ブルーズは歌/スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集
第一回目
Little Johnny Taylor
「ゴスペルに裏打ちされた強靭なブルーズ・ヴォーカル、リトル・ジョニー・テイラー」
ON AIR LIST
1.Part Time Love/Little Johnny Taylor
2.Open House At My House(part.1)/Little Johnny Taylor
3.True Lovin’/Little Johnny Taylor
4.Everybody Knows About My Good Things/Little Johnny Taylor
5.Hard Head/Little Johnny Taylor
いつも同じことを言いますがブルーズという音楽はヴォーカル・ミュージックです。ギターやハーモニカが前面で脚光を浴びることもありますがインストルメンタル・ミュージックではないのです。例えばB.B.キングのギタープレイは確かに多くのギタリストに大きな影響を与えましたが、B.B.がデビューして喝采を浴びたのはまずその歌が素晴らしかったからです。ブラック・ミュージックの世界では歌の力が最も重要です。しかし日本ではギターを弾かない歌だけのブルーズマンは大御所ボビー・ブランドはじめZ.Z.ヒル、ジュニア・パーカー、ジョニー・テイラーなどあまり人気がありません。そのことを私は長年腹立たしく思ってきたのですが、とうとう堪忍袋の尾が切れたというか今回から楽器を弾かない歌だけで素晴らしいブルーズを残したスタンダップ・ブルーズ・シンガーの特集をします。今日聞いてもらうのは「モダン・ブルーズの至宝」とも呼ばれるブルーズ・シンガー、リトル・ジョニー・テイラー。
ブルーズをかなり知っている人でもリトル・ジョニー・テイラーのことはあまり話題にしません。でも1963年R&Bチャート1位(ポップチャート13位)になった彼の最大のヒット曲は今やブルーズ&ソウルのスタンダードになっています。
”Part Time Love”
「彼女とうまいこと行かへんで墓場に入っているような寂しい生活をするくらいやったら俺はパートタイム・ラブ(束の間の愛)の相手を探さなあかんやろ」という歌詞。ブルーズには昔から間男(Back Door Man)など不倫、浮気ソングが数多くありますが、これはモダン・ブルーズの不倫ソングの典型。
1.Part Time Love/Little Johnny Taylor
スティーヴィ・ワンダーに”Part Time Lover”という歌がありますがあれも不倫ソングで「昼間は知らない者同士、でも夜は恋人同士。悪いことやとわかってるがやめられへんねん」という歌です。まあ伝統的に不倫ソングはアメリカの音楽特に黒人音楽では伝統と言ってもいいくらいたくさんあります。
日本人とアメリカ人の倫理感とか道徳観とかが違うのでこういう歌は日本ではまず大っぴらには生まれませんが、寂しい夜をずっと過ごしているとパート・タイム・ラブでもいいから欲しいというのもわからないではないです。それでややこしい三角関係のゴタゴタが始まるのはめんどくさいですけどね。でもこういう歌がどこか笑えるんですよ。笑ってしまうんですね、「しゃーないなこいつら」いう感じです。
次の歌も不倫ソングです。「オレの金が家のどこにいくらあるのかガソリン・スタンドのにいちゃんが知ってるってどういうことやねん。そんで隣に住んでるツレはオレの好きなシーツの色や家のカーベットの色を知ってるっておかしないか・・」つまり自分がいない間にドアが開けっぱなしの家(Open House)にいろんな男が出入りしているという歌。まあ嫁さんがいろんな男と浮気してる話ですわ。こういう歌を黒人のクラブで聞いてると客がみんな笑ろてるんですよ。あるある・・みたいな感じで。おおらかというか・・。
2.Open House At My House(part.1)/Little Johnny Taylor
実はブルーズ界にはリトル・ジョニー・テイラーとジョニー・テイラーと二人いて、ややこしいことに二人ともゴスペル出身の二人ともブルーズ&ソウル・シンガーで、スタンダップ・シンガーです。しかも二人とも最初のPart Time Loveを歌っています。オリジナル・シンガーはリトル・ジョニー・テイラーですが、ジョニー・テイラーのヴァージョンもすごく良いです。それの聴き比べ来週やってみましょう。二人ともブルーズもソウルも歌うのでブルーズンソウル・シンガーと呼ばれてるんですが、次の曲はそのソウル・テイストの曲。
3.True Lovin’/Little Johnny Taylor
なんか黒人クラブでみんながダンスしてる風景が浮かぶようなダンス・ナンバーですが、すんませんけど次も不倫ソングです。
「郵便配達員も牛乳屋も水道の配管工の男もみんな、オレの嫁さんのことをよう知ってねん。俺のいいもの(My Good Tings)、そう嫁はんのことをよう知ってるんや」つまり、これも嫁さんが家に出入りするいろんな男と浮気してる話。
今日はこんなブルーズばっかでスンマヘンです。
4.Everybody Knows About My Good Things/Little Johnny Taylor
めちゃ声出てます。歌のテンションも高いです。生で聞いたらすごいと思います。
リトル・ジョニー・テイラーは1943年に生まれて2002年に亡くなってます。享年59才ですから若くして亡くなったんですね。7才くらいで有名ゴスペル・グループのマイティ・クラウズ・オブ・ジョイに入って歌ったこともあるくらいですから子供のころから歌の才能が認められていたんでしょう。そのマイティ・クラウズ・オブ・ジョイにいたシンガーでありソングライターのクレイ・ハモンドが書いたのが最初に聞いたパート・タイム・ラブです。
リトル・ジョニー・テイラーが影響を受けた歌手は僕も大好きなリトル・ウィリー・ジョンとのことです。少し高めの声でアグレッシヴに歌うところなんかはウィリー・ジョンに似ているかも知れません。そのウィリー・ジョンの特集も近々します。
リトル・ジョニー・テイラーは70年代終わりまではかなりいい感じで歌っていたのですが、80年代から録音も少なくなっていきます。それでもこういうタイプのシンガーは黒人サーキットでは根強い人気があるのでずっとクラブ・サーキットを回っていたんでしょう。
もう一曲聴きましょう。
5.Hard Head/Little Johnny Taylor
今回から始めたスタンダップ゜・シンガーの特集ですが、当たり前のことなんですが、ブルーズは歌が大切で歌詞も大切なんですね。アメリカの黒人クラブにいくとよくわかるのですが、黒人のお客さんは歌詞にものすごく反応します。リズムがあって踊ってればいいという音楽ではないんですね、ブルーズもソウルも。その歌を一緒に歌ったり、歌詞に笑ったり、嬌声を上げたり、同意する言葉を言ったり・・・
このリトル・ジョニー・テイラーの曲もまさに自分たちの生活の歌として彼らの身近にあるものなのだと思います。
来週は先ほど話に出したジョニー・テイラーの特集・・またおもろい不倫ソング出てきます。お楽しみに。