2021.02.05 ON AIR

50年代黄金のシカゴブルーズ前夜

Down Home Blues – Chicago: Fine Boogie (WienerWorld MNRCD5100)

ON AIR LIST
1.Jitterbug Blues/Muddy Waters
2.Come On Baby / Blues Boy Bill
3.Just Keep Loving Her/Little Walter
4.Whose Muddy Shoes/Elmore James
5.Kissing In The Dark/Memphis Minnie

ブルーズという音楽にとってシカゴという街は「シカゴ・ブルーズ」というカテゴリーがあることでもわかるようにとても重要な街だ。
1930年代から50年代にかけては南部の農園労働者の生活から逃れ、大都会のシカゴで工場労働者として生きようとする黒人たちで街は人口も産業もどんどん膨れ上がった。当然音楽を提供する夜のクラブも繁盛し音楽を生業にしょうとする南部のブルーズマンが次々とシカゴにやって来た。また、音楽の形態もアコーステイックからエレクトリックなバンド・スタイルに移り変わる時代でブルーズも新しいサウンドに様変わりして行った。しかし、生まれ育った南部のダウンホームな感覚はブルーズからそう簡単に消えるはずもなく、それを聴く黒人たちも故郷である南部を懐かしく思う気持ちに浸ったことだろう。
今回紹介するコンピレーション・アルバム「Down Home Blues – Chicago」は、南部の香りがする充実したブルーズが演奏され、またブルーズマンの層も厚かった45年から58年までの選曲になっている。CD5枚セット134曲。
こういうコンピ・アルバムはよく有名曲だけが選曲されてしまうのだが、このボックスセットは有名ではないがこの時代のシカゴ・ブルーズをよく表している曲やあまり知られていないが重要な曲、珍しい曲も選曲されているところがミソだ。マイク・ロウという編集者のセンスが光っている。
まずはマディ・ウォーターズ。チェス・レコードで売れてシカゴブルーズの顔となる以前、コロンビアレコードで録音されたシティ・ブルーズの匂いをさせたマディ33才、1946年の録音。
1.Jitterbug Blues/Muddy Waters
マディの歌声も若いが歌い方も演奏にも南部の粘っこさがあまりなく、シティ・ブルーズの小洒落た感覚の方が強い。南部の匂いを消してシティ・ブルーズ・テイストにした方が売れると思ったのか。マディの良さはここでは出ていない。
1943年にマディ・ウォーターズはミシシッピからシカゴに来たのだが、三年後に流行りのシティ・ブルーズ・テイストで洒落た感じで演奏したけれどこの曲は売れなかった。50年代に入る頃に南部の匂いをブンブンさせたブルーズで売れるまで後2.3年待たなければいけない。シカゴ・ダウンホーム・ブルーズで開花しその後戦後シカゴ・ブルーズのボスになる前のマディ・ウォーターズはこんな感じだったのだ。

次の曲はロバートJr.ロックウッドが1941年に録音した”Take A Little Walk With Me “と歌詞もほとんど同じで、歌い方もギター・プレイもロックウッドを丸ごとカバーしているのに曲名はCome On Baby。しかも弾き語りで歌っているBlues Boy Billというブルーズマンがどういう人なのか全く情報がなく、リリースしたシングルも一枚しかない。こういう一枚で終わったブルーズマンもたくさんいたのだろう。
2.Come On Baby / Blues Boy Bill
今の録音はロックウッドと一緒に日本にもきたエイシズのギタリスト、ルイス・マイヤーズではないかという説もあるが不明。

40年代中頃、シカゴのマックスウェル・ストリートという通りでは南部から出てきたストリート・ミュージシャンが山ほどいた。のちにブルーズ・ハーモニカのトップ・ブレイヤーになるリトル・ウォルターもそのひとり。ウォルターは12才でルイジアナの田舎から家を飛び出してニューオリンズに行き、そこからアーカンソーのヘレナに行き、そしてメンフィスへと転々としセントルイス経由でシカゴに着いたのは1946年16才の時だ。日本で言えば高校一年。シカゴの繁華街マックスウェル・ストリートでハーモニカを吹いたりギターを弾いてしのぎを削り、レコーディングの機会を掴んで最初に録音したのが1947年のこの曲
3.Just Keep Loving Her/Little Walter
17才とは思えない堂々した演奏ぷり。ギターはオーサム・ブラウン。ハーモニカもまだアンプを通さないで生のハーモニカの演奏だ。
リトル・ウォルターはレコーディングよりもストリートで演奏する方が金になったのでよくマックスウェル・ストリートにいたそうだ。10代の彼がルイジアナからずっと生きるための金を稼いでいたのはストリートやジョイントだった。

エルモア・ジェイムズと言えばスライド・ギターとトレードマークになっているけど、彼はスライドではない普通の押弦のギター・スタイルも上手くて、スライドギターはアーシーな土臭い感じだが普通に押弦で弾く時はモダンブルースギター・スタイルで意外と流暢だ。
「俺がいつも自分の靴を置いてるベッドの下にある泥のついてる靴はだれの靴や」
彼女か嫁はんが他の男と浮気している歌。
4.Whose Muddy Shoes/Elmore James
エルモアはレコーディング契約しているのに平気で金をもらってまた別のレコード会社と契約してしまう男でしたが、1953年、この時もモダンレコードと契約しているのにシカゴのチェスレコードで録音したのがこの曲。
40年代に入ってから南部のミシシッビ、アーカンソーあたりから黒人たちがより良い職を求めてシカゴをめざしミュージシャンもシカゴに集まってくる。

メンフィス・ミニー、最初メンフィスで活動していて街の名前が芸名についたこの女性も40年代にはすっかりシカゴ・ブルーズの女王になっていた。ミニーさんはなかなかルックスも可愛くて、ギターも上手くて、ヒットした曲もあり、めちゃモテたみたいだ。旦那さんも三回くらい変わっています。メンフィスでストリート・シンガー始めたのが13才ですからね。早熟を通り越してます。聞いてもらう曲は1953年ですからミニーさん56才。まだまだ色香はあったのでしょう。意味深な曲「暗闇でキス」
5.Kissing In The Dark/Memphis Minnie

このボックスセット「Down Home Blues – Chicago: Fine Boogie 」お薦めです。