2022.04.08 ON AIR

追悼:最後までアフリカン・アメリカンのストリート感覚を失わなかったシル・ジョンソン vol.2

The Hi Records Single Collection / Syl Johnson(Solid CDSOL-5065 66)
Ms.Fine Brown Frame/Syl Johnson (P-vine Records PCD-1257)
Straight Up / Syl Johnson(P-Vine PCD-25004)

ON AIR LIST
1.Age Ain’t Nothing But A Number/ Syl Johnson
2.Ms.Fine Brown Frame / Syl Johnson
3.Easy Baby / Syl Johnson & Syleena Johnson
4.Is It Because I’m Black / Syl Johnson

先週に引き続き今年の2月に亡くなったブルーズ、ソウル、ファンクの素晴らしいミュージシャンだったシル・ジョンソンの追悼2回目です。
シル・ジョンソンは70年代にメンフィスのハイ・レコードに所属して4枚のアルバムをリリースしたのですが、先週ON AIRした”Take Me To The River”以外に大きなヒットは出ませんでした。いまそのハイ・レコード時代のアルバムを聴くとヒットしなかったけれどシルらしいいい曲もあります。今日最初に聴くのは1973年にシングルだけでリリースされた曲でシル・ジョンソンらしいファンキーなテイストが出ている楽しい曲です。
曲名の”Age Ain’t Nothing But A Number”は「年齢はただの数字だ」年齢の数字に惑わされてはダメだということです。いい言葉ですね。

1.Age Ain’t Nothing But A Number/ Syl Johnson

70年代のハイ・レコード時代に普通のアフリカン・アメリカンの生活に根ざしたところから生まれるシルのファンキーなソウルがあまり理解されなかったところはあると思います。79年にドン・ブライアンやアン・ピーブルズと初来日したときもバラード好きの日本のファンには彼のファンキー・ソウルは評判になりませんでした。
ところがシル・ジョンソンは1982年に日本でも話題になった曲をリリースしました。これは”100%コットン”というファンク・ブルーズの代表的なアルバムで新しいブルーズを提示して来たジェイムズ・コットン・バンドとコラボしたファンクの曲。これはメロディもサウンドもキャッチーで当時僕の部屋ではヘヴィ・ローテーションで流れていました。「他の女ではあかんのよ、きれいな茶色の体つきの女がええねん」途中でラップが出てくるのですが、シルは「ラップは好きじゃない」と言い「ラップが流行りだから入れただけだよ」とそういうしたたかな一面もありました。シル・ジョンソンらしいです。

2.Ms.Fine Brown Frame / Syl Johnson

ジャケット写真を番組のHPに出しているので見て欲しいのですが、まさにFine Brown Frame な女性が艶かしくこちらを見ています。
今聞いてもカッコイイ曲です。
この曲をリリースしたあとくらい80年代半ばから彼はシーンからリタイアしてしまいます。彼は飲食関係の店をやったり音楽出版を手がけたり事業家でもあったのでそちらに力を注ぐことになったようです。それで90年代に入ると先週も話ましたが、彼の昔の曲が若いヒップホップ、ラップのミュージシャンにたくさんサンプリングされ始め、「オイオイ、俺の曲を勝手に使うなよ」とばかりに復帰します。それで94年に”Back In The Game”(ゲームに戻るぜ)と復帰のアルバムを出します。そのアルバムには娘のシリーナ・ジョンソンも参加しています。
次の曲はブルーズ・ファンにはお馴染みのマジック・サムの曲をアレンジしてカバーしています。マジック・サムとシルはシカゴでご近所だったらしくてすごく仲が良かったそうです。娘のシリーナ・ジョンソンと二人でハーモニーを作り原曲のサムより更にファンキーな感じになってます。

3.Easy Baby / Syl Johnson & Syleena Johnson

いま曲はシルがプロデュースを手掛け日本のP-Vineレコードがコンピレーションした”Straight Up”というアルバムに収録されています。

数年前から再び人種差別を始めあらゆる差別や格差に反対する運動「ブラック・ライヴズ・マター」の動きが出始め、シルが1970年に発表してR&Bチャート11位になった次の曲がウータン・クラン、スヌープ・ドッグなどたくさんの若いミュージシャンにサンプリングされました。先週ON AIRした”Different Strokes”も300曲以上サンプリングされているらしく「HIP HOP史上最もサンプリングされたミュージシャン」とも言われているシル・ジョンソンです。
最後に聞いてもらう曲です。
「俺はゲットーで育ち、母親はわずかな金を稼ぐために必死で働いた。でも生活は良くならない。何かがずっと俺のじゃまをしてるんだ。それは俺が黒人だからだろ。誰か俺がどうしたらいいのか教えてくれよ。俺が黒人だからジャマされてるんだろ」

4.Is It Because I’m Black / Syl Johnson

半世紀も過ぎてシル・ジョンソン自身もこの曲に陽が当たるとは思わなかったのでは・・・。逆に人種差別、人種の格差は半世紀経っても何も変わっていないという状況です。シル・ジョンソンはこうした社会的、政治的な考えも持った素晴らしいミュージシャンでした。これからもシルの曲はずっと引き継がれていくと思います。先週に引き続き二月に亡くなったシル・ジョンソンの追悼をしました。