2023.09.22 ON AIR

50年代の偉大なシンガー・ソングーライター、チャック・ウィリスの遺産-1

Let’s Jump Tonight! /The Okeh Sessions 1951-1956/Chuck Willis (Sony Music/OKeh)

ON AIR LIST
1.Let’s Jump Tonight/Chuck Willis
2.It’s Too Late Baby/Chuck Willis
3.My Story/Chuck Willis
4.Going To The River/Chuck Willis
5.Don’t Deceive Me (Please Don’t Go)/Chuck Willis

1950年代の初めから中頃にかけて録音されたチャック・ウィリスのコンピレーション・アルバムを聴きます。
50年代の黒人音楽の代表的なレーベルにオーケー・レコード(OKeh Records)というのがあり、そのレーベルからチャック・ウィリスはヒットを連発しオーケーの看板シンガーとなりました。
また彼は優れたソング・ライターでもあり本人はどうもステージよりも曲づくりの方が好きだったようです。50年代というと黒人音楽はブルーズからジャンプ・ブルーズやロックンロールといったダンサブルな音楽が生まれていく時代で、特にロックンロールは人種の壁を超えて白人の若者たちも取り込んでいきました。その元になったのがジャンプ・ブルースでこのチャック・ウィリスも初期の曲はこんな感じのジャンプ・ブルース・スタイルでした。タイトルもまさに”Let’s Jump Tonight”

1.Let’s Jump Tonight/Chuck Willis

アルバム・タイトル曲”Let’s Jump Tonight”でした。
チャック・ウィリスは1928年アトランタの生まれで10代の終わりころには地元の人気シンガーとしてクラブやイベントに出たりしていました。そのウィリスの才能に目をつけたのがゼナス・シアーズというDJの男で、ウィリスを売り出そうとレコード会社と契約を結びますが最初はなかなか売れませんでした。確かに当時今の”Let’s Jump Tonight”のようなダンス・ナンバーは他にもたくさんありました。次のウィリスのオリジナルも歌はもちろんアレンジやバックの演奏も含めなかなかいい曲だと思うのですが、この曲も売れなかった。

2.It’s Too Late Baby/Chuck Willis

次の52年に録音したアップ・テンポの曲ではなく「彼女に逃げられて俺はもう生きていたくない」という失恋のスローバラードがじわじわとチャートを上がりR&Bチャートの2位まで登りつめました。
曲のタイプはそんなに斬新な曲でもないのですが、ウィリスの歌がとてもソウルフルで胸に迫るものがあり、途中のギターのブリッジも曲のムードをかき立てています。

3.My Story/Chuck Willis

しかし、大ヒットが出て広く知られることになったウィリスですが次のヒットが出ずに珍しくカバーを歌います。これは今日のアルバムの中で唯一のカバーです。オリジナルはニューオリンズの偉大なピアニスト、シンガーのファッツ・ドミノ。これが本当にいい曲で、ぼくも大好きな曲なのですが、アメリカでは珍しい自殺を示唆するような曲で彼女にフラれたから川に飛び込んで溺れて死んでしまいたいというネガティヴな歌ですが、いい曲です。最後の方の「惨めに生きるのが嫌になったんだ」という一節が胸に残ります。

4.Going To The River/Chuck Willis

こういうカバーを歌うとその歌手の力量がよくわかるのですが、ウィリスはオリジナルのファッツ・ドミノとはまた違うオリジナリティを感じさせるとてもソウルフルな歌唱を残しています。彼の歌手としての力はやはり相当なものだったと思います。

しかし、再びヒットしたのは前にヒットしたMy Storyと同じようなスロー・バラードの曲でした。R&Bチャートの6位まで上がったこの曲もさっきのMy Storyとあまり変わらななぁと僕は思うのですが、ヒットしました。
やはりファンは彼にこういう路線を望んでいたんですね。

5.Don’t Deceive Me (Please Don’t Go)/Chuck Willis

なかなか自分の思うように進まないのがミュージック・ビジネスの世界ですが、それでもウィリスはヒット曲をすこしずつ出せただけでも良かったと思います。まだまだ彼のいい曲がたくさんありますので来週もチャック・ウィリスの特集をします。