2022.04.01 ON AIR

追悼:最後までアフリカン・アメリカンのストリート感覚を失わなかったシル・ジョンソン vol.1

Straight Up / Syl Johnson(P-Vine PCD-25004)
Twilight & Twilight Masters Collections / Syl Johnson(Collectable COL-5736)
The Hi Records Single Collection / Syl Johnson(Solid CDSOL-5065 66)

ON AIR LIST
1.Goodie Goodie Good Times / Syl Johnson
2.Come On Sock It to Me / Syl Johnson
3.Different Strokes/ Syl Johnson
4.Take Me To The River/Syl Johnson

最近は自分が親しんで聞いてきたミュージシャンたちの訃報が多くて気持ちが滅入りますが、2/6にソウル、ファンク、ブルーズのシンガー、ギタリスト、ハーモニカプレイヤーであり、ソングライター、プロデューサーでもあったシル・ジョンソンが亡くなりました。85歳でした。アルバムもたくさんリリースして、来日したこともあります。僕が最後に観たシルのライヴは2014年の「フジロック」で僕のニューオリンズの親友、山岸潤史とシルが一緒に来日し演奏したときでした。
シル・ジョンソンと言われても知らない方も多いと思いますが、ソウル、ファンク、ブルーズといった黒人ポピュラー音楽の要素を全て入れ込んで黒人大衆に寄り添う音楽を作ってきた人で、いわゆるストリート感覚のあるミュージシャンでした。だから彼の音楽を聴くと黒人音楽のリアルな本質を知ることができると思います。それで今回と次回の二回シル・ジョンソンの特集をお送りしたいと思います。
最初に70年代の中頃、僕が彼の歌を好きになったきっかけの曲です。シルもステージでよく歌っていた1974年にシングルでリリースされた曲です。
「楽しい時間をみんなで過ごそう。音楽に足を踏み鳴らしワインを飲んで心を自由にしょうよ」という内容。楽しいパーティ・ソングです。

1.Goodie Goodie Good Times / Syl Johnson

途中のブルージーなハーモニカのソロをシル本人が吹いているようにキャリアの出発はブルーズでした。
シルは1936年南部ミシシッピー州の生まれで本名はシルベスター・トンプソン。一番上の兄はブルーズマンのジミー・ジョンソン。そして二つ上の兄がマジック・サムのバンドのベーシストだったマック・トンプソン。本名のトンプソンが嫌いだったのか兄がジョンソンにしたのでシルもジョンソンしてしまったらしいです。実はその兄のジミーが1月に亡くなったのですがまさか翌月に弟のシルが亡くなるとは・・。
1950年にシカゴに引っ越しました。その時に近所に住んでいたのがのちにシカゴ・ブルーズの新しいスターになるマジック・サムで気心が合ったのか二人でよくつるんでいたそうで、サムにギターも教えていたようです。シカゴのライヴ・シーンに二人は同じ時期に登場したのですが、シルは”Teardrops”という曲で59年に歌手デビュー。本人は最初ギタリストとしてやってくつもりだったので歌手デビューとなり少し戸惑ったようです。でもそのデビュー曲は売れず彼はギタリストとしてバックの仕事につきます。当時はジュニア・ウェルズ、ハウリン・ウルフなどのバックをやっています。でも曲を作って自分で歌うというシンガー&ソングライターとして土台を作ることは着々とやっていて67年に”Come On Sock It to Me”という最初のヒットが出ます。

2.Come On Sock It to Me / Syl Johnson

今のSock It To Meという言葉はオーティス・レディングの歌など60年代のソウルの曲によく出てくるのですが、これは「かかってこい」とか「オレを負かしてみろ」とかという意味もあるのですが、ソウルの場合はセクシャルな、性的な言葉で◯◯してくれとか柔らかく言うと抱いてくれという意味です。
そして68年に今のCome On Sock It to Meを入れたファースト・アルバム”Dresses Too Short”がリリース。
そしてこのアルバムの中の曲が20数年経って93年にヒップホップ・グループのウータン・クランにサンプリングされて話題になります。20数年経ってもサンプリングされて使われたということからわかるようにこの歌には黒人の生活の匂いが染み込んでいるのだと思います。

3.Different Strokes/ Syl Johnson

タイトルのDifferent strokesは歌詞の中にもDifferent strokes for different folksと出てくるように「十人十色」まあ「人それぞれ」という意味ですが、strokeというのは船を漕ぐ、水泳でも腕をかくのをストロークといいますが、そこからダンスのパターンにストロークというのもあり、また撫でるという意味もあります。これも黒人らしい英語かも知れません。もし、「なんでブルーズみたいな音楽が好きなの?」って誰かに聞かれたら”Different strokes for different folks”と言ってみてください。

シルは70年代に入るとアル・グリーンやO.V.ライトもいたメンフィスの「ハイ・レコード」と契約して4枚のアルバムをリリースします。
そのハイ・レコード時代にいちばん売れたのが”Take Me To The River”
この曲は同じハイ・レコードのアル・グリーンとギタリストのティニー・ホッジズが作った曲でアル・グリーンの74年の”Explores Your Mind”(イクスプロアズ ユア マインド)いうアルバムに収録されたのですが、なぜかアル・グリーンはシングルではリリースしませんでした。それで翌年75年にシル・ジョンソンがシングル・リリースしてチャートの7位まで上がった曲。

4.Take Me To The River/Syl Johnson

これがシルの一番売れた曲でした。しかし、ハイレコードのイチオシはアル・グリーンで常々アルよりもプッシュされていないと不満のあったシルは80年にハイ・レコードを離れます。まあ、アル・グリーンはヒット曲も多く、「メンフィス・ソウルの貴公子」とも呼ばれ女性人気がすごくあった人ですから、レコード会社がアルに肩入れするのも分かりますけどね。

今日はアフリカン・アメリカンのストリートの匂いを失わなかったシル・ジョンソンのソウルを聞いてもらいましたが、まだまだ彼のいい曲があるのでまた来週シルの曲を聴きます。