2021.11.19 ON AIR

私が選んだブルース名唱15曲 その2
【BSR Playlist Archives】第3回 永井ホトケ隆
(https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/)

ON AIR LIST
1.The Sky Is Crying / Elmore James
2.Crawling Kingsnake / John Lee Hooker
3.Down In Mississippi / J.B.Lenoir
4.Mean Old World / T.Bone Walker

先週は自分の弾き語りをお送りしましたが、今回はその前の回にやっていた「私が選んだブルース名唱15曲」のその2です。
私が連載エッセイ「フールズ・パラダイス」を寄稿している雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEB版(https://bsrmag.com)がありまして、そこから「ブルーズの歌で好きな曲、聞いてもらいたい曲」を選んで欲しいという依頼で15曲選んだのですが、とてもとても15曲では収まりません。結局ブルーズの歌で自分がインパクトを受けたものをなんとか15曲選らび、前回の放送ではハウリン・ウルフの”Moanin’ At The Midnight“、マディ・ウォーターズの”Rollin’ Stone”、サニーボーイ・ウィリアムスンIIの”Cross My Heart” そしてライトニン・ホプキンスの”Mojo Hand” の4曲を聴いてもらいました。前回も話しましたが、ブルーズの歌というのは歌声が何オクターブ出るとか歌唱のテクニックがあるとかで判断されるものではなく、歌わざるを得ないそのブルーズマンの切迫した気持ちとか受け止められないような溢れる想いとか、それに伴って表れるリアリティとかインパクトが大切だと思います。
二回目の「ブルース名唱」の一曲目はまさに心に突き刺さるような、そして心から消えないブルーズの歌です。
「空が泣いている。涙が通りを流れ落ちていく。涙とともに彼女をずっと待っている。彼女はどこへ行ってしまったのだろう。ある朝、彼女が通りを歩いていくのを見かけた。見ているだけでとてもいい気持ちになって俺のくたびれた心が踊り跳ねたんだよ。嫌な気分だ、彼女がもう俺を愛してないなんて。空が泣いている。涙が俺のドアまで転がり落ちてくる」
いろんなミュージシャンがカバーしていますが、このオリジナルのエルモア・ジェイムズを超える歌はありません。
1.The Sky Is Crying / Elmore James
エルモア・ジェイムズ自身が弾くシャープでディープなスライドギターと彼の緊張感のある歌のもたらすブルーズの感覚が素晴らしいです。よくこの曲のカバーで途中に何コーラスもギター・ソロを入れるミュージシャンがいますが、このオリジナルには途中のギターソロはありません。歌とギターのオブリガードだけで最後まで押し切っています。ブルーズは歌が主体ということです。

次は初めて聴いた時ブルーズの深い洞窟の中に引っ張り込まれそうな、なんか得体の知れない歌だと思いました。特に途中でリズムを刻むジョン・リーの足音と彼のディープな歌声だけになるところはブルーズの美学とも言えるダークな美しさがあります。とにかくジョン・リーの歌声はまさにブルーズ・ヴォイス。
ジョン・リーは生涯で何度かこの曲を録音しているが1949年が初録音。元々は自分のお姉さんの恋人だったトニー・ホリンズというブルーズマンから教えてもらった曲を自分流に変えたもの。
「俺はくねくね這い回る王様ヘビだ。俺の巣窟(den)は俺が支配してるのさ。お前の周りを俺の仲間がウロウロするようなことはさせないよ。彼女とできるのは俺だけなんだ。俺はくたばるまでは言い回るぜ」
2.Crawling Kingsnake / John Lee Hooker

次は今のジョン・リーのダークな歌声とは対照的な高い声で私は最初女性が歌っているのか・・・と思いました。J.B.ルノアー
多くの黒人ブルーズマンはミシシッピ、アラバマ、アーカンソーと言った南部に生まれたわけですが、その生活は幼い頃から農場で働かされろくに教育も受けられなく貧しくてとても厳しいものでした。そこから抜け出て少しでもいい生活をしたいと思うのは当然でそれで彼らはメンフィスやセントルイス、そしてシカゴやデトロイトなどの都会を目指して故郷を出たわけです。その故郷についてはそれぞれいろんな想いがあり、マディ・ウォーターズは綿花畑で働かされた日々を思い出したくないとほとんどミシシッピによりつかなかった。逆にB.B.キングは成功してから度々故郷を訪ねて故郷の教会などにいろんな贈り物をしたり、自分の父親にも農場もプレゼントしています。
次の「ダウン・イン・ミシシッピ」を歌ったJ.B.ルノアは「故郷では子供の頃から鋤や鍬を持たされて畑で働かされて綿花を摘む仕事もさせられた」と歌い始めて、「自分の奥さんの故郷でもあるミシシッピに悪意があるわけではないけどミシシッピから抜け出せて俺はラッキーだったよ」と歌っています。つまりやはり故郷の生活は辛くてそこからに抜け出せてシカゴでなんとか生活している自分は幸運だと。でも、サビの”Down In Mississipi”と歌うルノアの歌声を聞いているとそこに懐かしさや戻って見たい気持ちや少しは楽しいこともあったような気持ちが私は感じられます。
3.Down In Mississippi / J.B.Lenoir
ブルーズ史上重要ないい曲であり、いい歌です。

今日の最後はT.ボーン・ウォーカー
1945年にリリースされたブルーズ史上に残るモダン・ブルーズの名曲”Mean Old World “
「ひとりで生きていくにはつらい世の中だ。惚れた女は他の男が好きなんだ。泣きたいのを我慢するために酒を飲むんだ」と人生をひとりで生きていく辛さや大変さを歌った内容ですが、最後には「いつの日か俺も土の中6フィートに眠っていることだろう」と人生を達観したような言葉が出てきます。それをT.ボーンはさりげなく淡々と歌っています。その乾いた歌い方が返って都会でひとり生きていく孤独感を滲ませている気もします。この歌がロスを中心としたウエストコーストの都会で生きる黒人たちの共感を得てヒットとなりブルーズのスタンダードとなりました。52年にはシカゴのハーモニカ・プレイヤー、リトル・ウォルターがカバー・ヒットさせています。曲もいいし、アレンジもサウンドもグルーヴもそして歌も素晴らしい名曲、名唱です。
4.Mean Old World / T.Bone Walker
ギターもが、歌もいいT.ボーン

四曲聞いてもらいましたが、どれも個性的でブルーズの歌に規範があまりないことがわかってもらえたでしょうか。でも、これらの曲は本当にブルーズと呼ぶのにふさわしい歌です。
最初に言いました「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEBに私が選んだ15曲が出ています。スポティファイというサイトで全曲無料で聞くことができるようになっているので是非「ブルース&ソウル・レコーズ」のWEBを訪ねてください。アドレスはこちらです→https://bsrmag.com/playlist/bsrplaylist3/ 
来週も私が選んだブルース名唱15曲から聞いて見るのでお楽しみに。