.14
ジャンプ&ジャイヴ・ブルーズ-2

The Very Best Of Big Joe Turner(RHINO R2 72968)

The Very Best Of Big Joe Turner(RHINO R2 72968)

Pete Johnson 1938-1947 /Pete Johnson (document DLP-535)

Pete Johnson 1938-1947 /Pete Johnson (document DLP-535)

Ain't Nobody's Business/Jimmy Witherspoon (Crown/ビクターVIP-5007M)

Ain’t Nobody’s Business/Jimmy Witherspoon (Crown/ビクターVIP-5007M)

ON AIR LIST
1.Honey Hush/Big Joe Turner
2.Shake, Rattle And Roll/Big Joe Turner
3.Roll’em Pete/Big Joe Turner&Pete Johnson
4.Ain’t Nobody’s Business/Jimmy Witherspoon
5.Good Rockin’ Tonight/Wynonie Harris

前回のジャンプ・ブルーズ特集はほとんどキング・オブ・ジャンプ・ブルーズのルイ・ジョーダンで終わってしまいました
今日最初に聴いてもらうジョー・ターナーはジャンプ・ブルーズ・シンガーとして名を馳せた人です。背も高く体重もあったので”ビッグ”ジョー・ターナーと呼ばれることもあります。
ジョー・ターナーは30年代から70年代まで長く録音が続いた珍しいシンガーです。ブルーズを聴き始めた頃はジャンプ・ブルーズという認識がなく、ジョー・ターナーがカウント・ベイシーやアート・テイタム、デューク・エリントンなどジャズ・ミュージシャンと共演していることが多かったのでジャズ・シンガーだと思ってました。彼が初期にコンビを組んでいたピアノのピート・ジョンソンもブギウギ・ピアノの名手でしたが、ジャンルわけではジャズですが、この辺の人たちはジャンル分けが難しいです。
結局、ジョー・ターナーはジャズ、ブルーズ、R&B、ロックンロールと常にその時代の音楽に乗っかって歌いつづけました。でも、本人の歌い方は何も変わってないのですが・・。

まずは1953年R&Bチャート1位を獲得したブルーズ・スタンダードと呼ぶのにふさわしい曲。タイトルがハニー・ハッシュですから彼女に静かにしてくれと言ってるわけです。
「オレが家に帰ったらいろいろうるさいこと言うのやめてくれるか、おまえはあれやこれやずっと喋ってる」まあありがちな夫婦の光景ですが、仕事で疲れて家にやっと帰ってきたと思ったら嫁はんがガミガミうるさいこというのに辟易している歌ですが、何とこの曲ジョー・ターナーの奥さんが作詞しているとのこと、作曲が旦那のジョー。ほんまに嫁はんが書いたとしたらえらい出来た、物わかりのええ嫁はんですがな。
1.Honey Hush/Big Joe Turner

次の曲もR&Bチャートの1位。ロックン・ロールの始まりの曲とも言われている大切な曲ですが、ブルーズと言えばブルーズ、R&Bと言えばR&B、ロックンロールと言えばロックンロールな曲です。
この曲がビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリー、バディ・ホリーなど白人のR&Rシンガーに多くカバーされたことも彼の名前が知られることになった要因のひとつでした。いまでもこの曲をビル・ヘイリーの曲だと思っている人も多いのですが、オリジナルはこれです!

2.Shake, Rattle And Roll/Big Joe Turner
Shakeは揺らす、Rattleはガタガタ走るみたいな意味で、Rollは転がす・・でまあ男女の営みのことなんですが、これをみんなで”SHAKE, RATTLE AND ROLL”と歌って盛り上がるパーティ・ソングです。
1954年頃になるとリトル・リチャードやチャック・ベリーが人気になりアメリカ全土でR&Rのブームが起こるわけですが、ジョー・ターナーはオレもロックン・ロールになるんか・・まあええかとばかり飄々とブームの中に入っていきました。
同じアトランティック・レコードに所属していたルース・ブラウンもブルーズ・シンガー、R&Bシンガー、ジャズ・シンガーといろいろレッテルをつけられ最後にロックン・ロールの殿堂入りをした時は「ブルーズでもR&BでもジャズでもR&Rでもになんでもええよ。好きに呼んで」と言ってました。

他にも”Flip,Flop and Fly”などこの手のタイプの曲がいくつかあるのですが、この頃はブルーズ、R&B,R&Rのジャンルの線引きが難しいです。
ちょっと話が戻りますが、ビッグ・ジョー・ターナーは元々カンザス・シティで活動をしていていまから聴いてもらうピアニストのピート・ジョンソンとコンビを組んでいました。30年代のカンザス・シティはカウント・ベイシーやジェイ・マクシャンと言ったジャズマンがたくさんいて歓楽街もあり賑やかなところでした。サックスのチャーリー・パーカーもこの土地の生まれです。そのカンザスシティでビッグ・ジョー・ターナーとピート・ジョンソンは夜な夜な演奏していたわけですが、彼らが有名になったのは1938年ニューヨークのカーネギーホールで「スピリチュアル・トゥ・スイング」というコンサートで評判になったからです。
では、ジャンプ・ブルーズの名シンガー、ビッグ・ジョー・ターナーとブギウギ・ピアノの名人ピート・ジョンソンの歴史的な演奏です。
3.Roll’em Pete/Big Joe Turner&Pete Johnson

さっき名前の出た同じくカンザス・シティが活躍していたジェイ・マクシャンのオーケストラにヴォーカルとして入ったのがジミー・ウィザースプーンでした。今日名前が出ている人たちはジャズのカテゴリーに入れられていることも多いので、しかもオーケストラをバックに歌っていることからブルーズファンでも馴染まない人も多いのですが、次のブルーズをじっくり聴いてみてください。コントロールされた歌の中にじわじわと出てくるブルーズの熱さがあるのですが・・・どうでしょうか。
「頭がおかしくなってショットガンで彼女を撃っても、オレのやったことだからほっといてくれ。チキンとダンプリング(日本語に訳すとだんごですかね、肉だんごもあれば甘いパイで包んだものもあります)を食べてしまって次の日に食べるものがなくてもオレのやったことやからほっといてくれよ。日曜に一日中教会にいたのに、次の月曜にはずっとキャバレーで飲んだくれてる。でもオレのやったことやからほっといてくれよ」
僕が生まれて初めてレコーディングした曲もこの歌でした。
1948年R&Bチャートの1位になったジミー・ウィザースプーンのまぎれも無いブルーズスタンダード。
4.Ain’t Nobody’s Business/Jimmy Witherspoon

30,40年代のジャズ・オーケストラには専属の歌手がいてオーケストラの演奏の途中に何曲か歌うコーナーがありました。ダイナ・ワシントンはライオネル・ハンプトンの楽団に、エラ・フィッツジェラルドはチック・ウエッブ楽団に、いまのジミー・ウィザースプーンはジェイ・マクシャンのオーケストラにそして次のワイノニー・ハリスはラッキー・ミリンダー・オーケストラの専属歌手をしていました。そういうオーケストラが入る立派なナイト・クラブがあり、ジャズやブルーズにも活気があった時代でした。
次の大ヒット曲は1948年。ロックン・ロールに繋がっていく曲だということがわかります。元々ロイ・ブラウンの曲ですが、ヒットしたのはワイノニー・ハリスのこのバージョン。
5.Good Rockin’ Tonight/Wynonie Harris
ワイノニーはやはりジョー・ターナーに似てますよね。基本的な歌い方がシャウターと呼ばれる声が大きい歌手なんですが、40年代50年代のホーンセクションが入ったジャズ・オーケストラをバックに歌うには歌声が大きくないと聴こえなかったのでみんな声がデカイです。マイクもいまのように性能もよくなかったし、モニターはないしPAシステムもまだまだ貧弱な時代ですからね。
僕が歌い始めた70年代最初の頃もモニターはまだなかったですね。だから僕も声はでかいです。いまはヴォイス・トレーニングなんかがあって大きな声の出し方も教えてもらうのでしょうが、僕らの時代はそんなものはなかったのでとにかく毎日大きな声で歌ってました。

今日はジャズ、プルーズ、R&B、ロックンロールのジャンル分けが難しくなった、そして白人が黒人音楽に近づいてきた時代の歌、ジャンプ・ブルーズを聴きました。ジャンプ・ブルーズのミュージシャンはまだまだいるんでまたやります。