2021.08.13 ON AIR

私が愛するソウル・シンガー、O.V.ライトの魅力その2

NUCLEUS OF SOUL / O.V.Wright (The Complete Recorded Works By The Boss Of Southern Soul For Backbeat And ABC Labels / P-Vine PCD7303-07)

NUCLEUS OF SOUL / O.V.Wright (The Complete Recorded Works By The Boss Of Southern Soul For Backbeat And ABC Labels / P-Vine PCD7303-07)

ON AIR LIST
1.Blowing In The Wind / O.V.Wright
2.Gonna Forget About You / O.V.Wright
3..I Have None / O.V.Wright
4.Pledging My Love / O.V.Wright
5.Why Not Give Me A Chance / O.V.Wright

前回6月のON AIRでO.V.ライトの初期の録音である60年代中後期の曲を聴いていただいたところリスナーの皆さんからとてもいい反響をいただきました。

自分が心底好きなシンガーの歌が皆さんに喜ばれて嬉しいです。

今回はその続きで、1970年にバックビート・レコードからリリースされた彼の3枚目のアルバム「ヌークリアス・オブ・ソウル」を聞きます。今回もP-VineレコードがリリースしたO.V.のボックスセットからの選曲です。

僕は70年代中頃からサザン・ソウルのコンピレーション・アルバムでO.V.をいいなぁと思っていたのですが、77,78年頃から静かなサザン・ソウル・ブームが日本で始まりました。それは日本のブルーズ・ブームが70年代半ばに下り坂に向かった時に、ブルーズ・ファンだった人たちがブルーズのテイストとゴスペルのテイストがミックスされたサザン・ソウルに引き寄せられたのだと思います。つまり「濃い」黒人音楽であるサザン・ソウルに。そういう人たちはモータウンのような煌びやかなソウルではなく、素朴で魂そのものがダイレクトに感じられる音楽が好きだったのです。僕もどちらかと言えばサザンソウル派です。

では今日の一曲目、1970年にBack Beatレコードからシングルでリリースされた”Blow In The Wind”(風に吹かれて)

もちろんボブ・ディランの1963年リリースの大ヒット曲です。この歌をなぜ7年も過ぎた70年にO.V.が歌うことになったのかわかりません。彼が尊敬するサム・クックが歌ったのも1964年です。つまりあの頃は黒人の公民権運動やベトナム反戦運動が盛んでこういうメッセージ・ソングをサムは選んだのだと思います。

「男は男と呼んでもらうためにどれだけ多くの道を歩けばいいのか。砂の中で眠るために白い鳩はどれだけ多くの海を渡られなければならないのか。その答えは吹いている風の中にある」と、生きていく厳しさとともに戦争の虚しさや現実の悲惨さに目を向けるように喚起した歌。

1.Blowing In The Wind / O.V.Wright

今となっては揺るがない名曲ですが、1970年リリース時にはこの歌はもう古い感じがしました。70年頃の黒人社会運動は公民権運動よりさらに強い「ブラック・パワー」の時代にあり黒人ミュージシャン達はより新しい音楽テイストでメッセージを出していました。O.V.が尊敬するサム・クックも歌っていたから歌いたかったのか、歌わされたのか・・・。歌そのものはいいし、O.V.の歌唱もいいのですが、当時はやはり「なんで今頃?」という感じはしました。

今日の1970年リリースのO.V.3枚目のアルバム「ヌークリアス・オブ・ソウル」(ソウルの核)はO.V.のアルバムの中でもあまり評判になりません。60年代後期のシングルの寄せ集めのアルバムにトータルなコンセプトはなく、バックビートはO.V.の才能をどうしたらいいのかプロデュースできていません。このアルバムには3曲彼自身が書いた曲があります。次の自作曲はいい曲だと思うのですが。

2.Gonna Forget About You / O.V.Wright

僕は好きな曲ですがこれもそんなにヒットしなかった。ヒット曲を作るというのは本当に難しいです。この60年代から70年代にソウルのヒット曲を連発したモータウン・レコードやそれに対抗した南部のスタックス・レコードは作詞作曲のチームがあり、そういうソングライターたちがシンガーに合った、そして時代の流れにあった曲を作ってシンガーに歌わせるということをしていました。つまりプロデュースがしっかりしていた。そしてそういうレコード会社はお金もあるのでプロモーションも強い。バックビートというレコード会社にいたために、ソウルのショービジネスのメインストリームでO.V.ライトは活躍できなかった。才能はあったのに・・。

次もO.V.が書いた曲です。2分14秒の短い曲ですが僕は好きです

「君のせいで恋に落ちた。もし、愛しているという方法が百万通りあったとしても僕は全部おぼえている。ぼくが愛しているのは君なんだよ。自分の心をコントロールできないんだ。もう君に心を捧げたから。その心を大切に扱ってください。今君は君と僕の二つのハートを持っているけど僕には何もないんだから」

3.I Have None / O.V.Wright

最後にI Have Noneと歌ってあっという間に終わってしまうところが切ないですが・・。「僕には何もない」

ヒット曲が出ないからなのか、恐らく社長のドン・ロビーの指示だと思いますがバック・ビートと同じ系列のデューク・レコードのジョニー・エースの大ヒット曲”Pledging My Love”をカバー・レコーディングします。「ダーリン、永遠に私の愛は本物だ。いつもそしてずっと君だけを愛するだろう」

4.Pledging My Love / O.V.Wright 

すごく中途半端なところで終わってしまうのですが・・オリジナルのジョニー・エースを以前ON AIRしましたが、ジョニー・エースはもっと柔らかくて素朴さが歌にあるのですが、O.V.はかなりジョニー・エースに寄せている感じもありますが、やはりゴスペルの鋼が後ろに見え隠れします。

次の歌は最初の”Are You Lonesome and all alone”という歌声で僕はゾクッとしました。「ひとりぼっちで寂しいかい」と「電話してくる人もいない、だったらなぜ僕にチャンスをくれないんだ。もし、君がずっと付き合ってくれる友達を探しているのなら、なぜ僕にチャンスをくれないんだ」

5.Why Not Give Me A Chance / O.V.Wright

ヒット曲は出なかったのですがO.V.の歌唱はいつも真摯で、このアルバムも充分聴く価値があります。

そして、なかなかO.V.の良さが出せないレコーディングが続いていいたところにメンフィスの敏腕プロデューサー、ウィリー・ミッチェルがプロデュースを担当するようになります。やっとO.Vは本領を発揮し始めます。そこからの話はまた来週のO.V.ライトの特集で。