2020.04.10 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集vol.15

戦前Country Blues vol.1

The Complete Blind Willie Johnson(Columbia/Sony Music C2K52835)

The Complete Blind Willie Johnson(Columbia/Sony Music C2K52835)

King Of The Blues Entry2/ Blind Blake (P-Vine PCD-2253)

King Of The Blues Entry2/ Blind Blake (P-Vine PCD-2253)

ON AIR LIST
1.It’s Nobody Fault But Mine/Blind Willie Johnson
2.Dark Was The Night, Cold Was The Ground/Blind Willie Johnson
3.Let Your Light Shine On Me/Blind Willie Johnson
4.Blind Arthur’s Breakdown/Blind Blake
5.Diddie Wa Diddie/Blind Blake
6.Black Dog Blues/Blind Blake

以前このブルーズ・スタンダード曲の特集のテキサス編でON AIRしたブラインド・レモン・ジェファーソンというブルーズマンがいましたが、そのブラインド・レモンとほぼ同時代、1920年代にテキサスのいろんな街のストリートで歌っていたブラインド・ウィリー・ジョンソンの名曲をまず聴きたいと思います。
ブラインド・ウィリーは幼い頃に父親と喧嘩した継母が腹いせにブラインド・ウィリーの顔に洗剤をかけたために目が見えなくなってしまいました。彼は7才でした。でも、盲目となった彼はピアノやギターを覚えて主に教会で歌っていました。大きくなると「エヴァンジェリスト」と言ってギターを弾きながら歌い、神様の教えを広める伝道師になりました。なので彼が歌ったほとんどはゴスペルであり、スピリチュアルズと呼ばれる賛美歌の類でしたが、その歌声やギター・プレイなど音楽的な影響はブルーズにも及びました。とくに彼のスライドギターはかのスライドギターの名手ライ・クーダーをして「彼ほどの優れたスライドギター・プレイヤーは出て来ないだろう」と言わしめた。では、彼が初めてレコーディングした1927年の録音です
「家にちゃんと聖書があるのに読まなかった自分が悪いのだ。聖書をちゃんと読まなければ魂は救われないのだ」
1.It’s Nobody Fault But Mine/Blind Willie Johnson

ライ・クーダーが映画「パリ・テキサス」の映画音楽で使ったのがこのブラインド・ウィリー・ジョンソンの”Dark Was The Night, Cold Was The Ground”という曲でした。非常に印象的にこの曲が使われていて映画の彩りに大きな役割を果たしていました。そして、1977年にアメリカの航空宇宙局(NASA)が地球外生命体に聴かせる目的でベートーベンやチャック・ベリーの曲とともにこのブラインド・ウィリーのこの曲も無人惑星探査機「ボイジャー」に搭載され宇宙に発射されました。だからいまもこの曲は宇宙を漂っているのです。
いろんなことをイマジネーションできる素晴らしい曲です。
2.Dark Was The Night, Cold Was The Ground/Blind Willie Johnson
アメリカのNASAは粋なことをしました。いつの日かどこかにいる宇宙人がブラインド・ウィリーの曲を聴いたら・・と思うだけでなんかいいですよね。
ブラインド・ウィリーの精神はぶれることがなく彼は貧しかったのですが、終生教会やストリートでゴスペルを歌い続けました。
もう一曲彼の強烈なヴォーカル。「神様、あなたの光で私を照らしてください」
3.Let Your Light Shine On Me/Blind Willie Johnson

次はいまのブラインド・ウィリー・ジョンソンとはまったく違うブラインド・ブレイクです。
1920年代東海岸から南部そして北部のニューヨークなどでも活躍したギター名人、ラグタイム・ギターの名人、ブラインド・ブレイク。彼もまた盲目でした。
本当に素晴らしい演奏がたくさん残っているのでどれをブルーズスタンダードに選ぼうか迷うところです。ギター名人だけにギター・インストルメンタルの曲も多く、その中でもまた選ぶのが難しいのですが、僕が最初にブラインド・ブレイクを聴いたときに「これはえぐい!」と感動した曲をまず聴いてください。
4.Blind Arthur’s Breakdown/Blind Blake
見事としか言いようがないギター・プレイです。ギター・フレイズの豊かさと的確さ、リズムの正確さとギター一本で踊らせるグルーヴ感、これは確かにウケる、売れる音楽です。ビッグ・ビル・ブルーンジーなどフォロワーがたくさんいますが、このブレイクの右に出る人はいません。このギター・スタイルをギター・ラグと言います。元々はラグタイムピアノをギターでやろうとしたところから始まっているのですが、ブラインド・ブレイクはジャズの要素もちょっと入り小粋でダンサブルなラグ・タイムになってます。
次の曲は僕の昔からの友達でもある大阪の有山じゅんじくんが日本語の歌詞をつけて歌っているので、それで知っている人も多いと思います。
5.Diddie Wa Diddie/Blind Blake
こういうラグタイム・ギターで聴かれるメロディやビートには、同時代のブルーズマンのロバート・ジョンソンやチャーリー・パットンとは違う明るさ、ファンキーさがあることに気づきます。ラグタイムという音楽は基本的にダンスミュージックなんですね。まあ、いまのクラブ・ミュージックや一昔前のディスコ・ミュージックと同じものです。どれだけ早く正確に弾けるかとかどれだけ多彩なフレイズを弾けるかというのをギタリスト同士で競いあうこともあり、その中からこのブラインド・ブレイクのような超テクニシャンのギタリストが出てきたわけです。
それにしても正確なだけでなく踊らせるグルーヴ感が素晴らしいです。
次の曲はブラインド・ブレイクの曲の中ではブルーズの濃度が高い曲ですが、こういうスタイルはこのあと30年代に活躍するビッグ・ビル・ブルーンジィなどが活躍したシティ・ブルーズに引き継がれていきます。
6.Black Dog Blues/Blind Blake
いまのブラック・ドッグつまり黒い犬というのは不幸の象徴の言葉として使われています。「黒い犬がずっと着いてきてオレにつらい思いをさせ幸せな家も失った。おまえはずっとオレの心の中にいる。でも、さよならブラックドッグ、オレはオマエの悪運から逃げることにするよ」
さっきの明るいラグタイムとは違う憂いがあります。
今日はブラインド・ウィリー・ジョンソンとブラインド・ブレイクの曲の中から僕がブルーズのスタンダードと思う曲を選んでみました。同じ1920年代に黒人として生まれ、しかも目が見えず盲目というハンディを抱えながら生きたふたりの音楽のテイストはまったく違うものですが、そのハンディをもろともせず生き抜きこんな素晴らしい音楽を遺したことに心打たれます。